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123.何、これ?

 六時間の強制排出に合わせてベッドで就寝。コクーンから出ると、僕はリビングへと赴いた。


「丁度良い。ニュース見てみろ」


『……続いてのニュースです。今、SNSで何が起きているのでしょうか。検閲を疑う声が相次いでいます。まずはこちらをご覧ください。とある男性へインタビューをしてきました』


『あー、そうなんですよ。偶然居合わせて。最初は喧嘩か?って思って、まあ何かあった時の為に撮影してたんですけど。そのうち同じ様に撮影してた人達が急に走り出して、喧嘩してた人達の間に割り込んじゃって。目に色がないって言うか、何か自分の意思じゃない?みたいに見えたんで、その段階で僕は怖くなって逃げたんですけどー……他の人の意見も聞きたくなって動画を上げたんです。そしたらもう、ものの数分とかで消されちゃって……』


 画面の中で話している男性らしき人物の顔にはモザイクがかかり、意図的に変えられた声で話をしている。


『インタビューに答えてくださった男性は先日神奈川県のとある場所にて乱闘を目撃したとのことですが、その様子を撮影した動画をSNSにアップロードしたところ、すぐに消されてしまったようです。動画はその後、他の方の手によって何度もアップロードが行なわれましたが、現在は全て削除され、確認することは出来ません。一体誰が何の目的で削除を行っているのでしょうか。溝口さん、どう思いますか?』


 司会進行の人が溝口という人へ話を振る。カメラは移動し、男性の姿をアップで映し出した。恐らくこの人が溝口さんなのだろう。


『そうですね……考えられるのは、いわゆる検閲でしょうか。その動画の中に、誰かにとって都合の悪いものが映っていた。その「誰か」の身分が高く、SNSの内容を削除出来るだけの権力を持っている……なんて考えすぎですかね。あるいは、フラッシュモブでしょうか。撮影者さんに対するサプライズの一環で、他の方々は全て演技を行っていた。しかし、その場合現在に至る迄種明かしがないことは不自然ですね』


『SNSでは動画を見た方々が現在も様々な意見を交わしているようです。その中にも溝口さん同様、「検閲」の言葉を何度か書き込んでいる方が居ましたが、やはり検閲ということは政府関係者ということでしょうか?』


『さあ。権力者という意味では十分あり得ると思いますが、今の情報だけでは判断のしようがないですね。僕自身はその動画を見ている訳でもないので、何が不都合だったのかも分かりませんし』


『そうですね。今後の動向も見守っていきたいと思います。……続いてのニュースです』


「何、これ?」


「神奈川での一件についてだ。俺達の方にこんな情報は入っていなかったから、直前になって放送内容を変更したんだろう。このニュースの前は失血死について取り上げてたぞ」


「和泉さんも知らなかったってことか。でも、雑誌はともかくテレビがこんなことするなんて……」


「ああ。何が狙いかは知らんが、自分の首をかけて実行した奴が居るんだろ、局内かどっかに。見てみろ、SNSじゃ今の放送について話題になってる」


 洋士に見せられた画面には、お世辞にも好意的とは言えない言葉が並んでいる。


『釣り?その問題の動画すらも流すわけでもないし、何が言いたかったの?』

『テレビで流すレベルじゃないだろ、どうしたんだサクラ日本テレビw』

『本当の話だから消されないようにテレビで流したとか……』

『何これ怖w小説じゃないんだから検閲なんてあり得ないだろw』

『まじでどうしたサク日』


 大半の人が信じていないようだけれど、中にはこの放送の不自然さにかえって信憑性が高いのではないかと言っている人も居る。


「もしかしたら、こいつの狙いはこれかもな。本来あの件は、動画が消されたことによって自然と鎮火していく筈だった。ところが今、サクラ日本テレビが中途半端な報道をしたことで、かえって皆興味を引き立てられて意見を発信している。事実として認識されずとも、この話自体を広めたかったのなら作戦は大成功だ」


「……誰が一体何の為に……いや、分かる訳ないか」


「まあ今頃和泉辺りが指示して調べてるんだろうが。そんな動きが察知されたら今度こそ政府の検閲疑惑が信憑性を増すだろうな。……それを狙ってるのか?」


 ――ピンポーン。


 玄関のチャイム音がリビングに鳴り響いた。見ればヴィオラ、千里さん、ジャックさんの三人組。お腹が空いた……という表情ではないようだ。今のニュースでも見たのだろうか?


