156.食事でもどう?
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【全体サブクエスト(段階クエスト)】
依頼者:神官ハリー
依頼内容:王国全土の教会の調査。
どうやら彼は今回の確認結果に満足したようだ。
引き続き王国中に存在する教会の様子をそれとなく確認し、気になる点を報告して欲しいという。
彼に協力し、教会組織の再構築を手伝おう。
3/???
クエストが発生しました!受諾しますか?
※このクエストは全プレイヤー共通の段階クエストです。既定の条件を上限とし、達成率を上昇させる事が目的のクエストになります。達成率は受諾したプレイヤー全員で共有されます。
また、報酬は報告タイミングで個別支払いの他、全体での達成率が百パーセントになった際には追加報酬も配付されます。達成率が百パーセント未満での依頼放棄も可能ですが、その場合は追加報酬の受け取り権利も自動的に放棄されます。
『受諾』『拒否』
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【ヘルプに「段階クエスト」が追加されました】
ふむ……ハリーさんの物言いと画面の説明を見るに、今回のクエストの上限とは、シヴェフ王国中にある教会の軒数かな。例えば教会が百軒あるとしたら、百軒全ての確認をして報告するまでこのクエストは完了にならない……。途中でもう無理です!とハリーさんに泣きついた場合は、その間までの報酬しか受け取れない、という事だろう。しかしこのクエスト表記では肝心の教会の軒数らしき部分が???となっていて、全く分からない。
「この教会と今回報告した二軒を除くと、王国には残りいくつの教会があるんですか?」
千や二千と言われたら、さすがに多すぎて終わりが見えない。でもまあ受諾した全プレイヤーで進捗は共有するみたいだからなんとかなる、のかな……?
「そうですね……実はこちらでも把握し切れていないんです。なのでそれも兼ねて、と言いますか。実は正式に設立許可を出した教会の数自体はそこまで多くはありません。せいぜい百程度です。ですがその他に、手続きを踏んでいない非正規の教会があるのです。こちらの数が全く見当がつかず、これを機にしっかり把握をし、正規の教会とするか、取り締まるか仕分けをしようと考えています」
百程度であればまあ安心……と思ったのもつかの間、非正規の教会の数が未知数とは。
「設立許可をしていない教会がたくさんある理由はなんですか? 許可条件が厳しいのでしょうか」
「いえ、大半の非正規教会が、あえて届け出をしていないんです。教会として正式に認められてしまうと、その地域の住民が教会に対して教会税を納めなければなりません。正規の教会には正規の神官が派遣されますが、非正規の教会は神官が派遣される訳ではなく、元々その場所に住んでいた住人の中で人々を癒やす魔法に優れた方が神官を名乗るようです。神官自身もその土地の住人ですから、あえて正規の教会に昇格して税を増やし、住人達に恨まれるような真似はしないでしょう。それに正規の教会になるという事は正規の神官が派遣されるという事ですから、結果として自分の仕事が奪われますし」
なるほど……村や集落には治安維持隊のような武装集団は居ない。つまり魔獣や動物に襲われた際には怪我を覚悟で挑まねばならず、瞬時に怪我を癒やしてくれる存在は都市部以上に必要不可欠な筈だ。非正規の教会はそういう地域にたくさんあるのだろうなあ……ん? でも治療をするだけなら別に教会を名乗る必要はない筈。それこそ王都の魔術師冒険者の中にも治療に特化した人達が居て、依頼を受けていない期間に彼らが王都で治療を行っているのを何度か見かけた事がある。人々の治療はなにも神官の専売特許ではない筈だ。教会の規律や王国法に違反してまで非正規の教会を名乗る理由はなんなのだろう。
