136.自己紹介とあだ名
今回から配信中の視聴者コメントを≪≫で現すようにしました。
遠距離のパーティチャットを『』で現そうとするとややこしくなる為。
既存の話部分の修正は多分手が回らないので……すみませんが今回からになります。
それから、感想返答も全然出来てなくてすみません。今までと違って今後は一部の感想にしか返答が出来ないかもしれません。
パーティを組んだ段階で教皇は一人になった。ここまで一緒に旅してきた教皇が消えるという事にショックを受ける……かと思いきや、皆そうでもない。
「それぞれが過ごしてきたヨハネスくんが、一人に統合される感じ……って言えば良いんですかねー。全く別の子になるんじゃなくて、皆と仲の良いヨハネスくんが居る感じなんですよ」
とナナの説明。どうやらガンライズさんと合流した際に、一度教皇の統合を経験していたらしい。たかしくんとそのお父さんも同様。なるほど……。
「父さん……」
時折教皇が不安そうな声で僕の裾を掴んでくる。地下に母君を置き去りにしてしまったからだろう。でも、教皇に「父さん」と呼ばれる度にパーティメンバーの視線が痛い。だ、だって髪とか目の色が一緒だから親子設定の方が都合が良かったんだ、別に変な趣味がある訳じゃない!
「ところで、たかしくんとたかしの父ですさんは、本当に親子なんですか?」
慌てて話題をそらす僕。ついでなのでずっと気になっていた事を聞いてみた。二人が既にパーティを組んでいたという事は、知り合いなのは間違いないと思うのだけど。
「いや、ただの大学の同級生です」
「ただの、って事はないだろー? 親友だって紹介してくれよ」
「嫌だわ、父親を名乗る親友なんて」
詳しく話を聞いた所、どうやら最初にGoWを始めたのはたかしくんらしい。予想以上に面白くてはまってしまったけれど、熟練度制という事もあって何でもかんでも一人で、という訳にはいかない。そう考えて別のゲームをやっていたたかしの父ですさんに声をかけた結果、父親を名乗られたのだという。悪乗りが過ぎる。
「こいつのせいで臨時パーティを組む度に皆呼び方に困るんで、こっちも困ってるんですよ……」
「だろうね……僕も今なんて呼べば良いのか困ってる」
「俺の事はたかし、と。こいつの事は馬鹿って呼べば大丈夫です」
爽やかにひどい事を言うたかしくん。いや、流石に馬鹿はあだ名でも何でもないんだけど……。
「じゃあバッカスは? お酒の神様、ディオニュソスの別名みたいだけど」
「あ、それ良いっすね! 俺お酒大好きなんで!」
笑顔で頷くたかしの父ですさん。良いのか、それで。まあ馬鹿と違ってバッカスなら人の名前だし良いのかな……こっちも呼びやすいし。
「じゃあ全員集まった所で、地下に行く前に改めて自己紹介をしておきましょうか。名前と種族、得意な戦い方を最低限教えてほしいわね。まずは私から。ヴィオラ、人間族。得意武器は弓、以上よ」
さくっと最低限の自己紹介をするヴィオラ。他の人達は「よろしくお願いします」と言いながら拍手をし、そして僕を見る。皆の視線的に、次は僕が良いのだろう。
「えーと、蓮華です。人間族です。得意武器は日本刀です。それと、相棒のアイン、スケルトンです。得意武器は盾と槍。よろしくお願いします!」
「ガンライズ帝国様ご一行……ガンライズって呼んでくれ。狼人間だ。得意なのは……拳と脚……かな。よろしく頼む」
「ナナです! 獣人、猫系を選びました。得意武器は正直ないですが、シーフになりたくて短剣頑張ってます、よろしくお願いします!」
「たかしです、狼獣人で、得意ではないけど双剣が使える様に練習中です」
「たかしの父です、です! バッカスって呼んでほしいっす。熊獣人で、盾と鈍器で頑張ってます」
「えいりです。天族です。得意なのは神聖魔法ですが、まだまだ未熟です。天族なので光、水、風属性しか扱えないのと……空はまだ飛べません!」
「オーレです、エルフ族です。シモン先生に魔法を教わってます! ちなみに神聖魔法は使えないです。種族的に打たれ弱いです」
「末期症状です。マッキーとでも呼んでください。人間族で、魔法を使います。正直戦闘系は得意ではないので参謀目指して頑張ります」
