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148.呼び出し

 待ち合わせ場所に指定されたのはバーガーショップ近くのホテル。千里さんとジャックさんもホテルに居るとの事だったので、二人の分の朝食を持ち帰り注文してから出発した。本当に店の目と鼻の先で、冷める前に辿り着いてしまった。この場合それが良い事なのか悪い事なのか。心の準備という意味ではあまり良いとは言えないな、なんて……。


 フロントの人には既に話を通していると書いてあったので、名前を告げて部屋まで案内してもらった。通常、ホテルでの面会はロビーのみだと思うけれど……特例なのかな? ロビーだと会話の内容が筒抜けになってしまうから和泉さんが避けたのかもしれない。


「お待たせしてすみません」


「いえいえ、急に呼び出したのはこちらですから。初めましてのお二人とお話も出来て有意義な時間でしたよ」


 そうか、千里さんとジャックさんは和泉さんと初対面なのか。その割には全然緊張をしていない……いや、バーガーショップの包み紙しか見ていないようだ。よっぽどお腹空いていたんだなあ……。


「それは良かったです。はいこれ、朝食。ごめんね、本当なら二人が起きる前に持ち帰りたかったんだけど……」


「ありがとうなのです! 千里達の事は気にしなくても大丈夫ですよ! それよりトラブルがあったと聞いたです。大丈夫だったですか……?」


 心配そうにこちらを見つめる千里さん。どうやらヴィオラに配慮したらしく、まだ詳しい話は誰もしていないらしい。


「大丈夫よ。ちょっとストーカーに遭遇しただけだから。……お話というのは、その事についてでしょうか?」


「はい、連絡事項はいくつかありますが、そのうちいくつかがその件に関連しています。順番にお伝えするとして……、まずは一つ目。ストーカーの身元はご存じないとの事でしたので、こちらで総力を挙げて調査中です。また、先程の人だかりに居た人々からも証言を得ると共に、動画撮影者には撮影動画を提供してもらえるよう呼びかけています」


「動画撮影者が居たんですか……」


「早朝の出勤時間帯という事もあり、人出は多かったですからね。二つ目はそれに関連していますが、この撮影動画がSNSで拡散されており、既に手に負えない状態になっています。投稿者全員が肖像権侵害での訴えを考慮してか顔にモザイク処理を施した状態で投稿しているので、犯罪として罪に問えるか、そもそも削除申請が通るのかも微妙なラインです。無理に削除を行う事も可能ではあるんですが、先日のサクラ日本テレビの一件もあって削除する方が問題ではないかとの声もありまして……。拡散された動画には蓮華さんが突然目の前から消えたように見える部分もしっかりと映っており、ネット上では本当に人間なのか、といった声が上がっています。また、GoW内の掲示板でもその動画に映っている人物がお二人ではないのか、と話題になっているようです」


「僕がうっかり加減をせずに逃げてしまったから要らないトラブルを呼んでしまったんですね……」


「あくまでお二人は被害者ですし、蓮華さんは朝森さんを助けたい一心でしたでしょうから悪いとは思いません。そもそもモザイク処理を行ったからといって許可なく動画をあげる人々が悪いですからね。とはいえ、前回の横浜での戦闘については相手吸血鬼による催眠効果のお陰で『動画撮影者達の精神状態がおかしく、信憑性が低い』とネット上では結論付けられていました。ですが今回はそういった事もなく、目撃者の数も前回の比ではありません。動画を撮影していなかった人々も言葉で状況を次々に投稿しており、既にハッシュタグまで作られトレンド入り寸前です。正直あまり良い状態とは言えない為、このあと内密に緊急会議が開かれる予定です。場合によっては国民への情報公表を前倒しにする……といった判断が行なわれる可能性もあります」


「そうですか……」


 ちらり、と洋士の方を見る。怒っている様子はないけれど、何を考えているのか表情からは読み取れない。僕の視線から意見を求められていると思ったのか、洋士が口を開いた。


「俺達としてはいつ公表されても問題はない。……が、公表にあたって法改定、身分証の改訂、その他諸々雑事が一気に増えるだろう。その辺りが曖昧なせいで異種族に対して変ないちゃもんをつけられたり、仲間が失業するような事態は避けたい。あとは他の種族からの合意、か? 公表するときは現在認識している全ての種族を発表するつもりなんだろう?」


「ええ、そのつもりで今まで水面下で準備は進めてきましたから、法律や制度関係、合意上の問題はないと思います。公表も全種族行い、今後新たに発覚した場合は諸問題を洗い出し、対策を打ち出したあとに随時公表する予定です。ただ、問題は国民の反応ですね。ここ最近は異種族関連のアニメやドラマも多くなってきましたから、未知に対する不安感というものは薄れているとは思いますが、やはりあくまでファンタジーとして受け止めているでしょうから……」


「実在していると聞いたときの本能的な忌避感はどうしようもないな。新参者ではなく、昔から人族とはずっと同じ釜の飯を食う間柄だった事を理解してもらい、多少の違いはあれども基本的には人類と大差がない事を受け入れてもらうしかないだろう」


