Side:末期症状編1
末期症状さん=マッキーさんです!w
そろそろ公式掲示板編出そうと思ったけど、もうちょっと後の方が都合が良いので先にこっちを出しておきます。
別に僕自身は年下に親しげに話しかけられても気にならない。「親しげな言葉」=「舐められている」とは思わないからだ。
でもまあ、僕が身を置いている業界はちょっと面倒臭い人物が多い。僕に気軽に話しかけてくる生徒に対して「先生を舐めるな」なんてすぐに注意をする。そしてその次には僕への小言だ。
いやいや、そんな事を言ってる君の方こそ「授業がつまらない、間違った事を教えてくる」なんて学生に馬鹿にされているよ? 今だって僕の所に来た生徒の用事は講義に関しての質問。実に熱心な生徒だ。むしろ君の所に学生が来た事なんてあるのかい?なんて内心では思っている。
けどそこは僕が大人になって、下手に出ておけば解決するのだ。何せ皆僕がまだ三十代前半の若造だと思ってるからね。自分の方が立場が上だと思っている人に対しては、多少大げさにでもへりくだった態度を取っておいた方が物事はスムーズに進む。笑顔でおべっかを使ってさっさとその場を乗り切るのが賢いやり方だ。ま、心の中で散々馬鹿にしているけどね。我ながら腹黒いとは思う。
とても残念な事に、いつの間にか僕にもそんな面倒臭い業界の気質がすっかり染みついてしまった様だ。年下っぽい人にはちょっと砕けた口調を使い、年配の方には敬語で話す癖がついていた。別に馬鹿にする意図もマウントを取ろうという意図もないんだけど……一度ついた癖はなかなかすぐには直らない。
ちなみに、僕の実年齢で考えると多分殆どの人が年下になる。職場でも僕より年齢が高い人の方はほぼ皆無じゃないだろうか。そこは柔軟に、見た目年齢で判断しているけどね。
で、GoWを始めたのはたまたまだった。僕は一応若い教授なので学生も打ち解けやすいらしく、今はこんなゲームが流行っているのだと教えてくれたのだ。話の内容は「GoWをやり過ぎたからレポートの期限を遅らせてくれ」という言い訳だったけど。
そういう訳で、どんなものかと僕も始めてみたのだ。勿論レポートの期限は延ばしたりしない。学生の本分はあくまで勉強だ、息抜き程度ならまだしも本業を疎かにしてのめり込むのは余り褒められた事ではないからね。それにちょっと調べた所、このゲームの趣旨は現実を疎かにしない事じゃないか。本末転倒も良い所だ。
いざ始めてみたら思ったよりも面白くて、割と本気で楽しんでいたある日の事。驚愕の事実が判明したのだ。
「聞いてないですよ! 教えてくれても良かったじゃないですか洋士さん」
「何をだ?」
「蓮華さんの事ですよ。まさか王都クエストで一緒だった人が洋士さんのお父上だなんて思わないから、馴れ馴れしく『蓮華くん』なんて呼んじゃったんですよ? それにお連れの女性! 僕よりずっと年上のエルフでした……。『ヴィオラちゃん』なんて呼んでたんですよ、中身が僕だってバレたらしばかれてもおかしくない」
「お前、ゲーム内じゃ年齢も身分も面倒臭いから気にしないって言ってなかったか?」
「そうですけど……、いくらなんでもそれとこれとは話が別ですって。見知らぬ人相手だから出来るんですよ、それは。見知った相手だって分かったらいくらなんでもそんな図々しい事出来ないです」
確かにゲーム内では上下関係なんてものは一切気にせずフランクに接すると割り切っていた。そもそも僕より年上なんて同族位しかいないだろうと高をくくっていたし、熟練度の高さで相手の正体に察する事はあっても、名乗りでもしない限りは分かりっこない。だから気を回すだけ無駄だしカジュアルに楽しもうと考えていたのだ。でもこれに関しては流石に問題だ。だって洋士さんのお父上といえば雲の上の人の、更に雲の上の人(?)な訳だから、普通に接するというのが無理な話だ。恐れ多すぎる。
