143.お礼とゲート
すみません、今週週二投稿になってしまいました。。。
教皇との話も済んだ頃にタイミング良く皆が戻って来た。
と同時にアキノさんも戻って来て、ギルドゲートの使用許可が下りた事、音信不通からの依頼報告という事でギルド内でちょっとした騒ぎになり、急ぎ王都に戻って詳細を報告しなければならなくなった事を告げた。正直な話、もう少し使用許可には時間がかかると思っていたのだけれど。アキノさんは王都に籍を置く冒険者だし、二年間行方不明だった事もあって子爵領より王都で詳細を聞いた方が良いと判断されたのだろうなあ。そういう訳で、僕達は急いでここの都市のギルドへと向かった。
≪配信中断したと思ったら地上に戻ってて全然状況が読めないけど、帰りはゲートか≫
≪なにげにゲート使用プレイヤーも初めてじゃないの?≫
≪金払ったら俺達も普通に使えるのだろうか≫
≪国外はともかく国内だと許可出やすいみたいな話なかったっけ≫
≪どうでも良いけど現子爵は割とまともな人なんだな≫
≪どうしてあの子爵からこんなまともな子供が産まれたのか≫
≪↑反面教師って言葉があるだろう……?≫
確かに、今回はアキノさんと教皇の護衛という名目があるのでゲートの使用許可は教会経由で申請してもらったけれど、僕達プレイヤーも申請すれば気軽に使える代物なのだろうか? その辺りも今度ダニエルさんに確認出来たら良いな。
ロアルイセンのギルドは王都に比べると小さい。いや、王都という位だしあそこのギルドが一番大きかった可能性はあるか。それでも最近増築した様で、正面から見て右側は明らかに建物が真新しい。恐らくこの三年、子爵領砂漠化に伴って依頼が引っ切りなしに発生する様になった影響ではないかと思われる。どこに行くのも命がけだし、護衛として冒険者を雇いたいという人も多い筈だ。危険地帯といえども、金が稼げるとなれば冒険者は続々と集まってくる。
ギルドに入るとアキノさんが代表して受付の職員さんに話をしてくれた。
「ゲートの使用ですね。お待ちしておりました。その前に皆様にお礼を言いたいという冒険者が居るのですが、少しお時間よろしいでしょうか」
お礼? 誰だろう。とにかく会ってみようという事で職員さんに頷く。その様子を見ていたのか、見覚えのない四人組が声をかけてきた。
「時間を割いてもらってすまない。実は俺達はとある姉妹二人をトレネの町まで送り届ける依頼を受けていた者だ。色々あって俺達と妹さんだけが流砂に巻き込まれて地下に連れていかれた。そのとき、判断ミスで食料は全て俺達が持っていた……着の身着のままの姉を地上に残してきてしまったし、妹の方は心労で体調を崩してしまうし、右も左も分からない謎の空間でこのままいずれ蜘蛛にやられるのか、と思っていた所であんた達が来てくれて……全部解決してくれた。俺達の依頼自体は失敗したが、姉妹は再会出来たし、俺達も生きて地上に戻れた。それにもう流砂も起きない様にしてくれたって聞いたんで、どうしても礼を言いたかったんだ。本当にありがとう、助かった」
なるほど、ナタリーさんとマリーさんのご両親に雇われた護衛達か。ナタリーさんの言う通り、男女混合の四人組で、女性も含めて全員がよく鍛え上げられた体格をしている。間違いはないだろう。
「僕達はナタリーさんに依頼をされて妹さんを探しに行っただけですから。貴方がたにお礼を言われる様な事は何も」
「それでも俺達の命を……あそこに居る人々全員の命を救ってくれたのは確かだ。代表というのはおこがましいが、せめて俺達四人分の感謝の意は伝えさせてくれ」
そう言って彼らは僕達に何かを渡してきた。見ればまた硬貨である。ちらりとヴィオラの方を見ると、これは流石に受け取りたくない、という顔をしている。
