190.非常事態
【告知】本日より一巻の予約が始まりました。
以下、情報になります。
発行元:TOブックス
発売日:11月1日(水)
価格:1,399円(込)
イラストレーター:「星らすく」様
なろうの規約でURLは貼れない為、検索していただければ!
なお、各種書き下ろし短編内容についてもTwitter&近況報告で告知しているので、よければそちらも確認お願いします。
あと、作者が決めたハッシュタグ(仮)ですが、「#ヴァンプレ」、良ければ使ってください。
クランメンバーに写真や映像を貼付して一斉にメール送信……なんて能力は、実は今もないので。視聴者さんに何度も説明されながら、どうにかこうにか送り終えました。
≪あと副マスターの設定とか≫
≪ああね、マスター居ない時困るし≫
≪マスターに次ぐ権限の持ち主だから、慎重に決める必要はある≫
「副マスターか……一人だけ?」
≪いや、五人までなら決められる≫
「なるほど。じゃあヴィオラと……、ナナかなあ」
最近ヴィオラは僕と一緒に行動してるから、彼女にだけ渡しても意味がない気がするし。次に信頼出来る人と考えると、洋士が保護していて、且つ能力も認められていたナナかなあ、と。ガンライズさんでも良いんだけど、やっぱりまだ大学生だからね。年齢的にナナの方に軍配が上がりました。
正直、同族のマッキーさんにも渡すか迷ったけど、配信内での絡みは少ないので……ここでまた副マスターの権限を渡したらなにを言われるか分からない。それに実は、現実世界での連絡先を交換してないんだよね。だからなにかあった時に連絡を取れるナナにしよう。
「副マスターの権限ってなにがあるの?」
≪メニューから設定出来る≫
≪初期だと決定権全部にチェック入ってるから必要に応じて減らす感じ≫
「なるほど……」
でも僕がログイン出来ない時って、きっとなにかトラブルに巻き込まれた時だろうし……数日、下手したら数週間ログイン出来ない可能性もあるか。となるとそのまま全権を持ってもらってた方が迷惑をかけずに済むはず……。
「じゃあたとえば、もし僕が今日から暫くログイン出来なくなったとして……、クランハウスの契約も進めてもらえるのかなあ」
≪特別クエスト絡みだし本人限定な可能性が?≫
≪『クランハウス』って明言したし、紋章見せればワンチャン?≫
≪紋章って手があったか≫
≪蓮華くんがまたフラグ立ててる……≫
好きこのんでフラグを立てたい訳じゃないんだけど、なんていうか第六感? 的なもので胸がざわざわするのだ。近いうちにまたなにか一波乱ありそうな……。
「まあ、副マスターさえ設定しておけば有事の際に安心だって事は分かった。設定もしたし、今日はもう仕事するよ。皆は早く寝るんだよー。お休み」
≪お休み≫
≪おつあり≫
≪おつおつ≫
オフィス街に移って、仕事を開始。とりあえず短編のテーマは何個かに絞ったけれど、そこからどうにも決まらない。悩みに悩んで、全部書いてみる事にした。その中で一番わくわくするものを選べば良い。まあ多分、期日には間に合うでしょう……まだあと二十日くらいあるし。
そうして四時間ほど黙々と執筆。おや、もうこんな時間。朝ご飯を作らないと……。
§-§-§
「おはよう。思いの外筆が乗っちゃって遅くなったから、今日は手軽にサンドイッチね」
「俺は別になんでも良い。文句言うとしたらあいつらだろ」
洋士はそういうけれど、そもそも文句を言う人なんて一人も居ない。
鼻歌を歌いながらサンドイッチを作り、皆も起きた頃かな……と時計を確認した瞬間、突然洋士が血相を変えて立ち上がった。
「なに!? どうしたの!?」
「悲鳴が聞こえた。あいつの部屋だ、見てくる」
そういって部屋を飛び出す洋士。僕も一緒に行くべきか……? いや、でも最後に血液を飲んでから結構経っている。悲鳴が聞こえないほど人間並に戻って来ているのだから、かえって足手まといか。
ないよりはマシだと、冷蔵庫の中から血液パウチを取りだし、僕が自力で飲めるギリギリのライン二五〇ミリリットルを無理やり喉に流し込んだ。あまりの不味さに吐き出しそうなのを堪え、チーズの切れ端を口に放り込んで誤魔化す。
念の為、部屋から短刀を持ちだしたところで洋士が戻ってきた。ヴィオラも一緒だ。
「おはよう……? どうしたの、その髪。とっても綺麗で似合ってる……いや、そういう事じゃないな」
いつもは赤みがかった茶色の髪が今は紫色になり、光を発しているように見える。
「朝起きたらこうなってたのよ……洗面所で見て思わず悲鳴を上げちゃって」
ああ、洋士が聞いた悲鳴はそれか……。確かに朝起きて髪の毛が光ってたらびっくりする。ひとまず襲撃に遭った訳じゃないなら良かった。
「十中八九エルフ族絡みだろうと思って母さんに連絡を取った結果、今すぐ里に行く事になった」
「なるほど。じゃあサンドイッチは包んだ方が良さそうだね。で? ヴィオラと誰が行くの?」
「一応全員来て良いとは言われている。俺は元々送っていくつもりだが……」
