202.デウストラー
ちょっと短いですが、次話がちょっと長くなりそうだったのでいったん切りました。
「うわあ……」
「予想していたとはいえ、どう見てもボスだな」
「ええ、名前も【禍々しき遺産デウストラー】になってるし、ボスね」
立ち上がったら三階建てのビルくらいの高さはありそうな巨大ロボットが、片膝を突いた姿勢で停止している。「禍々しき遺産」……。きっとこの施設で研究して作り上げたロボットなのだろうけれど、なんだか嫌な表現だ。
「まあでも、モブは停止させたし。東の森のダンジョンの二の舞って事はないはず……」
「二の舞って?」
「東の森のダンジョンでモブを倒さずにボス戦に挑むと、ボスの咆哮でモブが乱入してくるだろ? それで俺達一回全滅したんだ」
「そんな恐ろしい出来事があったのか……。僕達は道中で全員倒したからボスに集中出来たって事だね」
「たった二人でモブもスルーせずに全部倒すとか、やっぱ次元が違うなあ蓮華さん達は……。まあ、だから今回は乱入して来ないだろって話」
気になるのは東の森の時と違ってここのロボット達は動きを止めただけで死んではいない事かな。でもデウストラーも停止してるみたいだし、仮に目覚めたとしてもさすがにセキュリティに干渉は出来ない……よね?
「ちょっと待って、今回の目標はネックレスを持って帰る事だし、サクッと左腕から取れば良いだけだよね? 戦うつもりなんてなかったんだけど!」とナナ。
「いや、万が一を考えただけだよ、リーダーはナナだから勿論方針は任せるさ。そんなに睨まなくてもここで大人しく待ってるって」
よほど戦いたくないのだろう、「絶対だよ、動かないで待っててね!」と念を押してからデウストラーに歩み寄るナナ。「サクッと」と言っているけれど、左腕は右膝の上に添えられているので、結構な高さがある。一体どうやって取ってくるつもりなんだろう?
疑問に思ってナナの姿を目で追っていたら、なんと急に四足歩行をし始め、直後、猫の姿に変わったではないか! そのままひょいひょいとロボットの足下から上へと駆け上っていく。
そう言えば自己紹介の時に猫獣人だって言っていた気がする。あー、種族熟練度が高くなると自由に元の動物の姿になれるんだっけ。でもあんな高い所まで上って、降りられるのかな?
僕の心配をよそに、ネックレスを口にくわえた猫はそのまま地面に向かって飛び、華麗に着地を決めた。単に恐怖心から降りられなくなるだけで、それさえなければ猫の身体能力そのものは高いから問題ないのか。
「ばっちりゲット! じゃ、戻ろう!」
猫から再び人間に戻ったナナがネックレスを頭上に掲げながら言うので、頷いてから元来た小さな扉のノブに手をかけた。
と――、その瞬間、背後から轟音が聞こえてきた。見ればデウストラーが少しずつ起き上がり始めているではないか。
慌ててドアノブをひねってみたものの、うんともすんとも言わず、当然扉も開かない。これはもしや、閉じ込められたのでは……?
「マジ……」
僕の手元とデウストラーを交互に見ながら、やや焦ったように呟くガンライズさん。
開かないのであれば潔く諦めるしかない。状況の把握をするべく、どうやらこの展開を分かっていたらしい視聴者さんからのコメントに目を通す。
≪あーあ、どんまい≫
≪大丈夫、蓮華くん達なら倒せる!というか倒して!敵を討って!≫
≪途中までは順調だったんだけどねえ≫
≪視聴者的には胸熱展開≫
「えっと……? つまり? なにか間違っちゃったって事!?」
ナナの方も同じ様なコメントが流れているのか、ナナが叫ぶ声が前方から聞こえてきた。
「……そういう事? 詳しく教えてもらえると嬉しいなあ」
僕も視聴者さんに問いかけてみる。と、待ってましたと言わんばかりに出るわ出るわ、有益な情報が。先ほどまではネタバレをしないように自重していたらしい。
「つまり……要約すると、制御室でセキュリティを停止したのが引き金? あれで分散供給されていたエネルギーが止まって、デウストラーを起動出来るだけの動力を確保出来てしまった、と……。よく出来た罠だね」
ここに来たプレイヤーはほぼ皆同じ判断をくだし、見事デウストラーの拳の犠牲になってしまったらしい。皆入り口に死に戻り後、二度目はセキュリティを切らずにネックレスを取るという選択をしたみたいだけど、この際本当に倒せるのか試してみてほしいと言うのが視聴者さん達の本音のようだ。
「まあ、料理バフの残り時間的には余裕はあるけれど……」
さすがにこのサイズのロボットと戦うのは想定外というか。マカチュ子爵領で倒したスパイピオンよりも手強そうなのに、あの時よりも挑戦人数が少ない。勿論、今回は制限時間はなさそうだし、装備が良くなっているという、プラスの面もあるけれど。
「まあ……倒すか倒されるかしない限り出られないんだし、やってみるしかないよね」
「うう、皆ごめん! 私の判断ミスのせいでボスと戦う事になっちゃったけど……! 勝って、一発で試験クリア出来るように協力してください!」
「勿論よ」
「ああ」
「はい!」
「頑張ります!」
全員の覚悟は決まった。さて……、過去の遺産には眠りについてもらいますか!