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140.築三千某年

ようやく地下編も終わりが見えてきました……長かった!(お前が言うか

 マッキーさんの言う通り、まずは日記を確認してみる。クランや鑑定用ロストテクノロジーの話は一旦後回しだ。むしろこのまま話題が逸れてクランの話を忘れてくれたらなお良い。鑑定用ロストテクノロジーに関しても、全員分あれば面倒な事にならなかったのに……。


「ええと、書かれてる内容をざっくり説明すると……、どうもこのプロジェクトの初期メンバーでもあり、リーダーでもあった女性は、プロジェクトから離脱してしばらく後、病死しているみたい。治療の為に土地を転々としてて、その都度同じ職業の人達にここの施設の事を伝えていたらしい。ちゃんと自分の望み通りに施設が停止したのかどうか確認してほしいって言ってたんだって。で、最後に訪れた土地で亡くなって、この日記の持ち主で世話をしていた人が最期の望みを叶える為にやってきた、と」


「地上が緑豊かの段階で計画が失敗した事を悟ったでしょうね」


「うん、そう書いてあるね。状況を確認する為に、都市のマンホールから繋がっているという出入り口からここに入ってきたって……、ああ、そのマンホールって丁度僕達が最初に見た金属製の大きな扉に繋がってるみたいだよ。で、扉は内側からは簡単に開くけど、外側からは認証が必要なんだって。認証はキーパッド?に特定の文字を入力すれば良いみたい。亡くなる前にリーダーの女性からその文字列は聞いてたから、苦労せずに施設に入る事に成功した、と書いてある」


「内側からは簡単に開く……入ってきたときに試したけど開かなかったわよね?」


「うん、開かなかったね。『簡単に』って言ってるけど、あの扉を手動で動かすのは至難の業だと思う。って事は機械による制御か何かがされてたんじゃないかな……で、現在は故障中、って感じ?」


「それはありえそうですね。内側からの開閉を判断するセンサーの様な物が故障しているのか、扉まで動力が回っていないのか。とにかく後でその扉を確認してみましょう」


「では後で案内しますね。えーと、続きを読みます。その頃にはここの運用をする人達が居たから、新たに入った職員だと適当に偽って施設に潜入したみたい。まあ扉も開けられたし、システムの扱いも熟知してたから不審者だとは思わなかったんだろうね……、身元位確認しなよ、とは思うけど。で、彼女は問題のプログラムが別の人の手によって書き換えられている事を突き止めた。でも彼女の力量ではプログラムを上書きする事が出来なかった。結局プログラムの存在を隠し、いつの日かプログラムが実行されて砂漠に戻る様に細工したと書いてある。……だから日記が隠されてたりはしごがなかったりしてた訳か」


「そしてそれを日記に書いて、ここに隠したのね。他にもリーダーの女性から話を聞いた人達が確認しに来るかもしれないと思って」


「そうだね。ここにあるって事は誰も来なかったのかもしれないし、来た人もプログラムを書き換えられないから隠蔽に加担したのかもしれないし、それは分からないけれど。とにかくこの施設で起こった事はこれで大体分かったかな?」


「そうね。あとは今後どうするのか、脱出用の扉はどうすれば開くのか、って事ね」


「全員出てしまったら二度とこの施設には入れない?」


「いや、日記には外側からの認証に必要な文字列も記載してあるから多分大丈夫だと思う」


「それじゃあまずは扉を確認して、開ける様になったらアキノさん達に報告しましょうか」


 ヴィオラの言葉に全員が頷き、例の最初の扉の場所へと向かう。ちなみに、現時点でもまだ配信は中断したまま。外側から開く為の方法は日記に書いてあるので、情報が他のプレイヤーに漏れない様に地上に戻るまで配信は停止したままなのかもしれない。生配信が停止しているだけで動画自体は撮れているので、情報解禁後に手動で上げろという事なのだろう。


「……開くわね?」


「本当だね」


「となると原因は動力不足だったのかもしれませんね」


「停止させた、蜘蛛修理施設の方に動力が集中してたって事かな……」


「外側からも日記に記載してある情報で入れる事を確認出来たし、アキノさん達を連れて一旦出ましょう。その後の事は地上の人達とも相談すべきでしょうし」


「そうそう、俺達も今後についてゆっくり相談する必要があるだろうし」


 ガンライズさんが言っているのはクランの件だろう。皆も頷いているし、そうか、乗り気なのか……うーん……。


 地上に戻ったらクランの作り方とか費用とか、メリットとデメリットとかを色々調査してみるか。クランハウスの維持費も結構かかりそうだし、無理そうならそれを理由に断ろう、うん。


