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198.卒業試験

 おや……? 「イヴェッタ嬢」のクエストはサブクエストだったと記憶していたけれど。正式に契約をした結果クランクエストに変更されたのだろうか。あとでナナに確認してみよう。


 ところで、ナナと言えば……。


「ナナの卒業試験の手伝いというのは?」


「言葉通りの意味よ。あの子と一緒に西にあるダンジョンに行ってほしいの」


「ダンジョンですか……卒業試験との事ですが、僕が手伝っても問題ないんでしょうか?」


「ええ、一人じゃ絶対無理だから。でも多分、あの子は一人で向かおうとしている。『試験だから自分だけの力で成し遂げないといけない』とでも思ってるんじゃないかな。罠を感知したり解除したり……、シーフの真価は仲間が危険に陥らないようにサポートする事にある。仲間と守り合いながら一緒に攻略する事自体が試験なのよ、このままじゃ不合格まっしぐら、最悪命を落としかねない」


「本人には言わないんですか?」


「ダンジョンにどんな準備をして行くのか……事前の情報収集や仲間集めも当然試験内容に含まれる。私が警告すれば試験は不合格、もっと悪ければ今後試験を受ける資格も剥奪されてしまう。だけどこのまま一人で行くのはどうにかして止めないと。本来これもルール違反だけど試験官には大目に見てもらいましょ。…………はあ、だってまさかこんな事になるなんて思ってなかったのよ。あの子はちゃんとシーフの役割を理解していたし、当然貴方達に頼ると思っていたのに……見誤っていたのかしら」


 先日パーティで会った時、陸さんは「『ナナ』は自分であって自分じゃない」と意味深な発言をしていた。思うに、「ナナ」というキャラクターと「陸」を別の人物のように切り分けて考えていたのだと思う。僕も戸惑うくらい「陸」と「ナナ」の性格や考え方がかけ離れていたのはそのせいではないだろうか。


 その状態で気楽に接する事が出来ていた「ナナ」の知り合いに「陸」として接点が出来てしまったらどうなるだろうか。もし僕が彼女だったら、恐らくゲーム内でも気楽に接する事が出来なくなる。本当は協力してほしいと思っていても、遠慮して口に出せなくなる……そんな気がした。その結果がアキノさんが思わず介入するほど想定外の現状なのではないだろうか。


 最近洋士が陸さんを正式に秘書として雇い、仕事と称してあちこち連れ回しているのは耳にしている。洋士の話からの印象では陸さんもそれなりに自己表現が出来るようになってきているみたいだったけれど、まだまだ自主的に人に頼れるほどではないのかもしれない。


「お話は分かりました。西の件と併せてお受けします。ところで、卒業試験のダンジョンの場所はどこなんですか?」


「西にあるけど、国境は越えないから安心して。と言っても具体的な場所はナナにも伝えてないの。そこを見つける事も試験の一環って事。あとダンジョンは攻略しなくて良いわ。ナナには説明してあるけど、最奥の部屋のモンスターの腕にかけられたネックレスを取ってきさえすれば合格、無理に倒す必要はない」


「了解です。……気になったんですが、卒業試験のルールって誰が決めてるんですか? アキノさんの独断ではないって事ですよね?」


「うーん、冒険者ギルドとしての総意、とでも言えば良いかな? 弟子を取って育てる方針自体にルールはない。でも冒険者は命掛けの仕事だから、合格だと太鼓判を押す基準が教える人によってぶれてしまうと問題でしょ? だから統一ルールでの卒業試験を課して、その結果を師匠以外の同系冒険者五人以上から認めてもらう必要がある。で、シーフ系の卒業試験は西のダンジョンで実施する事、って決まってるのよ」


「へえ、なるほど。ちなみに特に誰かに師事していなくても冒険者としてやっていく事自体は問題ないんですよね? 僕やヴィオラの事ですが」


「ええ、勿論。このシステムは……うーん、なんて言えば良いかな。資格みたいなもの? 冒険者ギルドに登録さえすれば『冒険者』を名乗れるよね。でも例えばその技能がない人が『私はシーフです』って言ってパーティに加入するのは問題があるでしょ? それを防ぐ為にこの試験があるの。合格者以外には名乗らせない、って事よ。ちなみに、シーフ以外にもいくつかあるけど知らなかった? まあ貴方もヴィオラちゃんも冒険者ランクがDだし、必要なさそうだもんね」


