表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

212/316

176.開花

今回描写頑張ったつもりでする(六時間半もかかっちゃったぜ……

 氷狼集団は全部で六体。ボスを筆頭に後ろに二頭、更に後ろに三頭と、綺麗に三角形を描くように並んでいる。しっかりと統率が取れている証拠だ。


 僕が動けばボスは子分を守るように立ちはだかり、ヴィオラが矢を射れば子分達が魔法で叩き落としてボスを守る。要するに一方的に搾取される関係ではなく、お互いがお互いを守っているみたいだ。厄介だなあとは思うものの、それはこちらも同じ。僕がボスを足止めし、ヴィオラが子分を牽制。そしてアインが僕達を守っているので向こうもやりにくい筈だ。


 様子見程度に何度かボスと激突しながら、僕は冷静に戦況を分析してみた。


 明らかにアインは氷狼の動きについていけない。けれどそれは本人も分かっているようで、守護対象をヴィオラと定め、彼女の側に寄り添う事で動きの遅さをカバーしているので問題はない。


 そしてヴィオラ。既に彼女は矢への魔法エンチャントを習得したらしい。風魔法を使用しているのだろう、過去に類を見ないほどの速度で射出された矢は、氷狼でも目視が叶わないようで子分達の毛は血に滲んでいる。決着こそまだついていないけど、子分集団に関しては二人に任せられそうで一安心。


 やはり厄介なのは氷狼のボス。どうも彼?は複数属性の魔法が使えるみたい。最初の跳躍時には風魔法で回避を行い、子分が捌ききれなかった矢は火魔法で燃やしている。多分だけど、この感じからいくと六属性全てを扱えるのではなかろうか……。氷魔法を主体としている事を考えると、複合魔法という概念を理解しているようにも思えるし、正直魔法に関しては僕より扱いが上手い気がするので師匠にしたい位だ。うう、どうか神聖魔法だけは使いませんように……。


 それから氷狼の仲間意識は相当強い。これは完全に推測だけど、最初は僕達に見向きもしなかった筈なのに、攻撃によって仲間が悲鳴を上げた途端に魔核よりこちらを優先させた事からも窺える。これを利用してどうにか出来たりしないだろうか?


 まず一番の課題は位置取り。最初の跳躍により、氷狼の方が洞窟の入り口近くを陣取ってしまっているのだ。今はこちらを優先してくれているがこのまま膠着状態が続いた場合、魔核を取り込んで決着をつけようなどと考えそうで困る。


 先程からヴィオラの矢は子分達にかすり傷程度しか与えていない。最初は彼らが素早いからヴィオラも狙いづらいのかと思っていたけれど、どうやらそうではなく、あえて子分達に手加減をしているようだ。きっと僕が「ボス氷狼をテイムする」と言ったから不利にならないようにと考えているのだと思う。でも長期戦になり、魔核を取り込まれでもしたらこちらが不利。なによりここまで来て撮影に失敗しましたというのはなんだか悔しいので、テイムは二の次でなんとしても阻止したい所。


 そう考えた僕は左手でハンドサインを作り、こっそり背中でヴィオラへと指示を出す。実は以前、声が出せない状況を想定していくつか合図を決めておいたのだ。今回は相手が僕達の言葉を理解している。作戦を声に出す訳にはいかない。


 『急襲』『3』『2』『1』


 不審に思われないように素早く指示を出し、そのままボス氷狼に突っ込む僕。ヴィオラの方を確認していないので、彼女がサインに気付いていない場合も考慮しつつ慎重に行動する。


 僕の動きに、ボスは接近を阻止しようと氷塊を複数打ち出してくる。とはいえ、この攻撃はもう何度も見たので避けるのはそこまで苦ではない。僕の間合いにボスが入る直前、子分の一頭がすさまじい勢いで雄叫びを上げた。狙い通りだ。


 条件反射で子分の方を確認してしまったボス氷狼。僕はその隙を見逃さず、しっかりと太刀を振るった。勿論エンチャントも忘れていない。火属性のエンチャントで攻撃力と速度が向上した一撃が、綺麗にボスの左胸から右前足にかけて斜めに切り裂いたのが見て取れた。血が白銀の世界へと染みこんでいく。


 ——ぐ、うぉおおおおおおおおお! こしゃくな!


 ボスの剣幕も意に介さず、僕は後ろ手で素早く二撃目の指示を出した。


 ぎゃうん!