全員の自己紹介が終わった所で、軽く作戦会議。盾職であるアインとバッカスくんにはえいりさんとオーレくん、そしてマッキーさんの三人をなるべく守ってもらう方針で。
それにしてもマッキーさん……一回目の王都クエストや他国の配信視聴中なんかは気さくに話しかけてくれてたのに、今日は全然目を合わせてくれない。知らないうちに何かをしてしまったのだろうか。
えいりさん、オーレくん、マッキーさんの三人は今回が初挑戦らしいので、軽く説明。といっても僕達も二回目の挑戦。前回と条件が同じかどうかはっきりと分かっていないので、余り説明出来る事は多くない。巨大な蜘蛛である事、蠍の尾の様な物がついていて金属を溶かす液体を発射する事、後ろに回ると尾で叩かれる事を説明。一度目の制限時間が五分だった事も付け加えておいた。
「尻尾は凄く痛くて、HPを一気に半分近く持ってかれたな」
とガンライズさん。
「それじゃあえいりちゃん、オーレくん、僕……あとナナちゃん辺りは、六割以上持ってかれる可能性もあるから、蜘蛛から極力離れながら攻撃かな。ナナちゃんは近接職だから、近寄らない訳にはいかないだろうし、極力蜘蛛の正面で戦って、尻尾からの液体?だけ注意する方向で。……で、どうですかね、蓮華さん?」
と、何故かマッキーさんが僕に確認をしてくる。それに、前は「蓮華くん」と呼んで、フランクに話してくれていた筈だ。明らかに距離が遠くなっている……。
「えーと、そうですね、良いと思います。蜘蛛の攻撃を受けた人は、極力後退して回復を。えいりさんの回復量がどれ位か分からないし、MPポーションの値段は高いからなるべくHPポーションを優先使用した方が良いかな。ポーションがクールタイムで使えない人がえいりさんに自己申告する方向で。えいりさんは、後退出来ていない人やポーションの取り出しが間に合いそうにない人を臨機応変に……って難しいですか?」
「……頑張りますがこちらで判断するのは難しいかもしれません。なるべくなら後退出来そうにない人、ポーションの取り出しが間に合いそうにない人も申告してほしいです」
「だそうなので、各自申告してください。申告が被ったときはえいりさんの判断に任せます」
「皆の意見を聞いていると蜘蛛は物理より魔法の方が効きそうだし、メインアタッカーはオーレくんと僕……あと蓮華さんになりそうかな。万が一盾の人よりもヘイトを集めてしまった場合は、盾の後ろに駆け込む感じで良い?」
「そうしてもらえると助かるっす、熊獣人は敏捷低いんで」
「今決められる事はこんな所かしら? それじゃあ、あとは実際に行ってみて想定と違ったら適宜話し合う感じで頑張りましょうか。皆準備は良い?」
「料理だけ食べても良いっすか? ぎりぎり出発前に食べようと思ってて」
「あ、そうだった私も!」
「あ、そうね。考えてみればさっきは料理を食べていなかった……万全を期する為に食べておきましょうか」
「それじゃあ僕は魔法威力増加系の食事にするとして。矢へのエンチャントは現地で良いよね?」
「ええ、現地でお願い。インベントリに入れると効果が消失しちゃうから」
全員が食事を終えたタイミングで、女神シヴェラを呼ぶ。すると、透き通った身体で顕現する……のではなく、いつも通り教皇の身体から女神の声が聞こえてきた。
「準備は出来たのか?」
「はい、なんとか」
「ふむ。では行くとするか。ヨハネスは転移後すぐに母親の所まで戻らせるからの。手助けは期待するでないぞ?」
女神シヴェラの声に僕達は全員頷く。今回は十人だし、えいりさんという神聖魔法の使い手もいる。多分なんとかなる……いや、次があるか分からない以上、なんとかするしかない。
「気を付けよ。お前達に何かあればヨハネスが悲しむからな」
そんな女神の声が聞こえたかと思うと視界が白で埋め尽くされ、暗転。どうやらまた勝手に瞼を閉じたらしい。何度か瞬きの描写を経て、制御が戻る頃には再び地下空間へと立っていた。
「ああ……本当にすぐ来る感じなんだね」
到着早々、前方通路の曲がり角から巨大蜘蛛が出現し、八本脚で瞬時に距離を詰めてくる様子を見て僕は呟く。