≪そんなシステム知らんかった……≫

≪システムは知ってたけど師匠が見つからん≫

≪ぶっちゃけ要らんっちゃ要らんシステム≫

≪まあシーフは特殊技能だから良いけどそれ以外は……≫


 視聴者さんの反応はまちまちだ。知ってても利用していない人も結構居るみたい。確かに罠の解除は資格制の方が安心ではあるけれど、それ以外は直接手合わせをして実力を測った方が早い場合もある。それこそ知り合い同士でパーティを組んでいるなら関係のない話だ。


「確かに……、色々聞いてしまってすみません。今日はこれで失礼します」


「ええ、悪いけど諸々よろしくね」


 挨拶もそこそこに一階へ。そろそろヴィオラと合流する為にギルドをあとにしようとしたところ、受付の職員さんに声をかけられた。


「蓮華さん! アリオナさんの件についてですが、遠方への護衛依頼を受けているので今すぐ会うのは無理だと思います。先ほどはすっかり失念していて……すみません」


「あ、そうなんですね……分かりました、ありがとうございます」


 職員さんに礼を言ってからギルドを辞した。さて、クランハウスに向かいますか。


「それにしてもどうしよう。西に行かないといけないけどアインを置いていくのは不安だな」


 ――僕が側に居るから大丈夫。


「シオンが? でも……」


 正直な話、シオンが側に居てもなにかあった時に対処出来るだろうか。そんな僕の不安を読み取ったのか、シオンは不服そうな声でこう続けた。


 ――目が覚めたらさっきのおじさんに伝えれば良いんでしょ? それくらい僕だって出来るよ……。


「ごめんごめん、そっか。じゃあお願いしようかな?」


 アインを任せられるならなら一安心。でも結構頼りっぱなしの場面も多かったし、アイン抜きで西に行く事も不安だな……。


   §-§-§


 六時間の強制排出を挟んだのち、ヴィオラの元へと戻る事に。正式にクランハウスになった関係で、来訪を告げる必要も案内してもらう必要もなく、勝手に出入り出来るようになったらしい。相変わらず外観と中の広さが一致しない不思議な建物の二階へと直行し、ソファにゆったりと腰掛けているナナ、ヴィオラ、ガンライズさんの三人に挨拶。平日の十六時頃なのにナナとガンライズさんが居るなんて珍しいな。


「お帰りなさい、随分遅かったわね?」


「ただいま。なんか……雰囲気変わった? 前回来た時はこんなところにくつろげる空間なんてなかったような」


 たしかもっと殺風景だったような気がするぞ、とナナとヴィオラの真向かい、ガンライズさんの隣に腰掛けながら聞いてみた。おお、ソファがふかふかで気持ち良い……。


「家具を設置してくれたんですって、凄いわよね。……あと他にもクランへの加入者が殺到したり結局全員辞退したり、たかしくんとバッカスくんが脱退したり……、私達が居ない間結構バタバタしてたみたい」


 あらら、二人も脱退とは穏やかではない。やっぱり例の政府の発表が関連してるのかな? 僕の視聴者さんからの反応は概ね良好だったから悲観的に受け止めていなかったけれど、他のプレイヤーは拒否感が強いのかもしれない。


「ところでアインくんは?」


 ヴィオラが不思議そうな表情で聞いてきた。


「うん、実は……」


 デンハムさんのお店での一連の出来事と、ギルドでの依頼の内容を一通り話すと、ヴィオラはすかさずクエスト一覧を確認したようだった。


「ああ、道理でさっき告知が出たはずね。あと、クランクエストのヘルプには『クラン内で閉じたクエストであって、外部への影響はない』って記載があるわ。隣国のNPCに密告される心配は無用みたい」


