179.入門許可
「えーと、記憶は良いとして……次は力か。熟練度制のバランスが崩れないような力ってなんだろうなあ」
光っている部分をタップすると、『取り戻した力を受け取りますか?』と確認の文字が浮かび上がった。『はい』を選択すると、僕の身体がうっすらと光り……取り戻した力の説明が表示された。えーと、なになに?
「『テレポートの能力の一部を取り戻しました。完全ではない為、いくつかの制限があります。』か。テレポート! これはまさに僕が求めていた能力では? ええと、制限が……『使用後、現実時間で二十四時間のクールタイムが発生』……長いな。『指定出来る場所は一度訪れた都市のみ』……村や町は無理って事か。テレポートスクロールより柔軟性に欠けるけど、最初の力だしこんなものかな? で、問題の人数が……『十人まで』か。惜しい、もう少しいけたら僕の能力でホワイトブレイズキャッスルに飛んでウサギを返却、ヴィオラの能力で王都に帰還……が出来たんだけど」
こればっかりは仕方がない。ホワイトブレイズキャッスルで二十四時間待って、それから王都に帰るしかないだろう。それでも来た時のように自力で移動するよりもずっと早いのだから文句はない。
「それに二十四時間に一回とはいえ、移動にお金がかからないのは大きいな」
≪俺も欲しいテレポート!≫
≪取り戻す能力はランダムなんだろうか、それとも地域固定とか、順番なんだろうか≫
≪地域固定だったら僕達絶望的過ぎる≫
≪アイシクルピークまで行ける自身ねーな……≫
≪掲示板にその辺の書き込みあった気がしたけど……≫
「そうか、確かにその辺は気になるね。まずはヴィオラに確認しよう。違ったらランダムなのかも? 同じなら……ここから先の検証は皆で頑張って、としか」
僕とヴィオラが一緒に行動する以上、地域固定なのか順番なのかの検証は難しいからね。
「それにしても、力を取り戻すのって戦闘限定なのかな? これだと生産職の人とか、探索重視の人達とかが困る気がするけど」
≪いや、色々方法はあるみたいだよ≫
≪むしろ戦闘で取り戻してる人は少ない。ボス級倒せる人が居ないから……≫
≪生産職のがその辺りは早いね。能力もテレポだった気がする≫
「ふむふむ、なるほど。『記憶と力を取り戻せ!』って言われて武者修行を想像しちゃったけど、方法は色々あった訳か。で、能力も皆同じっぽいと。色々なプレイスタイルが考慮されてて凄いね、このゲーム」
「テレポート機能が解放されたのは大きいわね……二十四時間って事は、ホワイトブレイズキャッスルでまた食事をするタイミングもあるでしょうし」
「ヴィオラは本当に食べる事が好きなんだね。でももうフルコースは勘弁だなあ……」
「さすがにそんな事言わないわよ。別のお店を開拓してみるのも良いかもしれないし」
≪食べる事が好き……言い方が上手い≫
≪ストレートに食いしん坊って言えば良いと思うw≫
「さあ。片付けも終わったしもうここにも用事はないわ。さっさと移動しちゃいましょう? ね?」
「え? あ、うん、そうだね」
ヴィオラにしては珍しく誤魔化すのが下手でびっくりした。もしかして、自分でも否定出来ないと思ったのかな……。視聴者さんも笑ってるみたいだけど。
「そういえばテレポートはどうやって使うんだろう。なんかメニューが増えたり……?」
おっと、親切にも、システムメニューを開いたタイミングで画面上に説明が表示された。
「『キャラクターメニュー、もしくはマップ上から直接テレポート先を指定可能です』か。えーと、じゃあまずはホワイトブレイズキャッスルを選択して……あ、ここで一緒にテレポートするメンバーも選べるのか。最大十人までだから、僕とアインと雪風軍団……」
「それじゃあシオンとイゼス、スノウラビット達は私が連れて行くわね。現地で会いましょう」
メンバーを選び終わり、OKの文字に軽く触れる。すると、いつものテレポートスクロールとは違ってすぐさま視界がぐにゃりと曲がり、移動が実行された。なるほど、テレポートスクロール唯一の難点である「発動時間の遅さ」はこちらにはないらしい。
