145.誰でも分かる!クラン講座
今日はほぼ説明回です!
「クランですか。ここに居る皆さんで立ち上げを検討しているんですか?」
「はい。初期費用とか手続きの仕方とかあったら教えてほしいな、って」
話題がクランについてに変わったからか、システムの説明通り配信は自動的に再開した。
≪お、ダニエルさんだ。王都に戻ってきたか≫
≪ゲートで戻ってくるだけの間に配信中断って何……≫
≪繋がっちゃいけないとこに繋がっちゃったんだろ……≫
≪んで今はクランについて聞いてる、と≫
≪「誰でも分かる!クラン講座」でも始まるか?≫
≪ワーパチパチパチ!≫
≪蓮華君の配信はいつも有益≫
「では重要な事から説明しますので、不明点は気軽にお聞きください。まず、クランはギルドの下位組織と思っていただいて構いません。これは冒険者ギルドに限った事ではなく、現在存在する全てのギルドの下位組織です。ですから設立に当たっては全ギルドからの許可が必要になります。また、クランへの新規メンバー加入許可については基本的にクランの判断に任せますが、一応ギルド側でも書類確認は行います」
「書類確認ですか?」
「はい。犯罪歴の有無とその理由などですね。一応ギルドの下位組織ですから、あまり素行の悪い方を入れてほしくありません。とはいえ最終判断はクラン側に一任していますから、こちらとしては警告する程度ですね」
【ヘルプに「カルマポイント」が追加されました】
ダニエルさんの話の途中で画面上部に見慣れた告知文が浮かび上がる。カルマポイント……それが犯罪歴の有無を表す指標という事だろうか。
≪カルマポイントがマイナスだとギルドとかクランに入れないってこと?≫
≪↑カルマポイントマイナス=善行以上に悪行(窃盗とか殺人とか)をしてるってことだから闇ギルド位しか入れない≫
≪闇ギルドの下位組織としてクランは作れるよ≫
なるほど。闇ギルド……所謂暗殺者ギルドや盗賊ギルドかな。そこに所属するクランって相当危ない集団なんじゃ……、と思ったけれど、そういうプレイを好む人も一定数居るだろうし、システム上許可されているのだから問題はないのか。
「ちなみに設立後のクランの評判が一定期間継続して悪い場合は、強制解散もあり得ますのでご注意ください」
【ヘルプに「クランカルマポイント」が追加されました】
クランとしての活動で悪い事を繰り返す――例えばギルドからの依頼をすっぽかしたり、顧客に対して恐喝まがいの事を繰り返したら強制解散、って事だよね。クランがギルドの下位組織である以上、そんな事をすれば当然強制解散させられるだろう。
「設立に当たって手数料として一金が必要になります。また、クランの活動拠点は自分達で用意する必要があります。こちらで条件に合った建物を探す事も可能ですし、大抵の建物はクランでの利用と伝えれば家賃が安くなります」
手数料は初回のみ。それでも一金……およそ十万円というのは決して安い金額ではない。ここに居るメンバーで割るのであれば一人当たり一万一千円強、まあまあ大きな出費だ。
そして問題は活動拠点の賃料。どれ位が相場なのかは全く分からないけれど、現実世界と同様と考えれば月に数金はかかるのではないだろうか。ああでも、頻繁に拠点への帰還機能を使用するのであればテレポートスクロールより安いのかも。とはいえ一人当たり毎月数万の出費というのは厳しいのでは?
