119.謎が深まった
○○を持って来て欲しいとか、△△を狩ってきて欲しいといった、いくつかのお使いクエストをこなしつつ。
「これといって目ぼしい情報もなければ他にメインクエストがある訳でもなかったね」
「そうね、事前に聞いてた通りだった」
「それじゃあ……どうしようか。聖下は眠っちゃったけど……移動する?」
NPC、それもまだ十二歳の子供である教皇は体力が余りない。彼に合わせて移動を取りやめるという手もあるけれど、どうせ馬での行程。しっかり抱えてさえいれば問題はないといえばない。
「うーん……もう少し進んでおきたいわね。せめてもう一つ先の村迄行ってから休みたいかも」
「了解、それじゃあ聖下が起きないように少し歩調を落としながら行こうか」
次の村迄は徒歩でおよそ四時間。先程はだいぶ馬に無理をさせたし、教皇も眠っている。歩調を落として進となると、常歩でおよそ三時間強といったところか。
「途中で強制排出になっちゃうかな」
「かもしれないわね。その場合、この子達はどうなるのかしら」
『荷物と同じ扱いやで』
『ログアウト中は一緒に異次元に居る』
『プレイヤーが居なくなったとも思ってないから気にしなくて良い』
『テイミングした相手だと食料減るけど、NPCの場合どうなんだろ』
「なるほど……? 食料か……あったね、そんなの。アインは何も食べないからすっかり忘れてた」
『燃費が宜しい』
『羨ましい』
『でも見た目が……』
『アンデッドは弱点ほとんどなくてまさに理想の契約相手だよね』
『契約方法知りたいけどそもそも王都クエスト以外でアンデッドに遭遇しないもんなあ』
『犬型アンデッド居たら契約したい』
「犬型アンデッドかー。ちょっと良いね」
『良いのか?』
『絵面がますますネクロマンサー』
『ホラー駄目な割に自身がホラーになってるの草』
道中は割と暇なので、そうやって視聴者さんと雑談しつつ、一度強制排出ついでに夕食休憩を取りつつ。なんとか二つ目の村へと到着した。
「さっきの村よりは少し大きいみたいだけれど……やっぱり村と言うだけあって規模は小さいね。ここではメインクエストはないんだっけ?」
「一応他のプレイヤーからの情報だとメインクエストはなし、サブクエストとして色々頼まれごとがあるみたいね」
「うーん、マカチュ子爵領の件、もう少し何か情報を得たいんだけどな。このまま本当に子爵領迄何もないのかなあ……」
「そうねえ、メインクエストがあくまで子爵領の砂漠化の原因究明だとすると、他の地域に住んでいる人達から情報を得るのは難しい気もするけど……」
「でも近隣の土地に住んでるのだから、何か異変に気付いてそうなんだけどね。だって子爵領だけ急に砂漠化するなんて絶対おかしくない?」
『確かに』
『それなー。謎過ぎる』
「急な砂漠化……自然現象って考えるよりはこの世界観だと神の仕業とか何かの魔法とか……ロストテクノロジーの可能性もあるかな。そっちを疑った方が良いのかなあ。気候とか、人間が色々やり過ぎても砂漠化するみたいだけれど、急に数年でなったりしないと思うし一部の地域だけって言うのも不自然だよね、多分」
「現実世界の文明発達度ならならともかく、この世界の文明レベルで砂漠化させる程資源を消費しまくるのもちょっと早い気がするわよね」
僕の発言にヴィオラも意見を出してくれる。そうだよね、この国の文明発達具合は、せいぜい中世ヨーロッパレベル。魔獣みたいなファンタジーモンスターも居て、魔法や武力に頼り切りな分、医療も科学も発展具合は低そう。となるとやっぱりファンタジー要素が絡んでくると考えた方が良い気がする。
「うーん……まあ悩んでても仕方がないか。とにかく情報収集して進むしかないよね」
『まあファンタジー要素なら推測のしようもないな』
