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151.復讐を胸に

 ペンダントを首から外すと、ユリウスさんは驚いた表情でそのペンダントをじっと見つめた。


「これは……ペトラの……、何故貴方がこれを?」


「王都にアンデッドの集団が押し寄せたときに、ペトラ嬢本人から貰いました。本当はマークさんに渡したかったようですが、彼が既に他界していると知って……」


 兄であるユリウスさんに返した方が良いだろうか? その方がペトラ嬢も喜びそうな気がする。そう思ってペンダントを差し出すが、ユリウスさんは首を横に振って拒絶した。


「そう……そうか。いや、本人が渡したものなのだから、今後も貴方に持っていてほしい。修理もして大事にしてくれているようだしな。……だが、どうして急に光り始めたのだろうか?」


 僕が修理を行った事を察したようで、満足げに頷くユリウスさん。鎖のデザインが少し変化した事に気付くとは、もしかすると元々はユリウスさんがペトラ嬢に渡した物なのかもしれない。


 光った原因……それらしい理由は一つしか思いつかないが、あまり公にはしたくない。特に前回の報告時にはダニエルさんにも意図的に伏せていた事だし……。とはいえユリウスさんに説明しない訳にもいかないので、お叱りは後で甘んじて受け入れるとしてまずは話を進めてしまおう。


「このペンダントには彼女の魂の残滓が宿っていますから、もしかしたらご家族の気配に反応したのかもしれません」


「魂の残滓……? 何故そんな事が」


「森に行った際に、ペトラ嬢の遺体を見つけたんです。いえ、正確にはそのときにはペトラ嬢の遺体である確信は持てなかったんですが、遺体を取り囲むように魔法陣があったのでもしかしたら、と。そもそも森で亡くなった他の方々の遺体はアンデッドが王都を襲撃した結果殆ど森には残っていなかったですから。それで、埋葬をしようとした所でご遺体から魂らしき何かが飛び出してきて、このペンダントへと入ったんです」


 ダニエルさんの方をなるべく見ないようにしながらまくし立てるように僕は説明した。うっ、ダニエルさんの視線が明らかに鋭くなっている……。報告義務を怠ったようなものなのだから、怒られるのも当然だ。


「遺体は!? 場所は分かるか!?」


 僕の説明に被せるようにユリウスさんからの質問が。


「いえ、残念ながらペンダントに魂が飛び込んできたタイミングで、跡形もなく消失してしまいました。せめて灰だけでも残っていれば埋葬出来たのですが……」


「……そうか……。魂もペンダントの中なら……森に独りで取り残されている訳じゃないのだろう」


 ユリウスさんの表情は今にも泣きそうに見えた。その様子に、もしかしたら彼はずっと森でペトラ嬢の遺体を捜していたのかもしれないと僕は思った。アンデッド襲撃事件前は森中遺体だらけで誰が誰なのかは全く判別不能だった。反対にアンデッド襲撃後では、森には骨一つ落ちておらずペトラ嬢の遺体は見つからなかった筈。きっと妹さんの遺体を供養する事が出来ずに、悔しい思いをしていただろう。


 お金があれば、森の中の遺体全てをまとめて祈禱する位の事は出来たかもしれない。けれど子爵家は領地の砂漠化と前子爵の浪費癖のせいで財産と呼べる物は殆どなかっただろうし、年に一回国が行うような規模の事を私財をなげうって行うのは難しかった筈だ。


 まあ、そもそもあの当時の祈禱であれば果たして効果があったのかも怪しい。仮に爵位返上を覚悟で全財産を用いて森中を祈禱して効果がなかったとしたら……。それこそ悲劇以外の何物でもない。


「まず、依頼を受けるにあたって、ユリウスさんが今までに調べた事実を教えていただけますか? 例えば亡くなった女性達の年齢や容姿などに共通点があったのか、とか」


「いや。残念ながら共通点はないように感じた。女性の年齢も十代から二十代、中には三十代も居た。見た目も決して幼い者ばかりではない。つまりペトラのような未成年者を好んでいる訳ではないという事だ」


「なるほど。そうなると次に狙われそうな方をピックアップするのは難しいですね。容姿を基準にしているのではなく、亡くなっても家族から文句が出ないような方をあえて選んでいるという事かもしれません」


「ああ、私もそう思う。それから、マークという男性についてだ。亡くなった当時の状況を彼本人の口から説明してもらえないだろうかと、実はネクロマンサーに依頼して降霊術を行ってもらったのだが、こちらも手詰まりだった。彼の魂は呼びかけに応えなかったらしい。念の為何人かのネクロマンサーに頼んでみたが、全員同じ回答だったから力量差ではないと思う」


「僕は降霊術の事はさっぱり分からないのですが、呼びかけに応えないというのは本人の意思で拒絶しているという事ですか?」


「どうもそうではないらしい。基本的に器を持たない魂は皆呼びかけに無条件で応じると言うのだ。つまり、応じなかったマークには器がある……既に次の身体に転生している可能性が高い、と」