 再び聞こえた子分の叫び声に怒り故か焦り故か、罠と分かっているだろうに反応するボス。先ほどよりも身体全体で振り向いた結果、左胸から右側面に対して僕の想定以上に容赦なく太刀筋が走ってしまった。傷跡からは止めどなく血が滴り落ち、ボス氷狼は立っているのがやっとな状態に見える。


 僕には目を向けず、よろよろと仲間の方へと近付くボス氷狼。


 その様子を見ながら三度目の合図をヴィオラに送る。もはや子分を餌にボスの注意を惹きつける必要はないけれど、ボスの状態を見て躍起になっている子分達への牽制目的だ。


 前足ががくがくと震え、時折転びそうになりながらも子分の様子を健気に確認するボス。もはやこちらに対して戦意はなく、死を覚悟しているようにも思える。けれど決して油断はせず、僕は背後から軽く跳躍してボスの背中へとひらりと飛び乗った。子分へ見せつけるように、その太い首へと両腕を回して日本刀を押し当てる。


「全員動かないで。動いたら首が落ちますよ」


 僕は警告した。抗議の雄叫びが前方から聞こえてくるが無視をする。


 ——人間、なにが狙いだ。


 ぜえぜえと荒い息で問うてくるボス氷狼。ようやく交渉の場へと漕ぎ着ける事が出来たようだ。


 ちらり、と子分達の様子を確認する。五頭の内三頭が血の池に沈んでいるが、死んではいない。ヴィオラは僕の意図を正確に察してくれていたようだ。


「このままあの花の魔核を諦めてくれれば、貴方がた全員の治療を行います。どうしますか?」


 ——俺達に選択肢はないだろう。負けた以上従うさ。


 グラシアルムースさんはボス氷狼の事を「言葉は通じるが話は通じない」と評したけれど、案外話は通じるようだ。いや、一旦落ち着かせない限り話が出来そうにないという意味ではその通りだったか。


「ありがとうございます。とはいえいきなり信用は出来ないので……申し訳ないですが、大人しくしてれば死にはしないけど動いたら傷が開く……程度に抑えて治療しますね」


 そう宣言してから僕は、えいりさん直伝の神聖魔法を行使する。抑えて治療すると言ってみたものの、試した事がないのでかえって難しい。とりあえず十分の一位の出力イメージで……うん、上手くいった……?


 ——なるほど、その間に魔核を入手するか。魔核という望みもなくなれば、俺達はあんた達に対する手立てがなくなる、実に見事な策だ。


「あ、いえ。別に僕達は魔核目当てじゃないので」


 ——なに? ではなぜ俺達の邪魔をする。


「えっと、開花する様子を映像として映して欲しいという奇特な方の依頼で。とはいえ、映し終わったのであとはどうぞご自由に、というのは寝覚めが悪いじゃないですか。偽善と言われようが、僕は自分の目が届く範囲の事であれば僕なりに正しいと思う道を選びたいのでこのまま黙って開花を見守ってほしいんです」


 話しながら、事前に設定しておいたキャプチャの位置関係を確認する。戦闘中は良い感じにキャプチャの射線を遮ってしまっていたけれど、今はきちんと洞窟の中を撮影出来ている筈だ。ふう、なんとか開花前に決着がついて良かった。


 ——随分傲慢な考え方だな。


「あはは、僕もそう思います。ちなみにですが、僕の基準は死ぬかどうか、です。例えば今この山で食料が取れず、貴方がたが飢えに苦しんでいる。その状態であの花が食料になる……とかだと仕方ないよなあ、と思うんですけどね? 見た感じ、貴方は単純に力を欲しているだけでしょう。その力も、なければ群れを守れず全滅する、という切実な状況には見えません。今のままでも十分貴方は強い。この山では貴方達に勝てる生物はほぼ居ないんじゃないですか?」


 ——ま、まあな。俺達に勝てるのは山頂に住むあの方だけだという自負はあった、が……あんたに勝てなかった。外敵から身を守る為に力が欲しいと言ったらどうするんだ?


「あー……僕達は例外ですよ、例外。ホワイトブレイズキャッスルでは貴方がたのケープは高く取引されてます。それ位貴方がたは強くて手出ししにくいという事ですよ!」


≪誤魔化し方下手すぎて草≫

≪氷狼目の前にしてケープの話をするメンタルの強さよ≫


 ——ふむ、なるほど。やっぱり俺達は強いのか! じゃあ力は要らないな。


≪あるぇ……?≫

≪まじかよw≫

≪反応がうちの犬っぽくて笑う≫


 嬉しそうに——僕にはそう聞こえた——ボス氷狼は吠えた。嘘でしょう、僕が言うのもなんだけど、これで誤魔化されるなんていくらなんでもチョロくない? 大丈夫?


 ——ときに人間よ。俺達の頭領になるつもりはないか。


 おつむ事情を心の中で心配していると、思いついたようにボス氷狼が口を開いた。おや、これはテイム契約を指しているのかな? そうだよね? 勿論お受けしますよ! ん、でも……俺達?


