113.効果を確認してみようか
コメント欄の賑わいっぷりが気になる為、そうそうに孤児院を辞して道中に皆に質問をする。
「限定称号とか装備効果とか何を言っているのか分からないし、何で皆が騒いでいるのかも分からないので説明お願いします」
『そこからw』
『いや、まあ、知ってた』
『簡単に言ってしまえば他の人が手に入れられない装備と思えば良いかも』
『「称号」って言葉で混乱するかもだけど、効果があるならもう「装備」って認識で良いと思う』
『このゲーム、称号手に入ったところで見た目変わらなさそうだしね』
『他のゲームなら頭上のキャラ名の前に称号が表示されたりするんだけどこのゲームキャラ名表示がそもそもないからね』
『多分限定称号自体は他にも持ってる人が居る筈だけど、基本的に同じ称号はない筈だからかなりレア』
なるほど、ワールド初とかじゃないならまだセーフかな……? 前回のダンジョンはワールド初だったらしく、だいぶお祭り騒ぎだったし正直な話なるべくなら目立ちたくないのでね……。まあ今更なのだけれど。
「ほうほう……つまり僕の場合は「少年達の救世主 蓮華」となるけれど、そもそもそれが表示される場面がほとんどない、と。で、称号を装備するだけでパラメータが上がったりとかそういう効果があるから、実質ただの装備って認識で良いってことね。おっけー、それじゃあ効果を確認してみようか……あ、待てよ」
『お?気付いちゃった?w』
『キャラクター画面は見せらんないよなw』
『いやいや、間違えて熟練度画面開かなきゃ良いだけだから』
『蓮華くんなら事故りそうだけどね』
「いや、そうだよね、うん。大丈夫。キャラクター画面開いただけじゃ熟練度は見えないから平気平気。えーと? キャラクター、装備、称号……これか。あれ、今回の称号以外にもいくつか存在してるけれど、こっちは装備効果がないんだね。で、今回の称号の装備効果はMND+1。おー……また出たよこの形式。なんか文章も書いてある……、『少年達を救った証。彼らに恥ずかしいところは見せられないという強い思いが君を突き動かす』」
『www』
『謎形式出た』
『熟練度制という価値観を壊してくるスタイル』
『早く装備効果が調べられるロストテクノロジー見つけたいね』
『フレーバーテキストが草w』
『通常称号は告知無くて気付いたら増えてる。装備効果は無いものが多い』
「ロストテクノロジーを見付ける為には古代文明のダンジョンが手っ取り早いんだっけ。まだまだ道のりは長そうだね」
フレーバーテキスト。なるほど、要は補足説明みたいなものなのかな。確かにパラメータが上がるのには理由が必要だもんね、うん。
通常称号については、前回と今回、王都クエストに参加したときに入手したのだろう、「王都を守りし者」と「正義の鉄槌」。どちらも装備効果は確かについていない。
『古代文明とか難易度高そう』
『メカ系が出て来そう』
『MNDならマインド……精神力っぽいよね。魔法使う蓮華くんには指輪のINTといい、その称号といい、相性は良さそう』
『でも装備した熟練度は見せてくれない、と』
「まあ……さすがにねえ。配信外のところで称号オンオフして確認してみるよ」
『続報期待』
『期待』
「まだ夕飯って感じの時間ではないか……、デンハムさんのところに行って、武器の進捗でも確認してみようかな」
『良いね』
『とんでもないものが誕生してそう』
視聴者さんの言う通り、先日の一件がデンハムさんの闘争心に火をつけて、カラヌイ帝国の鍛冶師よりも業物を生み出してそうで怖いんだよなあ。勿論業物が手に入るのは喜ばしいことだけれど、有り金全部を差し出しても足りないのではないかと思うと、今後のプレイ進行に支障が出てしまう。
歩くこと暫し。まあ、デンハムさんのところに行くのであればギルドから直行した方が近かったのだから仕方がない。きちんと計画を練らずに適当に行き先を決めるとこうなります。
「こんにちはー……」
「おお、あんたか。頼まれたものならいくつか出来てるぞ」
「本当ですか!」
「残念ながらお前さんが泡を食うような一品は出来なかったがな……ほれ、これだ」
『圧巻』
『すげーw』
『残念、業物はなかったか。蓮華君が慌てる姿が見たかった』
デンハムさんはそう言うけれど、この段階で現在使用しているプレイヤーメイドの日本刀よりも断然質は高い。当然、今後の主力武器はこれらのどれかとなる。
「凄いですね。本当にカラヌイ帝国の方じゃないんですか?」
視聴者さんの言う通り、光り輝く日本刀が並ぶ姿はまさに圧巻。自分で言っておいてなんだけれど、折れること前提で大量に発注したと思うと何となく悲しいものがある。先日はああ言ったけれど、デンハムさんの気持ちにも応えたいし、なるべくは無理な使い方をせず長く使っていきたいところ。
「よせやい、持ち上げたって何も出ないぞ。ところでお前さんは魔法なんかは使うのか? エンチャント仕様に仕上げたりはしないのかい」
照れるデンハムさん。突然の話題転換は照れたのを誤魔化したかったのが丸わかりだけれど、エンチャントの話は興味深いので喜んで乗っかっておく。
