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144.繋がってはいけない場所

 随分と配信中断が立て続けに起こるみたいだけれど、今回のクエストはメインストーリー的にも大きな展開があるという事だろうか。


 珍しくすぐに場面が切り替わらず、変わらず暗転した視界の中に文字だけが浮かび始めた。どうやらシステム側からの説明の様だ。中断された内容も引き続き動画としては録画されているので、システム側の情報制限さえ解除されれば任意のタイミングでアップロードを行う事は可能である、と。また、一部の特殊空間を除き、通常マップでの配信中断に関しては状況が制限内容から外れたタイミングで自動的に配信は再開されるとの事。ただし、再び制限内容について触れた場合は配信が中断される。随分ともどかしいシステムの様だ。


 そもそも、具体的に何が制限情報なのかも不明瞭であり、更にはその情報がいつまで制限されるのか見当がつかない。例えば僕達が一番最初にこの情報を見ているからだとしても、二組目が同じ情報を入手したからといって即時制限解除になるのかは怪しい所だ。そして情報の制限が解除されるまでの間、視聴者の皆にはこの件を話す事が出来ない。うっかり口にしてしまうと配信が中断する……、正直とても厄介だ。視聴者さんから質問が来たら、それが制限情報かどうかなんて何も考えずに答えてしまいそうで。


 もんもんと考えていると、再びシナリオ進行が始まったのだろう、今度こそ視界が明るくなった。ただしまばゆい光ではなく、ぼんやりとした明るさだ。明らかに王都のゲートではないだろう。


 ようやく身体の自由が利く様になったのでまずは辺りを見回してみると、アキノさん、教皇、ユリウスさんの三人は居るけれど、他の皆の姿は見えなかった。ひょっとすると各々の空間で同じ展開が起こっているのかもしれない。


 突然、声だけが聞こえてきた。慌てて辺りを確認しても、声の主らしき人物は一切見当たらない。


 ――人の身でありながら我らと同じ力を宿す者よ。気を付けよ。危険が迫っている。


「危険?」


 何が何やら分からないけれど、とにかく話を進める為に聞いてみた。


 ――そうだ。我らの中で不穏な動きをする者が居る様だ。想像以上に力をつけている。対抗するのは難しいだろう。


 ――人の子よ、力をつけよ。お前の記憶の欠片は力と強く結びついている。力をつければ(おの)ずと記憶も戻るだろう。記憶が戻れば、すべき事も分かる筈だ。


 何を言っているのか分かる様で分からないけれど、記憶の話をしているという事はこれは僕個人に当てたメッセージであり、アキノさん達には関係がなさそうだ。


 「我らの中で不穏な動きをする者」とはすなわち神の事だろう。もしかしてそれが前回の王都クエストで何かを企んでいた人物なのだろうか。神相手に戦うのだから当然対抗するのは難しい筈。力をつけてどうにかなる様な次元なのだろうか? まあゲームだしそういう風に調整されているのかもしれないけれど……。


 ――加護を与えられている者が居るな? どうやら話しすぎた様だ。あれ(・・)が騒げば連中に気付かれる恐れもある。送り届けよう。戻りたい場所を思い浮かべるのだ。


 「あれ」とは女神シヴェラの事だろうか。確かに教皇が自分の手の届かない――のかは分からないけれど――場所に居ると気付けば、なりふり構わずに探し始めそうだ。それ位彼を大事にしている。女神が慌て始めれば他の、特に良からぬ事を考えている神様達が不審に思い始める、そういう事だろうか。


 ああ、そうだった戻りたい場所……今は当然王都のギルド、と考えた所で視界が再び暗転した。今度こそダニエルさんに会えると良いのだけれど。


 一瞬の後、今度は見慣れたギルドの受付前だった。受付の職員が驚いた様な表情をしてから、慌ててギルドの奥へと駆け込んでいく。数瞬後に血相を抱えたダニエルさんが僕達の元へと走り寄って来るのを見て、ちょっとした騒ぎになっている事に気がついた。隣を見れば、いつの間にかヴィオラが居た。他のメンバーも揃っている様だ。どうやらソロモードはあのゲート内だけだったらしい。確かに記憶喪失の人物がそう何人も居たらストーリー進行にも影響が出るもんね。


「ロアルイセンのギルドからゲートをくぐったと報告が届いたのに、誰もこちらに来ないから心配したんですよ。一体中で何があったんですか?」


 あれは所謂(いわゆる)「繋がってはいけない場所」だったのだろうけれど……どうしよう、どこまで話して良いものだろうか。多分僕個人……というより各プレイヤー個人に対しての警告であって、この国やギルドを巻き込むのは違う様な気がするけれど。でももしも前回の王都クエストで解放されたストーリームービーに登場した謎の人物が神なのであれば、既にこの国とも関わりがあるという事になる。言うべきだろうか? いや、あの人物が教皇を狙っていた辺り人間の中にも協力者が居る可能性がある。となると迂闊なことは言わない方が良いかもしれない。ダニエルさんが「良からぬ事を考える神」の仲間だとは思えないけれど、どこから情報が漏れるかは分からない。


「少し……神様の所にお呼ばれしていました。余り詳しくは言えませんが」


 結局、これ位濁すに留めた。大丈夫、前回のムービーでのやり取りを聞く限り、彼らは直接人に危害を加える事は出来ない様だ。だからアンデッドや怨霊に襲わせるという回りくどいやり方をしているのだと思う。もし最初の王都クエストが彼らの仕業なら、だけれど。となればまだ少しは猶予がある筈。もう少し力をつけて……記憶とやらが多少戻ってから相談相手を選んでも遅くはない。


