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11.初めまして、血が飲めない吸血鬼です

 約束の時間五分前にインターホンが鳴り、玄関扉を開けると、二人の若い男女が立っていた。


「十時にお約束をしておりました、ソーネ・コンピュータエンジニアリング社の者です」と女性。


「遠路はるばるようこそ。どうぞ、中へ」と応接間へと案内し、お茶を入れなおしに台所へ。既に和泉さんとは面識があるらしく、「お久しぶりです」などの挨拶が聞こえてくる。


 お茶を人数分――僕と洋士の分を除く――机に置き、僕も座る。和泉さんに紹介してもらう形で軽く自己紹介を。女性の方がソーネ社の代表取締役である早川さん、男性の方が技術担当責任者で小林さんと言うらしい。


 会話は和泉さん主導で進み、かつ、前にもソーネ側にて別の種族の方の為にコクーンをカスタムしたことがある為、今回の件についての説明自体は思いのほかあっさりと話は進んだ。


 さすがにコクーンの改造内容が、「吸血鬼なのに血が飲めないからGoW接続後に無意識に飲めるようにして欲しい」だったと分かったときはソーネ側も面食らった顔をしていたけど。うん、まあ、そうなりますよね。


 その後、実際にコクーンの改造方法を検討するにあたり、どうしても現時点で、僕が一度にどれ位の血液を摂取し、その状態ではどう言う脳波・心音・静脈データになるのかを観察する必要があると言われた。


 そこから洋士や僕も協力し、どの程度の血液をコクーン経由で摂取出来れば、人間同様の脳波データまで引きあがるのかの検討をしたい、とのことらしい。


「……じゃあちょっと血液飲んでくるので……少々お待ちください」


 完全に油断していたこともあって、覚悟を決める時間もなく、そのまま一気に飲み干したら、いつもは何とか飲み干せる量なのに、吐き気が襲ってきてしまった。


「ぐっ、うえっ」


 呆れたように溜息をつきながらも、洋士が背中をさすってくれている。いや、なんだかんだ優しいのは知ってるし、ありがたいんだけど、今は本当にその優しさ要らないんだよ、恥ずかしくて余計死にたくなるから!


 何とかいつもと同じ量を飲み終わって、コクーン内での測定は完了。心底申し訳なさそうな顔されたけど、別に小林さんのせいではないです、僕の体質の問題なので……。


「普段も今と同様二百ミリリットルを飲んでいましたか? およそ六時間のコクーン強制排出と同タイミングで心臓も停止する感じでしょうか」


「はい」


「なるほど……大変お伝えしづらいのですが、現時点での蓮華様の脳波・心音・静脈どれをとっても成人男性の平均値の三分の一以下となっています。


 これが原因でGoW内にて正常にプレイヤー判定されず、NPC扱いとなり、システムメニューなどのコンテンツが使用出来なかったようです。


 改善策としては和泉様もおっしゃっていた通り、血液の摂取量を増やしていただき、平均値まで持っていくことですが……単純計算をして、六百ミリリットル摂取をすれば本当に大丈夫なのか、などと言った検証を行ってから改造に着手したく。参考までに、洋士様の摂取量などはどれくらいでしょうか」


「朝昼晩三回、一回当たり一リットルだ。俺の場合は完全に食事の感覚で摂ってるから参考にはならないだろうな。他のやつも多分似たようなもんだ」


 洋士の発言に、小林さんは残念そうに頷く。


「となれば、やはり蓮華様にはかなり酷な話ですが……少しずつでも摂取量を増やしていただき、最適量を決定した上でコクーンの改造に臨むべきだと思います。


 それと、もう一点懸念点がありまして。現在コクーンで採用している栄養補給パウチの仕様としては、点滴のような形で、マイクロニードルを用いて皮膚に直接補給しています。


 ですが、蓮華様の場合、経口摂取が必須かと思われますので、かなり大がかりな改造が必要になります。


 蓮華様とは対面で何度かやりとりをする必要が出てくると思いますので……、コクーンの改造が終わるまでは、東京の方に滞在していただきたいのですが……」


「俺の家に住め」と洋士。


「ええ……」と僕。何をとち狂ってるのか知らないけれど、洋士の家はタワーマンションの上層にあって、日当たりがかなり良好なのだ、と先日の集会で誰かに聞いた。そんなところに短期間とはいえ住んだら、僕の日光アレルギーが大暴れしちゃうんだけど?