「理由は分かりましたが、どうしてわざわざ教会だと宣言を? 別に個人で治療を生業とすれば良いだけだと思いますが」
「そこはやはり、『教会』と名乗る事で様々なメリットを享受出来るからかと……。『村に教会がないけれどシヴェラ教の信仰を行える場所が欲しい』住人と、『治療魔法に長けているけれど個人で仕事をすると踏み倒されたり治療費をけちられる事があるので、教会の神官を名乗って後ろ盾を得たい』住人。双方の利害が一致した上で税金の負担を増やさないように申請をしない教会ならば良いのです。我々からしてみれば駄目ですけどね」
「それよりも問題は」とハリーさんは渋い顔で続ける。
「古くから存在する非正規の教会です。設立当初の事情を知る住人が居ない為、正規の教会だと思っていたら実は無許可の教会だったというパターン。このパターンは神官を名乗る住人が勝手に教会税を徴収したり、教会運営費と称して法外な治療費を請求したりとあくどい事をしているようです。実際にいくつかの地域で我々の元に改善要求が届きましたが、蓋を開けてみれば非正規の教会だった事が判明しました」
「なるほど、では依頼内容的には正規の教会の内情確認に加えて、非正規の教会の場所と実態の確認ですか」
「はい。ただし、残念ながら正規の教会についても今すぐ件数と場所をお教えする事が出来ません。実は今までの書類の管理が不適切だった為、全ての書類を探し出してまとめる所から着手しなければならない状態で」
どうやら前大神官代理の雑な仕事ぶりがこんな所にも影響をもたらしているようだ。本当に余計な事しかしない人だな……。
「では、今僕達が依頼を受ける事を了承したとして、どうすれば良いでしょう? このあとすぐアイシクルピークへ向かう予定なんですが」
「教会らしい場所を見つけたら確認していただけますか? 戻って来た際に報告いただければ、こちらで正規の教会か非正規の教会かの調査を行いますので」
「なるほど、分かりました。ただ、今回は事情があって急いでいるので、もしかしたら教会に寄る暇がない可能性もあります」
「恐らく膨大な数でしょうから、長期間にわたって調査をしていただく必要があると考えています。今回でなくとも、いつでも構いませんよ。他の方々にも調査していただくよう依頼をする予定ですし」
「そうですか。……ではひとまずお引き受けします」
話を聞いている限り、非正規の教会は下手をしたら建物その物が教会らしくないかもしれない。これは本当に確認が難しそうな依頼だ。とはいえ、デメリットは特になさそうなので引き受けるだけ引き受けてしまおう。まあその方が報告と称して教皇に会いに来る事も出来そうだし。
「さて、私からは以上です。猊下とアキノ様からもお話があるそうなので、私は一足先に失礼いたします」
そういってハリーさんは人好きのする笑みを浮かべて退出した。部屋の扉が閉まったタイミングでアキノさんが口を開いた。
「二人にはお礼を言いたくて。本当に、本当にありがとう。息子と会えただけじゃなくて、あの場所に居た全員が無事に脱出出来たのは貴方達のお陰よ」
「父……蓮華様とヴィオラ様のお陰でまた母さんに会えた。一緒に旅をしてくれて、母さんを見つけてくれて本当にありがとう」
もう父さんとは呼んでもらえないのか……と少し寂しく思いながらも、教皇が心の底から嬉しい、といった表情で笑っているのを見て僕は少し安心した。
「あ、そうそう。私も暫くはここに住む事になったの。貴方達の為なら可能な範囲でなんでも協力するから、なにかあったら来てちょうだい」
「そうなんですね! 聖下と離れずに済んで良かったです」
僕の言葉にアキノさんの表情が一瞬歪んだ。なんだろう……タイミング的に「聖下」と口にしたときだろうか。アキノさん的には息子が教皇位にある事に反対なのかな? ……そもそも人目から隠すように育てていた事も考えると、なにか理由がありそうだ。
「さて。私が居ない間のヨハネスの話が聞きたいから、食事でもどう?って言いたかったんだけど。これからアイシクルピークに向かうなら無理かしら?」
