118.クエストの内容
活動報告やタイトルでお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、書籍化企画進行中となります。
レーベルや発売日などの詳細は今後随時お伝えしていきます!
詳しいことは活動報告に記載しておりますが、WEB版の連載は続けます。
仮に打ち切られたとしても!完結までは頑張っていく所存ですのでよろしくお願いいたします。
あとあのー、打ち切られないように書籍版の応援もよろしくお願いいたします(ボソッ
それに伴って、今後は誤字修正以外の修正優先度が下がると思います。
今後も「ここおかしいのでは?」や「今後の展開はこうが良い!」「戦闘描写はこうの方が……」と言った感想は大歓迎ですが、検討の上修正が適応されるのは書籍版になる可能性が高いかと思います。
「母さんと一緒にずっと王都内のどこかに住んでいた。母さんが仕事のときは、家でずっと留守番。大抵は数日で帰ってくるから、その間はご飯を作ってくれる人が来てくれるんだ。母さんが王都に居るときに、ほんの数回一緒に外出しただけだから、王都内についてもよく知らない。外は怖いところだって、母さんはずっと言ってた。身を守る術だからって、母さんから魔法を教わってた。いつか教えることがなくなったら一人で外に出ても良いって言われてたんだ。それでずっと家で練習してた……」
教皇は少し遠い目をして話し始めた。彼が教会に引き取られたのが十歳頃? それまでの十年間で記憶にある外出回数はほんの数回。どう考えても異常としか思えない。「外は怖いものだ」と教皇に言い聞かせ、彼の外出を認めなかった辺り、彼の母は何かに怯えていたとみえる。前教皇の息子ということを考えれば、教会を警戒していたようにも思えるけれど、それならどうして最初から彼を連れて王都を出なかったのだろうか。
「あの日、母さんはこう言った。『今度の仕事はちょっと難しくて、少し遅くなるかも』って。ご飯を作ってくれる人にも多分ひと月位お願いしたんだと思う。でも、ひと月経っても母さんは戻ってこなかった。その内、ご飯を作ってくれてた人も来なくなった。僕はお腹が空いて、母さんの言いつけを破って外に出た。お金がある場所は知っていたからそれを持って、使い方も何度か見たことがあったから、見よう見まねでご飯を買った」
そうか……、それがマカチュ子爵領での依頼だったのだろう。最初から長くかかると予想していた。ということは、もしかすると砂漠化の原因解明依頼だったのかもしれない。話を聞いていると、教皇のお母さんはかなり手練れの冒険者のように思える。そんな女性が戻ってこられないような事態に陥る場所へ、僕達は向かっている訳だけど……大丈夫だろうか。
「それで家に帰ったら、前教皇聖下が外に居て、僕に言った。『私がお前のお父さんだよ』って。何を言われてるかは分かんなかったけど、美味しいものを食べようって言われて僕はついていった。それから、父さんが生きてる間はそれなりに良い暮らしが出来た。三食ちゃんとご飯も貰えたし、神聖力の話もしてくれた。教皇の執務室への出入りは自由だったから、ときどき訪ねては本を読んだ。でも、僕を迎えに来てすぐ……半年も経たずに父さんは死んじゃった」
「そんなに早く? 一体どうして……」
「分かんない。皆、年齢的にいつどうなってもおかしくなかったって言ってた。それで僕のことを探していたんだって。見つかって安心したから気が緩んだんじゃないかって言ってたけど……」
それでもたった数ヶ月とは。……例えば大神官代理が何かをしたとか、何か作為があると考えてしまうのは僕だけだろうか。けれど二年前のこと。証拠が見つかる可能性は低いだろう。