「僕も行く」
「千里も行くですよ!」
「皆行くなら僕だって行くよ。留守番は嫌だし」
話がまとまったところで各々準備。洋士曰く「エレナの口ぶり的に日帰りじゃ済みそうにない」らしいので、何泊か分の着替えなど。
洋士は仕事の調整が出来そうにないので、今日中に東京に戻ってくるらしい。当初和泉さんに面会を依頼された時は、あまりに馬が合わなければ早々に辞するつもりだった。でも想定外の事が起きた今、彼女の身になにが起こったのかを正確に理解するまでは逃げる選択肢は取れなくなる。だから滞在中は僕がヴィオラを守るつもりだ。エレナの友達だしあまり疑うような事はしたくないけど、ヴィオラの過去の話を聞いているので僕の中でエルフ族のイメージがあまり良くない。
準備が整い、一同は洋士の車で出発。行き先は神奈川県のとある山村付近、政府所有の森だ。
相変わらず紫色に光っているヴィオラの髪の毛を見て、僕は気になった事を聞いてみた。
「今までは一度もなかったの? こういう事」
「ええ、自分が気付いた限りでは一度も……」
「なるほど……じゃあ、『ヴィオラ』って名前はどこから? いやごめん、あまりに綺麗なすみれ色だから、キャラクター名が偶然なのか気になって」
「今の名前は『朝森るな』だけど、それまではエルフとしての名前を捨てて、ヴァイオレットと名乗ってたのよ。考えてみれば、昔仲良かった人間に『綺麗なすみれ色の髪ね』って言われたのが理由。あの時は光の加減かなにかだと思って気にしてなかったけど、今思えば多分……」
「自分で気付いてないだけで今みたいな事は起こってたって事か」
「かもしれない。でも少なくともこの百年は絶対にないと言いきれるわ。洗面所に行く度に鏡を見てるもの」
「じゃあ、昔はやっていてこの百年はやっていなかったけど、最近また再開したなにかに心当たりは?」
「魔法の練習かしらね。近々里に行く事になってたし、少しでも自信を持ちたくて四百年ぶりくらいに練習を再開したのよ。ほら、ゲーム内で蓮華くんにコツを教えてもらったから」
ああ、そういえば前に、ゲーム内の修行方法とエルフの修業方法は酷似しているって言ってたっけ。
「あくまでゲーム内の知識しかないけど、それが原因ならその髪の毛は魔力の制御が上手くいってないとかかな?」
「多分きっと。だから里の人も今すぐ来いと言ったんじゃないかしら」
それが理由なら、魔力制御の修業をしなきゃいけないんだろうし確かに日帰りなんて無理そうだ。
事情は大体分かったけれど、緊張ゆえか恐怖ゆえか、ヴィオラの顔は真っ青。少しでも寝て体力の温存と進行の停止をした方が良いとは思うけれど……彼女が寝る事で状態が悪化する可能性を考えると、勧めて良いものかどうか。
結局、空気を読んだ妖精さんチームが「次に外へ行った時に行きたい所、やりたい事」をテーマにした軽快トークで盛り上げてくれた。はい、こういう話術は僕にはありません……。
「着いたぞ」
「ここ……? ちょっと想像と違ったな」
森の中にある無機質なコンクリート製の建物……。ちょっと異質だし、エルフの移住先としてはえらく近代的だ。
「いきなりなにも知らない民間人と一緒に住ませる訳にはいかないからな。ここで家電の使い方だとかの最低限の生活方法を教えつつ、周辺の村や町と少しずつ交流させているらしい。この森全体が政府の持ち物で、彼らは研究員の体で移住してきているんだ。もし近隣住民と接するならそれを念頭においといてくれ」
「了解」
建物の外で話していると、エレナがやってきた。
「早かったな、虎、こー坊、ヴィオラさん。さて早速だが……急を要するらしいから詳しい事はリレンデルから聞いてくれ、案内する」
そういってキビキビした動きで先導するエレナ。どうやら挨拶を交わす余裕もないらしい。
案内された応接間らしき部屋の中には、見目麗しい若い女性が一人。この人がリレンデルさんだろうか。お礼を言おうと振り向けば、既にエレナは消えていた。本当にあの人は神出鬼没だ。
「初めまして、会えて嬉しいわ。私はリレンデル。皆の事はエレナから聞いてる。ヴィオラ……で良いのかしら?」
「正式な名はヴァイオレットよ。今の名前は朝森るなだけど」
「……ヴァイオレット。エルフの名を捨てたのね?」
「それがなにか?」
リレンデルさんの言葉に、ヴィオラは固い声で返した。
「ごめんなさい、責めてる訳じゃないの。ここに居る子達は、私も含めて最初の名を捨てた者ばかり。だから勝手に親近感を抱いただけよ、許してちょうだい」
ばつの悪そうな表情でリレンデルさんは「どうぞ座って」と言った。その言葉に僕達は、リレンデルさんと向かい合うようにしてソファへと座る。妖精組はヴィオラの服のポケットの中で息を潜めている。なにかあれば守るつもりなのだろう。
ヴィオラの方を見つめ、意を決したようにリレンデルさんは言った。
「単刀直入に言うわ、ヴァイオレット。このままいけば、貴方はもうすぐ死ぬ」
その美しい顔で、衝撃的な言葉を。