「はい、時間はかかるかと思いますがそうするしかないとは思います。その為のバックアップは惜しみませんので。……それから三つ目、話は前後しますが、先程のストーカー犯の身元が分かり次第朝森さんにはお伝えします。身分証その物の発行はもう少しかかりますが、ストーカーに対する法的手段の措置に関してはつつがなく行なわれるようにしておきますのでご安心ください。それから先程洋士さんにはお伝えしましたが、エルフと共に来た吸血鬼の方々にご提供する血液確保の目処が立ちました。無事に廃棄寸前の血液の使用許可が下りましたので」


「それは良かったです」


「それと……四つ目、これが最後ですが。実は移住エルフの方々が、朝森さんに一度お会いしてお話を伺いたいと言っています。朝森さんが彼らと関わりたくないというのは重々承知しているのですが、その、やはり初めての文明という事で戸惑う所もあるのかと思います。既にこの地に長く暮らしている同族だからこそ理解出来る部分というのもあると思いまして……」


「……分かりました、協力させていただきます。それから今朝の件について、私個人の問題だと思い、彼自身が自分にとって脅威になるとは露程も思っておらず長らく放置していました。結果として蓮華くんの事も巻き込んでしまい、大事に発展してしまったのは私の危機管理能力の不足が原因です。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 深々と頭を下げるヴィオラ。


「いや、ヴィオラは最初から最後まで被害者だから。今回は本当に僕の判断ミスが原因。ヴィオラが謝る必要はないんだよ。……和泉さん、政府の計画を乱すような事態を引き起こしてしまって誠に申し訳ございませんでした」


「お二人に頭を下げられてしまうと私の立場が……今回の事は重い腰を上げずにずるずるとここまで来てしまった政府の責任でもありますから。洋士さん含め、他の種族の方々からは前々から早く公表した方が良いのではないか、とのご意見を貰っていたのです。それを、国民からの反応が怖い一心でここまで長引かせていたのはひとえに我々政府の人間の不徳のいたす所です。結果としてお二人には多大なご迷惑をおかけしてしまい、こちらこそ、申し訳ございませんでした」


「まあ今回の件は俺の父親がやらかしたのは事実だ、謝罪は受け取ってほしい。……さて、今後についてだが。和泉からみて、公表に至る可能性は何割だと?」


「半々でしょうか。全員公表で意見は一致してますが、時期に関しては意見が一致していないのが現状ですから。とはいえ、これ以上言い逃れが出来ないタイミングだと理解はしている筈ですのでもしかすると六割……公表すべき、と結論付けるかもしれませんね」


「種族間の対立・差別……内部分裂は確実に起こるだろう。法律上認められていなくてもな。そのタイミングで外部から奴らの本隊が来るような事態に陥るのはどうにか避けたいが、確実に狙ってくるだろう事も予測出来る。最悪人死にが起こる場合もある事を考慮しておいてくれ」


「はい。ですが外部の敵は公表の有無にかかわらず近日中に訪れる可能性が高いでしょう。公表をすれば自衛隊や警察出動も可能ですから、デメリットだけではありません。勿論、貴方がたのお邪魔じゃなければ、ですけど」


「直接の戦闘となれば足手まといかもしれないが、民間人の避難をしてもらえれば助かるな。それに重火器の使用が許可されているならば多少は戦えるか。まあ、今どうこう考えても仕方がない。移住エルフの訪問のスケジュールについては?」


「あちらは基本的にいつでも大丈夫なようです。日によっては私は同道出来ませんが、それで問題なければ朝森さんのご都合が良い日にいつでも歓迎だそうです」


「あの、それって僕も一緒に行っても大丈夫ですか?」


 正直な話、先程のタイミングでの依頼となればストーカーの一件で政府に負い目があるヴィオラが断れる筈もない。でもヴィオラはエルフには極力会いたくない。となると、少しでも彼女の心理的負担が減るように、僕も一緒に行けるのであれば行った方が良いと思うのだ。……逆に負担が増えると思われてたらどうしよう?


「ええ、構いませんよ。エレナさん達も喜ぶでしょうし」


「蓮華くんが居るなら心強いわね。私はいつでも大丈夫だけど、蓮華くんは?」


「僕もいつでも大丈夫。あ、でも出発前にちょっとホレおばさんに会いに行きたいかな……日光アレルギーについて、新たな情報がないかなーなんて」


「ああ、青森でお世話になったっていう神様の……分かったわ」


 洋士曰く移住地は東京都内ではないらしいから、ある程度の移動時間が見込まれる筈。さすがに天気の悪い日や夜間帯のみの移動……というのはヴィオラにとって足手まとい以外の何者でもない。今後の事もあるし、今更だけど僕も大手を振って日中帯に行動出来るように、それなりの対策を講じておきたい。

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― 新着の感想 ―
[一言] ∑( ̄□ ̄;)とうとう、吸血鬼さん達と実はずーっと共存していた事が判明する…………………… ずーっと一緒に共存していたっていうのは実はかなり重要(゜ー゜)(。_。)ウンウン
[一言] 自分に言わせれば種族がどうとか問題にならんね 気になるのは昔の食べ物を再現できるのか否かだね 後は血ソムリエが居るのか、血に個々の味はあるのか知りたいね!
[一言] ひと波乱……どころじゃないですね…… こういう問題は大体は連鎖的に起こるから厄介。 そして悪い吸血鬼たちの來日とも密接してさらに混沌をもたらすw
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