「そこから、父さんの世話をしていた神官が僕の保護者になった。あとは蓮華様達も知っての通り。僕の世界は地下牢とあの部屋だけになった。母さんの言うとおり、外は怖いところだったって、その時になって初めて気付いた。それからずっと、外に出たことを後悔してる。けど、多分違うんでしょ? 怖かったのはあの神官達だけ。外の世界が全部怖い訳じゃない。だから、僕は外の世界のことをもっと知りたい。それと、母さんがどうなったのかも知りたい」
長く話した経験が余りないからか、話終わった後、教皇は何度か咳をした。その姿が痛々しくて、僕は彼の背中をさすりながら口を開いた。
「聖下、話してくれてありがとうございました。……母君の件、僕達も出来る限りのことはいたします」
そこからはひたすら進んだ。事前に聞いていた情報では、マカチュ子爵領迄徒歩でおよそ二十時間。それはさすがにかかりすぎるので、クリスマスパーティーのときに話した通り、馬を借りて移動をしている。当初の想定と違って一人増えたとはいえ、ヴィオラと僕それぞれの馬にアインと教皇を乗せている為問題はない。
『何度見てもシュールで笑う』
『背中に骨がしがみついてるって軽くホラーだよね』
『当たり前のように二人馬に乗ってるけど、蓮華くん確実にテイミングしてないんだよなあ……』
『乗馬熟練度も高いんですね(白目』
「乗馬も我が家では嗜みの一つだったから」
『嗜みとは』
『蓮華くんもはや開き直って適当な事言ってない?w』
『ヴィオラちゃんもテイミングじゃないんだろうなあきっと……』
「私は母国で嗜んでたから」
『嗜みとは……(二度目』
『それっぽいなって納得しちゃったけど、おかしいよなあ』
嗜みだったのは嘘ではない。ヴィオラもまあ、嘘ではないだろう。ただそれが現代日本の基準からしたらおかしいと言うだけ。僕の場合は変に噓をつこうとするとばれるので、さも適当に言っているような口ぶりで事実を話している。「その方が面白いし、かえって誰も信じないから大丈夫だ」という謎のお墨付きもヴィオラから貰っている。
だってねえ、テイミングしてます!と言おうにも、アインの存在が公になっている以上、どうしたってテイミングが出来ない事は周知の事実なので適当に誤魔化すしかないのだ。複数体のテイミングがどれ位の熟練度から出来るのか分からない以上、噓をつくわけにもいかないし。
舌を噛まぬ程度に視聴者さんと雑談をしながら進んでいると、あっと言う間に最初の村らしき風景が遠くに見えてきた。確か、ここ迄は徒歩だとおよそ三時間かかると聞いている。現時点で速歩と駆歩を使用しておよそ五十分程。
「うーん、やっぱり馬は早いなあ」
『何故あの速度で走り続けられるのか……』
『馬じゃなくてプレイヤー側のスキル的な意味で凄い』
『振り落とされる自信しかない』
「さて……と。この村には一個しかクエストがないんだっけ?」
「教会の件があったから、少し内容が変わってる可能性はあるわね。でも、私達よりも前に通った人から新たな情報も出てないし……ないのかも?」
『多分ないと思う』
『ちなみにクエストクリア者も居ないw』
「あ、そうなんだ? クエストの内容迄は聞いてないな、そう言えば」
「まあ、どうせ村に着いたのだし自分達で確かめてみましょう」
村に入ると、何となく活気がない。貧困にあえいでいるように見えるかというと、そうは見えないのだけれど全体的に疲労感が漂っていると言えば良いのだろうか。どこかもの悲しい雰囲気を感じる。
ひとまず、情報を収集する為に村の中をぐるっと回ってみる。たいして大きくもなく、ほんの十分程度で一周出来てしまう規模だった。気になることといえば、住人達の視線か。嫌な視線ではないのだが、どこかこちらを観察するような雰囲気を感じる。
そして気になるのが、村にある店。王都から徒歩で三時間……ゲーム内時間でいうと十時間ちょっと。丁度良い場所にあるので、村の規模に反して酒場や宿といった看板が多く目につくのだが、その半分以上が店を閉めているようなのだ。
「ふむ……ひとまず開いている店で情報収集、かな?」
「そうね、そうしましょう。ついでに王都ではお目にかかれないような料理が食べられればなお最高ね」