「クランには紋章という物が二種類存在します。一つはクラン紋章、クランを表す紋章ですね。もう一つはメンバー紋章。クランに加入しているメンバー個人個人が持つ紋章です。国内での商売……例えば露店や店での物販などですね。これらに関してはこのメンバー紋章を持つ方のみ許可されます」
「ギルドに所属しているだけでは駄目だという事ですか?」
「はい。言い方は悪いですが、クランに所属し、メンバー紋章の使用を許可される力量がない方は商売をする能力がない……、という事です。メンバー紋章の数によってクランが納める税金の額も増えますし、人数が増えれば税率も変わります」
≪生産系のプレイヤーがそれで嘆いてたなあ≫
≪要するに累進課税って事か≫
≪え、地獄じゃん何その仕様……≫
「ちなみに話は逸れますが、許可なく商売を行った者はその度合いによっては関連ギルドから強制除名処分を受けます。我々冒険者ギルドは世界中全てのギルドと繋がりがありますから無理ですが、生産系のギルドは基本的に国単位。他国での再起は可能です。が……人脈も評価も一からのやり直しとなりますので厳しいと思います。皆さんも注意してくださいね」
ダニエルさんの説明に僕は強く頷いた。危ない、まだNPCだったからオークションを使えない影響で商人に対して料理を販売していた事があったけれど……あれがぎりぎり認められるラインだったのか。何も知らずに自分で露店を開いて売ったりしてたら大変だった……誰かしらが止めてくれたかもしれないけれど。あれ、そういえば僕は生産系のギルドに加入してないけれど、その場合はどうなるんだろう? 今後の加入禁止、とかなのかな? そもそも生産をするにあたってギルドに絶対入らなきゃいけないとかないのかな? GoWについてだいぶ分かってきたつもりになっていたけれど、どうやら僕はまだまだだったらしい。
「最後に、クラン設立時は代表者一名をクランマスターとして届け出る必要があります。なお、一定期間クランマスターの行方が分からない場合は、クラン内で話し合い、後任を決めた上で再度届け出る必要があります。これはクランマスターの変更に限りませんが、各種申請は全ギルドに対して自分達でする必要はなく、どこか一つのギルドで手続きをすればギルド側で情報の共有を行ってくれます。何か質問はありますか?」
「あー、えっと、クランの活動拠点で使える機能とかって……」
「そうでした、失礼しました。クランで借りた建物……クランハウスとでも呼びましょうか。これにはまず、一定以上の腕を持つ魔術師に依頼する事で、一方通行のテレポート魔法陣を設置させる事が出来ます。魔法陣ですから、クランハウスでなくとも出来るんですが……、法律で、借りている部屋への導入は認められていません。あくまで所有権が自分にある建物のみ、ですね。ですがクランハウスの場合は例外で、買い上げていない施設でも特別に魔法陣の設置が許可されています」
「なるほど」
「それからクランハウスを店舗として使用し、商品の販売を行う場合。メンバー紋章を持っていないクランメンバーが作成した商品に関しても、一定の金額を超えない限りはクラン紋章の権限で販売する事が可能です。ただしその場合はクランハウスでの売上に対して納税義務が発生しますから、帳簿の類いをきちんとつけていただく必要があります」
≪えっまじで≫
≪その情報知らんかった……≫
≪え、この制度あるのに今ある生産系クランって加入者絞ってんの?≫
≪帳簿つけるのが面倒だと思ったか、説明聞いてなかったか……≫
≪ここまで来たらもう完全に小規模な会社って感じだな≫
「それから個室内はその所有者のプライバシーが完全に保たれます。例えば先日バートレット侯爵家から貸し出されたロストテクノロジー。ああいった類いの物も無断使用は出来ない様に、魔術師に依頼をする事で対応可能です。あくまで個室内のみで、共有空間には適用出来ませんが。ですから当然、個室が欲しいメンバーが多ければ多いほど大きなクランハウスを検討する必要があり、家賃は上がります」
≪「魔術師に依頼」ってだるそう≫
≪あくまでそういう体、な。実際はシステムから設定出来る≫
≪なるほど、世界観崩さない様な配慮か≫
