205.探索結果
「さてじゃあ、ヴィオラの言う通りデウストラーはあとでゆっくり調べるとして……、他の部屋の確認もしておく?」
「設計書の一つや二つくらいありそうよね。理解出来るかは分からないけれど」
よしんば理解出来たとしても、そもそも今の技術力で再現出来るのかっていう問題もある。まあでも、情報は集めておくに越した事はないよね。
えいりさんとナナの意識も戻ってきたところで、僕とヴィオラ、ナナとガンライズさん、えいりさんとオーレくんの三組に別れて手分けして探索する事に。
残りの二組が「一度も行ったことのない部屋から順に探索する」と宣言したので、僕達は一番時間がかかりそうな資料室を調べる事にした。響き的に色んな情報が集まってそうだしね。
「ふう……資料が豊富なのはありがたいけど、なにが大事な情報なのかの判断がつかないわね。マッキーを連れてくるべきだったわ……」
溜息をつきながらヴィオラが言う。そう言えばマッキーさんは古代文明について研究してるんだっけ……。なにせ大学教授が本職。研究内容も本格的で、先日はゲーム内で参考書を発売したと聞いた。それが古代文明研究者のNPCから大絶賛されて、最近はあちこちに呼ばれて大忙しらしい。
現実世界でも大学や洋士関係の仕事で多忙を極めているのに、ゲームの中でも仕事をするなんて、研究者の鏡と言うか仕事中毒と言うか……。洋士にも言える事だけど、吸血鬼は寝ないから余計にオンオフの境界線が曖昧になってしまうのかもしれない。
「デウストラーの設計資料か……。それと本体があればマッキーさんなら色々調べてくれそうだね」
ナナ達が全部屋を探索し終わり、丁度資料室に集まってきた頃。ようやく目当ての物を見つけ、僕とヴィオラは安堵の溜息をついた。
「うーん、暫く設計書と名の付く物は見たくないかも」
僕の言葉にヴィオラも頷いている。それでも資料室から得られた情報はかなり多く、時間の無駄だった訳ではない。
例えば、ロストテクノロジー全般の仕組みが解説されている参考書の類い。これを読めば万が一壊れた時に修理が出来るかもしれないと判断し、何冊か持ち帰る事にした。
他にも、デウストラー製作に当たりベースとなった知識はジェイムズ・ホワイトフィールドという人物の研究だという情報を手に入れた。彼は古代国家ガーディア諸侯国のうちの一国、レガドス王国の国家研究員で、戦争兵器ばかり作っていた毎日に嫌気が差し逃亡……行方不明と書いてあった。好戦的な気質と言い、音の響きと言い、レガドス王国は今のレガート帝国の前身じゃないかと推測している。
それからなんと、この研究所はそのレガドス王国とシフェナ共和国の共同研究所だったらしい。シフェナ共和国……こちらも響き的に、シヴェフ王国の前身だろうか?
