13.へえ、居るんですね、ここに
そもそもの話、どうして急に森にアンデッドがたくさん出没したのだろう。
あのあと、加入申請中にダニエルさんに聞いた限りでは、アンデッドが出没するくらい、あの土地が汚れたと言うことらしい。汚れた理由については委細調査中とのことだったけれど……どうも心当たりはありそうだったなあ。
「いや、そんな筈は」とか「だとしても早すぎておかしい」とか無意識なのかなんなのか、随分口走ってたもんなあ。誰かに聞けば分かるかな?
それにしても、ギルドを出るときにこの間同様、随分と視線を感じた。
中には話しかけてくれた人も居たけれど、なんか変な人だったなあ。
「大ファンです!」とかいきなり言われても何の?って思った僕が悪い訳じゃないと思うんだ……。仲間っぽい人が「この間の! スケルトン倒してここに来たときに偶然見かけたんですよこいつ! それでファンになったらしくて」って補足してくれたけど、ファンになるポイントおかしいよね、ピクピク動いてる骸骨さんを背中に背負って来たんだよ? なんなら腰から腕もぶら下げてたし。普通は絶対関りたくないと思うけどなあ……。
ジョンさんが夕飯を用意してくれている筈なので、紹介状を書いて貰った魔術師については、明日訪ねることにして、一旦今日はエリュウの涙亭に帰る。
「ただいま戻りましたー」
「おお、待っていたよ。丁度今夕飯が出来たんだ。まあ、相変わらず肉は手には入らないから、今日はパスタと野菜だけのシチューになってしまったが……」
「とても良い匂いです、本当にありがとうございます」
手を洗って、席について食べ始める。いつもは埋まっている筈の客席ががらん、としていることがつい気になり、見回した。
「肉も手には入らないし、ギルド経由で森の噂が広まったからね。皆いつアンデッドが奇襲を仕掛けてくるかと不安を感じて家に閉じ籠もっているようだ」
「そう、ですか……。僕も最善を尽くしますが……ここが危なくなったらジョンさんは娘さんを連れて逃げてくださいね」
「ああ、ありがとう。しかしアンデッドとは……本当に穏やかじゃないね」
「あの、その件なんですが……アンデッドが発生するのは、土地が汚れたからだと聞きました。あの森で、何があったとか、ご存じないでしょうか?」
僕が聞くと、ジョンさんの目がすっと伏せられた。間違いなく何かを知っている。けれども、それを言いたくはないようだ。
「あの、言いたくないようであれば無理にとは……」
「いや、良いんだ。ただ、あまり気持ちの良い話ではなくてね。何年か前に……あの森でとある子爵家のご令嬢が亡くなったんだ」
「そんな……理由はなんですか? ご令嬢が行くような場所ではないと思いますが」
「無理心中を……したんだよ、平民男性と」
「無理心中……」
「ご令嬢が、家に花を届けに来ていた平民の青年に一目惚れをして、何度も迫っていたらしい。彼には恋仲の幼馴染みも居てね、当然断っていた。当然子爵にも反対されていて……ご令嬢は軟禁状態になったらしい。
ある日、こっそりと屋敷を抜け出して、自分のお付きの者に薬で眠らせた青年を誘拐させて……一緒になれないなら一緒に死のうと思ったらしい。
結局、森で亡くなったのはご令嬢だけだ。首吊りをしたらしいが、青年の方はロープを結んだ枝が折れた影響で途中で目が覚めて、エリュウに追われながらも命からがら逃げ出してここに戻って来た。だが……
青年は真面目な性格でね。自分は被害者だし、お付きの者ですら王都から逃げ出したと言うのに、子爵にご令嬢の遺体が森にあることを告げ、引き取りに行って欲しいと頼んだ。だが……結局激怒した子爵に殴殺されてしまった」
「そんな……そ、蘇生魔法とかは?」
「蘇生魔法? 理論上はあるらしいが……それが出来ると言う人は聞いたことがないね。
……本来はね。誰かが亡くなったときは、死者の魂が迷わずに天界に行けるようにと、神官が祈りを捧げるんだ。けれど、神官含め、王都の住人全員が子爵と子爵令嬢の身勝手さに怒りを覚えていた。子爵は貴族だから、結局青年殺しについては注意と罰金だけで済んでしまったこともあってね、余計だ。
だからご令嬢の遺体は、神官の祈りを受けることが出来ず、今も森の中にある筈だ」
「……ご令嬢の魂が天界に行けず、あの森を汚した結果、アンデッドが発生したと言うことでしょうか?」
「それはあり得ない筈なんだけどね……アンデッドが発生する程汚れた土地と言うのは、戦争などで大量に人が死んだときだ。家族の元へ帰れなかった無念や、殺された恨みが積もり積もって……ね。
あの森では毎年エリュウの調達に失敗した者が亡くなっている。けれど大抵は誰かが祈りを捧げている。だから例えご令嬢の魂が天界に行けずに留まっていたとしても、たった一人の恨みや悲しみで、今の状況を引き起こすとは思えない」
「……」
何も言えずに黙っている僕を見て、ジョンさんは哀しげに笑った。
「我々を……愚かだと思うかい? 亡くなった人の魂を無下に扱った結果に、アンデッドを呼び寄せてしまって。自業自得だと思うかい?」
どうやら僕が口を開かなかった原因を誤解してしまったようで、慌てて否定をする。
「いえ、そんなことは微塵も思っていません。世の中には、それぞれの立場での正義があって……第三者から見ても、どちらが悪だと断定出来ないことは多々あります。
ですが、今聞いたお話は……僕は子爵と子爵令嬢に対して、微塵も同情することは出来ません。彼ら二人は青年だけでなく、その恋人の幼馴染みと言う被害者を生んでいます。自分達の、とても身勝手な行動で。