『乾燥しやすい地域っぽいし砂漠化してもおかしくはないけど、急になるのはおかしいね』
『皆詳しいんだなこういうこと。俺さっぱりだわ』
「僕も以前にちょっと調べたことがあるだけだから全然詳しくはないけれど。知ってる範囲の知識で考えると砂漠化する要因は見つからないね」
「それじゃあ、期待は出来ないけれど聞き込みとサブクエスト、ちゃちゃっと消化しちゃいましょうか。まずはこの子をどこかで休ませるところからね」
まずは宿を借りて、教皇をベッドに寝かせアインに留守番を頼んだ。それから僕達は聞き込み調査へ。それらが終わったら僕達も宿でログアウトする予定。睡眠不足によるデバフ発生迄はまだ余裕はあるけれど、次の町だか村迄の距離を考えると今休んでおいた方が良い。
「こっちの村はさっきの村よりも活気があるね」
「確かに……元々旅行者だけに頼ってなかったってことかしらね?」
「もしくは考え方の違い? さっきの村は旅行者を商機と見てたけど、こっちの村は保守的で、受け入れようとしないとか」
「まあ宿屋はあるから商売をする気はあったんでしょうけど……確かにさっきよりは店の看板が少ないわね」
とはいえ、元々店が少なかったのかというとそうではないのかもしれない。よくよく観察してみれば、建物の入り口には、看板をぶら下げていた名残ではないかと思われる突起が至るところにあるからだ。
「扉に看板の名残らしきものがたくさんあるし……砂漠化に絡んで、早々に店を畳んだのかも」
「ひとまず酒場にでも入って聞いてみましょうか」
「そうしよう」
「いらっしゃい。……二人か。あいてるところに適当に座ってくれ」
二人ということもあり、店主と話がしやすいカウンター席を選ぶ。店内は先程の村の食事処よりは混雑しているものの、外部の人間と言うよりはほとんど村の人々に見受けられる。
適当に飲み物と食事を頼むと、目論見通り、カウンター越しに店主が話しかけてくれた。
「あんたら、子爵領に行くのか? それとも王都に向かう途中か」
「子爵領へ行く途中です。こちらの村のお話を伺いたくて」
「ああ、そりゃ構わないが。見ての通り、うちの村は子爵領での異変を皮切りに殆どの奴らが店を畳んだからな、面白いものは何もないぞ」
「皆さん随分早くに決断をしたんですね。王都にほど近い村ではまだ店を休止するに留めていましたが」
「あそこはこの村よりも外部の人間に依存してたんだろう。……王都に一番近いということは、王都に向かう旅人が最後に身なりを整える場所でもある。逆に、王都からこっちに向かう場合も、王都で買い損ねたものを揃えたり、旅慣れない者が身体を休ませる場所でもあるってことだ。
この村の立ち位置を知ってるか? こっから子爵領に向かう場合、次に辿り着くのは大きな町だ。何かを買うにしても、宿や食事を堪能するにしても、金を落とすなら皆そっちを選ぶだろう。元々この村は余り旅人の支払いに期待してないのさ。せいぜい金を落として貰えるのは宿と食事処位だってな」
「なるほど。それで子爵領が砂漠化したと聞いて大半の人は店を閉めたんですね」
「もともとうちは比較的魔獣災害も少ないから、自給自足で成り立ってるんだ。店は農閑期の暇つぶしも兼ねててな。見込みがないなら別のやり方を探した方が良いってんで、皆今は次の暇つぶしを模索中だ」
最初の村は再び子爵領が元に戻ることを願って農業も余り本腰を入れていないように見えたけれど、ここは既に切り替えている。随分と合理的な考え方だ。子爵領側に町、王都側に別の村がある分、冷静に自分達の状況を分析してきたのだろう。
「そうですか。……ちなみにですが、子爵領での異変について、何か心当たりはありますか?」
