126.白であって欲しい
------------------------------
【サブクエスト】
依頼者:ナタリー
依頼内容:妹の救出。
ナタリーの妹と護衛の人々が流砂に飲み込まれてしまったらしい。
彼女に協力し、砂に飲み込まれた妹の救出を行おう。
クエストが発生しました!受諾しますか?
※このクエストはサブクエストです。受諾しない場合でもストーリーに影響はありませんが、
関連するサブクエストが発生しなくなる可能性があります。
『受諾』『拒否』
------------------------------
どうやら彼女は情報提供者というだけではなく、サブクエストも持っていたようです。
『俺の知ってるNPCと違うけど、依頼内容は皆一緒なんだな』
『そのタイミングによって助けを求めてくるNPCが違うってことか』
『どんだけたくさんの人が砂の下に連れ込まれたと言うんだ……』
『蜘蛛無理なんだけど俺。視聴もプレイも諦めるしかないのか……!?』
「ええと……妹さんを探すのは勿論良いですが、一緒に行くのはさすがに危険ではないでしょうか」
「そう思いますが……皆さん妹の顔を知りませんし、別の目的があるんですよね? 妹のことは私がどうにかするべきだと思うんです。ただ、一人でまた砂漠に挑む勇気がなくて……」
彼女の言いたいことも分かる。確かに僕らは彼女の妹の顔を知らない。つまりもし妹さんが既に亡くなっていたとしてもどの子かは分からないということだ。かといって、聞いた限りでは相当の人数が連れ込まれているようだし、インベントリの空き状況を考えると、ダンジョンのときのように全員分の遺品を持ち帰る余裕もない。本当に彼女の依頼を受けるのであれば、彼女自身の命の保証は出来ないけれど、一緒に連れて行くのが唯一の正解でもある気がする。
「……どうする?」
「私は別にどっちでも。自分の命を賭ける勇気があるのなら、ついてくるのは構わないわよ」
一見冷たく聞こえるヴィオラの発言。でもこの線引きはとても重要なことだ。僕達もこれから未知の世界に挑む訳で、彼女にだけ構っていられる訳ではない。特に、僕達が最優先すべきなのは教皇であるヨハネスの命と、それを守る僕達自身の命。ゲームなのだからという考えも一瞬頭をよぎったけれど、恐らくプレイヤーではない教皇やナタリーは死んでしまえば二度と復活しないと思う。だから残酷な話だけれど、現実世界同様に考えた上で、優先順位は明確にしておかなければならなかった。
勿論、この世界観と教皇の優しさを考えれば、彼さえ生きていればナタリーを蘇生させることが出来るかもしれないという甘い考えも多少含まれている。
「どうせ妹がいなければ私が死んだも同然です。例え死んでも恨みは言いません。どうか連れて行ってください」
『なかなか厳しいこと言うなあと』
『いやでも真面目な話どっち優先するってなったら教皇じゃない?』
『教皇が死んだとなったら教会に抹殺されそうだしね』
『いきなり素人が一緒に来るってなったら負担倍増だもん、自分の身くらいは自分で守って貰わないと』
『俺は助けるより助けて貰う側になりそう』
「……分かりました。ですが、僕達も自分達のことで精一杯ですから、極力自分の身は自分で守るようにしてください。それから、食料や水に関しては基本的に僕達が持ちますが、不安でしたらご自身でお持ちいただいても構いません」
「そうしようと思います。ただそれで進行が遅れたら本末転倒なので、革袋に水を入れて持ち歩く程度かもしれませんが……」
自分の体力と限界値、進行が遅れる方が問題であると瞬時に判断出来るだけの能力があるのであれば問題ないだろう。僕はインベントリから店主さんに貰った革袋を取り出し、ナタリーさんに手渡した。既に水は入れてあるので問題はない。食料に関してはおよそ三人でひと月程生活出来る量を購入したので、一人増えたからといって追加で購入する必要はないだろう。
さて。一応この村でも他にサブクエストがあると思うので、ぐるっと一周程度はするつもりでいた。けれど、ナタリーさんの心境的には今すぐ飛び出したい位だと思う。どうしようか。彼女の状態は見るからにボロボロ。一睡も出来ていないようだし、個人的には少しでも仮眠を取って貰いたいところではある。
「出発のタイミングに希望はありますか?」
「いえ、お任せします」
思いのほか冷静な返答が返ってきた。てっきり「今すぐに!」と言うかと思ったけれど、後先をしっかり考えてから行動をするタイプのようだ。これなら体調さえ崩さなければ、彼女の行動によって変なトラブルに巻き込まれる心配はないかもしれない。
「そうですか。であればまず、僕達はこの村でもう少し情報収集を行いますから、その間、一眠りしてください。今の状態で砂漠に行ったら間違いなく一日も持ちません。それと、他に洋服はないですよね? こちらで適当に用意してきますから、あとで着替えて貰っても良いですか?」
「分かりました。何から何までご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げるナタリーさんと別れ、僕とヴィオラと教皇とアインの四人は村を回ってみることに。ナタリーさんの衣類はヴィオラが調達することになった。ヴィオラ曰く「蓮華くんのセンスに任せてたら変なの買ってきそうだから」だそう。いや、砂漠を探索するんだし実用性最重視で間違ってないですよね? あれ?