「うわあ……本当に一瞬でホワイトブレイズキャッスルに戻って来ちゃった」
テレポート先は城門のすぐ目の前だった。丁度良いので改めて城壁をじっくりと観察してみる。
「形は確実にこの城壁だった……間違いない。でもどう考えてもさっきの映像よりも色が黒ずんでるし……ところどころ角が欠けたりしてる所を見るに、やっぱりだいぶ前の事だよね……」
≪プレイヤー不老不死説≫
≪てか神様疑惑ない?≫
≪加護とか言ってたしね≫
「そっかー、神様だったか。God of WorldのGodって、もしかして僕達プレイヤーの事を指してるのかもしれないなあ」
いつぞやの予想が当たっていたのかもしれない。ぼうっと城壁を眺め続けていた結果、不審に思われたのか門番に怒鳴られてしまった。
「そこの君! 真剣に城壁を見つめてなにを考えているんだ? まさかそいつらを使って突破しようなんて考えてる訳じゃないだろうな?」
「違いますよ! 僕は王都の冒険者ギルドからの依頼で来た者です、十日ほど前にもここに滞在していました。依頼を達成して丁度戻って来た所で……この子達は単純に、アイシクルピークでテイム契約を結んだだけですから」
王都の冒険者ギルドで用意してもらった書類を見せながら、説明を試みる。なんだか門番に呼び止められる事が多いような……。
「うん? ……まあ言われてみればちょっと前にも見かけたような気が……いや、それにしたってその数の氷狼は危険過ぎる。ましてや君の隣に居る奴に関しては……そんなサイズの氷狼は見た事がないぞ」
「まあ確かにこの子はちょっと特殊ですけど……テイム契約は結んでますから安全ですよ」
「そうだぞ! 俺様は怖くない!」
「喋った、だと!? はあ……書類は本物だし信じてやりたいのはやまやまだが、さすがにこれだけの魔獣の数じゃ俺の一存で判断出来る事じゃない。悪いがここで待っててくれ。ちょっと相談してくる。……おい、あとは頼んだぞ」
そう言って男性は門の中へと走って行ってしまった。あとを頼まれたもう一人の門番は、困ったように眉根を下げた表情で笑っている。
「まあ、それだけの腕がある君からしてみたら分からないのかもしれないけど……氷狼は僕達の間じゃ第二級警戒対象なんだよ。一級じゃないのは、群れる相手が普通の狼だからだ。でも君が連れている群れは、全員氷狼で構成されているだろう? だから余裕で第一級に跳ね上がる。口先だけで『危害は加えませんよ』って言われても、本当に僕達の味方だとは判断出来ないからさ、ごめんね」
門番の言葉に僕は頷いた。事情が事情だ、仕方がない。ヴィオラは大丈夫だったのだろうか?と思って辺りを見回してみたけれど、別の意味で城壁をくぐれずにいた。そうかあ、あの性格のインパクトが強すぎて感覚が麻痺しちゃってたけど、グラシアルムースさんって一応伝説級の有名人だったんだっけ。囲まれすぎてもはやヴィオラとイゼスの姿が埋もれそうだ。
「もしかして、彼女は連れかい?」
「ええ、まあ」
「そうか、そりゃ災難だね。グラシアルムースは絵本にも登場する位、この辺りの住人にとってはポピュラーな生物だが……実際に見たという者は居ないんだ。だから暫くはあのままだと思うよ。ま、隊長もすぐには戻って来ないだろうし、これでも飲んでゆっくり休憩しててくれ」
そう言って渡された飲み物を一口飲んだら……お酒でした。ちょっと? ちゃんと仕事してるんですよね?
「あはは、そんな目で見ないでくれよ。この辺では当たり前の事だよ。飲んだくれなら問題だが……門の外は寒すぎるからね。まあ君には不要だったかもしれないけど」
なるほど。確かに門の外は寒すぎるもんね、仕方がないか。僕には不要……っていうのが良く分からないけど。
「頭領、寒いのか? 俺が暖めるからもっと側に寄ってくれ。おい、お前達も手伝ってくれ!」
――はい姐御!
