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177.美しく気高い

 近付く事が出来ないのであくまでキャプチャのズーム機能経由ではあるものの、花びらや葉の部分は光の角度によって様々な色に見え、まるで花に虹が宿ったようでとても美しい。更に、よくよく見れば花びらの中、おしべやめしべがある場所は元のまま透明な氷状態を保っており、一歩間違えればくどくなりそうな状態を見事に調和させ、上品にまとめている。王都の貴族達がこぞって映像を欲しがる理由が分かる気がした。


 ——見えますか。あの中心にある透明な部分が魔核です。


 恐らく僕とヴィオラに対して説明してくれているのであろうグラシアルムースさん。ところが、僕達が返答するよりも先にボス氷狼が口を開いた。


 ——へえ。そうだったのか。


 ——何故貴方が知らないんですか。一度取り込んだ事があるでしょう?


 呆れたような表情でじろりとボス氷狼をにらみつけるグラシアルムースさん。その仕草一つ取ってもいちいち動作が美しい。だけど何故だろう、それがちょっと……うん。


 ——いや、どうせ丸呑みするんだからいちいち場所なんて確認しないだろ。


 それで良いのかボス氷狼……。見た目とその強さは突出しているけれど、このやり取りを聞いていると少し心配。いやでも、大雑把なだけだし別に……?


 まあそれはさておき、色々と想定外の事は起こったものの最終的には開花した瞬間を収める事が出来た。これなら依頼は問題なく完了報告出来るでしょう。


 ひとまず安心して胸をなで下ろしつつ、幻の華の足の早さがどれほどなのか気になったので、興味本位で見守り続けてみたのだけれど。一向に幻の華が動く様子がありません。あれ? もしかしてちょっと珍しいだけの別の花だったり……いやいや、ここまで事前情報と一致していて花違いというのはありえないか。


「逃げ出すまでこんなに時間がかかるものなの? 正直これなら開花中を狙わなくても十分勝算がありそうだけど……」


 ヴィオラがグラシアルムースさんに質問している。やっぱりおかしいと思ったのは僕だけじゃなかったんだ。


 ——はて、開花直後には姿がかき消えているのが普通ですが……、変ですね?


 グラシアルムースさんも困惑した様子で返答している。このようなケースは初めてらしい。


 なにはともあれこのまま帰ってしまえば他の魔獣に取り込まれてしまうかもしれないので、「もう暫く様子を見よう」という事になった。改めてグラシアルムースさんや氷狼集団と軽く雑談をしながら、視線だけはしっかり幻の華を注視しておく。


「なんか……動いてる?」


 僕の言葉に、ぴたりと口を閉じる一同。気のせいかと思ったけれど、よくよく見れば徐々に花びらが閉じている。え、折角咲いたのにもう閉じちゃうの……?


「「あっ」」


 徐々に閉じていた花びらが、突然全てぎゅっと固く閉じてしまい、思わず声を上げる僕とヴィオラ。一体なにが起こっているのだろうか?


 気にはなるけどここで近寄ってしまえば警戒させるだろうし、ぐっと我慢して傍観に徹し続ける。閉じた花びらそれ自体はまるで蕾の状態に戻ったように見えるものの、収縮を繰り返しているので完全に一緒という訳ではない。


 ——おや。あの花の気配が薄まっていきますね……。


「気配が……。あ、もしかしてあの動きは自分の魔核を自分で取り込んでいるとかそういう……!?」


 ——なるほど、それは一理あるかもしれません。取り込む事で我々の目をかいくぐって生き延びる……そして全力疾走はその為の時間を稼ぐ行為ですか。ふふ、実に美しい生存本能ですね。


 嬉しそうに鼻を鳴らすグラシアルムースさん。彼女?の美しさの基準がいまいち分からないけれど、外見だけで判断している訳ではないらしい。生き様とかそういう事……なのかな。


 僕らがのんきに雑談している間にも幻の華は激しく震え、ついには外見が溶け始めた。もしかして進化では?という予想が出来たから余り驚きはしなかったけれど、なにも知らない人が見たら相当驚くと思う。だって花が溶けたんだもの。信じられる? 僕は信じられません。


「……」


 気付けば誰も口を開かずに静かに見守っている。口を開く事で、この進化らしき事象が止まるのが怖かったのだ。


 溶けたあとは完全に液状になる事はなく、山のような形を保ったまま少しずつ変化している。まるで見えない手が粘度を捏ねてなにかを作り出そうとでもしているみたい。


 時間にして十分位だろうか。その頃にはすっかり形も安定し、それがなんなのか分かるようになっていた。


「人間ね」


「人間だねえ」


 ——ほう。もしかしたら最初に視認した者を模倣する習性があるのかもしれませんね。


 幻の華は花の要素は影も形もなくなり、小さな人間のような見た目になっていた。材質?は元の氷のままで、動きさえしなければ精巧に出来たクリスタルの置物かなにかと言われれば信じるレベル。


 そしてそれが、こちらに近付いてくるではないか。


 ——まもって、くれて……あ、りがと。


≪喋ったあ!≫

≪花要素全くないけど可愛い≫

≪蓮華くんとヴィオラちゃんが良い感じに合わさった感じだなあ≫

≪つ、つまり二人の子供……≫


 確かに視聴者さんの言う通り、長い髪を後ろの高い位置で結んでいるのはヴィオラっぽい。反面、服らしきものは僕の袴にそっくりだ。


 ——他人の気配を感じれば問答無用で逃げ出すものと思っていましたが。敵意で判断しているとは、なかなかどうして賢いですね。それに美しい。


≪いや、美しければ何でも良いだけだろ≫

≪グラシアルムースが残念すぎる≫


 ——それで? 頭領達に話しかける理由はなんなんだ?


