204.オーダーナティオ
書籍版との差異(物語の根幹に関わる部分のみ)を吸収する方法を考えていたら投稿が遅くなってしまいました。
一応ここから先の流れも一通り決め終わった&数話だけストック出来たので、週2程度には戻していきたい……!
沢山の机と資料、そして部屋の中央には台に載った黒い結晶。だいぶ印象は違うけれど、部屋の間取り的に先ほどまでデウストラーと戦っていた部屋だ。
「オーダーナティオ様。いらしてたのですね」
オーダーナティオ。確か雪風から得た記憶では仲間と思しき人に「ナティ」と呼ばれていた。響的に同一人物っぽいし、それが僕達プレイヤーの過去の名前とみて良さそうだ。
「ええ。……研究は順調ですか?」
「はい。力の根源……混沌の息吹の分析が完了したところです。それもこれも、オーダーナティオ様が提供してくださったお陰です」
「いいえ、私はなにも。分析したのは貴方がた人間の力ですから。……くれぐれも扱いには気を付けてくださいね。私はあくまで貴方がたの保護の為に提供したのであって、悪用させる為に提供したのではありませんから。……これは私達にとって非常に重要なもの……叶う事なら提供はしたくなかった……」
「勿論、オーダーナティオ様がどのような想いでこれを提供してくださったのかも全て承知しています。それでも……問答無用で我々を殺めていく……言葉が悪くて申し訳ありませんが、悪魔のようなあいつらに抵抗する為には、彼らの力の根源を知り、弱体化させる必要がありますから」
混沌の息吹……さっき漏れ出ていると表示されたあれだよね。「提供」という事は元々僕達が持っていた物だったのか。「漏れ出ているから注意しろ」と言うのは「デウストラーに吸収されているから注意しろ」という意味だったのかもしれない。
デウストラー……。記憶の中では影も形も存在していないようだ。会話の内容的に、部屋の中央に置かれたあの黒い結晶も攻撃に使う用途で生み出された訳ではなさそう。いつ頃あんな危険なロボットの研究へと方針を変更したのだろう……。
「本当は私達が止められれば良いのですが。お恥ずかしい話、こちらよりもあちらの方が同族の数は多くて……。元々私達は『世界』から『人間を見守るように』と言われました。ですから彼らの大半は最初、私のように人間と関わろうとする者に『介入するな、見守れ』と言ったんです。彼らの言う事も一理あると思います。でも私は……、自分の知識を少し分け与えるだけで死なせずに済む命があるのに、黙って見ているのはおかしいのではないかと思っていました。『世界』の言う『見守る』とは、か弱き者が儚く命を散らす事を食い止める事だと考えたのです。……人間は、私達が与えた知識を扱うのが大層上手かった。数百年が経つ頃には私達が使う力の劣化版のような道具を生み出していました。それを目の当たりにした彼らは方針を一転、『このまま行けば私達ですら出来ない事も可能にするかもしれない。危険だからと排除する』と宣言し、人間を攻撃するようになりました。……危険だと思うのであれば、言葉を尽くして説得すれば良い。或いは対策を練れば良い。もしくは自分達の言葉に責任を持って見守り続ければ良い。それに彼らに知識を与えたのは私達です。本当に危険なのは人間ではなく、私達なはず。それなのにそこには目を瞑り、人間だけを執拗に狙う……。『世界』の意志を無視し、話し合いの場を持とうとすらせず、血に酔いしれて殺戮を繰り返す姿は見るに堪えません」
「オーダーナティオ様……」
§-§-§
突然視界が暗転したと思えば、先ほどとは少しレイアウトが変わった研究所内。壁には難しそうな資料が映し出されており、一人の男性がそれを指差しながら説明を行っている。
「状況としては以上です。もはや防衛だけでは対処が出来ないところまで来ています……、一刻の猶予もありません、皆様どうか英断を」
よくよく見ればその男性、少し老けてはいるものの先ほど一対一で話していた人物と同一人物だ。先ほどの場面から、数年は経っているのかもしれない。
「それは、私との約束を反故にするという事ですか?」
僕の言葉に、説明をしていた男性が苦しげな表情でこちらに頭を下げた。
「裏切るような事をしてしまい、申し訳ございません。ですが……我々が生き残る為には、もはや攻撃に転ずるしかないと考えています」
男性の発言を最後に室内はしん、と静まった。全員の瞳がこちらを向き、オーダーナティオの返答を待っている。早くなにか返答を!とは思うものの、これは回想シーンであって、僕にはどうしようも出来ない。
「……口では『貴方がたを守りたい』と言いながらも、私は同族と袂を分かつ覚悟も、なにかを失う覚悟も一切せず、どこか『傍観者』のままで居たのかもしれませんね……」
長い沈黙の果て、ようやくオーダーナティオは口を開いた。
恐らくその言葉で方針転換が決まったという事だろう、会議の行く末を見届ける事なく視界は暗転した。
§-§-§
目に飛び込んできたのはデウストラーの残骸。どうやら戻ってきたようだ。
【ヘルプに「混沌の息吹」が追加されました】という告知文字を無視し、先ほどの場面について考えてみる。
子爵領の地下研究施設にあった日記では「神との戦争」について触れられていた。という事は研究員が言う「悪魔のようなあいつら」というのは僕達の同族……敵対する神で、オーダーナティオは人間に与した側だと判断が出来る。
二つ目の場面の会議、あれがきっかけで人間は防衛から攻撃へと転ずる事を決めたみたいだけど、何故僕達は記憶と力を失ったのだろう。うーん、ありそうなのは戦争で人間側が負けた罰として力を全て取り上げられたか、或いは戦争中に力を使い果たして長い眠りについているうちに記憶も失ってしまったか?