【ヘルプに「個室内の事業使用について」が追加されました】
お? もしかしてクランハウスの個室も事業で使用した場合は経費として計上出来るって事かな? なるほど……、実はクランの設立に余り乗り気じゃなかったけれど、事業利用が出来る空間と生産品の販売許可、簡易テレポート機能を考慮すると……設立した方が良いかもしれない。でもメンバーが減ってきたり逆に増えてしまった場合の事を考えると、毎月の出費が変動して厄介だなあ。
「俺が聞きたい事は全部聞いたけど、皆は?」
たかしくんの言葉に皆は考え込む素振りを見せたけれど、ぱっと思い浮かぶ質問がないのか口を開く人は居ない。
「あ、じゃあ僕が。クラン設立の申請時には手数料の他に何が必要ですか?」
クランの規則やクランハウスの機能なんかは聞いたけれど、結局の所申請に何が必要なのかは今いちピンとこなかった。クランの設立に賛成だろうが反対だろうが、設立時に慌てない様に情報だけは入手しておかないとね。……まあ多分作る方向で進むんだろうな、と思うし……。
「クランの名称、それからクラン紋章のデザインを考えてきてください。紋章自体は正方形に収まる必要がありますが、実際に商品などにロゴとして入れる際に加工したり横に文字を入れたりなどの改変は問題ありません」
なるほど、クラン紋章は商品ブランドの顔としての位置付けでもあるのか。これは適当に決める訳にはいかないだろうなあ。かといってクラン名と全然違う紋章というのも違和感がある。案外すんなりと決まる物ではないのかもしれない。
「それからクラン設立と同時にクランハウスも使用開始をしたい場合は、先にギルドに対しクラン設立申請書を提出し、仮の許可証を発行してもらうと良いでしょう。仮の許可証があればクラン利用の証明になり、家賃に多少の融通が利きます。クラン設立申請書は……と。ちょっと待っていてください」
ダニエルさんは立ち上がり、応接間から出て行く。恐らく彼の執務室か受付辺りにある申請書を取りに行ったのだろう。ほとんど時間をおかずに戻って来た。
「お待たせしました、これが申請書になります。申請書の提出時にはクラン名と紋章デザインは仮、もしくは空白でも問題ありません。全ギルドからの承認後、改めてクラン名とクラン紋章を登録する機会がありますので。ただしクラン名の重複は認められませんから、申請時にはなるべくクラン名を記載しておく事をおすすめします。名前の権利を押さえておく事が出来ますからね」
ダニエルさんから渡された申請書には、クラン名とクラン紋章、設立理由と公開募集の要否、紹介文などの項目が用意されている。前半はともかく後半はクランを探しているプレイヤー向けの内容だろうなあ。さて、皆はどっちの方針で考えているのだろうか。
「他にご質問は?」
というダニエルさんの言葉に、全員が首を横に振る。
「では今日はここまでという事で。クランについての質問、申請はギルド職員全員が対応可能です」
「はい、ありがとうございました。それでは失礼します」
「「ありがとうございましたー!」」
「「失礼します」」
各々ダニエルさんに挨拶をし、応接間を後にする。ギルドを出てからバッカスさんが代表して口を開いた。
「とりあえず、今日はどうする? もう夜も遅いし解散?」
「そうね。解散で良いんじゃないかしら。今後についての話し合いは明日の夜でどう?」
「夜なら大丈夫」
「私も大丈夫です」
「うん」
「それじゃ、そういう事で。お休みなさい」
「お休みなさーい」
「また明日」
各々バラバラの方向に歩き出した所でヴィオラが言った。
「それじゃ、私も今日はそろそろ寝るわね」
「ん、分かった。また明日ね」
さて、僕はどうしようか。明日の朝食はヴィオラと外食をする事になっているから考えたり買い出しに行く必要もないし、仕事も積み重なってはいない。
「うーん……まずはエリュウの涙亭で食事かな!」
≪知 っ て た≫
≪久々の王都だもんねー≫
≪既に蓮華君にとってのふるさとの味となりつつあるジョンさんの料理……≫
≪当たり前のようにプレイ続行するんだなあ……≫
う、やっぱりログアウトすべきだったかな? でも僕がほぼ不眠不休でプレイしているのなんて周知の事実だし、今更人間らしい生活をしてもなあ……。