「ねえ、今の見た?」


「ああ、うん。たまたま洋士がテレビをつけてたから」


「こっちも二人がテレビを見てたみたいだからたまたまなんだけど。あれって……先日聞いた話のことよね?」


「そうみたい」


「SNSはこの話題で持ちきりよ。今日のトレンド上位に食い込むんじゃないかしら。ねえ、大丈夫? 公開されてた動画自体は消されてても、既に手元の端末に保存してる人は何人か居る筈。誰かの顔とか、バッチリ映ってるんじゃない?」


「映ってるだろうさ。場合によっちゃ相手が狼になったところも映ってるかもな」


「ええ!? そんな展開になってたの」


「ああ。最後には仕留めたが……こっちもそれどころじゃなくて、動画の回収自体はあの場では出来なかったんだ。厄介だな」


 珍しく洋士が焦った表情をしている。このまま行くと、政府としては僕達の存在を公表する時期を前倒しにするしかないのではないだろうか。


 ただしその場合、都内の失血死と吸血鬼が結びつけられ、反対意見が噴出するだろう。更に、事の発端がエルフの入国だと露呈すればそちらも叩かれることになる筈だ。時期が悪すぎる。


「一応今後もSNSの動向はチェックしておくわ。ところで……今日のことでちょっと報告があって」


「報告?」


「ええ。市場で聞いたバイバイ草とかいう薬草のことよ。あれね……故郷で見たことがあるの。効果も似たようなもので……倍とは言わないけど、薬の効能を高めてくれる」


「それ、一般的に出回ってる植物なの?」


「分からない。少なくとも、私は故郷でしか見たことがない。だからもしかしたら、マンドラゴラとアルラウネみたいに……」


「ソーネ社内部に居るかもしれないエルフが自分の知識を用いた、か」


「マンドラゴラとアルラウネはまだ有名だから、たまたまかもしれないけれど……バイバイ草がもし故郷にしかないような植物なら、いよいよ疑ってかかった方が良い」


「俺が調べておこう」


 洋士が協力を申し出てくれた。


「本当に? でもどうして? 世界中の植物を調べるなんて難しいでしょ」


「まあさすがにデータベース化されてない古い文献迄調べるのは無理かもしれないが。ネットの海に転がってる情報を(さら)うくらいなら片手間で出来る。調べる理由は……まあ、お前のことは相変わらず嫌いだが、お前が父さんに与える影響には感謝してるからな」


「ええ!? 急に何……僕そんなに影響受けてる?」


「まあ少なくとも以前の父さんなら、こんな話を聞いたところでさほど警戒することもなかっただろ。最近は人を疑うことを覚えたみたいだからな、そういう意味では感謝をしている。だがお前のことは嫌いだ」


「ああ、うん……別に好かれたい訳じゃないし、そこは良いわよ。貴方が極度のファザコンなのは分かったから、私の存在が目障りなのよね。大丈夫よ、貴方のパパを取って食いやしないから」