急いでヴィオラの矢にエンチャントを行い、自分の太刀も魔核のエンチャント状態で握っておく。有効打にならなくても、蜘蛛の攻撃を防ぐ位は出来るからね。
事前に話し合った通り、基本的には皆蜘蛛の正面方向に半円を描く様に散らばり、魔法職の人達はなるべく後方に陣取った。とはいえ一度目同様通路での戦いなので、前後はともかく左右方向は殆ど蜘蛛の巨体ぎりぎりの幅。僕達の布陣は半円というよりは扇形だ。
「やっぱり時間は五分か」
「本当に機械なんだね。だったら水と火を交互に当てて、機械同様故障し易い状態にしてみるとか……或いは雷系が弱そうだけど」
マッキーさんがそう呟く。確かに機械は水や暑さには弱そうな印象がある。
「雷なら風と火で再現可能です!」
とオーレさん。彼は僕と違って魔法一本でシモンさんに弟子入りしているみたいだから、僕よりもずっと深い所まで教わっていそうだ。……あれ、そんな彼でも前回の王都クエストで魔法陣の壊し方をシモンさんに聞きに行ったという事は、もっと後で習う事だったのだろうか。どうやら無茶をし過ぎたみたい、少し反省しよう。
「僕達の後ろが住人の住居に繋がっている? なるほど、なら蜘蛛が突進してくれば僕達は逃げられないって事か。通路を壊さない様になるべく大技は控えて、蜘蛛だけに当てる方向でどうかな」
「MPも減りにくいし賛成です」
「私は元々大技は使えないのでそれで問題ありません」
「機械なら動きを制御するパーツとか、精密な部分がある筈。なるべく蜘蛛のHPバーの減りを観察して、弱点を見つけていこう」
マッキーさんの的確な指示の元、マッキーさんと僕を中心に交互に火と水の魔法をぶつけていく。オーレくんは僕達が狙っている場所とは違う場所に、違うタイミングで雷魔法を放っている。えいりさんには余裕がありそうなら適当に攻撃をしてもらう様にお願いした。とはいえ、現時点でMPの総量は近接特化の人と魔法特化の人でほとんど差異がない。彼女のMPはなるべく回復に使ってほしいので、あくまで本当に余裕がありそうなら、だ。
「オーレくんの攻撃タイミングで若干ダメージが高かった。恐らくそこが弱点だ」
「お腹の下ですね! ただ、蜘蛛が上体を上げない限り当たらない位置です。今のはたまたまお二人の攻撃で蜘蛛が前足を上げてくれたので当たった感じで」
「なるほど……であれば蜘蛛が上を向くように誘導しつつ、なるべくお腹の下に攻撃をたたき込むのが良いか。なかなか難しいな」
マッキーさんが唸るように呟いた。
若干の差であれば今迄同様上を攻撃しても良いかもしれないけど、マッキーさんの言う通り機械と考えると弱い部分を攻撃し、動きを制御するパーツか何かを破壊した方が勝率は高そうだ。ここは面倒でも二手に分かれた方が良いだろう。
「僕は発動速度には自信があるけど、狙った場所に当てるのは苦手です! なるべく僕が蜘蛛を上に向かせるので、お二人でお腹の下を攻撃してください!」
「「了解!」」
僕の発言に、マッキーさんとオーレさんが頷く。僕はヴィオラとのエンチャント特訓のお陰で、人よりも魔法を早く発動させる事にだけは自信があるのだ。相変わらず命中精度は低いけれど。でも今の的は巨大蜘蛛、余程の事がない限りはこの距離で外す事はない。
≪良い連携≫
≪この短時間で弱点看破とか凄いな≫
≪自ら参謀を名乗るだけある≫
僕の視聴者さんもマッキーさんの指示や観察眼に圧倒されているみたい。僕も動体視力には自信があったけど、HPバーの減少具合なんて全然違いが分からなかった。マッキーさんって凄いなあ。
「二分半経過、残り五割を切った!」
ヴィオラの声に視聴者さんは更に盛り上がっている。確かに、単純計算をすればこの時点で半分を切っているなら間に合いそうだ。
でも――、
「そろそろ攻撃パターンが変わる、とかあるかな?」
僕とヴィオラが前に体験した森のダンジョン。あそこでヤテカルは四度ほど攻撃パターンを変えてきた。今回の蜘蛛はヤテカルと違って制限時間があるので、難易度調整のためか、今の所動きは変わっていない。けれど、一度位変わっても不思議はないだろう。





