一巻発売記念短編:犬の日
本日1巻発売日です!
2巻の原稿も無事書き上がりましたので、ぼちぼちWEB版連載再開したいと思います。
思い出すのに時間がかかっているのでもうちょっとだけお待ちいただければと……。
一応この話はWEB版読者の方も書籍から来た方も読める内容(ネタバレ含まない形)で極力書き上げましたが、11月1日という設定のせいで若干本編とは違う展開になっている可能性があります、その辺りは緩い目線で見ていただければ幸いです。
十一月一日、ヴィオラとガンライズさんと一緒に、洋士の経営する店へと行くとナナとマッキーさんが居た。
「あれっ、二人とも居たんだ。駄目だよ洋士、こんな時間まで仕事させちゃ」
「仕事と言っても、その、えっと、新商品の試食ですから。わ、私的には役得です!」
ナナが洋士を庇うように叫ぶ。まだ少し挙動不審なところはあるけれどこうやって意見を口に出せるようになったのだから随分成長したよなあ、と誰目線なのか分からない事を考えてしまった。この年になると皆自分の孫みたいな感覚で接してしまいそうになるので、要注意だ。
「あんたは俺をなんだと思ってるんだ? 夕飯を奢るついでにちょっと試食を頼んだだけだ」
ぶすっとした表情で洋士も答える。
「ごめんごめん。てっきりまたこき使ってるのかと。……それにしてももう今日から十一月なんだ。一年ってあっと言う間だねー」
店内の装飾がハロウィンのものからガラッと一変、秋らしい落ち着いた雰囲気になっている事に気付き、改めて一年が終わる事を実感した。
「あら、じゃあ今日は『犬の日』じゃない?」
「ああ、わんわんわんだから犬の日……? 十一月十一日じゃないんだね」
カウンター席へと座り、雑談を続けながら適当に飲み物だけを注文をする。どうせなにか選んだところで、試食だなんだと全然違う物が出てくる事は分かりきっているので、料理は頼まない。
「蓮華くんは犬派? 猫派?」
「うーん、どちらかと言えば犬派かな、昔飼ってたから。ヴィ……るなは?」
「私は猫派。自由気ままな生き様が好きなのよね。……ちなみに十一月十一日は『わんわんギフトの日』なんですって。愛犬にプレゼントを渡す日なのかしら? ……洋士くんは? 犬派? 猫派?」
バーカウンターに立つ洋士へとヴィオラが質問するも、返答が返ってこない。また喧嘩でもしているのかと思って彼の顔を見ると、どうやら真剣に考えていただけのようだ。
「……俺は別にどちらでもない」
悩みに悩んでそれか。まあ仕方がない。なにせ洋士は、
「昔から動物全般に怖がられて逃げられちゃうもんねえ」
そう、好きや嫌いを答えられるほど接した事がないのだ。
「洋士くんは蛇とか似合いそうね」
ぽつりと呟くようにヴィオラが言う。まあ動物との相性を考えれば言い得て妙だけど……絶対怒られると思う。
「おい、どういう意味だそれは? 俺が執念深いとでも言いたいのか?」
案の定食ってかかった洋士に対し、ヴィオラは何処吹く風で続けた。
「別に? 他の動物に嫌われてる辺り毒蛇みたいだなと思っただけで、執念深いなんてそんな事思ってないわよ。いやね、被害妄想が激しくて」
一戦交えそうな二人を見て、僕を含め周りは「またか」といった表情だ。この二人はどうしてこう、年がら年中喧嘩をしないと気が済まないのかなあ……。
「あー……僕は『犬派』ですね。やっぱり探偵の相棒と言えば犬のイメージが強いので」
場の空気を和ませる為にそう答えたのはマッキーさん。先日聞いた話では、昔放送していた海外探偵ドラマに憧れて、一時期は本気で探偵を目指した事もあったらしい。確かに臭いを元に調査をしたり……猫よりは犬の方がそれっぽいかも。
「俺は『犬派』だな。何故か猫とは昔から反りが合わないんだ」と続けてガンライズさん。ナナが居る手前迂闊な事は言えないけれど……まあそうだろうね。むしろ本人がどうして不思議そうな顔をしているのか分からない。
残るはナナ。全員の視線が自分に集中した事に気付いたのか、慌てたような表情で口を開いた。
「わ、私はどちらも好きです! じゃ駄目でしょうか? わんちゃんもねこちゃんもふわふわで可愛くて癒されるのは事実ですし……」
どっちつかずの回答は不味いと思ったのか、自信なさげに語尾を萎ませていくナナ。
それに対し「可愛いは正義だもんな! うんうん」と納得した様子でフォローするガンライズさん。きっと彼の言う「可愛い」は犬や猫の事じゃないんだろうな、と内心思ったけれど口に出さないでおこう。確かに可愛いよね、真っ赤にして焦っているところとか。
「そうよね、猫は良いわよね!」と嬉しそうにヴィオラが声を上げる。こちらはどうも自分しか猫派が居なかった事を気にしていたようだ。
どうでも良い話をああでもないこうでもないとしているうちに、洋士お手製の試作品が出来上がったらしい。
「昼のメニューに追加しようと思うんだが……どう思う?」
そう言って差し出されたランチプレートのご飯が、妙に可愛い犬と猫の形になっていた事にほっこりした僕だった。