「タワマンの上層階でかなり日当たり良いって聞いたんだけど?」


「……お前が来るまでに遮光を完璧にしておく。俺の家からならソーネの本社まで車で五分程度だ。行くにしても来てもらうにしても、都合が良いだろう」


「それはすごいですね!」と小林さん。確かにひとくちに東京と言っても、範囲が広い。車で五分なら条件としては最高だろう。


「分かった、じゃあそれで。東京に行く日は悪いけど迎えに来て。一人で行ったら間違いなく日光にやられて別人みたいになるから……」


 引っ越し日程は追って連絡してもらう形でまとまったところで、振り子時計がボーンボーン、と十二時を告げた。と、その振動にやられたのか、小林さんと和泉さんのお腹が鳴るのが聞こえた。


「あ、一応皆さんのお昼ご飯を用意しているんですが、いかがですか?」


「是非!」と真っ先に声を上げたのは言うまでもなく和泉さん。


 美味しいと言ってくれるのは素直に嬉しいけれど何だか、だんだん僕の中で和泉さんは内閣官房副長官と言うよりただの食いしん坊なイメージになってきたなあ。


 でもそのおかげで、躊躇してた早川さんと小林さんも食べてくれることになった。


 まあ、これが普通の反応だと思う。普通は吸血鬼と聞いたら躊躇するよ。その辺りは和泉さんが、洋士と旧知の中と言うのが影響しているのだろうけれど。


 洋士以外の分の料理を運び終わったら、みんな驚いた顔で僕を見た。


「お前も食べるのか?」


「うん。さっきの血液補給でちょっと体調悪いから、お口直し。まあ、多分一食くらいなら大丈夫でしょ」


 まあ、それもあるけれど本音を言えば、ただ食べたかっただけである。食材買いに行った段階で、実は食べる気満々だったんだよね。だってまだゲーム内では手に入りにくい食材ばっかり選んじゃったんだもん。我ながら上手く出来たと思うし、食べなきゃ後悔するよなあ、って。


 先程の血液補給とは違って、美味しそうに食べてる僕を、みんなちょっと変なものを見る目で見てたけど、なんですか、そんなにおかしいですか?


 お昼ご飯を食べながら聞いた話によると、コクーンが完成するまではNPC扱いのままとのこと。基本的に稼働しているGoW内のシステムはAI依存の為、一人だけ手動で属性を変えると言うことが難しいらしい。


 現状六時間間隔でしかログアウト出来ないこと以外は特段困っていないので、僕としては問題ない旨は伝えておいた。


 ちなみに、NPCの死亡に関しては、誰かが蘇生系の神聖魔法や、リザレクトポーションを使用しない限り、そのまま天に召されてしまうらしい。けれど、僕に関しては暫定対処として、GMが蘇生してくれるとのこと。その為に交代で僕の行動を監視するらしく、何だか申し訳ないなあ。


 午後も少しだけ聞き取り調査やデータを取得して、全員が帰っていったのは午後二時過ぎ。


 洋士とは引越しに関するやり取りの為に、メールアドレスを交換して解散した。勿論、六時間間隔でしかレスポンス出来ないことと、そもそも変なところを押したりして、メールの送信が失敗する可能性は伝えておいた。ため息をつかれたのは言うまでもない。

「面白い」「続きが気になる」など思って頂けたら

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吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2巻

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませていただいてます‼︎一気読みします‼︎ [気になる点] 気になったことを一点だけ…これからの展開ででてたら申し訳ないですが、蓮華さんが過去探して見つからなかった別種族がいること…
[一言] パソコンの画面にメール画面と、タッチパネルの絵を書いて、ここを押す、ここを押す、と、番号振られたりして
[一言] 基本同族の血肉は摂取によって病気を得たり、個体数維持、種族繁栄などの都合上本能で拒否するため、口にすると拒絶反応が出やすいんだとか。 無論例外は幾つもあるんですが。 案外蓮華氏は人間の感覚…
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