138.配信中断
「あんたらか! ど、どうなったんだあのデカ物は……?」
「大丈夫です、僕達が倒しました」
僕の言葉にほっと一息つく住人達。僕達の人数が増えている事については気にならない様だ。
僕達を取り囲んでいた住人達をかき分けて、アキノさんとトセさんがやってくる。
「巨大な蜘蛛みたいな蠍みたいなのが出てきたって聞いてたけど……その様子じゃ倒せたのね。本当に良かった。でも、急にそんな巨大な敵が出てくるなんて不自然ね。心当たりがあるとすれば、貴方達にお願いした機械の停止だけど……」
「施設の破壊をプログラムに仕込む人なら、万が一蜘蛛の生産を停止された場合の代替案も用意していたとしてもおかしくないわね。蜘蛛型と蛸型の機械を全て集めて合体し、超巨大蜘蛛として再構築……とか」
アキノさんの言葉に、ヴィオラが同意する。
「それじゃあやっぱり、機械の停止がトリガーだった可能性があるって事ね……。本当にもう何も起こらないかしら。情報が必要ね。悪いけど、書斎で調べてくれない? それと、ここからの脱出方法についても」
「勿論!……で、良いですか、蓮華さん?」
書斎という単語に反応し、食い気味で返答するマッキーさん。凄く書籍が好きなんだね……。
≪マッキーさんなんか様子変じゃない?w≫
≪何でいちいち蓮華君に聞くんだ……≫
≪前はもっとフランクな話し方だったような?気のせい?≫
「え? あ、そうですね。良いと思います。念の為、見回りもしておいた方が良いとは思いますが」
視聴者さんもマッキーさんの態度の違いが気になるみたい。だよね、僕もどうしていちいちお伺いを立てられているのかさっぱり分からない。でも指示を仰いでくる辺り、避けられている感じではない。例えばだけど、僕の事を年下だと思っていたのに、実は年上だったと気付いたとか……そういう雰囲気な様な。いやでも、僕の正体を知られるような心当たりがないし……万が一知られたのだとしたら、年上云々より吸血鬼という事に対して恐怖心を感じてもっと距離を置く筈。やっぱり謎だ。
「それはこっちでやるわ。またさっきみたいな巨大生物が出てきたら貴方達を呼ぶ事になっちゃうかもしれないけど、頼りっぱなしじゃ悪いもの。適度に休みながらで良いから、書斎の方は任せたわよ」
そう言ってアキノさんは住人の元へと戻っていった。確かに、見回りを住人の人達の方でやってもらえるのであれば書籍の調査に没頭出来るのでありがたい。
「えーと……、あ、マッキーさん達は書斎の場所を知らないですよね。案内します」
書斎に到着すると、書籍の山に目を輝かせながらマッキーさんが口を開いた。
「倒すべき相手と守るべき相手については一通り地上で聞きましたけど……そもそもどうして彼らはここに? きっと流砂が関係してるとは思いますが。あとさっきの蜘蛛はどういう存在なんですか?」
「私も気になります」
「俺も気になりますね」
とえいりさんとオーレくん。そうか。いきなり子爵領の強敵討伐を手伝ってほしいってお願いしただけで、ここ自体の説明は殆どしていなかったのだった。
「説明不足でごめん。えっと、この施設は数千年前に暮らしていた古代人が作ったもので、所謂ロストテクノロジーらしい。で、この施設がずっと地上を緑化していたけど、元々この地域は砂漠だったんだって。三年前に一部の蜘蛛が暴走して施設を壊した結果、砂漠に戻った……というのがこの地域で起きている現象。で、流砂が人々をどんどん攫っていったのは、どうやら施設を壊そうとする蜘蛛と守ろうとする蜘蛛が戦力が足りないからってどんどん連れてきたのが原因っぽい……?」
「なるほど。で、多分蓮華さん達の活躍によって暴走した蜘蛛は静まったけれど、巨大な蜘蛛が出現した、というのがさっきの状況ですか。それで先程の様な状況がもう起こらないのか、それから脱出方法を調べてほしいと。どうして彼らは自分達でここを調べようとしないんですか?」
「ここにある書籍は古代文字で書かれているみたいで、彼らには読めないんだって。僕達は何故か読めるから解読をお願いされたんだ。その過程で見つけたのがこの日記。これを読んで、僕達はある程度の推測を立てた」
僕が渡した日記をぱらぱらとめくりながら、マッキーさんは頷き、えいりさんとオーレさんへと日記を渡す。
「なるほど。無理やり緑化するのを反対したリーダーがこっそりプログラムを仕込んでいた、と。さっきヴィオラさんが言っていた通り、確かに次善の策として巨大蜘蛛ロボットを用意したとみて間違いなさそうですね。それにしても彼らが読めない文字を僕らは読める……それも興味深いな」
ぼそっと最後に独り言を言うマッキーさん。やっぱりそれも気になるよね。ここに来て急に謎が増えた感じ。メインストーリーが解放された影響だろうか。
改めて室内を見渡すと、満足した様に一度頷くマッキーさん。
「その日記には他に手がかりはなさそうですが……この部屋には他にも仕掛けがあるみたいですね」
「え!?」
マッキーさんの言葉に僕は驚いた。まだ他の書籍を手に取ってすらいないのにもう何かに気付いたの……?
