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102.足手まといだったかも

ぎ、ぎりぎり日付が変わる前に投稿できました;

 時刻は四時を回った頃。玄関のロックが解除された音が微かに聞こえてきた。どうやら洋士が帰ってきたようだ。


 玄関へと向かうと、疲れきった洋士の表情。その中にどこか焦りらしき様子が見て取れたので、僕は何があったのか聞こうと口を開きかけた。けれど、それよりも先に洋士が質問をしてきたので聞きそびれてしまった。


「何だその小っこいのは……」


 不愉快そうな表情で僕の肩にちょこんと座っている千里さんを見つめている。


「ん……ええと、お客様? いや、居候予定者?です」


「……全く意味が分からないから一から説明してくれ」


 リビングに向かいながら僕に言う洋士。なんかイライラが滲み出てませんかね、気のせいですか? ほら、千里さんも震えているんですが……。


 三人でソファに座ってからかくかくしかじか、ひとまず千里さんの登場から順を追って説明。本人たっての希望でもあるし、僕としては千里さんに住んで貰いたいということを主張しつつ、家主は洋士なので許可をして欲しいと伝えた。


「……つまり食事が必要だということだな。おいちび、お前何をどれだけ食べるんだ?」


「ちびではないのです、こうみえて大人なのです! あの、そのーですね、私の身体と同じ位は欲しいと言いますか……、あと食材そのままも素朴で良いのですが、飽きてしまったので出来ればしっかりと調理してある方が良いと言いますか……」


「低姿勢に見えて図々しいな。……だそうだが、俺達は料理なんて食べないだろう。どうするつもりだ?」


 僕に向けて問い掛ける洋士。千里さんの身長は贔屓目に見ても十五センチ位。食べ物に換算するにしても……コンビニなどでよく見かける、エネルギーバー程度のサイズではないだろうか。その体積分の料理を僕が作るにしても、少なすぎて逆に手間だったりする。うーん、いっそのことヴィオラの分も一緒に作るとかなら楽なのだけれど。


「ヴィオラに聞いてみないと分からないけれど、彼女の分と一緒に作るのであれば手間じゃないし、全然大丈夫だけど」


「……あんたが作る必要があるのか? それなら最初からあの女のところに住まわせてあの女に食事の世話もさせた方が早いだろう」


「駄目だよ、僕のお客さんなんだし。それにねえ、本人に面と向かっては言えないけれど、傍から見ているとヴィオラの食生活がちょっと心配というか何というか、何かしら理由をつけて僕が作ってあげたいだけなんだよね。あの不摂生は今に病気になるレベルだよ、本当に」


「くそ、あの女がまともな生活さえしていれば……」


「何か言った?」


 血液摂取してから六時間程経過してしまっていたのか、小声でぼそりと呟く洋士の声は聞き取ることが出来なかった。


「いや、何も。ところで、お前はブラウニー……家妖精の類いなんだろう? 食事の代わりに何をしてくれるんだ?」


「そこなのです……普通は家事一般をこなすのですが……ここのおうちはどこもかしこもピカピカで、私が手出し出来る場所が見つからないのです……」


 しょんぼりとうなだれる千里さん。何と言うことだ、洋士が雇っているハウスキーパーさんのせいで千里さんの居候計画が水の泡になりかけるなんて。こうなったら僕があえて部屋を汚してみる、とか……!?


「それなら隣のあの女の部屋でも掃除をしてくれ。あそこも一応俺名義の部屋だ、扱いが悪くてガタが来たんじゃ目も当てられないからな」


「先程から話に出てくる女性はヴィオラさん、ですか? ま、まさか配信に出てくるあのヴィオラさんなのです!? 隣に住んでいるなんて、れ、蓮華様とはどういう関係で……?」


「関係なんて何もない! エルフだから俺達が保護しているだけだ」


 少し声を荒げながら洋士が言う。洋士は相変わらずヴィオラのことが好きじゃないみたい。あんなに良い子だし、世話をすると言い出したのは自分なのにどうしてこんなにも毛嫌いするのか、僕には全く理解が出来ない。


「ちょっ、洋士、そんな勝手に人の個人情報を喋っちゃ駄目だよ! それにヴィオラと関係がない訳じゃないでしょう、と、と、友達なんだから、うん!」


 多分! 友達、だよね? あれ、そうだよね……? ヴィオラがそう思っていなかったらどうしよう……。


「何故そこで動揺するのです……? はっ、まさか大人の関係……! エルフと吸血鬼! こ、これは何杯でもご飯がすすむ匂いがするのです」


 千里さんは千里さんで何やら意味が分からないことを言っている。エルフと吸血鬼だからご飯が何杯もすすむ? 最近の子の言葉使いはいまいち良く分からない。千里さんが何歳かは知らないけれど、僕より年上ということはないだろうし、多分若者言葉の筈。


「……まあ良い。本来なら帰ってすぐ報告することがあったんだ。馬鹿話はこの辺でしまいにしてくれ、俺と父さんに迷惑をかけないなら住むのは許可してやるから。……父さん、よく聞いてくれ。例のライカンスロープが行方不明だ。あっちの種族も総出で行方を追ってはいるが、足取りが全く掴めない。今も連絡が来ない辺り、進展はない筈だ。もしも原初の人々に捕まったのなら、県くらい余裕で超えられる。あいつらは自分が触れた対象も変身させることが出来るらしいからな。

 で、だ。結局また話が振り出しに戻る。他に斥候が居ないか探す必要はあるし、あの坊主がどこに居るのかも探さなければならない。とにかく人手が足りないんだ。あんたから話は聞いていたのに、俺の失態だ。見つかったとしても、もしかしたらもうあの坊主は……」