 警戒心を露わに幻の華……だった生物を問い詰めるボス氷狼。確かにわざわざ危険を冒してまでお礼を言う必要はない。僕達が「必要ない」と言ったのは魔核だけで、もしかしたら進化後の姿を見て気が変わるかもしれない訳だし。


 ——つれてって。


 ——なんだと!?


 ——ぼくも連れてって。あなたたちの、そばに居た方が、ぼく、きっと、安全。


 たどたどしい言葉で必死に伝える元幻の華さん。


 ——なんと図々しい! 頭領を守るどころか守れとは一体何様なのだ!


「賢いわね」


「まあね……。でも絶対に守るって約束は出来ないからなあ……」


 ぎゃんぎゃん吠えているボス氷狼の言う事はさておき、百パーセント守り切れる自信がない以上、簡単に首を縦に振る訳にはいかない。


 ——まもってほしい、わけじゃ、ない。いっしょにいた方が安全、それだけ。ほかはなにも、もとめない。


 僕が断りそうな雰囲気を察したらしく、首を一生懸命横に振りながら必死にアピールする元幻の華さん。う、仕草が可愛くて全部言う事を聞いてあげたい。……あれ、最近似たような状況があったような……?


「まあ一緒に居るだけなら実害はないんだし、ねえ、蓮華くん?」


 ヴィオラは既に陥落してしまったようです。僕としても別に守る必要がないなら断る理由はないのだけど。


 ——頭領! こいつはきっと、行動を共にすればどんどんつけあがります!


 対して、ボス氷狼は反対姿勢を見せている。うーん、どうしよう、説得する? でもまだ彼とはテイム契約を結んでいない。ここでこじれて白紙に戻るのは嫌だしどうしたものか……。


 ——む、この者がついていくのであれば、私も是非ともついて行きたいですね。私に似て美しいお嬢さん、テイム契約を結んでくれますか?


「ええ、それは勿論」


 あー……連れて行けばグラシアルムースさんが釣れる、と……。彼女?は気難しそうだし、元幻の華さんなしで説得するのは骨が折れそうだ。ここは一つ、ヴィオラの為にも連れて行く方向で決めようと思います。


「一緒に行く分には構わないよ。でも危なくなっても守ってあげられるとは限らないからね」


 ——分かった。ぼくもがんばる。役に立てるように。


 最後の「役に立つ」という言葉はボス氷狼に向けての一言だろうか。ぴくりと耳を動かしただけで、ボス氷狼はなにも言わなかった。表情を見るに、どうやら反対という訳ではないらしい。状況を理解出来ている辺り、元幻の華さんはかなり賢いようだ。


「さて、それじゃあ……話もまとまったし、帰る? まだ狩りを続けても良いけど……」


 他にも居るとはいえ、この辺は氷狼が多いからなあ。氷狼の目の前で氷狼を狩り続ける鋼の精神力は僕にはない。


「帰りましょう。行きよりも人数が増えた分時間がかかる可能性もあるし。その逆も十分あり得るけれどね」


 ——頭領! 先にテイム契約だけ頼む。俺達はこの地域以外じゃ暑くて過ごせないが、契約さえすれば適応出来るんだ。


「それは勿論……でもそこの五頭は? 僕の仲間とテイム契約を結べるのは王都……えっと、ここから何百キロも南にある都市になるんだけど、そこまで行けない感じかな? それに、君も。僕もヴィオラもテイム出来る上限があって君とは出来ないんだけど……」


 元幻の華さんを見ながら確認する。


 ——大丈夫、ぼく暑いの平気。


 ——我が仲間達も問題ないぞ、頭領! 俺と契約を結んでくれれば俺の力でこいつらは守れる!


 二人から頼もしい答えが聞けた所で、クランチャットが更新された。ええと?


「あ、五頭全員テイム契約者が決まったみたい。最後の二人はナナとガンライズさん。バッカスくんとたかしくんは既に馬とテイム契約しちゃってるって」


≪二人とも人間族じゃないけど大丈夫なんだろうか≫

≪猫獣人も人狼も相性悪そうで草≫

≪狼が狼を相棒にするのか……想像したらほっこりした≫


「あ、そっか。えっと……契約する人のうち何人かは人間族じゃないんだけど大丈夫? 天族とか猫獣人とか、人狼とかなんだけど……」


 ——問題ない。むしろ俺達に近い分、意思の疎通は取りやすいかもしれないな。


 ボス氷狼からの太鼓判も得た事だし、氷狼全員の治療をしてから改めてテイム契約をしようとする僕とボス氷狼。そのタイミングでグラシアルムースさんが口を開いた。


 ——契約時に名前もつけた方が良いですよ? その方が結びつきも強くなりますから。私の名前は美しく気高いものでお願いしますね。


 ……無茶振りをされました。名前かあ…………、まあグラシアルムースさんにはヴィオラがつけるから、僕は関係ないけどね!

めちゃくちゃ眠い

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― 新着の感想 ―
[一言]  何となくだけど、グラシアルムースさんはテイムした後ステータスを見たら「♂️」と表示されているような気がしている(笑)。
[一言] 更新有難う御座います。 ある意味最高の結末!?
[一言] シルバとか(//▽//)
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