「俺達、ですか? 残念ながら僕の力量じゃ一頭としかテイム契約出来ないんですが……」


 ——む、そうか。あんたと一緒に行けば修行にもってこいかと思ったんだが、誰か一人と言うのはな……。


 ばうわうぉ! うぉん! わふん!


 なにやら子分達が話しているようだが、生憎とボス氷狼以外の言葉は分からない。彼とグラシアルムースさんだけ意思の疎通が出来るので、魔核さまさまではある。犠牲になった幻の華の事を思うとなんとも言えないけれど。


 ——それは! お前達の事を足枷などと思った事はない! 俺はお前達と共に過ごしたいのだ!


 話の流れから言って、子分達はボス氷狼に僕とテイム契約をしろと勧めているのかな?


 ——それに俺が居なければホワイトファンガスと新たな群れを作る事になるんだ。全員ばらばらになるんだぞ? 耐えられるのか?


 ホワイトファンガス……そういえばフルコースの中に出てきたような。もしかしてそれが動物の狼の名称なのかな。なるほど、今この群れが氷狼だけで構成されているのは、ボス氷狼が魔核を取り込んで頭一つ分飛び抜けた実力を誇っているから。彼が抜ければ通常の群れを再形成する必要がある、と。……本当にそうだろうか?


「仮に、ですけど。貴方が抜けたからといって絶対に群れを解散する必要があるんですか? 他の氷狼達が氷狼同士で行動しないのは、単純に力が拮抗して争いになるからだと思うんです。既にこれだけ仲間意識が芽生えている貴方がたなら、話し合いで次期頭領を決める事も出来るのでは?」


 ——良い事を言うではないか、頭領よ!


 おっと、もう頭領呼びになっている。悪い気はしないけどノリが……本当にテイム契約して大丈夫かな、僕。


 ——しかし、そうだとしても心配ではある。また再びこの地に戻って来たときに一人でも欠けていたらと思うと……。頭領よ、どうにかして全員連れて行く事は出来ないのか?


「ん、んー……全員かあ。……僕はもうテイム出来ないし、うーん……」


「あ、ねえ。クランメンバーに聞いてみれば良いんじゃない? この大きさなら騎獣としても活躍してくれるでしょうし」


「ああ! その手があったか。よし、ちょっと確認してみよう」


 早速クランチャットで氷狼とテイム契約したい人は居るのか確認を取ってみる。僕とヴィオラ、アインを除いたメンバーは全部で七人。全員が希望してしまうと困るけど、多分誰かしらは馬とテイム契約を行っているだろうし、なんとかなる? いや、むしろ希望者が居なかったらどうしよう。


 全員がオンライン状態な訳ではないので一旦返答は保留。とはいえ、確認した時点でマッキーさん、えいりさん、オーレくんが契約を申し出てきた。この調子で行けば多分問題ないでしょう。


 ——人間、そろそろ完全に開花しますよ。これが最後のチャンスです。本当に良いのですか?


 事の成り行きを見守っていたグラシアルムースさんが問いかけてきた。


「はい、僕は要りません。……ヴィオラは?」


「要らないわ、今の所自分の魔力エンチャントで十分だし。それよりもどれだけ綺麗な華が咲くのかが気になるのよね」


 ——気が合いますね、貴方とは。せっかくですから皆で鑑賞会としましょうか。こんな機会滅多にありませんからね。


 グラシアルムースさんの視線は幻の華に釘付けだ。自然、僕もつられてそちらを見てしまう。まあここまで来たら花見気分で見守るのも良いかもしれない。


 一枚、また一枚と花びらが開いていく。まるで氷のように硬そうな見た目なのに、柔らかな動きで開いていくのか不思議でならない。そういう意味で、いつの間にか僕も固唾を飲んで見守っていた。


「……っ!」


 開ききったその姿に、思わず息を飲んだのは誰だっただろうか。洞窟の中に一本凜と咲き誇るその花は、今までの人生で見てきたどの花とも似つかず、まるで美しい一枚の幻想的な風景画のようだ。

月曜日に投稿した分に「追記しなきゃ!」と思った何かがあったけどそれが何か思い出せない……。まあいいや、その内思い出すでしょう。。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2024年4月20日2巻発売!

吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2巻

二巻表紙


1巻はこちら

― 新着の感想 ―
[一言] |ω・*)わくわくわく 開花したら、根を抜いて脱兎のごとく逃げる?逃げる?
[良い点] このボス氷狼、主人公のご飯に骨抜きになってヘソ天で寝るタイプのわんちゃんでは…………? 想定の何倍もイッッッッヌって感じで最高ですね 是非群れで来てくれ
[一言] 更新有り難う御座います。 ワンコさん、あっさりと敗北。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