「人手が足りないのです? 捜し人なら私が役に立てるかもしれないのです」


「……どういうことだ?」


 噓を言ったら承知しない、そんな表情で洋士が千里さんを睨み付ける。切羽詰まっているのは分かるけれど、協力しようとしている子を睨むのはやめて欲しい。ほらまた千里さんが震えてる。


「せ、千里の名の由来は千里眼から来るのです。私は他の妖精族の眼を借りることが出来るのですよ」


 洋士の圧力に屈せずに胸を反らしながら千里さんが言う。


「……っ、どれ位の距離迄なら探せそうだ?」


「千里の名は伊達じゃないのですよ。およそ三千九百キロメートル。日本国内であれば私の眼から逃れることは出来ないのです。勿論、場所によっては妖精族が居ない可能性もあるですが、基本的にはカバー出来ると思うのです」


「悪いが今すぐ協力してくれ。俺達への恩返しはひとまずそれでチャラだ」


「はいなのです! 蓮華様の居場所もこの能力で突き止めたのです、任せるですよ!」


 ……ほう。何だろう、素直に喜べないこの感じ……。僕が最後に外に出たのってお墓参りだけど、同居人が居ることを知らなかったみたいだし……ってことは黎明社に謝罪に行った日、かな? 随分と前から見張られていたのだと思うと複雑な心境……。いや、でも黎明社に行った日から計算すると随分経っているよね? 下調べもせずに突撃してきたって言うからにはここ数日の話だと思うのだけれど。むむむ?


「坊主の写真ならここにある。これで探せるか?」


 僕が馬鹿なことを考えている間にも、洋士と千里さんはガンライズさんを捜し始めた様子。千里さんの眼が先程迄の焦げ茶色から、綺麗な金色へと変わっている。どうやら他の妖精の眼を借りているみたい。


「ここは違うのです……違う……これでもない……」


 次々と映像を切り替えていく感覚なのか、想像よりも割と速いテンポで違うと断ずる千里さん。もし、千里さんの同族が居ない様な場所に逃げ込んでいた場合は? 今見た場所以外を人力で探すしかないのだろうか。その間、ガンライズさんは無事で居てくれるのだろうか。


「これ、は……吸血鬼なのです、人間を襲っているのです! けど相手は写真とは違うのです……」


 千里さんの声に動揺が混じる。誰かの目を通して間近でグロテスクな場面を目撃してしまったのだろうか。慰めてあげたいけれど、今は邪魔になるだろう。申し訳ないけれど、千里さんには引き続きガンライズさんが見つかる迄確認して貰う方を優先して貰うしかない。


「あ、あ、居たです!」


「どこだ!? どっちの場所も教えろ」


「に、人間を襲っている吸血鬼は神奈川県なのです。写真の人が居るのは青森県なのです」


「青森だあ!? 俺達じゃどう頑張ったって一時間以上かかるぞ……それじゃ間に合わないかもしれない」


「一人だけなら妖精族の元への道を私が開けるのです」


「なら僕が行く」


「あんたは駄目だ!」


「冷静になって考えて。今すぐいけるのは僕か洋士だけ。洋士の戦闘能力を考えたら僕が一人で行った方がどうにかなる可能性は高い。そうでしょう?」


「そ、それはそうだが……!」


 僕の言葉に洋士はたじろぐ。洋士は日本刀のセンスがない云々ではなく、戦闘にかかわる能力全般が他の仲間より低い。だから一人しか行けないという事実に僕の方が適任だと頭では分かっている筈だ。洋士はヴィオラの護衛云々を理由に僕が参戦することを止めているけれど、結局のところ、多分僕が怪我をしないかが心配なだけだと思う。


 だけど今は、そんな洋士の心情に構っては居られない。洋士がもっともらしい理由を思いつく前にと、僕は大急ぎで部屋から愛用の日本刀を持ち出した。


「千里さん、お願い」


「で、でも……」


 千里さんも決定権が洋士にあることを薄々察しているのか、ちらちらと洋士の方を見ている。相変わらず駄目だと言いつつも、洋士の言葉にはいつもの断固とした意思は感じられず、長としての自分と私情との間で苦悩しているようだ。そもそも洋士には僕の行動を止めるだけの武力は元よりない。あるのは長と言う立場からの命令権だけ。だから、僕が自分の意思で命令を違反すると決めてしまった以上、どうにもならないと洋士の方も分かっているのだ。


「洋士。長の命令に逆らう罰は帰ってから聞く。今は人命優先だよ。……千里さん、お願い」


「わ、分かったのです! 開け、妖精の道!」


 視界が目映い光で覆われたかと思えば、次の瞬間には一面雪景色。……靴とコートを用意してきた方が良かっただろうか。体感的には寒くないけれど、視覚的にとても寒い。どうやら雪山らしい。


 ガンライズさんはどこに居るのだろうか。ここが先程千里さんが視界を借りたという妖精族が居た場所なのであれば、この場所から見える範囲に居る筈。ぐるっとその場で一回転。そして気付いてしまった。今の僕は血液摂取の効果が失われていることに。やばい、夜目も利かなければ身体能力も人間並。勢い込んできたけれどかえってガンライズさんの足手まといだったかもしれない……。

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吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2巻

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ん~、これは、ガンライズ君餌におびき寄せられた可能性もありにけりかな? で、敵さん出てきて、前にライカンスロープが日本の吸血鬼を早とちりで襲っちゃったって話と 蓮華君がお墓参り行ったと…
[一言] 家政婦は賄い付き(笑)
[一言] 息子はどうしても父との二人生活を維持したいそうですw >蓮華様の居場所もこの能力で突き止めたのです アカン能力がアカン奴に付いたw >血液摂取の効果が失われている あれだけ啖呵を切ったの…
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