【配信制限情報が含まれていると判断しました。配信を中断します】
「お……? 配信が中断された」
「私もよ。多分マッキーさんが核心に迫っているからでしょう」
「なるほど、システム側が正解だと教えてくれている様で嬉しいですね。話を戻しますが、書棚に並んでいる書籍の順番に気になる所はありませんか? 蓮華さん達が順番を変えていないのなら、ですが」
「順番はいじってないですよ。並び……並びかあ。強いて言うなら書籍の色に何か規則性がある……様な気がします?」
むむ、えいりさんやオーレくんも含めて話す分には良いけれど、マッキーさんとだけ話すときは敬語の方が良いのだろうか……と悩んで変な受け答えをしてしまった。
「そうですね、僕もそれが気になりました。背表紙の色が赤い物の次に緑、青と来て、その後にもう一度赤が来ている……赤なら赤でまとめていない辺り、わざとそうしている様に見えます。ですがタイトルを見るにジャンル毎に分けている訳でも、作者名順でもなく、タイトルの五十音でもなさそうです。それに綺麗に色が三冊毎に変わっている。これは三冊毎に区切って何かを伝えようとしていると考えられます。要するに一種の暗号ですね」
「なるほど、一瞬でそんなことまで分かるんだ……」
周りの皆も感心した様に頷いている。
「問題はここからです。三冊の本で何を現しているのか。多分何かしらの暗号だと思いますが……、有名且つ気軽な暗号といえば書籍暗号でしょうか。暗号作成者と解読者が同じ本を使用している前提ですが、『何ページ目』の『何行目』の『何文字目』かを伝え、それらを繋げて文章にする方法です。三冊でそれぞれを現しているのだとしたら、辻褄が合う気はしますね」
「同じ本……見た目が一冊だけ全然違う、もしかしてこの日記が?」
「その可能性は十分にあると思います。試してみましょうか。タイトルをどうやって数字に変換するのかも悩みどころですが……地道にやっていくしかありませんね。まずは一番左上の『計画と目的』『砂漠について』『自給自足を目指して』の三冊ですが……、タイトルの最初の一文字を数字に変換する、もっともシンプルなやり方だと9-11-12でしょうか? 自給自足の『じ』をどう考えるかですけど。ひとまず『し』に変換して考えてみました」
マッキーさんの言葉に、僕は慌てて日記をめくる。
「九ページ目の十一行目の十二文字目は……、『し』ですね」
「ではどんどん続けていきましょう。次は5-10-7です」
「『の』です」
書籍の並びを数字に変換し、日記から該当の文字を探していく。数え間違えては困るので、それぞれ複数人体制でのチェックという念の入れようだ。
「しのいしをつぐ……。師の遺志を継ぐ?」
「ちゃんと意味のある文になりましたね。意地の悪い引っかけじゃない限りは、この解き方で合ってそうだ。進めましょう」
僕が読み上げた言葉が文章になっていると判明し、皆更に解読に熱が入る。凄い、こんなの絶対僕じゃ気付かなかった。
三冊ずつきっちり並んでいる部分の解読をした結果、新たな手がかりが浮上した。
「『師の遺志を継ぐ同朋へ。A05区画、パネルを調べよ。全てを記した』……か。A05がどこなのか、調べても良いかアキノさんに確認してみよう!」