表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

157/316

131.もしかして一方通行

 先程の分岐点迄戻りそのまま直進。途中、何カ所か分岐はあったものの、常に戦闘音が聞こえる方角を目指して黙々と歩を進めた。


 ある程度進んだタイミングでまた蜘蛛を見かけるようになったので、教皇にお願いして熱感知を遮断しながら歩く。どうやら彼らも一直線にどこかを目指して進んでいるようだ。恐らく僕達と同じ、戦闘音が聞こえる方角へと向かっているのだろう。道中で蜘蛛を倒しながら行くのも一つの手ではあったけれど、ここで魔法を解除して戦うのは間違いなく疲弊してしまうのでやめておいた。


 交戦をしているということはこの蜘蛛達と敵対する誰かが向こう側に居るということ。そこにナタリーさんの妹も居る可能性が高いと考え、蜘蛛のことは一旦無視し、通路を一気に駆け抜けることにした。


 歩くこと暫し。遠目に、交戦が見える距離迄やってきた。蜘蛛相手に戦っているのは、全員がたいが良い人達。そして不思議なことに、蜘蛛も居る。蜘蛛同士で戦っているということだ。人間と共闘している蜘蛛達は、僕らを襲ってきた蜘蛛達と戦う戦力を欲して流砂に引きずり込んだのかもしれない。しかし一体何の為に戦っているのか。さっぱり状況が読めない。


「おい、人が居るぞ!」


「何!? おい、攻撃一時停止!」


 僕らに気付いたらしい人々が攻撃をやめたタイミングで、僕達は最後のダッシュを決め込んだ。僕らが自分達の陣地へと入ったことを確認し、彼らはまた蜘蛛との交戦を再開する。


「あんたら、無事か!? ……おい、何で蜘蛛に攻撃されてないんだ……? その魔法か?」


 僕達に駆け寄ってきた一人が、不思議そうに質問をしてくる。


「蜘蛛がどうやって僕らを認識しているのかが分かったので。魔法で認識されないようにして来たんです」


 代表して僕が答えておく。答える気力もない教皇は、ふうっと一息ついてから魔法を解除した。ねぎらうように彼の肩を二度撫でておく。


「なんだか分かんないが……まあ疲れただろう。奥で休憩でもしてくれ」


「あ、その前に……この子の妹を探しているのですが。それと、この空間や状況に対する説明もあれば嬉しいです」


「妹? 小さい子だったらここには居ないな。もっと奥の安全地帯に居る。あんたの疑問もそこに行けば解消するから、とりあえず奥で話を聞いてみてくれ。きっと腰を抜かすぞ」


 小さい子が居ると聞き、ナタリーさんは居ても立ってもいられない様子で走り出した。この場所が危険蜘蛛と安全蜘蛛の境界なのだとしたら、この先はきっと安全なのだとは思う。けれど心配なので、一応走ってナタリーさんを追いかけることにした。それにしても腰を抜かすとは……一体何があるというのだろうか。


 通路を抜けた先は、だだっ広い空間と、いくつかの扉や通路。通路と同じ様にコンクリートや金属で出来た無機質な空間ではあるものの、ところどころに植物やら椅子やらが置かれ、ここで人々が生活しているのだということが窺える。


 見たところ女性や子供が多い印象。がたいの良い人と間違えて連れてこられた……にしては多い人数だ。となると、また別の目的で蜘蛛達に誘拐されてきた人々なのだろうか。


「おや、見ない顔だね。今日来たのかい?」


「あ、はい。あそこに居る彼女の……ナタリーさんの妹を探しに来たんです」


「ナタリー? ああ、もしかしてマリーのことかい。今はちょっと寝込んでいるから寝室に居るけど……案内しようか?」


「本当ですか。ナタリーさん! 妹さんの名前はマリーですか? この方が案内してくれるようですよ」


 きょろきょろと部屋中に視線を彷徨わせているナタリーさんへと声をかけると、パッと明るい表情でこちらを振り向いた。


「そう! そうです、マリーです! どこですか!? 無事なんですね!?」


 声をかけてくれた女性に食ってかかる勢いで矢継ぎ早に質問を重ねるナタリーさん。妹が無事だと聞いて喜びを爆発させている。


「それじゃ、ちょっと行ってくるけれど……あんたらはどうする? ここで休んでいるかい?」


「出来ればここに関する説明を聞きたいのですが」


「ああ、だったらアキノさんのとこに行った方が良い。そこの扉の先に居るからね。それと、もう一人居るけれど……まあ会ったら腰を抜かすと思うよ。失礼のないようにね」


 さっきから皆その台詞を言うけれど、会ったら腰を抜かす程の人物とは一体誰なのだろうか。


「アキノ? ……母さん!?」


 教皇が大声を上げた。まさか、アキノさんというのが教皇の母君なのか。なるほど、ここの説明が出来るということは最古参の可能性が高い。砂漠化の原因調査中に流砂に巻き込まれたと考えれば辻褄は合う。しかし、教皇の居る王都へ元に戻らなかったということは……もしかして一方通行な(地上へは戻れない)のだろうか。