普通なら断っていたと思う。でも言葉とは裏腹にアキノさんの表情は真剣そのもので、とても軽い雑談の為のお食事会といった様子ではない。多分教会では話せないなにかがあるのだと察した僕は、同じように軽い調子を心がけて快諾した。
「食事位なら大丈夫ですよ。ね、ヴィオラ?」
「ええ勿論」
ヴィオラもしっかりアキノさんの意図をくみ取ったらしく、頷いている。
「僕も行きたい……」
「駄目よ、ヨハネスはおつとめがあるんでしょう? 今度ハリーさんにお願いしておくから今日は我慢して、ね?」
アキノさんの人となりが完璧に分かるほどの時間を過ごしてはいないけれど、地下に居た頃の彼女であれば「ハリーさんにお願いしてみようか」位は言いそうなのに。どうやら教皇には聞かせたくない話らしい。
「すみません聖下。また今度、一緒に王都観光でもしましょう。そのときは丸一日身体を空けておきますから」
「……約束だよ?」
「はい、約束です」
視聴者さんのコメントが「可愛い」で埋め尽くされているけれど、それに関しては僕も全面的に賛同します。本当に可愛すぎる……。
教皇に別れを告げ、アキノさんと共に退出。ハリーさんにも一言告げてから僕達は教会の外へと出た。
「さて……どこで食べますか?」
「ギルドのレストラン以外が良いわ」
「それじゃあエリュウの涙亭に行きますか」
真っ先に思い浮かんだ名を口にする。……というよりも、そこ位しか開拓出来ていないので他に挙げられる名前がない。うーん、北から帰ってきたらもっとしっかりと王都内を探索しないと駄目かもしれない。
道中たわいもない話をしながら歩いていたら、あっと言う間にエリュウの涙亭に到着した。幸いお昼の時間を少し過ぎているので、店内は混雑していないようだ。
「えーと、ステーキにしようかな」
このあとすぐ北へ出発するならと、がっつり目にステーキを選択。まあそれだけじゃなくて、実は普段一人で利用するときはジョンさんがお代を受け取ってくれないので、誰かと来ているとき位は高い料理を頼もうと思ったのだ。
「私はオムライスにするわ」
「じゃあ私もそれで」
メニューを決める時間も惜しいのか、アキノさんはさして考える素振りも見せずにヴィオラと同じ物を選んだ。リリーさんを呼び、注文を伝える。
料理が出揃うのを待っているのかアキノさんに話を切り出す様子は見られない。せがまれるまま、僕達はひたすら教皇との旅の話を伝えている。……まさか本当にこれだけの為に食事に誘われた訳じゃないよね?
数分後、三人分の料理が運ばれてきた。単にゲームシステム的な理由なのかもしれないけれど、エリュウの涙亭は調理担当がジョンさんしか居ないのに驚くべき速度で料理が出てくるので非常にありがたい。
「それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
三人揃って手を合わせ、仲良く一口目を同時に口にする。……おや、シヴェフ王国の人達に「いただきます」の文化はなかった気がしたけれど……やっぱりアキノさんは見た目的にも名前的にも、他国……それもカラヌイ帝国辺りの人なのかな?
なんて事を考えていると、アキノさんはおもむろになにかを取り出しテーブルの上にことり、と置いた。小さな半球体で真っ白なそれに、手の平全体を押しつけるアキノさん。すると不思議な事に、それは透明になった。
「……これは?」
「周囲に音が漏れないようにする為のロストテクノロジーよ。ここまで警戒する必要はないのかもしれないけど念の為、ね」
恐らく白い状態がオフで、透明状態がオンなのだろう。掌紋認証式なのかな? 透明の状態はぱっと見ではそこにあるようにすら見えず、よく出来た設計だ。……いや、そんな事より人に聞かれてはまずい話をするという事ですね。一体どんな爆弾発言が飛び出てくるのか……想像するだけで怖いなあ。
最近投稿時間遅くて申し訳ないです。