まさか、急に「相談があるから集会を開く」と言われて超特急で仕事を終わらせて駆けつけたら、ゲーム内で見知った顔が二人も居るとは思わないだろう。軽く自己紹介をした後に過去の自分の接し方を思い返して血の気が引いたのは言うまでもない。僕の人生は終わったのだ……。
「どうでも良いが、父さんを煩わせる様な真似はするなよ?」
「まあ、フレンド登録をしてる訳でもないですし、そうそう鉢合わせないので大丈夫だとは思いますけど……」
泣き言を言いながらも、どこか楽観的に考えながらあのときは電話を切った。
それがまさか、ヴィオラさんの方から手伝ってほしいと連絡があるなんて。
断る事も出来たけれど、後を考えたら怖い。うっかり洋士さんの口から僕の正体が露呈した日には、「下っ端の分際で僕達のお願いを断っただと!?」なんて思われるかもしれない。ついでに馴れ馴れしく年上面して接していた事なんか思い出された日には最悪だ。
そんな未来が頭をよぎり、参加すると速攻で返答をした。けれどいざ顔を合わせてみれば、どうやって接して良いか分からない。自慢じゃないが僕は元々自室に閉じこもって研究ばかりしていた、所謂陰キャだ。教授なんて職業についたもんだから人付き合いはある程度する様になったけど、それも皆が皆自分より年下だと思って居たからちょっと安心して接する事が出来ていたのだ。
結局目をそらしたりよそよそしくしてしまったけど……これこそ洋士さんの言っていた「煩わせる様な真似」だったのではないだろうか? どうしよう、ログアウト後には人生からもログアウトする結末が待っているかもしれない。
かくなる上は僕は得意分野で役に立つアピールをするしかない。そう思って割と真剣に謎解きをしていたら、今度は別のトラブルが発生した。
鑑定用のロストテクノロジーを僕に? 冗談じゃない、今一番それが必要なのは蓮華さんとヴィオラさんの筈だ。僕の物になんかなった日には洋士さんに何と言われるか分からない。断固拒否させていただく。
同族の皆は蓮華さんの事を隠居老人だとかなんだとか好き勝手言っているけれど、あの人の強さは隠居老人のそれじゃないよ絶対。どう見ても現役、怒らせたら絶対に怖い。それに加えて蓮華さんを崇めていると言っても過言ではない洋士さんの存在が怖い。仮に蓮華さんが許してくれても洋士さんが許してくれないなんて事も十分ありうる。
おかしいな、楽しかった筈のゲームが急に辛く……はなってないな、うん。こんな謎解き要素があるなんてますますのめり込んでしまいそうだ。現実とは全然違う顔にしておいて良かった。このままでは学生の事を言えない程度の時間を割いてしまう。まあ僕達は睡眠を必要としないからその分時間に融通も利く訳だけど。とはいえ僕は蓮華さんみたいに怪しまれない様に、適切な時間にログアウトをして健全な人間の振りをしている。仕事はそれなりにあるし、やっぱり遊べる時間は限られている。実に残念だ。僕も蓮華さんみたいに開き直って終始ログインする生活を送りたい。
いっその事、僕達の種族の存在を政府が公表してくれれば……なんてちらっと思ってしまう自分が居る。勿論、時期尚早だという和泉さん、ひいては政府の判断も分からなくはない。特に今はタイミングが悪すぎると思う。だけど、週刊誌やテレビ報道など、どうにも僕達の存在を公にしたい様な動きもあちこちで見て取れる。第三者に暴かれるくらいなら、その前に自分達から公表した方が批判も少ないのではないか? そうも考えている。
いずれにせよ、近々露呈しそうな予感はしている。さて、そのときの為に良いイメージを少しでも積み上げておくとしよう。手始めに今手元にある論文……これを完成させて、国益に繋がる事をアピールするのはどうだろうか。