 少し呆れた表情で洋士に答えるヴィオラ。いや……あけすけにものを言いすぎじゃないですかね? 取って食うって女性側が言うのを初めて聞いたよ。


「誰がファザコンだ!」


 とまあ洋士はお怒りモード。うーん、僕はノーコメントで。


「……とりあえず、これがその植物の絵よ。まあ貴方なら配信を見てもう知ってるかもしれないけれど」


 さらさらっと紙に植物の特徴を描くヴィオラ。凄い、ゲーム内で見た植物と本当に瓜二つだ。


「うーん……多分日本にはないと思うのです。千里はよく他の皆の見てる景色をのぞき見するですが、一度もこんな形の植物は見たことがないのです」


 ヴィオラの絵をのぞきながら千里さんが言う。ふむ……それじゃあ少なくとも、海外にしか存在しないってことか。ひとまず範囲が少し絞れただけでも良しとしよう。


「ま、とりあえずご飯にしようか」


 そう言って僕は食事を作る為にヴィオラの家へ。この頃は洋士も、夕飯だけは一緒に食べるようになったので五人分を用意する。


「ところで、君達二人はどこでどうやって過ごしてるの?」


 千里さんとジャックくん。この二人は洋士の家とヴィオラの家をその日の気分で行き来している。もっとも、食事の代わりとしてヴィオラの家の家事全般を引き受けているので、主に彼女の家で過ごすことが多いようだ。まあその方が彼女の身に何かあっても対処がし易いので、僕としても助かっていたりする。


「どこって……別にねーちゃんが部屋にこもってるときはテレビ見たり好き勝手させてもらってるぞ」


「寝るときとかは?」


「ハンカチを借りたのです! 暖かくて丁度良いのですよ」


「どこで寝てるの?」


「リビングだな」


 ふむ。つまり彼らはずっとリビングで過ごしている、と……プライベートな空間とかなくても良いのだろうか?


「自分の部屋みたいなものはなくても良いの?」


 二人は人間サイズにもなれるけれど、普段は手の平サイズで行動することが多い。どうやら人間サイズになるにはある程度体力を消耗するらしく、小さい方が楽らしいのだ。しかし、小さいからといって一人になれる空間がなくて良いってことはないと思うんだ。僕達同様、個室はあって困るものではない。けれど、サイズが小さいので余っている部屋を使ってもらったところで過ごしにくいだろう。


「こっそり居候してる身なのですよ? そんなこと考えた事もないのです」


「ま、まあ、あっても困らないが……」


「そうだ、人形用の家とか見に行ってみる? 良いのが見つかるかも」


 確かこのマンションの下にそれっぽいのを扱っているお店があった筈。食べ終わったらちょっと覗きに行ってみようかな。


   §-§-§


「うーん……」


 本人達は別に気にしていないようにも見えるけれど……やっぱり気になる。


「やっぱり子供向けのおもちゃだけあって住むには厳しいわね。見るからに固そうだし、家の中も丸見え」


「だよね……でもなあ……ちゃんとした木材とか家具が揃った、高級な人形用の家なんてどっかに売ってるのかな」


「ないなら作れば良い」


 とは洋士の言。


「え?」


「家なんて普通間取りから自分達で決めて建てるもんだろう。どうせやるなら本人達に決めさせてちゃんとしたものを作った方が良いんじゃないのか」


「……確かに」


 これは盲点だった。そうか、家だもんね……。人形用サイズだからって売り物で済ませようとした僕って……。


「そ、そこまでしなくて良いのですよ! 私達の為にそこまでしてもらう必要はないのです!」


「まあ……家具はともかく、家の見た目なんか別になんだって……家の中だって布でも被せて貰えればそれで良いし」


「いや、駄目だ。それは俺の主義に反する。家の中に置くものは一種のインテリアだ。数日中には建築士を見つけるからもう少しだけ待ってろ」


 おお……洋士って凄いな。そう言えば、どうして結婚しないのだろう。この子なら引く手あまただろうに。別に僕達吸血鬼だって子供が出来ない訳じゃない。まあ、本人にその気がないなら無理にとは言わないけれど、案外「お父さん」、向いているようにみえるんだけどな……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 洋士くん……ツンデレ?ツンギレ?w >どうして結婚しないのだろう ファザコンだからじゃない?w
[一言] 更新有り難う御座います。 洋士さん、割りと面倒くさい性格?
[一言] 思いのほか、気に入ってるのかもしれない……ブラウニーズを(笑) 新居ができてしまう予感
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