 なんて悩んでいる間にも、他のメンバー達がアキノさん達住民に話を通してくれていた。中には地上に戻れると聞いて感極まって泣いている人も居る。それはそうだ、数年もこんな無機質な空間に閉じ込められていたら、衣食住が保障されているといっても精神的に参っているだろう。ましてや毎日変な機械類と戦っていたのだから気も休まらなかった筈だ。


 住民達を連れて、大きな金属扉の先へと進んでいく。そこは短い通路になっていて、突き当たりから上に向かって地上のマンホールに繋がっているのだろう縦坑が延々と続いていた。縦坑を覗くと、申し訳程度の金属製のはしごと、時折光源らしき物が埋め込まれている様だが、目視では出口までの距離を計る事は出来なかった。


「思ったより距離がある……子供には厳しいかな」


 たかしくんの言葉にプレイヤー陣は頷く。


「体力に自信がある人が先に登って、上からロープを下げてもらって命綱代わりに腰に結んで登るしか……ないよね。現状、出口らしい出口はここだけみたいだし」


「この施設の建設理由的にも、大人の出入りしか考慮されていないものね」


「命綱だけで大丈夫かな? 布か何かをつけてブランコみたいに、お尻をすっぽり覆うタイプにすれば途中で休憩も出来るかな? どこまで続いてるか分からないし……」


 不安そうにナナが言う。


「ん……ロープの強度的にそれは難しいかな。それだったら誰か大人が後ろから登って、落ちそうになったり体力が切れたら支えながら休憩してあげた方がまだ安全……かもしれない。大人の方に体力がある事前提だけど」


「そもそもこのはしご、築三千某年だよな? 全員登り切るまで保つんだろうか……」


 バッカスさんの言葉に全員が沈黙した。確かに、施設内は整備も行き届いていたみたいだけれど、ここは金属扉の外側。はっきりと見えないので何とも言えないけれど、設置された金属のはしごが朽ちている可能性は大いにある。


「プ、プレイヤーがまずは登ってみようか。落ちても最悪どうにかなるし」


 僕の提案に全員が頷いた。ひとまず僕とバッカスさんが登って、上からロープを垂らす係に。筋力の熟練度が高そうな二人であり、かつ下にヴィオラやガンライズさんを中心に万が一何かに襲撃されても住民の皆を守れる布陣にした。ちなみにアインはヴィオラと一緒に居る。バッカスさんがこちらに来たので、もう一人盾役を残した方が良いという判断だ。


 どうして僕とアインが上に来なかったのかって? ……アインが上で待機してたら、分かっていても皆驚いて転がり落ちちゃうかもしれないし、テイムしてるとはいえ都市内でスケルトンがマンホールに向かって何かしていたら要らぬ誤解を生みかねない。あと単純に、ロープを支える為には体重があった方が良いという判断。僕とアインの二人組だと軽すぎて重りの役目を果たせそうになかったのだ。


 僕とバッカスさんは黙々と縦坑を登っていく。今の所はしごに異常は見られないし、光源もしっかり辺りを照らしてくれているので不安はない。とはいえ、やはり上を見ても依然として出口らしい光は見られない。本当に地上に繋がっているのだろうか?


 登る事およそ十分。そろそろ不安になってきた、という頃合いでようやく光源に変化が訪れた。白っぽい色から赤に変わったのだ。恐らく何かを伝えているのだろう。もうすぐマンホールの蓋が頭上に現れるという事だろうか。


 後ろに続くバッカスさんにも状況を共有し、僕は少しだけペースダウンをした。勢いよく登って頭を思い切りぶつけたら恥ずかしいので、腕が届く範囲の天井を手探りで確認しながら進んでいく。


「……お? 何かにぶつかった」


「それがマンホールの蓋っすかね?」


「かなあ? マンホール自体に穴は開いてないみたいだね、光源以外全く光がない状態だし」


「施設の中に雨が入らない様にって事っすかね?」


「それは確かにありそう。金属とかすぐ錆びちゃうしね。……よっと……」


 ぐっと力を込めて上に押し上げ、横にずらしていく。少しずつ差し込む光が眩しくて眼を細めると、遠くの方から話し声が少し聞こえてきた。ある程度裏通りなのか、人の流れはない印象。それはそうか、施設への入り口が目に付きやすい場所にあるのは安全上の観点でも、人通りの多さの観点でも悪い事ずくめだもんね。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれだね 謎かけしてるようでしてないパスワードとかもいいかもですね >「内側からは簡単に開く……入ってきたときに試したけど開かなかったわよね?」 この一文があった様にパスワードを「簡単に」で…
[一言] 砂漠に出るんじゃなくて、街中の裏路地に出た(//▽//)
[一言] ようやく地上復帰か……長かったねw そしてクランのことは諦めましょう、絶対蓮華くんが立つことになるからw
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