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208.カシラの話

「なにしにここに来た?」


「えーと……貴方が僕を調べてると聞いて……?」


「……聞き方が悪かったな。なにしにヴァルステッドに来た?」


 気を悪くする素振りもなく質問を変えるカシラ。短気ではないようだ。


「人を探しに来ました」


 どこまで本当の事を喋って良いのかの判断がつかず、探るつもりで無難な回答をした瞬間、カシラは溜息をついてソファへ身体を投げ出した。


「駄目だな……。お互いがお互いを信用してないから埒が明かねえ。なああんた、正直に言ってくれ。セルヴァリス子爵を探しに来たんだろ?」


 確信を持った言い方に思わず反応しそうになってしまった。なるほど、理由は分からないけれど彼らもセルヴァリス子爵関連の問題を抱えているようだ。僕達が敵か味方か判断する為に素性を探っていた訳か。


≪もしかして東門での独り言を聞かれたんじゃ≫

≪ギルドで聞くべきか否かって悩んでた時か≫


 ああ、視聴者さんに確認のつもりで口に出したあの時か……。


「……はい、そうですけど……」


 これ以上返答を濁したところでお互い時間の無駄になるだけ。敵にせよ味方にせよ、ひとまず情報だけは得ておきたいので本当の事を言う事にした。


「利用する為か? それとも殺す為か? 或いは……連れ戻しに来たのか?」


 彼らはセルヴァリス子爵の敵か味方か、どちらだろう。敵だった場合、馬鹿正直に全てを話しては不利になってしまう。とはいえ僕達が東門から入ってきた段階でシヴェフ側の人間だと予想はついているだろうし……。


「彼の家族に頼まれて行方を捜しています。彼が自分の意思でいなくなったのであれば無理に連れ戻すつもりはないですが、そうでなければ助けるつもりです」


 ギルドからの依頼で動いているとはいえ、元々の依頼はドルフィニア男爵……イヴェッタ嬢なので決して嘘ではない。


「……その言葉を証明出来るか?」


「証明ですか……うーん、王都まで来ていただければ依頼主をご紹介する事は可能です。ただ、その人が本当にセルヴァリス子爵の無事を祈って依頼してきたかどうかまでは証明が難しいですね……」


 実際、イヴェッタ嬢から話を聞いた時は相続問題の話ばかりで感情面での話をした記憶がない。見るからに口下手そうだったし、必要じゃないと判断して言わなかっただけなんだろうと勝手に解釈はしたけど、どうなんだろうなあ……。


「いや……そこまでする必要はない。俺達が知りたかったのはセルヴァリス子爵をどうするつもりか、だからな」


「なるほど。僕からの話は以上ですが、そろそろ貴方がたの事を教えてくれますか?」


「そうだな……革命軍、とでも言えば良いか。ここに居る連中は皆レガート帝国から亡命してきた。そしてレガート帝国に戻る機会を窺っている。まああんたにとっちゃそんな事はどうでも良いよな。問題はここからだ。最近手に入れた情報にセルヴァリス子爵に関するものがある。その情報を提供する代わりに、連絡が取れなくなった仲間達の事を調べてきてくれないか」


「自分達で調べない理由は人手不足だからですか? それともレガート帝国に戻れば捕まるからですか?」


「どっちもだ。だがもう一つ大きな理由がある。セルヴァリス子爵が俺達の敵である可能性だ。……順を追って話そう。ここヴァルステッドの城塞にも彼の技術が採用されるくらい、セルヴァリス子爵は有名な錬金術師だ。そんな子爵が、バルティス共和国のとある貴族の屋敷に居るという情報を仲間から得た。俺達はこう考えた。レガート帝国がセルヴァリス子爵を奪ったのだと」


「ここまでは大丈夫か?」というカシラの言葉に僕は頷き、続きを促した。


「レガートはシヴェフを狙っている。ここ最近は大人しく見えるが、そう見せているだけ(・・・・・・・・・)だ。そんな中でセルヴァリス子爵の活躍を聞いて、トップは怒り狂った。セルヴァリス子爵の生家……ドルフィニア家は元々レガート帝国の人間だ、よりによってシヴェフ王国の防衛に貢献するなんて、って事だ。亡命するほど問題のある国だとか、それは何代も前の話だって事は棚に上げるんだから困ったもんだよ……」


 遠い目をして語っていたけれど、脱線したと思ったのかごほん、と軽く咳払いをしてから話を続けた。


「レガートが本格的に動き出してないのは周辺諸国との暗黙の了解のせいだ。この辺りの国はどこも、シヴェフが海を手に入れる事を恐れている。鉱山と海が揃えば名実共に覇者になるからな。……だがそれと同時に、戦争狂のレガートがシヴェフを手に入れる事も警戒している。だからレガートとシヴェフの間に戦争が起これば、周辺諸国が絶対に介入してくるんだ。レガートがシヴェフを手に入れるには、シヴェフと周辺諸国を同時に相手取るか、シヴェフに勝ったあとに周辺諸国を牽制するしかないが、それだけの戦闘力がない事は承知している。そこでセルヴァリス子爵を利用して、圧倒的な戦闘力を手に入れようと考えた」


「だいたいの状況は分かりました。……何故セルヴァリス子爵はバルティス共和国に? それから、セルヴァリス子爵が敵の可能性があると言うのは?」


「バルティスはレガートに隣接しているせいで脅されてる。だから心理的にはバルティスは中立……むしろ反レガートだと、周辺国は見ている。まあ実際には腰巾着な訳だが。だから俺達はレガートがシヴェフ側から『セルヴァリス子爵誘拐の罪』を問われない為にバルティスが引き受けたと考えている。……俺達反乱軍は、これ以上レガートに力をつけられちゃ困る。だからバルティスが子爵から研究情報を聞き出すのを阻止する為に子爵の脱出を手伝うつもりだった。バルティスに潜伏してる仲間がセルヴァリス子爵と接触し、俺達のところへ連れてくる……そういう計画だったんだ。ところがそいつらと連絡がつかなくなった。単にバルティス側に気付かれて捕まったなら分かるが、処刑された様子もなければ、レガートへ引き渡された様子もない。芋づる式に他の仲間が捕まった……という情報も入ってこない。不自然なんだ。その上遠目から確認した別の仲間から『子爵は自由に外出している』と報告が上がってきた。それで思い至った。セルヴァリス子爵は最初からレガートと結託してたんじゃないかってな……。じゃなきゃなんでわざわざ他国、それも因縁のある国へ行ったんだ?」


「セルヴァリス子爵は自らバルティス共和国に行ったんですか?」


 そうなると色々と話がややこしくなってしまう。さっきは「場合によっては連れ戻すつもりはない」と言ったけれど、正直僕はセルヴァリス子爵がレガート帝国に監禁されたと考えていた。でも彼が自主的にシヴェフ王国を出たのだとすると、どうすれば良いだろう。本人の自由意志を無視するのは気が引けるけど、レガート帝国に味方して戦争を引き起こすつもりなら困ってしまう。


「……少し話過ぎたようだ。ここから先は取引が成立してから話す。どうだ、俺達を助けてくれるか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] クランハウスのためということをだんだん忘れつつある・・ 読み返してきます><
[一言] 更新有難う御座います。 最悪、戦争に?
[気になる点] > 少し話過ぎたようだ skipボタンがあれば押してた会話シーンですね。
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