「結構重要そうな情報が集まったなあ……。ホワイトフィールドね……ブラックウッドを連想するのは俺だけ? 別人と言うにはよく出来すぎてると言うか」
「それが彼の本名の可能性はありそう! レガドス王国からシフェナ共和国に亡命して、東の森に研究所兼住宅を作ったんじゃないかな? あそこなら誰にも邪魔されずにのびのびと生活出来たと思うし」
ガンライズさんの意見に頷きながら発言するナナ。なるほど……しかし戦争兵器に嫌気が差した割に、ヤテカルも十分兵器だったよなあ……。数千年の時を経てああなってしまっただけで、元は大人しかったとか……? 全然想像がつかないけれど。
「皆は? なにか目ぼしい物とか情報は見つかった?」
「休憩室で研究者の日記を見つけました。研究とは関係ない事もたくさん書いてありましたけど……じっくり読めばなにか分かるかもしれません。それから、動作を停止したゴーレム?が複数体居たので、何かに使えるかもと思って貰っちゃいました」
「動力室にもゴーレムが居たっす。俺も近付かれたら終わりなんで、護衛代わりに拝借してきました。まあ外でも使えるかは分かんないけど……」
「ゴーレムもマッキーに見てもらいましょうよ。問題は彼がいつログイン出来るかだけど」
「種類が違うとかありそうだしな! 俺達も、ここの隣の資材倉庫で色々と貰ってきた。まあ鑑定しても『???』としか表示されない金属とか、使い道が不明なもんばっかだけど」
「あ、そうそう! それから実験室でね、こんなの見つけたの!」
ナナが得意げな表情で取り出したのは薄くてボロボロな一冊の本。タイトルも掠れて読みにくいけれど『神秘薬のレシピ』と書いてある。
「神秘薬……?」
「神の技術と調合を融合した薬のレシピなんだって。……って事でヴィオラちゃんにあげたいんだけど、皆良いかな?」
「良いと思う。多分この中で一番調合熟練度が高そうだし」
「成功したら是非売ってほしいっす!」
満場一致で決まり、ナナから受け取るヴィオラ。心なしか頬が紅潮している……これはだいぶ喜んでますね。それにしても神秘薬……どんな効果なのか、僕も気になる。でもこれ以上ポーションの類いが増えたら、ますます戦闘中に悩んでしまいそうだ。
「さて……、研究所内は粗方調べ尽くしたかな? どうする、ここで解散してお昼休憩とる?」
「十二時……確かにお昼時なんだけど……」
「この近くに都市があるんだよな? 欲を言えばそこまで行ってから解散したいけど、各々昼食の準備とかもあるだろうし無理か?」
「私は大丈夫だけど、何分かかるかだよね。さすがに一時間とかかかっちゃうと……」
「地図上では割と近そうだよね。進むだけ進んで、全然辿り着かなさそうなら道中テント張ってログアウトする?」
「私も大丈夫ですよ、今日は家族が居ないので」
「氷狼の足ならすぐ辿り着きそうっすよね。悩むより行動するに一票っす」
このまま進む方向でまとまり、研究所を後に。
「あら……皆は?」
ヴィオラが不思議そうな顔で呟くので、ようやく明るさに慣れてきた目で周りを確認すれば、イゼス以外の姿が見当たらない。
「遊びに行きましたよ」
イゼスの予想外の回答に「え?」と間抜けな声で聞き返していると、遠くからタタタタタッと複数の足音と、雪風の声が聞こえた。
「おい! 誤解を招くような言い方をするな! 俺達は頭領達の為に周辺の警戒をだな……」
「では子分達が口にくわえている物はなんです?」
「こ、これは土産だ! 頭領達が腹を空かせていては困るからな!」
戻って来た氷狼軍団が動物や魔獣を僕達の目の前へと積み重ねていく。なるほど、狩りをしていた訳か。まあ周辺の警戒で間違いはないかもしれないけれど……、表情から察するに自分達が食べる気満々で狩ってきたよね、君達?
視線から僕の言いたい事が伝わったのか、雪風はしどろもどろになりながら言い訳を始める。
「違うんだ頭領……先ほど小さくなる為に力を使ったからな、少し小腹が……いや、勿論大半は頭領達の為に持ってきたんだ、俺達はほんの少し貰えればそれで……」
――うう、食べたかったな……。
――こんなに早く戻ってくるとは思わなかったもんな……。
雪風が必死に言い訳をしていると言うのに、後ろでは子分達がくぅんくぅんと本音を漏らしている。その様子に思わず僕達は笑ってしまった。
「僕達の事は良いから雪風達で食べな。その代わりこの近くの都市まで、なるべく急いで向かってくれると嬉しい」
それくらい朝飯前!とばかりに激しく頷き、雪風達――とちゃっかりイゼス――は食事をしたのだった。なお、イゼスからのリクエストで、僕は焼き肉係になりましたとさ。全く高貴な鹿様だよ……。