「心当たりねえ……この村から子爵領迄は、町と村がそれぞれ存在している。子爵領と近い分、そっちで聞いた方が早いとは思うが……。そうだな、関係あるのかは全く分からないが、何年か前、まだ砂漠化の話を聞く前だ。ここの村を通った旅人の何人かが、皆口を揃えて「子爵領の地面が大きく揺れた」と言っていたか。怖いから王都の方へ移動する途中だなんだと酔っ払いながら話していたな。最初のうちは気にも留めなかったが、余りに皆同じことを言うもんで、そんなにひどい揺れだったのかと思った記憶がある」
「大きな揺れですか……。ちなみにその揺れは、この村では感じなかったんですね?」
「ああ、特に何も気付かなかったな」
となると、やはり地震ではない……。震源地が子爵領だったとすると、人々が驚いて子爵領を飛び出す程の揺れだ、この村も多少の揺れは感じてもおかしくない筈。
「……この国で地震はよく起こりますか?」
「あんたこの国の人じゃないのかい? まあ確かに格好からしてそうか。そうだなあ……この国で地震なんて滅多にあるもんじゃない。大きいのどころか、小さいのだってもう随分記憶にねえな」
日本人は地震に慣れきっているからこそ余り気にも留めないかもしれないけれど、店主の言葉を信じるなら、この国の人々は余り地震に馴染みがない。その上で記憶にないというのであれば、ここは揺れていなかったと断言出来るだろう。
「避難を考えるほどの大きな揺れがこの村に迄伝わらないと言うのは少々不自然ですね。地震じゃなかったのならなんなのだろう……」
「そう言われてみれば確かに変か。何かが爆発したとか、直撃したとかか? 魔獣なんかが現れた話は聞かなかったがな……」
店主さんも不思議そうに首をかしげている。原因不明の揺れと砂漠化は無関係なのだろうか。タイミング的にはその大きな揺れが元で砂漠化が始まったと見るのが正解な気はするけれど……。
「断言は出来ないけど、砂漠化と揺れは関係ありそうよね」
「やっぱりヴィオラもそう思うか。でも揺れ……揺れで砂漠化ってなんだろうなあ」
余計に謎が深まった気がする。
ピコン、と脳内で音が鳴り、画面上に【クエスト情報が更新されました】の表記。クエスト一覧を確認すれば、メインクエストの表記が微妙に変わっている。
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【メインクエスト】
依頼者:ポリーナ
依頼内容:マカチュ子爵領の調査。
ポリーナが言うには、数年前からマカチュ子爵領の様子がおかしいらしい。
どうやら突然領地全体が砂漠化してしまったようだ。ポリーナの村もその影響が大きいという。
彼女に協力し、マカチュ子爵領の調査を行おう。
マカーリオが言うには、数年前に子爵領で大きな揺れが起こったという。
砂漠化と関係があるのだろうか? マカチュ子爵領の調査を続けよう。
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『おっ』
『おお……』
『へえ、人から情報集めれば良いのか』
『他にメインクエストがあるかもって発想しかなかったな』
「ひとまず、次の町とか村でも変わったことはなかったか聞いてみるとして。可能なら子爵領で実際に揺れを経験した人からの話も聞きたいよね……」
「そうね。地震以外で逃げ出す程の大きな揺れなんて、全く見当もつかないし……」
食事を堪能し、お会計。情報提供への感謝の意を込めて僕達は少し多めに払った。店主さんがほくほく顔で「また来い」と言ってくれたので僕達としても嬉しい限りだ。
サブクエストを消化し終えた頃には現実時間で二三時。ヴィオラもそろそろ寝る時間なので、明日の集合時間を決めてから宿に戻ってログアウトを実施した。ちなみに次は大きな町だと言うので、明日はそこで砂漠での移動に備えて色々と買い物をする予定。