「そうですか……。いえ、無事に戻って来られたのなら良かったです。マカチュ子爵も大変だったでしょう。無事に王都に着きましたから、ご自由にお取り計らいいただいて結構です」


 ユリウスさんはダニエルさんの言葉に軽く頷くと、そのままギルドを出ていった。どうやら本当にゲートの利用だけが目的だった様だ。まあ彼はこの後国王に報告する為の手続きがあるだろうし、時間的にも気持ち的にも余り余裕はないのだろう。


 それにしてもダニエルさんも、まさか一言で済ませてしまうとは。日頃の丁寧さとはかけ離れた行為にいささか驚いてしまったけれど、考えてみれば令嬢の件もあってマカチュ子爵家の人間に余り良い印象はないのだろう。ユリウスさんは前子爵とは違うんじゃないかと思うけど、それは僕が子爵領で多少の時間を共にしたからそう思うだけ。普通はダニエルさんの様に極力関らず済ませるだろう。


「ああ……、アキノ。お帰りなさい。本当に心配していましたよ」


 僕がユリウスさんに気を取られている間にも、ダニエルさんはアキノさんと再会の抱擁を交わしている。


「本当に久しぶりね、ダニエル。正直生きてここに戻って来られるとは思って居なかった……彼らには感謝しないと」


 そう言って僕達に視線を向けるアキノさん。


「そうです。その件を詳しく聞こうと思っていたのですが。どうやらゲートの件を先に聞かないといけない様ですので、申し訳ありませんがアキノは一旦王都の観光でもしていてもらえますか?」


「そうね。二年も経てばだいぶ様相も変わってるだろうし……ヨハネスも連れて行って良いのかしら?」


「構いませんよ。親子水入らずでゆっくりしてください」


 そう言って二人を玄関まで見送るダニエルさん。何故だろう、「繋がってはいけない場所」へ繋がった原因がまるで僕達にあるとでも言わんばかりの行動だ。いや……僕が最初に言葉を濁した段階で僕と関係があると言ってしまった様なものなのか。失敗したなあ……。


「さて。別に取って食おうという訳ではないのでそう身構えないでください。神との話を聞こうというのではありません。我々としてはゲートの接続確認をしたにも関らず別の場所へ繋がってしまったというのは信用問題ですから、そこについて詳しく話をお聞かせいただければと思っているだけですよ」


 なるほど。ロアルイセンのギルド職員さんも言っていたけれど、何か物を王都側に送り、その時点では受け取る事が出来ていた。既に接続が確立されていたにも関らず僕達がくぐった際に別の所へと繋がってしまったという、今回の様な事象が初めてなのだろう。


 二階へと向かうダニエルさんを追いかけ、いつもの様に応接室へと案内される。


 ソファの対面に座ってこちらを見つめるダニエルさんの表情は穏やかな笑みを浮かべているものの、それが逆に「早く話せ」という圧力に感じる。


「そうは言っても説明出来る事は何もないんです。ゲートをくぐってしばらくしてから目を開けたら神様の空間だった……という感じなので。帰りも神様に送ってもらいましたし……」


 僕の言葉に他の皆もうんうんと頷いている。どうやら展開に差異はなさそうだ。


「……そうですか。となると神の方からわざわざ介入し、ゲートを故意に自分の所へ向けた……という事でしょうか。今まで聞いた事案は全て偶然繋がってしまったケースだと思います。根本的な部分が違うのであれば再発防止は考慮しなくても……? というよりも再発防止のしようがないのか……?」


 後半は僕達に聞かせているというよりも、ダニエルさんの独り言といった体。でも多分見当違いではないと思う。今回は明らかに僕達プレイヤーを呼ぼうとしていた訳だしね。


「詳しい話は出来ませんが、確かに神様は僕達に用事があったみたいです。なのでダニエルさんのそのお考えは正しいかと」


「ああ、であればひとまず安心です。……そうだ、もう一つお伝えしたい事があったんですよ。今回は皆さん教会からの依頼で動いていましたよね? ですからギルド側は関知していない、と」


「はい」


「ですが事情が変わりました。アキノは我々冒険者ギルドの冒険者であり、二年もの間行方不明になっていた。冒険者ギルドの規則に『行方不明のギルド関係者の救出』というものがあり、救出に関与した者には特別に褒賞とギルド評価がつくのです」


「なるほど」


「とはいえ、具体的な金額はこれから試算する事になりますし、皆さんも色々あってお疲れでしょう。この話は後日という事で今日はお帰りいただいて構いませんよ」


「それでは失礼しま……」


「あ、待ってください! 出来ればクランについて聞きたいんですが」


 これで終わり、と言った雰囲気の中、たかしくんが勢いよく口を開いた。皆もうんうんと頷いて話を聞きたそうにしている。


 ああ、そうか、それもあった。皆本当によく覚えているなあ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] たかし君、頑張って声を出した みんな、周りで頷き人形(笑)
[一言] >それでは失礼しま…… 諦めましょうw蓮華くんw クランから逃げられないよw
[一言] 真面目にストーリーを追いかけている中、「たかし」という文字が出てくるだけでなんかクスッとしてしまう不思議
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