193.波乱の幕開け
再開するって言ってからまだ間空いてすみません!
書いてはいたんですけど……びっくりするほど筆が進まなかったです、スランプですかね()
今週はもう一話どこかで投稿予定(自分を追い込んでいくスタイル)なのでお楽しみに!
普段使わない感覚を使ったせいでヘトヘトの身体を引きずりながら夕食をとっていると、アナウンサーの硬い声が耳に飛び込んできた。
『次のニュースです。本日午前、政府が「人類共存支援」政策の緊急発表を行いました』
「人類共存支援」……如何にもな名称からしてこれが僕達の存在発表会見だったのだろう。TVの方を見ると、続いて映し出された現総理大臣による会見映像では、現在日本で確認されている人間族以外の全種族の発表と、今回の緊急発表の原因であるイギリスの人狼吸血鬼についての解説を行っている。
『――以上の理由から、イギリスからの要請で全世界が緊急事態宣言を発表しました。それに伴い、現在我が国でも英国間との入出国の一部を規制している状態です』
重々しい雰囲気のまま総理大臣が締めくくると、画面は切り替わり、再びアナウンサーが口を開いた。
『突然の発表に国民はどのように感じているのでしょうか。インタビュー映像をご覧ください』
『いきなりそんな事言われても正直信じられないですよね。エイプリルフールにしては季節外れすぎるし、本当なんだろうとは思いますが……』
『英国から日本までその……なんでしたっけ? 化け物犬が来るとは限らないじゃないですか。むしろ突然私達人間以外の種族が居るとか言われても、混乱するだけなので悪手だったんじゃないかな、と』
『人間以外も居ます、って発表するのは良いけどだからなに? って感じです。この法律をこう改正します、とかそういうところを説明してほしいですよね』
『怖いですよね。隣人が人狼だったら、とか考えただけでぞっとします。住む場所を分けて管理するとかしてほしいですね……』
『エルフが本当に居るってまじですか⁉ いやー……是非お近づきになりたいですね。人狼はケモ耳とか尻尾とかあるのか気になりますし』
『情報不足という事もあり、現時点ではあまり肯定的な意見は見られないようです。イギリスの件の進展も含め、これらの情報が速やかに全国へ行き渡るように今後も引き続き、メディア各社が協力して報道する予定です。一部番組放映スケジュールが変更となる場合がございますが、ご理解とご協力のほどよろしくお願いいたします』
そう締めくくってニュース番組は終了した。
「やっぱり肯定的な意見はなかったかー……」
僕の呟きに、携帯を操作していたヴィオラが顔を上げた。
「それどころか、ネットではもっと辛辣な意見がたくさん出てるわよ。もしかしたら街頭インタビューでも過激すぎてカットしただけで、似たような意見があったのかもしれないわね」
「へえ……どんなのがあるの?」
「危険な種族は滅するべきだ……とか、エルフはともかく人狼や吸血鬼が本当に居るなんて恐怖以外のなにものでもない、とか、人間以外の種族の情報は政府のデータベースからいつでも誰でも見られるようにしておくべきだ、とか」
「なるほど、僕達の人権は一切認めないって事か」
「まあ、大抵反対派の方が声が大きくなりがちだけど……それにしたってひどいわよね。危険性って意味ではエルフだって魔法が使えるんだから一緒なのに……」
「仕方がないと言えば仕方がないよね。吸血鬼ハンターはよく聞くけど、エルフハンターは全然聞いた事ないし」
僕達が創作物に出て来るような、秩序もなになく人を襲って血を飲む輩とは違うのだという事を、少しずつ知ってもらうしかない。まあイギリスの人狼吸血鬼のせいで、人狼と吸血鬼に対する風当たりが更に強くなりそうだし……長い戦いになりそうだ。
それでも、一生更新する事なく同一の身分証を持てるだけでも僕的にはありがたい。いちいち作家デビューからやり直す必要がないしね。勿論、ずっとこの名義で出し続けるなら人外だと公表するようなもの、それは出版社側とも相談しなければならないけれど。
「なににせよ暫くは騒がしいだろうし、洋士くんの言う通り私達はここに居た方が良さそうね」
§-§-§
夕食も食べ終え自室で原稿を書き進めていると突然携帯が鳴り響いた。見れば洋士の名前が表示されている。