まだイベントシーンを見ている人が居るみたいだし、力の方も確認しておこうかな。再び告知文から『力』を選択すると、前回同様『取り戻した力を受け取りますか?』と確認の文字が浮かび上がったので『はい』を選択。僕の身体がうっすらと光り、目の前には取り戻した力の説明が表示された。
『テレポートの能力の一部を取り戻しました。完全ではない為、いくつかの制限があります』
あれ? テレポートはもうあるけど……あ、制限内容が緩和されたのか。
『使用後、現実時間で十二時間のクールタイムが発生』、『指定出来る場所は一度訪れた都市・町のみ』、『十人まで』。
人数こそ変わりはないけど、クールタイムが半分になり、指定場所に町が追加されている。だいぶ使い勝手が良くなったようだ。
「……あ、でも結局デウストラーのなにが使える素材なのかは分からなかったなあ」
「インベントリに収納出来るみたいだし、無理に今判断せずに、どこかの鍛冶屋とか古代文明の研究者に見てもらうのが良さそうね?」
独り言のつもりで口に出したら、ヴィオラが拾ってくれた。
「あれ、インベントリに収納出来るの?」
確か子爵領のスパイピオン……だっけ? とか、子蜘蛛達はインベントリにしまえなかったはずだけど。
「ええ。丁度今追加された『混沌の息吹』のヘルプにそう記載されていたわ。『力の源である混沌の息吹についての知識を取り戻した為、以降自由に制御を行う事が出来ます。使用例:正体の偽装、混沌の息吹との相性が悪いアイテム(対神兵器など)を取り込む、など』ですって。具体的にどうやるかは分からないけど、対神兵器ってまさにデウストラーよね?」
「ふうん……? 正体の偽装ってなんだろう。力を完璧に隠す事によって、あたかも人間のように振る舞う事が出来るとか……? その副産物として、神の力を奪うような危険な代物も触れるようになる、って解釈かな?」
「って事は子爵領の地下研究所にもう一回行くべきかー、さすがに面倒だな」
ガンライズさんがガシガシと後頭部をかきながら呟いた言葉に、僕は首を傾げた。
「そんな何度も行くものなの?」
「そりゃまあ、新しい記憶と力が解放されるかもしれないし……。あれ、もしかして蓮華さん、ヤテカルダンジョンにも再挑戦してない感じ?」
「うん、全然。ギルドで依頼を受けて、新しい所に行ったりしてたから……行かないとまずい?」
「いや、人それぞれだとは思うけど。一応ヤテカルダンジョンでも記憶と力が二つ解放されるし、西に関連しそうな話もちょろっと出てきたからストーリーが更に楽しめるかな」
「えー、良いなあ。どうせなら一回目で解放してくれれば良かったのに……」
「記憶取り戻すきっかけになったのがゲート内で出会った神様?からのアドバイスだから、あれ聞く前だと記憶を取り戻さない仕様なんだよなあ……。さすがに不親切だろ、って事で一応修正予定らしいけど」
「なるほど、そういう事。……ヴィオラは知ってた?」
「一応は。でもテレポート機能がもっと便利になってからで良いかなって思ってたのよ」
「あー……、また森まで行くとなると骨が折れるもんね……。でもさっきの『西に関連しそうな話』だけはちょっと気になるなあ」
「本当にちょろっと、東の森のあのダンジョンを作ったのは西から亡命してきた研究者だっていう程度なんだけどさ。もしかしたらこれからの展開に出て来るかなって期待してるんだ。確か名前は……ドクター・ブラックウッド?だったはず。ま、西での名前は全然違う可能性もあるけど」
「木の中にあんなに広い空間を作り出しちゃう人だし……西でも有名だったかもしれないね。ドクター・ブラックウッドかあ……」