新年記念短編:初夢
2064年の話(本編の10ヶ月後)を想定して書いてますが今後の展開とは変わるかもしれません。
作者によるファンフィクションだと思っていただければ笑
「明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願いします!」
ハキハキとよく通る声が玄関から聞こえてきた。おや、もうそんな時間か……、水仕事をしていたらあっと言う間に時間が経っていたようだ。
「明けましておめでとうございます。ほ、本年もよろしくお願いいたします……」
「明けましておめでとうございます、本年もよろしくお願いします……毎日会ってる人に言うのはなんだか変な感じね」
ガンライズさんに続き、ナナとヴィオラの声。
「あけおめでなのですー! 今年も引き続きお世話になる予定なのです」
「ちょっと千里、僕らの本分を忘れたの? さすがに図々しすぎでしょ。あー……、明けましておめでとう、今年も……よろしくしてやらなくもないけど」
「どの口が言うですか!? ジャックも大概偉そうなのですよ!」
千里さんとジャックさんは相変わらず賑やかだ。
「はあ……騒がしいな。新年くらい真面目に挨拶する事が出来ないのか?」
咎めるような洋士の声と共に、ぞろぞろと全員が居間へと入ってくる。
「まあまあ洋士。皆寒かったでしょう? まだ準備出来てなくてごめんね。パパッと着替えてくるからこれを飲んで待ってて」
全員に甘酒を配ってから自室に籠もり、急いで出掛ける準備。まさかこんな早い時間に来るとは思っていなかったのですっかり着替え損ねてしまったのだ。
和装用ハンガーに掛けてあるのは十二支柄のお召しの着物と羽織。作家の手描きで非常に手の込んだ逸品だ。一目惚れして買ったけれど、今まで一度も袖を通す機会がなくて箪笥の肥やしになっていたそれに手早く着替えて再び居間に戻ると、皆は雑談で盛り上がっていた。
「皆でわいわいする初夢を見たんすよ。一富士二鷹三茄子には当てはまんないけど、これって幸先良いって事ですよね?」
「初夢って一日から二日……だから今日の夜から明日の朝にかけて見るものを言うんじゃなかったかしら? ……なんでかは知らないけど」
「えっ、じゃあこの夢は初夢にカウントしないって事っすか!? 折角良い夢見たと思ったのに……」
「あはは、『新年初めて見る夢』を初夢と言うんだから、零時過ぎに見たなら初夢で良いんじゃないかな?」
「あら蓮華くん、早かったわね。……じゃあ一日から二日に見るというのは一体どこから出てきたの?」
「まあ……迷信が元かな。大晦日から一日にかけて寝ると老けるのが早いって噂があって、昔は寝ない人が多かったんだよ。だから年が明けて最初に寝る、一日から二日、或いは二日から三日にかけての夢を初夢と言うようになったの。それ以前は節分から春分の間に見る夢を初夢と言っていた事もあるし、そこまで気にしなくて良いんじゃないかな」
「へー……初めて知った。じゃあ俺は昨日零時過ぎに寝たし、これが初夢って事にする」
「皆でわいわいする夢」がよほど楽しかったらしく、にまにまと笑いながらガンライズさんが言った。
「それじゃ、私も今朝見た夢が初夢って事よね……。……ひたすら蓮華くんのおせち料理を食べる夢だったんだけど、どう解釈すれば良いのかしら……?」
「そのものずばり、今年も食い気ばかりって事だろ? あまり父さんに迷惑をかけるなよ」
「悪かったわね! 一応私が料理を作る日もあるんだから勘弁してよ……」
「……食い気のがマシだったな」
「ちょっとそれどういう意味よ! 不味くないでしょ!」
また始まったやり取りを横目に、僕とガンライズさんの視線は自然、ナナの方へと向いた。
「私は日付が変わる前に寝ちゃったので……今日の夜の夢をご報告します!」
「あ、千里も夢を見たのです! えっとー、妖精の里での新年祭の夢だったのです。懐かしくて涙が出ちゃいました」
「……僕は忘れた。きっとどうでも良い夢だったんだよ」
「ジャックは馬鹿ですねえ……初夢は大事なのですよー?」
「……馬鹿は千里だろ」
「どうしてジャックはいつもいつもそうやって……!」
「あー! ええと……蓮華さんは?」
更に悪くなりそうな空気を察知し、慌てたように僕に話題を振るガンライズさん。新年早々大変だな、気苦労が絶えなくて。
「うーん……、僕らは寝ないから初夢の概念がないなあ……。まあ最近ちょくちょく気絶してるから今年もその内見るかもしれないけど、吉夢ではないだろうね……」
縁起が良い夢を見て、その年一年の運勢を占う……と言う意味では、内容以前に気絶をする事自体が暗雲垂れ込めているよなあ。いやでも、結果として記憶を取り戻せるのは良い事、なのかな……?
振る相手が悪かったと悟ったらしく、気まずい表情を浮かべるガンライズさん。別に今更眠らない事や夢を見ない事に対してなにかを思う事はなかったのだけど、皆と同じ話題に入れなかった事で気まずい雰囲気になるのは少々悔やまれる。
ああそうだ、空気を元に戻す為にも一つ昔話をしよう。
「初夢と言えば……昔ねえ、富士山の夢を見たんだ。あの当時はまだ『一富士二鷹三茄子』なんてことわざは存在してなかったけど、富士山自体は縁起物として好まれていてね。当時の僕も良い夢を見たと喜んでいたんだけどまあ、その年にサクッと初陣で死んじゃって。でも知ってる? 富士山が縁起物と言われる所以。『不死』とか『無事』との語呂合わせなんだよ。こうして今も生きている事を思えば、もしかしたらあれは正夢だったんじゃないかなあ、って……」
いつの間にか言い争いをやめていた二組も含め、全員がこちらを見てなんとも言えない表情をしている。
「父さん、さすがに新年早々その話題は……」
「無事とはほど遠いわよね?」
「ま、まあ不死は間違いないし正夢かもしれないっすね……? ははは」
「え、えーと……ご無事で良かったです……は違いますね。うう……」
あれ。想定と違う反応だな。もっと笑ってくれると思ったのに……。
「……ごほん、あー、そろそろ初詣に行こうか、ね」
誤魔化すように立ち上がり無理やり空気を切り替えてみたものの……今年も色々とやらかしそうだなあ、僕。
明けましておめでとうございます!本年もよろしくお願いいたします。
年賀状描こうと思ったのに描けなかった……せっかく辰年なのに!
昨年下半期〜今年上半期は仕事の関係であまり頻繁に投稿出来ませんが、見捨てないでいただけると幸いです。※法定上限MAX残業なんて人生初めてでした。ある意味貴重な経験……。
上半期にはお知らせできる事がいくつかあると思いますので、楽しみにしていただければと思います。