あっと言う間に押しくらまんじゅう状態になりました。確かにお酒は要らなかったかもしれない。むしろ暑いくらいだ。
そうして氷狼達に言われるがまま、彼らの身体に埋もれるように横になって極寒の地での日光浴を満喫していたら睡魔が襲ってきた。そういえばそろそろ睡眠不足でデバフがかかるタイミングだったかも。
強制的に瞳を閉じてしまうので、こうなった以上なにも出来ない。仕方がないので脳内でああでもないこうでもないと小説のアイディアをこねくり回して時間を潰そう。三十分経過するまでこのままを覚悟をしていたら、突然視界が回復した。見れば、いつの間にか戻って来ていた隊長さんが呆れたような目を向けながら僕を揺すっている。あ、起こしてくれてありがとうございます。
「雪の上に寝そべって寒く……はなさそうだが。信じられん、俺は夢でも見ているのか?」
「いいえ隊長。僕にも同じ景色が見えていますから現実ですよ」
「そうか。非現実的な光景だが現実か。……それで? 一応上からは入門の許可が下りたが……どうだった?」
「自分の仲間が第一級警戒対象だと聞いても怒りませんでしたし、お酒を飲ませても豹変しませんでした。隊長が居なくなったからといって横柄な態度をとる事もなかったですし、あと、あそこのグラシアルムースを連れた女性が仲間のようです。グラシアルムースは心根の美しい者にしか懐かないという伝説を信じるなら……大丈夫じゃないでしょうか? まあ、さすがに寝るのは予想外でしたけど」
なるほど、最初から隊長と結託して僕を試してたって事か。頭が良いな、門番さん達。でも僕が逆上するような人間だったらどうするつもりだったのだろうか。まさか命がけなんて事は……いや、氷狼を引き連れた僕が現れた段階で命がかかっていたんだよね、彼らにとっては。
「そうか、じゃあ問題ないな。改めて、ようこそホワイトブレイズキャッスルへ。歓迎しよう。ああ、一応氷狼達にも許可は下りたが、絶対にこの首輪はつけてくれ」
そういって手渡されたのはテイム契約の証である首輪六本。そう言えばアインにはしてるけど氷狼達はつけてないもんな。……でも厳密に言えば僕がテイムしてるのは雪風だけなんだよね。今それを言ったら絶対入門拒否されるだろうから、口が裂けても言わないけど。
「ねえ雪風。君はともかく他の子って……これつけられるの?」
「問題ないぞ、頭領。その首輪の詳しい仕組みは分からないが、見た感じ意に従っている限りつけられる類いのようだ。要は俺達が頭領の指示に従う意思があればつけられて、なければ外れる仕組みだろう」
僕が小声で話しかけると、雪風も小声で返してくれた。なるほど、首輪にはそういう意味があったのか。つまり、首輪が外れている魔獣は契約者に対して反逆の意思有りと見做されるって事かな? でも必ずしも良い関係とは限らないよね。例えば酷い扱いをしたりとか……そういうケースで外れた場合、どうなるんだろう。まさか一方的に魔獣側が排除されるとは思いたくない……けれど。
気になる事は増えたけれど、ひとまずこれをつけなければ中に入る事が出来ないのであと回し。雪風から順番につけさせてもらう事にした。
「ちょっと首が窮屈に感じるかもしれないけど……ごめんね?」
「問題ないぞ! 一体感が出てむしろ良い感じだ」
――姐御とお揃いだ!
楽しそうでなによりだ。
「さて、じゃあヴィオラと合流……はまだ無理そうだね。先に入ってのんびり買い物とかしようか。あと、さっきの映像についても気になるし……出来たらこの都市の歴史的なものも調べたいな」
「入領」許可より良い言葉を思いついた方が居たらお知らせ下さい!笑
なんか領というよりこの都市への許可という意味合いで……。
素直に入門許可が良いのだろうか?
07/11
色々なご意見ありがとうございます、「入門」許可に変更しました。
「滞在」許可も捨てがたかった……!自分で最初に思いついたのは「入城」許可だったんですが、都市内の、更に城への許可と混同しそうだな、と思って悩んでいたので助かりました。
入門、滞在……どうして思いつかなかったのか笑