「輪廻転生ですか。シヴェラ教は転生を信じているんですか?」


「いや。国教としてはあくまで死後は神の元で幸せに暮らすと説かれている。だがネクロマンサーは魂を扱う職業だ。彼らには彼らの考え方があるらしい。どちらが正しいのかは私には分からないが……子爵領では女神シヴェラ以外の神の存在もこの目で確かめる事が出来たし、ネクロマンサーの方が正しいのではないかと今は考えている」


「大変失礼な事をお聞きしますが、ペトラ嬢に対して降霊術を試みた事は……?」


「ああ、勿論ある。手紙一通で別れを済ませるなんて、到底耐えられる物ではない。もうこの世に居ないのだとしても、最期にちゃんとお別れを、と。それに遺体の場所も本人に聞ければと思ったのだ。だがペトラもまた、呼びかけには応えなかった。私は彼女も転生をしたのだと信じていたのだが……王都襲撃の件でそれが間違いだと気付かされた。それで、改めて最近ネクロマンサーに話を聞いてみたんだ。どうやら転生以外にも、器に魂が入っていれば魂は呼びかけに応えない事があるらしい。亡くなった直後から呼びかけに応えなかった事を考えると、ペトラの場合は長い時間をかけて魂に邪術を仕込まれていたのではないかと言われた。先程貴方の話を聞いて合点がいったよ。恐らく遺体の中に魂が入った状態で魔法陣によって邪術を仕込まれていたのだろう。だから妹は呼びかけに応える事が出来なかったんだ」


 「だから」とユリウスさんは続ける。


「もしかすると、マークという人物も同じではないかと思った。それで改めて彼に対して降霊術を行った。だがやはり彼は現れなかった。つまり、彼に関しては本当に転生しているのではないかと思う」


 いくつか分からない事がある。現在分かっている限りではネクロマンサーには二種類居て、遺族の為に降霊術を行うネクロマンサーと、私利私欲の為にアンデッドを召喚するネクロマンサー。前者はユリウスさんが説明した通り器のない魂を呼ぶ事が出来る。後者は何らかの方法を用いて遺体をアンデッドとして蘇らせる事が出来る。でも、エリュウの涙亭でジョンさんに聞いた話では「土地が汚れるとアンデッドが出没する」と言っていた。その口ぶりからするにアンデッドは自然に発生するように聞こえる。


 それに図書館で読んだ混沌、中立、秩序による創世神話も気になる。あれには天国と地獄の記載もあった。魂の輪廻転生が正しいと仮定すると、創世神話は事実に近い気がする。となれば天国と地獄に行ったあとの魂の扱いが気になる所だ。ユリウスさんがペトラ嬢とマークさんの死後どの位あとに降霊術を行ったのか分からないけれど、個人的にはマークさんがそんなに早くに輪廻転生をしているとは思えない。それこそ婚約者を残して突然殺されたのだから、未練を持ってこの世に留まっていると考えた方がしっくりくる。


 ここは一つ、まずは僕達でネクロマンサーに直接話を聞くべきではないだろうか?


「お話は分かりました。魂と器の関係や降霊術について気になる事があるので、僕達からもネクロマンサーに話を聞いてみたいです。よろしければ王都内のネクロマンサーを紹介していただけますか?」


「承知した。あとで場所と紹介状を用意しておこう。私はしばらく王都に滞在している。何かあれば子爵家のタウンハウスを訪ねてくれ」


「はい」


【告知:無期限クエスト「復讐を胸に」を受領しました】

【ヘルプに「無期限クエスト」が追加されました】


 画面上にぽん、と告知が表示される。無期限クエスト……。ユリウスさんが期限を問わないと言ったのでその通りなのだろうけれど、通常のクエストとは別枠でヘルプに追加されたのが少し気になる。あとで確認してみよう。


「では……よろしく頼む」


 そういってユリウスさんはダニエルさんにも礼を言って、応接室を退室した。僕達もそのタイミングで……と思ったけれど、ダニエルさんの微笑から物言わぬ圧を感じたのでその場に留まっている。これは確実にペンダントについて問い詰められる……。

投稿するのをすっかり忘れていた……(愕然


この話が面白い!続きが気になる!と思った方はぜひいいね・感想・ブクマお待ちしています。

という文言も久々に書いた……笑

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― 新着の感想 ―
[一言] ダニエルさんの笑顔が怖い(笑) そうして、二人は誰騒ぎは、これでかき消される予感(笑)
[一言] 「しかしまわりこまれてしまった」 残念ながら脱出失敗ですね…
[一言] おや?マークさんに関して別の可能性が出てきましたね…… とことんフラグを踏んでいく蓮華くんw
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