これがまだ、青年と令嬢が相思相愛だったのを子爵に反対されて……と言うのならば理解出来たのですが。
それで、注意と罰金だけ、と言うことは子爵は未だに現役当主なのでしょうか? 現在は自領地に?」
「ああ、そうだね。あそこはまだ代替わりはしていない。
そろそろ今年最後の社交界があるからね……だいたいの貴族は王都に滞在している筈だ。子爵も恐らくそうだろう」
「へえ……居るんですね、ここに……」
「蓮華くん?」
「いいえ、何でもありません。あ、料理、とても美味しかったです。
あ、それでですね。実は明日お会いしたい方が居まして……この場所ってご存じですか?」
「ああ、それならここからまっすぐ西側に行った先の――」
「なるほど、ありがとうございます。遅くまで話に付き合って貰ってすみません。食器は僕が洗いますから、先にお休みになってください」
「そうかい、それじゃあお言葉に甘えて上に上がらせて貰うよ。蓮華くんも無理せずに休むんだよ」
僕は内心慌ててジョンさんを階上へと誘導した。多分、今僕はとても嫌な顔をしているだろうから。
「子爵が……反省していると良いんだけど。まあ人はそう簡単に変われないとは思うけどね……特に貴族は」
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【個スレ】名前も呼べないあの人【UIどこぉ】
名前を呼びたくても呼べない、あの人に関する話題です。
なんでNPCすら名前呼ばないの?怖いんだけど。
※運営側も確認してあげてください。何だかおかしいです。
230【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
蓮華くんも参戦(仮)予定かー。良かった良かった。
231【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
>>230 気が早いわw 魔法の練習するって言ってただろ! 参加して貰っても、魔法が使えなきゃ状況変わんねーよ。
232【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
無理だったらNPCの神官さんとか魔術師さんとかがどうにか出来るまで足留めってことだよなー。装備の予備大量にインベントリに入れとかないときつそう。
233【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
我ら補給部隊の戦いは既に始まっているのだ……!(白目
234【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
ポーション作りえっぐww費用ギルド持ちで熟練度がんがんあがるのは良いけどまじでえっぐw
自動作成とかないし、ちょっと蒸留時間ミスるとゴミが出来上がるし……これレベルあがったらある程度自動でどうにか出来るのか……?
235【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
俺達鍛治師もやべーよ、熱くて死ぬわ。痛覚設定出来るなら体感熱さの設定もさせてくれよ。
236【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
蓮華くんの痛覚設定ってどうなってんだ……?
てかギルド加入したけど未だにNPCだったぞ?大丈夫か?コクーンの修理はどうなったんだ?
237【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
痛覚……き、きっとプレイヤーのデフォルト設定レベルだよ、うん(震え声
NPC怪我したときめっちゃ痛がってたけど……そっちに合わせてないはず……(白目
245【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
おい、どっかの馬鹿がギルドで蓮華様に声かけてたぞ!?
246【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
>>245 蓮華様……?w
配信に映ってたあいつか。ファンって……これのファンだよな?相方らしきやつがフォローしてたけど本当にスケルトン背負ってたことに憧れたわけじゃねーよなwww
247【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
すいませんっしたああああああああああああああああああああ。
本物が目の前に居て感極まって思わず声かけちゃいました!
あの後フォローしてくれた友人に、配信やめたらどーすんだっていわれてことの重大さに気付きました……。
248【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
>>247 分かれば宜しい。次からは気を付ける様に。
友人君、君は立派な同志だ。
249【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
いや、どこの軍隊?w宗教か?有名になるにつれてやべーやつ集まっててこえーよw
俺だけが蓮華君のこと知ってたのに……
250【闇の魔術を防衛する一般視聴者】
>>249 安心しろ、お前も十分やべーやつだよ。