「もしもし? 洋士?」
『ああ。今大丈夫か?』
「うん。そっちこそ大丈夫? ニュースとかネットとか見る限りは大変そうだけど」
『ああ、まあ……状況が良いとは言えないがそれどころじゃないからな。用意しておいた法改正案を可決する為に奔走しているところだ』
「そっか。それで? わざわざ電話をしてきたって事はなにかあったの?」
『ひとまずこっちで把握している分の戦闘動画を父さんと、るなに送っておいた。明日にでもあいつに再生方法を聞いてくれ。……で、そっちの状況はどうだ? 魔法は扱えそうか?』
「うーん、ヴィオラはともかく僕はまだ全然……動画からなにか読み取れれば良いなあ、って感じかな」
『そうか。まあ今日の今日でマスター出来る方がおかしいしな。無理はするなよ? また連絡する』
そう言って慌ただしく電話を切る洋士。忙しい合間を縫って動画を集め、連絡をしてくれたようだ。ここまでしてもらって魔法は習得出来ませんでした、とは口が裂けても言えないし、もっと頑張らないと。
そのまま朝まで執筆を続け、朝食の場でヴィオラから動画を共有をしてもらい、再生の仕方もなんとか頑張って覚えた。
「神奈川は港……青森は山の中……か」
動画を見ながら分かっている事を呟く。場所……場所か。空気中の魔力の濃さに違いがあるとリレンデルさんが言っていたし、もしかして原初の人々もそれを知った上で自然が多い地域に移動した?
あながち的外れではない気がする。となると、変身能力には多くの魔力を消費するのかもしれない。だから港での戦闘時、多勢に無勢にもかかわらず逃げるのが遅かったのか。青森の件もそう。僕は妖精の道で青森に向かったから、向こうからしてみれば魔力を集めるタイミングがほとんどなかったはず。もしくは、それ以外にも制約があるのかも。……例えば一度変身してから再度変身出来るまで、ゲームさながらのクールタイムがあるとか。
正直雪景色の中で霧になられたら確実に逃していたし、血液を摂取するのを忘れて身体能力が低いまま突撃したにもかかわらず勝てた事を考えると、まだなにか理由はありそうだ。
「あと、原初の人々は瞳の色が赤いまま、っていうのも気になるなあ……」
僕達だって瞳の色を変えるのに魔法を使っている。にもかかわらず原初の人々が瞳の色を変えられないという事は、僕達と原初の人々が使っている魔法が、別種のものの可能性があるのでは?
元々吸血鬼は原初の人々から増えている。その過程で離反した人々は人間社会の中に上手く溶け込んで暮らしたり、彼らに対抗する為に特殊能力を身につけた人間を積極的に仲間にした。エレナの仮説を信じるのであれば、その代わりに元々使えていた魔法が使えなくなった可能性が高い訳で。原初の人々が使っていた魔法が失われ、根本的に別の能力としての魔法を使い始めたとしても決しておかしくはない。
つまりこの動画を見ても、僕が原初の人々と同じ魔法を再現するのは難しいのかも。やっぱり当初の予定通り対抗策を編み出すというのが目下の目標になりそう。
「うーん……周囲の魔力を使って魔法を発動するなら、彼らの周囲の魔力を使えない状態にしてしまうのが手っ取り早いよね」
GoW内の話ではあるけれど、シモンさんに教わった理論を参考にするなら「他人の所有物の魔力は使えない」とかありそうだ。僕達も周囲の魔力を使用して魔法を使っている点は一緒だし、先に取り込んで相手の邪魔をしてみる、なんて事が出来るかもしれない。
逃げる手段さえ封じてしまえば、弱点が多い分向こうの方が圧倒的に不利なはず。銀の武器、杭……或いは水責め。決着がつかなくても、朝になれば日光で消滅させる事も出来る。
「まあ結局のところ、周囲の魔力が感知出来るようにならなきゃどうしようもない点は変わらず……か」
一通り提供してもらった動画を見てはみたものの、これといって魔力感知の参考にはならなかった。やっぱりそこは自分で解決しないとダメかあ。
それはそうと、先日二巻の原稿を書き上げたのですが、一巻に比べてだいぶWEBからの加筆修正が多く、自分で言うのもアレですがちょっと自信があります!笑
一巻の公式サイトや電子限定の追加書き下ろしなんかは皆の過去が知れて色々とおすすめなので、よろしければどうぞ。





