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番外編:人形の家

 いい年した大人達が、空中に浮かんでいる仮想ディスプレイを睨みながらああだこうだと真剣に間取りを話し合っている。


 多分、対面に居る業者さん達は内心驚いているか呆れている事だろう。


 でも、心の中でこれだけは呟いておく。これはただのドールハウスではなくて、今貴方達の正面で熱心に意見を伝えている二人が住むんです。実際に人が生活する空間なのだ、それはもう真剣になるに決まっている。


 でもまさか、ヴィオラと洋士迄それに参戦するとは思って居なかった。洋士はまあ、二人が遠慮して適当に済ませようとした辺りから口出しをする様になったのでまだ分かる。でもヴィオラ……君は一体何故そんなに本気なの? 最初こそ「関係ありません」と言った表情で遠くから見ていただけだったけれど余りにもちらちらと様子を伺っているものだから、見かねた千里さんがヴィオラに声をかけたのだ。それ以降、嬉々として話し合いに参加している。でも完成してもヴィオラは遊びに行けないんだよ……? それで良いの……?


 今回の依頼はとても特殊な為、本来の建築と同様の順番で事は進んでいない。つまり、建築士の他に建築業者、それから本職のドールハウス職人まで既に揃っていて、素材や家具といった話も同時進行で進めている。普段はとても広く感じるこのマンションも手狭に感じる程の人数だ。


 建築法や施主の予算以内に押さえる必要もないし、契約自体も既に締結している。業者側も普段よりのびのびと作業が出来ているのではないだろうか。いや、むしろヘンテコな依頼に対して戦々恐々としている可能性もあるのかな……?


 その後も色々意見が出揃った結果、とても面白い方向でまとまった。


 一、千里さんとジャックさん、二人で一つの家に住むことに。洋士は二つに分けて良いと言っていたけれど、二人とも一つで良いと言ったのだ。一人で一軒家が寂しいからなのか、理由はいまいち分からない。妖精に性別はないらしいので、そういう面では気にしたりはしないのかも。


 二、実際に使える台所を作る事になった。これは千里さんたっての希望。どうやら「自分専用の」台所という物に憧れがあったらしい。更にいえば妖精族の食べ物というのがあるらしいのだが、彼らのサイズなので普通の台所と調理器具では扱いづらく僕に言い出せなかったとの事。


 三、家の外に庭も作る事。妖精族の国という場所には、彼らサイズの花や食物があるらしく、それらを育てる為に家の周りにぐるっと庭を造る事にしたのだ。収穫をして台所で調理するのだという。本当にちゃんとした「家」だ。


 四、お風呂も本当に使える物が設置される。千里さんはお風呂好きだけど、今までの家ではそうそう入る事が出来なかった。それもその筈、人間サイズで勝手に入れば家人にばれるし、通常サイズでお風呂に入れる様な設備もない。ここに来てようやく堪能出来る……と思っていたものの、人間サイズでお風呂に入ると途中で体力が切れて元のサイズに戻ってしまう。かといって元のサイズでは設備がないのでヴィオラに手伝ってもらっていた。やっぱり人に頼りっぱなしというのは本人的にも思うところがあった様で、この決定にはとても喜んでいた。


 ガスを使うと設置場所が面倒なので全てオール電化。ドールハウスそのものに差込プラグを作り、コンセントに挿すだけで良い設計にするとの事。水はペットボトルを接続出来る箇所を設置し、一日に一回挿せば事足りる設計。これであれば彼ら自身が一瞬人間サイズになるだけで事前準備も済んでしまう。


 ドールハウスに本格的な設備?と疑問も浮かんだだろうが、流石プロ。何も言わずに彼ら全員の意見を綺麗にまとめ上げてくれた。


 飾るだけの家具と実際に使う家具では素材が全然違う。それっぽく見えても浴槽が紙や木で出来ていたらすぐに傷んでしまう。話を聞いていたドールハウス職人さんは、少し時間がかかるけれど良いものを作ると宣言してくれた。ありがたい。


 洗面所は作るものの、トイレは作らなかった。技術的には可能だと業者さんは言ってくれたけれど、洋士が一言「汚水の仕分けが面倒だ」と一蹴。それを聞いていた彼らの表情と言ったら……。それはそうだ、まさかあのサイズのトイレに本当に排泄物が流れるとは思っていない。「この人達はどこまで再現して遊ぶ気なんだ?」と顔にはっきり書いてあった。


 使用した水もしっかりドールハウスから排出され、接続したタンクに集約される様に設計してもらった。タンクさえ外して水を流せば良いので手軽。これも彼らが一瞬人間サイズになるだけで済むだろう。


 コンセントにドールハウスを挿して、水を入れ、ある程度生活をしたら排水を捨てる。畑も育てば自炊も可能。もし万が一僕らが家に帰ってこられない状況になったとしても、彼らだけで生活が出来る環境が整う訳だ。これは凄い。


 その他、クローゼットや寝室といった必要な部屋から、好きな壁紙、カーテンの柄と言った細かい所まで。まだ一回目だというのに話し合いは朝から晩まで続いてしまった。


 え、僕? 僕は朝・昼・晩と人数分の食事を作るのに勤しんでいました。ちなみに千里さんとジャックさんは業者さんが食事や休憩を取っている間に元のサイズに戻る事でどうにか一日人間サイズを維持していた。


 業者さんが帰宅した後、二回目以降の話し合いは早めに切り上げるように進言しておきました。正直、目の前で元のサイズに戻ってしまうのではないかとヒヤヒヤして見ていたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] クラフターとしてはゲームでもリアルでも作るのは好きだね ただ設備がなく何もできないけど ゲームではまずクラフトできるか見て次に生産職、生産する物を見て選ぶかな 後できるならばハーフリング的な…
[気になる点] ドールサイズの水洗トイレを実際に作った動画を見ました ただ小さくしただけでは水の流れが悪かったりするんですよね ttps://www.youtube.com/watch?v=FK3-…
[一言] 更新有り難う御座います。 借り暮らし?
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