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195.ネクロマンサー

だいぶ日が空いて忘れてしまったかもしれないので。。。

シオン=グレイシオン、幻の華です。

「ネクロマンサーに話を聞く必要があるんじゃなかったかしら?」


「そうだ、ユリウスさんに紹介状も貰ってたんだったね」


 北に行ったりエルフの里に行ったりとGoWでも現実でもバタバタしすぎて、「やらないといけない事がたくさんある!」という焦りだけが記憶に残り、肝心の内容について全然覚えていなかった。


 ユリウス・マカチュ子爵からペトラ・マカチュ元子爵令嬢の不名誉な噂を払拭する手伝いをしてほしいと「お願い」されたんだった。彼から聞いた話では、双方の当事者から話を聞こうとネクロマンサーに降霊術を依頼したけれどどちらも失敗してしまった、と。


 既に輪廻転生していた場合は降霊に失敗するらしい。だからユリウスさんとしては二人とも既に新たな生を受けたのだと信じたかったようだけれど、ペトラ・マカチュ令嬢は森で邪術を行使されていたせいで召喚が阻まれていただけだった。そしてマークは……。


 ちらり、とアインの方を見ると「なに?」と言いたげな表情で首を傾げている。デンハムさんの発言から推測するに、アインはマークさんだ。彼は転生したのではなくアンデッドとして蘇ったから召喚に失敗したのだと思う。この事実を知ったらユリウスさんは今度こそ顔面蒼白になるだろうな……。


 しかも、話を聞こうにもアイン本人には記憶がない。まずはペトラ・マカチュ令嬢の降霊を行うとして、彼女の言い分が真実か否か、確かめる術はない訳で……。


 デンハムさんとは何度も顔を合わせているけれどアインの様子に変化はないし、そっち方向は諦めた方が良さそうだ。もしくは、婚約者だったドロシーさんの顔を見たら思い出すかもしれないけど……、彼女に新たな恋人、或いは結婚して子供まで居たとしたらアインがショックを受けてしまいそうだ。前回調査時には住居までしか調べなかったし、現在の彼女の状況を改めて調べないと。


「ネクロマンサーとアインが直接会ったら、生前の記憶が戻ったりするのかなあ……」


 正直それが一番楽なんだけど。でもそもそも、理由があって記憶を失ったのなら、無理に戻すのはアインにとって辛いよね。特に変わり果てた姿でドロシーさんに会いに行くのはお互いにとって不幸な結末になりそうだし、かと言って記憶が戻ったら絶対会いに行きたくなるだろうし。


 これはちょっと安請け合いをしてしまったかもしれない。自分勝手な事を言うなら、アインがただのアインで、マークさんじゃなければ協力する事になにも感じなかったと思う。でもアインと長い時間を過ごしてきた今、彼の事を考えるとユリウスさんに協力するのが正解なのかどうか。


 或いは「アインの為」と理由をつけてはいるけれど、本当は僕がアインの記憶を取り戻すのを怖がっているのか。もし彼がこの世に未練があって蘇ったのだとしたら、それはきっとドロシーさんの事だと思う。彼女と再会してしまったら、アインは今度こそ昇天してしまうのではないだろうか。それはちょっと……いや、かなり寂しい。


「あまり気乗りしない顔をしているわね」


「ん……アインが本当にマークさんだったら……って考えたらちょっとね。記憶を戻す事が正しいのか分からなくなって。でもそれもアインの事を思ってじゃなくて、単に僕がアインのまま側に居てほしいって身勝手な感情なのかなーとか」


 ――記憶、戻したいって。なにか大事な事を忘れてる気がするって、言ってるよ。


「……シオン? アインの言葉が分かるの?」


 ――ん、ぼく、分かる。


 なるほど。シオンには戦闘能力はなさそうだなと思ったけれど、その代わりテレパシー?のようなものでアインと意思の疎通が出来るらしい。という事は……これからは筆談が出来ない状況でもある程度アインの意見が聞ける訳だ。これは朗報。


 なにはともあれ当の本人が記憶を戻したいと言っているのだから、僕がどうこう言えることではない。早速紹介状を持って、最初にペトラ・マカチュ令嬢の降霊術を試したというネクロマンサーを訪ねる事にした。