『まあゲームだしね』
『気落ちしてる女子には可愛い物が必要さ』
『言葉使い的に絶対良いところのお嬢さんだよなあ。上手くいけば今後、良いコネになりそう』
ヴィオラと教皇、僕とアインに別れてそれぞれ村を見て回る。ヴィオラはサブクエストよりも買い物優先でいくとのこと。
僕は他の村でも恒例のお使いクエストをこなしつつ、視聴者の人達と情報を交換。
「とりあえず、現時点での僕のクエスト一覧はこんな感じかな。その内三つの目的地は一緒だと予想はしている。それにしても、教皇の方のクエストがサブ扱いって言うのがちょっと興味深い」
------------------------------
【メインクエスト】
依頼者:ポリーナ
依頼内容:マカチュ子爵領の調査。
ポリーナが言うには、数年前からマカチュ子爵領の様子がおかしいらしい。
どうやら突然領地全体が砂漠化してしまったようだ。ポリーナの村もその影響が大きいという。
彼女に協力し、マカチュ子爵領の調査を行おう。
マカーリオが言うには、数年前に子爵領で大きな揺れが起こったという。
砂漠化と関係があるのだろうか?
ビルの話によると、子爵領では突然流砂が発生し、人々を飲み込んでいくという。
自然現象の流砂とは少し違うようだ。
ナタリーから聞いたところによると、流砂からは蜘蛛に似た謎の生物が飛び出し、
人々を流砂へ引きずり込むのだという。
砂漠化の原因は地下にあるのだろうか? マカチュ子爵領の調査を続けよう。
------------------------------
------------------------------
【サブクエスト】
依頼者:シヴェラ教教皇ヨハネス、神官ハリー
依頼内容:消えた母の行方調査。
教皇ヨハネスが言うには、二年前、彼の母の行方が分からなくなったようだ。
彼らに協力し、教皇ヨハネスの母を探そう。
教皇ヨハネスから聞くところによると、彼の母は冒険者であり、最後の依頼はマカチュ子爵領のようだ。
マカチュ子爵領に赴き、足取りを掴もう。
------------------------------
------------------------------
【サブクエスト】
依頼者:ナタリー
依頼内容:妹の救出。
ナタリーの妹と護衛の人々が流砂に飲み込まれてしまったらしい。
彼女に協力し、砂に飲み込まれた妹の救出を行おう。
------------------------------
------------------------------
【サブクエスト】
依頼者:神官ハリー
依頼内容:教皇ヨハネスの護衛及び近隣教会の調査。
教皇ヨハネスをマカチュ子爵領へ護衛し、彼の母の行方調査に協力して欲しい。
また、道中の教会の様子をそれとなく確認し、気になる点を報告して欲しい。
彼に協力し、教会組織の再構築を手伝おう。
どうやらトレネの町にある教会は余り良い状態とは言えないようだ。
教会の調査を続けよう。
------------------------------
『こうしてみると追記が多いな』
『ここまで追加情報拾えてるプレイヤー居ないかも?』
『しれっとハリーからの依頼も追記入ってるのウケるw』
『ギルドでゲート開けて貰えば良いのに、わざわざプレイヤーに護衛頼んで教会の抜き打ち検査……策士』
『実はハリー神官黒幕説ない?大神官代理とかトーマスだかよりもずっと頭切れるだろ』
『ハリーさん好き勝手言われてて草』
確かに視聴者さんの言うとおり、僕も今のハリー神官は水を得た魚のような状態に感じる。とはいえ、大神官代理の恐怖政治時代は治療に専念していたようだし、周りのことが見えていなかったと言う可能性も否めない。教会改革に着手しているからといって黒幕説は時期尚早、だと思う。いや、そう信じたい。これでハリー神官も黒でした、なんて日には教皇は一体誰を信じれば良いというのか。それを考えて白であって欲しいと思った次第。