「ああ……そう言えばエンチャントには魔核が必要なんでしたっけ」
そうそう、最初に師匠から「普通の武器へのエンチャントは武器の損傷が激しい」と聞いた段階で「刀の入手難易度は高そうだから絶対にやめよう」と思っていたのですっかり忘れていた。デンハムさんに制作を依頼するのであれば、当然エンチャントに耐えられる仕様にも出来るのだ。
「ああそうだ。何か魔核は持っているか?」
「今あるのはこの辺りですね……」
東の森でダンジョンに迷い込んだ際に入手した、ツリーマン、ドライアド、ヤテカルの魔核。それらをインベントリから取り出し、デンハムさんの前に差し出した。
「ふむ……属性は全て土か。あまりお前さん向きじゃない印象があるが……」
「そうですね……僕がよく使うのは火、それから風……あとは闇。真空とかの基本元素以外の魔法も少々」
「なるほどなあ。今うちにあるのは火の魔核位だが……最初だ、試しにつけてみるか?」
「あ、はい。是非お願いします」
「まあ、つけるのに一日ってところだな。一応軽く説明しておくが、装備に魔核を埋め込み、自分の魔力を注ぎ込むことでエンチャントが発動する。その際、エンチャント効果は魔核の質と本人の魔力量によって決まる。質の悪い魔核を使えば注ぎ込める魔力の最大量も少ない。その逆に、いくら魔核の質が高くとも、本人に魔力が皆無であれば満量迄注ぎ込めず、効果は半減する。ここ迄は良いか?」
「はい」
「武器のエンチャントを発動すれば、武器の威力向上、速度向上辺りが基本的には発動する。その他に本人のイメージ次第である程度のことは出来るが、魔核の属性以外のことは出来ない。炎の剣なんてえのは誰でも一度は試してみたいもんだろうが、これは火属性の魔核を埋め込まなきゃ出来ねえってことだ」
『なるほど』
『想像しただけで既にかっこ良い』
「エンチャントは武器だけじゃない、アクセサリや防具にも出来るが……基本的には金属プレートか革だな。布は俺はよく分からんから他を当たってくれ。まあ、複数部位のエンチャントを同時に制御なんてのは至難の業だ、大抵の奴らは一番扱いやすい武器のエンチャントを好むがな」
『防具のエンチャントは身体能力向上とかかな?』
『防御力も上がりそう』
『守りを強くするか攻撃を強くするか……悩ましいところだな』
「ま、使い方に関してはこんなもんだ。あとは自分で試してみるんだな。魔核の埋め込みについての注意点だが……、一度つけると外すことが出来ない。……なんてことはないが、外すのはちっと面倒でな。大体どこも手数料が馬鹿高え。質の悪い魔核なら、わざわざ取り外さずに魔核を店で買った方が安く済むレベルだ。その辺りはよく考えろ。そうだな……お前さんが持ってきた魔核の中で、取り外してでも使った方が良いような質の高いもんは、これ位か」
そう言ってデンハムさんが指差したのはヤテカルの魔核。なるほど……ダンジョンボス級の魔核以下は手数料以下の価値ってことなのか。手数料がどれ位かは分からないけれど、魔核自体はそこ迄希少なものではないのかもしれない。
「分かりました。ひとまずエンチャント武器の使い心地も知りたいので、デンハムさんがお持ちの火の魔核を、作っていただいた刀の中で一番質が良いものに埋め込んでいただけますか?」
「おう、任せな。明日のこの時間迄には仕上げとくぜ。なんなら土の魔核でもう一本作っておくかい?」
確かに東に遠征するのであれば暫くは戻って来られない可能性がある。何があっても対応出来るように、土の魔核でもう一本エンチャント仕様を作っておいて貰うのも良いかもしれない。万が一使い勝手が悪くても、魔力さえ注ぎ込まなければ、普通の刀として使えるのだろうし。
「はい、ではお言葉に甘えて。お願いします」とボクはツリーマンの魔核のうち一つをデンハムさんに手渡した。
「はいよ。……ああそれから、最後にもう一つ。世の中には無属性の魔核ってもんがあるらしい。並の冒険者であれば一生に一度お目にかかれるか否か、ってところだがあんたならそのうち手に入りそうだからな、一応説明しておく。……無属性の魔核は文字通り属性がない。魔核の属性に縛られず、使用者のイメージ通りの属性魔法が行使出来るらしい。無属性の魔核そのものが質が高いものしか存在しないからな、攻撃威力や速度向上なんかも他の魔核とは桁違いだ」
「それは凄いですね。無属性の魔核を持ったモンスターというのは決まっているのですか?」
「いや、手に入れた奴らの言うことがそれぞれバラバラだからな……、特定の種族が持つんじゃなく、突然変異種なんじゃないかって噂だ。真偽の程は分からんがな」
『これは熱い』
『見た目が他と違うモンスターなんかは優先して倒した方が良いのか』
『フィールドボスってことでは?』
『返り討ちに遭う奴か……』
「なるほど……興味深いですね。色々教えていただき、ありがとうございました。また明日来ますね」
「おう、またな」
代金は明日一括で払うことにして、今日は何も受け取らずにその場をあとにした。ゲーム内で明日ということは、ヴィオラと一緒に東に出発する前には十分完成している計算だからだ。
時間も丁度夕飯時。アインと夕飯でも食べるとしよう。