   §-§-§


「マカチュ子爵から話は伺ってますよ。なんでも降霊術に興味があるとか?」


 出迎えてくれたのは三十代前半くらいの男性。服装や口ぶりからして、この人がネクロマンサー本人のようだ。


「はい。降霊術はこの国で侵攻されているシヴェラ教の教えとは考え方が少し違うようなので、直接お話を聞かなければ認識に齟齬が出そうだと思ったんです」


「私が答えられる範囲でしたらなんでも聞いてください。なにが知りたいですか? ああ、さすがに降霊方法は教えられませんけどね、ははは」


 案内された部屋の椅子に向かい合って座った瞬間、鷹揚な態度で男性の方から質問の機会を振ってくれた。


「では早速……、善良な……というと語弊がありそうですが、一般的なネクロマンサーは切実な理由で必要とする人達の為に死者の魂を降霊すると聞きました。一方で、先日のアンデッド襲来事件の黒幕もネクロマンサーだと噂されています。僕達も森でマカチュ子爵令嬢のご遺体に魔法陣によって術が施されていたのをこの目で見ましたから、作為的なのは間違いないとは思うのですが、ある人がアンデッドが発生するのは『その土地が汚れた時』だと言っていました。土地の状態に関係なく人為的に死体に別の魂を込めてアンデッドを作り出す事は可能なのでしょうか」


「まず、降霊術についてお教えした方が良さそうですね。我々は死者の霊魂を霊体のまま呼び出します。決して彼らの魂を器に入れる事はしません。よほど依頼人が霊体を見る素質がない場合は私自身に憑依させる事はありますが、赤の他人……特に死体に魂を入れる事はしません。それは禁忌とされているので」


「そうなんですね。ちなみに世界の成り立ちを勉強した際、この世界には天国と地獄があり、霊魂は輪廻転生をしていると知りました。既に輪廻転生をした霊魂を呼び出す事は出来ない、この認識は合っていますか?」


「ええ、合っています。補足するとすれば、輪廻転生にかかる期間ですね。一般的に天国へ行く者は傷ついた魂を癒やしてから転生し、地獄に行く魂は己の罪と罰を認め、魂の穢れを祓う修行をします。その為、地獄に行った者の方が転生に時間がかかると言われています。我々は天国と地獄、どちらの魂も呼ぶ事は出来ますが、長時間降霊する事は出来ません。それは冥府の神との契約に反する事だからです」


「その理論で言うとアンデッドの存在はあり得ない事になるわね?」


「結論を急いではなりません。冥府の神との契約に反するのは、『器を持たない魂がこの世界に長く留まる事』です。言い換えれば器さえあれば死者の魂が長く留まったとしても、冥府の神はなにも出来ないのです。アンデッドは死体という器を持ちますから、管轄外になってしまうのですよ。それを利用したのが先日のアンデッド襲来事件の黒幕でしょう。恐らく、長い時間をかけて森の中へ大量の死体を運び込み、一気に魂を呼び入れたのだと思います。本来、たとえ一人の魂であろうと、魂を呼び寄せる行為は力を消費します。あれだけの大軍を一人で成し遂げたとは考えにくい。ですが、そこで先ほどの土地の汚れの話が関係してきます」


 そこで一呼吸置くように言葉を句切る男性。


「土地が汚れていれば、死者を呼び寄せやすいのです。更に、地獄の魂。彼らは地獄での苦しい修行から逃れたい一心でこちらからの呼び出しに嬉々として応じます。ですから土地の汚れと地獄の魂……この二つの条件を揃えた事で、(くだん)のネクロマンサーはあればあれほどの事を実行出来たのかもしれません。或いは、ペトラ嬢の死体に施された術というのが更に事を有利に運んだのか……」