 ナタリーさんと違って教皇は走り出そうとはしない。気持ち、速度は上がっているようには思えるものの、あくまで歩きの範疇。同名の別人だった場合を想定しているのか、それとも性格によるものか。あるいは、ここ数年置かれていた環境による影響なのだろうか。いずれにせよ、教皇はあくまで冷静に扉迄歩を進め、これまた冷静に扉をノックし、中の返事を待った。


「……どうぞ」


 聞こえた声に馴染みがあったのだろうか。先程までとは打って変わって、教皇は勢いよく扉を開けた。その勢いに驚いた様子の女性の姿が扉越しに見える。そして女性に飛びつく教皇の姿も。そうか、あの人が教皇の母君か。……無事で良かった。


『感動の再会』

『うおおおおおおおおおおお生きてたのか!!!』

『ナタリーちゃんもヨハネスくんも感動の再会!?』

『今夜は赤飯だな!』


 感動の再会に水を差すのもどうかと思ったので、僕達は扉をくぐらずに外で一旦待機。教皇のことだ、その内思い出して扉を開けに来るだろう。まあ、中にもう一人居ると言っていたし、部外者という意味では一人だろうが三人だろうが余り関係ないのかもしれないけれど。


「あ、えっと……お待たせ」


 予想通り、数分も待たぬうちに教皇がそっと扉を開けて中に招き入れてくれた。それにしても数分か……想像以上に早い。もう少しかかると思っていたのだけれど。


「貴方が息子の命の恩人ね? 改めて礼を言わせて。……本当にありがとう」


「いいえ……当然の事をしたまでです」


「そう、貴方にとってはそうなんでしょう。……改めて詳しい話も聞きたいけれど、まずは現状を知りたいのよね?」


 教皇の頭を愛おしそうに撫でながらアキノさんは話を進める。


「はい」


「まず、ここはマカチュ子爵領の地下空間……だと思っている。それで、この地下空間全体が地上の砂漠化に関連している……と私は睨んでいるわ。ごめんなさい、詳しいことは何も分からないのよ。資料があるにはあるんだけど、誰も読めないし。あ、そうだった。まずは自己紹介ね。私はアキノ。もう分かってるでしょうけど、ヨハネスの母親よ。それから私の隣に居るのが」


「砂漠の神、トセだ」


 おっと……腰を抜かすって、こういうことか。まさかここで神様にお目にかかるとは。まあ部屋に入った段階で、身体が透けているし宙に浮いているから人間ではないだろうとは思っていた。しかしどう対応するのが正解だろう? 教皇はシヴェラ教の教皇。シヴェラ教と言えば、絶対的一神教であり、女神シヴェラ以外の神の存在を一切認めていない。しかしここはマカチュ子爵領。つまりはシヴェフ王国内に別の神様が存在している訳で……。


「えーと……お目にかかれて光栄です?」


「何故疑問形なのだ。まあ良い、お前達全員人ではないようだ、大目に見てやろう」


「……え?」


 何か聞き捨てならない台詞が聞こえてきたんですが。全員人じゃないってどういうこと? 全員人な筈ですが?


「何を不思議がる? そこの小僧はあの傲慢の化身、シヴェラの匂いがぷんぷんする。お前達二人は……具体的に何とは言えないが、とにかく人ではない筈だ」


「はあ……」


 おかしいな、僕は人間族でプレイを開始した記憶が……決して吸血鬼プレイなんてしていない筈なのだけれど。これも記憶が無いのと何か関係があるのだろうか。


 教皇も口にこそ出さないが、女神シヴェラを悪く言われたことが気に障ったのか、それともトセさんの存在そのものが受け入れがたいのか。とにかく渋い顔で黙り込んでいる。


「話を進めましょう。それで、このトセもこの文字が読めないと言うのよ。役に立たないことにね。だからこの施設の存在意義もいつからあるのかもよくは分かっていない。ここが俗に言うロストテクノロジーだということだけは何となく分かるけれど、本当にそれだけなのよ」