「依頼は前払いだったんだ。成功しようが失敗しようが、命にかかわる危険な依頼だったからな。……俺達は失敗した。だがあんた達は一番良い形で事を収めてくれた。だからその金はあんた達に受け取ってほしい。出発前に装備を調える為にいくらか使ったから、全額じゃないんだが」
「その揃えた装備も修理する必要があるのでは? 僕達はナタリーさんとマリーさんのご両親から別途いただきましたし、このお金は受け取れません」
「しかしそれでは礼にはならない」
「感謝の言葉はもう十分いただきましたし、大丈夫ですよ。それよりも今はこのお金で装備の修理と療養をして、次の依頼に備えるべきです」
ここ最近の揺れの影響か、あちこちひび割れて崩れそうな建物がちらほら通りには並んでいた。緑に戻すにせよ、砂漠のまま継続するにせよ、揺れが二度と起こらないと判明した今、あの子爵であれば都市の復興に力を入れる筈だ。そうなれば冒険者ギルドにも近いうちに依頼が舞い込んでくるだろう。外部からの物資の運搬にせよ建築補助にせよ、きっと稼ぎ時になる。
僕が強硬な態度を崩さないのを見て取ったのか、冒険者達は諦めた様に肩をすくめて僕から硬貨を受け取った。
「分かった。それじゃあ何かあったときは力になるから絶対に言ってくれ。どんなに遠くの地だとしても、ゲートで駆けつけるから遠慮はなしだ」
彼らの言葉に頷き、僕とヴィオラは四人の冒険者と握手を交わして別れた。
「お待たせしました」
改めてギルドの職員さんやアキノさん達に声をかけると、職員さんが口を開いた。
「こちらこそ、当ギルド所属の冒険者の為にお時間を割いて頂きありがとうございました。今回の件、この地に住まう者として私からも礼を申し上げます。ありがとうございました。……それでは事前に申請を頂いている方々の名前と一致しているか確認させていただきますので、皆様身分証のご提示をお願いいたします」
僕達プレイヤーとアキノさんはギルドカードを、教皇とユリウスさんは別の何かを出していた。神官と貴族も似た様な形の身分証があるみたい。
「――様、最後に蓮華様とアイン様ですね。はい、十三人全て確認が取れましたので、ゲートへご案内いたします」
≪アイン君がちゃんと一人として申請されてる≫
≪テイミング対象もゲート通れるのか≫
≪十三人ってことはテレポスクロール以上だね。ゲートの上限は何人位なんだろう≫
受付職員の人の後を追ってギルドの奥へと向かう。そこには巨大な門の様な物があり、その中心がいかにも転送出来ますといった状態で渦巻いている。
「既に王都のギルド側との接続は確立済みです。皆様がゲートを通れる状態になっておりますので、順番にお進みください」
「前に、ごくまれに繋がってはいけない場所に繋がると聞いた事があるのですが……」
「はい、確かにそういった事情は報告されています。ですので最近ではゲートの接続確認後、生物以外の物をゲートに通す事でその点は回避しております。今回も間違いなく王都と繋がっておりますのでご安心ください」
≪なるほど≫
≪なんか適当に送って王都側に届いたの確認したって事か≫
≪繋がってはいけない場所って言い方が怖いよな……≫
≪むしろ今の質問がフラグになりそうで怖い≫
「では私から」
そういってゲートの渦へと消えたのはアキノさん。冒険者歴がそれなりに長いようだし、ゲートは使い慣れているのだろう、淀みない足取りで進んでいった。アキノさんは教皇と手を繋ぎながら入っていったので、必然的に次が教皇。その様子を見てユリウスさんも入っていった。NPC陣が全員行ってしまったので残るは僕達だけ。ゲートを繋ぐエネルギーもただではないだろうし、意を決して急ぎ足で渦へと進む。
次の瞬間、慣れた暗転……と一緒に配信中断のアナウンス。おっと……? また何か他のプレイヤーには見せられない展開が始まる様ですよ。