「器に魂を入れる事が禁忌とされるのは、冥府の神の管轄外になるからですか? 犯した場合、冥府の神から罰せられるなどの制約があるのでしょうか」


「いいえ、特には。強いて言うなら死後に地獄へ行く可能性が高まるかもしれませんが……、これは我々が長い時間をかけて生み出した自分達なりの矜恃です。魂を扱うという、世の理からは外れた事を行う以上、そこにルールを設けなければなりません。霊体のままであれば我々の力で送り返す事が出来ます。我々の体内に入れた場合も、強い意思を持っていれば送り返す事が出来ます。しかし他人……なんの訓練も行っていない者や死体を器にしてしまった場合、我々の制御下から外れてしまい、いつ戻るのかは霊魂の気分次第となるのです」


 なるほど。呼び出した霊魂がこの世で好き勝手暴れ回ったりでもしたら、その責任は全部降霊を行ったネクロマンサーが負う事になる。その上「やはり降霊術は危険だ」などと言われてしまえば商売がしにくくなって、他のネクロマンサーにも迷惑がかかる。絶対に守らなければならないルールだ。


「分かりやすい説明をしていただきありがとうございます。……今のお話を聞く限り、マカチュ子爵令嬢が亡くなったあとに降霊術を行った際に失敗した事の説明はつきますね」


「森で術を行使されていたという事ですから、恐らくそれが彼女の魂も拘束していたのでしょう。さすがにそういったケースまでは思いつきませんでした。てっきり輪廻転生したあとだと……。マカチュ子爵が私の元を訪れた時には彼女が亡くなってから半年ほど経った頃でしたし、遺書の内容を信じるのであれば彼女は天国へと行ったでしょう。ですから転生までの期間に疑問を持つ事もしませんでした」


「マカチュ子爵令嬢の他にもう一人、降霊術を行いましたよね? マークという青年ですが」


「ええ。彼もまた降霊に失敗しました。評判の良い青年でしたし天国に行ったでしょうから、既に輪廻転生をしたのだと判断しましたが……?」


 僕の表情から、そうではないと察したのだろう。少し不安げな声音で聞き返してきた男性。


「実は、ここにいるアイン……スケルトンがマークだと考えています。ただ、当の本人が記憶を失っている為確証を得る事が出来ません。アンデッドに入っている霊魂が誰のものなのかを確かめる手段はないでしょうか」


「なんですって!? …………失礼、暫しお待ちを」


 そう言って泡を食って席を立ち、別室へと姿を消す男性。なにやらガサゴソと音がしたと思えば、革と思しき物を手に再び席についた。


「それは?」


「これは、マークという青年が生前に使っていたものだとマカチュ子爵からは聞いています。前子爵が青年に取り返しのつかない事をした際、処理をする途中で本人から外れたようで……使用人が保管していたと。降霊術には、呼び出したい本人が使用していた物が必要です。前回降霊術を行った際にこれを使用したのですが、まさか遺族に返す訳にもいきませんからそのまま保管していたのです。術中は降霊に使用した物と、それに対応する魂が光り輝く。つまり今降霊術を行い、そこの……アインさん?の身体が光れば本人だと証明出来る訳です」


「なるほど。……アインに影響がないのであればお願い出来ますか?」


「特に影響はありません。彼は既にスケルトンという器を得ていますから、降霊術が弾かれて失敗するだけです。……では始めます、そこで見ていてください」


 特別な準備――正直な話、ろうそくだとか魔法陣だとか血液だとか、そういった胡散臭い道具が必要なのかと思っていた――はなにもなく、マークの遺品だという革手袋を手に持ったまま呪文を唱え続ける男性。


 本当にこれで? と半分信じられない気持ちで見守っていると、徐々に手袋が光りだし、次いで僕の横に居たアインの全身も発光し始めた。やっぱりアインがマークさんだったか……と思いながら見学を続けていると、パンッと音を立てて光が弾けて消失した。これがいわゆる失敗のようだ。


「本当にこの方が……。輪廻転生をしたと信じ、次の人生では天寿を全うしてほしいと願っていたというのに、マカチュ子爵になんとお伝えすれば良いか……」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アインの正体について仄めかすような記述あったっけ。 見落としてるだけかな
[一言] 身体(骨密度の高い骨)は本人のものではなかったのかな? アインくんになってからのご機嫌な言動(?)見てたら思い出しても大丈夫じゃないかと思います がんばれ蓮華さん><
[一言] 更新有り難うございます。 正体判明!?
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