 アキノさんもなかなか辛辣な物言い。神様に対して役に立たないとは……さっきの人達の口ぶりからすると、一目置かれているっぽいんだけどな? いや、それ以前に皆さん女神シヴェラ以外の存在を普通に受け入れているんですね。まあ本人を目の前にして否定するというのも無理だろうけれど。


「その資料、読ませて貰っても? 僕とヴィオラはこの施設の文字が読めるみたいなので」


「え、本当に? 古代文明文字が読めるなんて聞いたことがないけれど……まあ、そういうならついてきて。この部屋の奥が書棚になっているのよ」


 アキノさんの後を追って、更に部屋の奥へ。するとそこには、入り口の扉以外全ての壁が丸々備え付けの本棚という何とも羨ましい空間が広がっていた。こういう部屋、憧れるなあ……。


「全く読めないから、どれが重要な資料かも全く見当がつかないんだけど。この膨大な資料の中から何か手がかりがないか探して貰えないかしら? 現状、地上に帰る術も分からなくて困っているの。私を含めて、一番長く居る人はかれこれ数年ここに居るわ……」


「分かりました。蜘蛛同士がどうして戦っているのかも不明ということですか? どうやってこちら側の蜘蛛と共闘を?」


「あくまで仮説の状態だけどね。外で戦っている、私達を襲う側の蜘蛛はこの施設その物を破壊しようとしているの。私達と残りの蜘蛛は、それを阻止する為に日夜交代で迎撃している。多分だけど……突然の砂漠化は、施設が攻撃され、一部の機能が停止したことにあると思っている。つまり、この施設は砂漠を緑化する為に動いているということ。ここにトセが居ることも踏まえて考えれば、この地が元々砂漠だったと考えた方が納得がいくしね」


「なるほど……。この施設を守ろうとする蜘蛛が居ると言うことは、元々蜘蛛はこの施設で警備員の役割を果たしていたのかな……。ということは、攻撃をしている一部の蜘蛛が暴走か何かをしていると見るのが無難でしょうか」


「私達はそう見ている。この施設は凄く広い。寝室もあるし、畑もある。地上へ戻る術が見つからない以上、この拠点を守ることが私達が生き延びる、唯一の方法でもある。だから毎日蜘蛛と戦っているのよ。まあ、どこかで修理でもしているんでしょう、一向に数が減る気配はないけどね」


「あ、修理用の施設であれば先程僕らで止めてきました。……それが全部とは思えませんが」


「ほう、アレを止めたと? 何やら突起がたくさん並んでいて、どれが何を意味するかも分からないアレを止めるとはやるな」


「親切に全ての機能の説明があったから。『停止』ボタンを押したら止まったわ。ただ、ヨハネスが言うには古代魔法が機械に使われているって。それが何なのか迄は分からなかったの。だから、この先稼働を再開しないとも限らない」


「古代魔法……ああ、恐らくそれはあれだ。お前達の概念で言う『魂』だ。どこぞの神の魂がその機械とやらに埋まっていたからな、それのことだろう。まあ、勿論我も何の為なのかはさっぱり分からんがな」


 そうか。トセさんは身体が透けており、明らかに人間ではない。もしかしたら体温という概念もないのかも。それなら蜘蛛にも感知されずに施設内を自由に歩き回れる。文字が読めないから停止を出来ないだけで、機械の存在は知っていたということか。それならば場所さえ教えて貰えれば、僕達が全台停止させることも可能な筈。


「トセさんは、いつからここに?」


「ふん、遠い昔からよ。だが、いつからか記憶がさっぱり途切れてしまってな。恐らくそのときにここら一帯の地上が緑化したのだと思うが……我は砂漠の神。砂漠がなければ力を失い、長き眠りにつく。まあ、最近目覚めたのもここら一帯が砂漠に戻ったからと考えれば辻褄もあうしな」


 そう言って豪快に笑うトセさん。ふむ、ずっと眠っていたと言う事は要するに何も知らないってことか。古代文明の文字が読めない理由も納得である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2024年4月20日2巻発売!

吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2巻

二巻表紙


1巻はこちら

― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 蓮華「……一方通行? ……つまり    ( ´Д`)つ[←出口|ブラジル→]    って事だね?」
[一言] 砂漠の神の割に細かいことは気にしてなくて、砂漠が緑化してもいいらしい これ、イペントが終わったら、砂漠の神から、大地の神にジョブチェンジしたりするのかな………………
[一言] >神の魂 古代魔法やプレイヤーの出身など、実はちょっと役に立っていたねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