「あ、そうそう、いつの間にか『イヴェッタ嬢』のサブクエストがクランクエストになってたみたいなんだけど。これってクランハウスを契約したからかな?」


「そうみたいです、契約した瞬間クエスト種別変更の告知が出て、護衛の残り時間カウントが減り始めたので」


「なるほど。そういえば詳しい話をあまり聞いていなかったけど、護衛が契約条件って事は誰か一人は必ずクランハウスにいないとまずい感じ?」


 四六時中誰かがいるというのは難しそうだけど……。


「無人時に時間のカウントは止まったから、襲撃関連は気にしなくて大丈夫そうだったけど」


 ガンライズさんの言葉にナナも頷いている。


「じゃあもし全員でクランクエストをやっても平気って事だね。……ところで、ナナの卒業試験も西方向なんだって? ついでだから一緒に行こうよ」


「お、良いなそれ! 蓮華さん達が居れば百人力だし。……でもあんまやりすぎないでほしい、俺の見せ場がなくなっちゃうから……」


「いやいや、僕らだって結構ギリギリだよ……ねえヴィオラ?」


「そうよ。それも運良く罠がないダンジョンだったからクリア出来ただけで。罠があろうものなら……」


「え、え、あれ? 私一人で行くつもりで……?」


 当たり前のように僕達が一緒に行く事前提で話している中、混乱したような声を出すナナ。


「え? 一人でダンジョンってそれこそ無理じゃないか?」不思議そうな顔でガンライズさんが言う。


「シーフの卒業試験って事は罠とかあるんでしょ? 正直解除方法も含めて気になるんだけど。……一緒に行っちゃ駄目?」


「駄目なんて事はないですよ! 勿論、手伝っていただけるなら嬉しいです。でも本当に良いんですか?」


「当たり前じゃない、その為のクランでしょ? でも蓮華くんは……、うっかり自分から罠に引っかかりそうで正直怖いわね」


「うっ……肝に銘じておくよ。……ところで具体的なダンジョンの場所は分かってるの?」


「一応色々調べて西の峡谷にあるのは分かりました! ただ、西の地形は山と峡谷が入り組んで、それ自体が自然の要塞になっているみたいで……。場所を捜すだけでも時間がかかりそうな感じですね」


「なるほど。じゃあ野営道具と食材は結構用意していく必要がありそうだね。テントは僕らのを使えば良いと思うし……峡谷にどうやって降りるかくらい?」


「そもそも誰が行くかじゃないかしら? あまり少人数だと危険かもしれないし、大人数だと足並み揃えての移動が厳しいし……まあクランハウスのテレポート機能とかスクロールとか……色々使えばどうにかなるかもしれないけど」


「そっか、確かにそうだ」


 ナナやガンライズさんは日中帯仕事や学校に行ってるだろうし、そうなると僕達もそれに合わせて極力夜だけGoWにログインする必要がある。或いは、金に糸目をつけずに皆がログインした時点でテレポスクロールを使って合流すれば日中帯も自由に行動出来る。でも全員毎日ログインするとも限らないし、人数が多くなればなるほどその辺りの調整は難しくなる訳で……。


「ナナ、ガンライズさん、僕、ヴィオラは確定として……今回はアインが居ないから盾役が居ないんだけど大丈夫かな」


 バッカスくんが抜けた今、クラン内には盾役が不在という事になる。


「他で補うしかないんじゃないかしら。ヒーラーや魔法職が居てくれたら助かるけど……」


「……まずは全員に声をかけてみないか? 遠足みたいで楽しそうだし。自分のペースで進められない時があるかもしれないから勿論ナナが良ければだけど」


「そーだね、どうせなら皆で行った方が賑やかで良いかも!」


「じゃあ決まりね、私の方で募集かけておくわよ」


 遠足か……。皆でわいわい移動して、青空の下でお弁当を交換しあうんでしょ? 楽しそうで一度経験してみたかったんだよなあ。

びっくりするほど筆が進まなくて土日二日間でたった一話しか書けず……これは誤算!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 遠足に対するイメージ・・ぷりちー(*^ω^*) 重箱で用意しそうですね
[一言] 更新有難う御座います。 蓮華さんの漢罠解除!(飛んで来た矢をつかみ取りそう?)
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