どこが良いなどの情報は分からないので、開いている食事処の扉をくぐる。
「いらっしゃい。三……四人で良いかい?」
一瞬アインを人として数えるか迷ったのだろう店主だが、ニッコリと微笑んで四人が座れる席へと案内してくれた。ゲーム内時間は丁度昼飯時の筈だが、店の中は閑散としている。
「誰も居ないね……」
「店主さんに話を聞くチャンスと言えばチャンスね」
教皇も何でも良いと言うので全員分――勿論アインを除く――、店主にお任せする形で注文。
「ところで、どうしてこんなに人が少ないんですか?」
『どストレートw』
『もうちょっとなんか……オブラートに包もうぜ』
『質問下手すぎw』
「ああ、もうここ数年こんな感じなんだよ、困ったことにね」
僕の失礼な質問に対しても嫌な顔一つせずに返答してくれる店主さん。いい人だなあ……。
「数年もですか。それは……マカチュ子爵領と関係が?」
「おや、知ってるのかい? そうさ。この村はずっと、子爵領方向と王都を行き来する旅人の休憩地点として賑わっていたんだけどね……ここ数年、突然子爵領が砂漠化したって言うんで、皆迂回するようになった。それでこの村もこんな有様……、土地自体は問題ないから、畑を広げてなんとかやっていってはいるけど、人で賑わうことがなくなって、なんだか村全体が魂が抜けたみたいになってね……」
「そうなんですか。それでいくつかのお店が閉まっていたんですね」
「ああ、店だけじゃやっていけないところが多くて。皆畑の方に本腰を入れ始めたよ。そうは言ってもほら、村に来る人間がゼロではないし、村人自体も食べに来ることがあるだろう。閉めるに閉めれなくてね、こうして細々と続けてるって訳さ」
「領主様から税の軽減などは?」
「ここら一帯……王都に隣接する土地は全て国が領主だよ。まあ、当然国の方にもマカチュ子爵領の話は伝わっているから税率は軽減して貰った。とはいえ、あれからもう数年経って、畑の開墾もすっかり済んだ。今年辺りから元に戻るってんで、またちょっと厳しくなるかもね。あんたらこれから子爵領に行くのかい? だったら分かる範囲で良い、砂漠化の原因を調べてどうにかしてくれないかい」
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【メインクエスト】
依頼者:ポリーナ
依頼内容:マカチュ子爵領の調査。
ポリーナが言うには、数年前からマカチュ子爵領の様子がおかしいらしい。
どうやら突然領地全体が砂漠化してしまったようだ。ポリーナの村もその影響が大きいという。
彼女に協力し、マカチュ子爵領の調査を行おう。
クエストが発生しました!受諾しますか?
※このクエストはメインクエストです。受諾しない場合、今後、クエストが発生しない可能性があります。
『受諾』『拒否』
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「なるほど、そういう……それは構いませんが、数年経っても原因が分からないのであれば、我々が調べたところで分からない可能性もありますよ?」
僕の言葉を許諾の旨と受け取ったらしいシステムが、「受諾」の文字を淡く光らせ、数秒後にクエスト画面全体が視界から消えた。
「良いよ、どうせ気休めだから。子爵領なんて遠いところのこと、私達にはどうにも出来ない。でも、私があんた達に頼んだことによってちょっとでも事態が進展すれば儲けものだろう? だからここを通る人達皆にとりあえずお願いしてるのさ。原因が分かろうが分かるまいが、また王都に戻るときにでも寄っておくれ。そのときはサービスするからさ」
そう言って陽気に笑う店主さん。うん、彼女のように明るい人が居るならそのうち、村の雰囲気も元に戻るのではないだろうか。
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