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96.どういう意味でしょう?

「蓮華さん、マリオット公爵が怪しい動きをしてる」


 そう言いながら僕の元へとやってきたのはガンライズさん。実は彼とナナにはヴィオラ経由でいくつかの頼み事をしていて、今回攻撃隊とは別で動いて貰っていた。その内の一つが教会の見取り図の確認。これのおかげで非常に助かった。


 そしてもう一つが、マリオット公爵とフィアロン公爵の行動監視だ。


「マリオット公爵は私兵を王都中に放ってる。タイミング的に大神官代理の捜索に協力しているのかとも思ったけど、動きが速すぎるし何より、攻撃隊参加者の行動を阻害しているとしか思えない。フィアロン公爵も怪しいといえば怪しいけれど、強いて言うならマリオット公爵の行動を妨害してる感じかな」


「阻害?」


「ああ。攻撃隊参加者の側に現れては『ここは自分達が調べるから他を探して欲しい』と」


「なるほど……マリオット公爵が大神官代理を匿ってるとみて間違いなさそうかな? 多分王都脱出を手助けする為に私兵を使って僕達の動きを誘導してるんだ。そしてフィアロン公爵がそれを妨害、か。そっちは白、なのかなあ……」


「フィアロン公爵はこの件に関わっていないんじゃないかしら。ただ、気を付けて。味方だとは思わない方が良いわ」


 すっかり全身の治療が完了し、満足げに微笑んでいたフェリシアさんが言う。


「それはどういう意味でしょう? フィアロン公爵には別の企みがあると?」


「大きな声では言えないけれど、要するにそういうことよ。彼も多分、王位を狙っている。自分と同じ立場のマリオット公爵が教会と手を組んで一歩抜きん出ていたところに、今回の不祥事で立場が怪しくなった。当然二人の邪魔をして司法が裁くのを望んでいる筈よ。でもそれだけ。この件が終了すればあの手この手で自分の継承順位を上げようとするでしょう」


「なるほど、今回はたまたま僕達と同じ目的なだけということですね。肝に銘じておきます」


 とそんな話をしている最中、視界左上にある攻撃隊参加者名一覧の様子がおかしいことに気がついた。何名かのプレイヤーが死亡したらしくプレイヤー名がグレー表示に。他のプレイヤーの一部もHPが現在進行形で削れているようだ。襲撃だろうか。


「皆、何かあった? 随分と状況が悪そうだけれど」


『隊長、襲撃だ! 下水路で俺達が生け捕りにして治安維持隊に引き渡した筈のごろつき達が暴れてる』


 つまり、誰かが彼らを解放した。教会側のプレイヤーか、混乱を引き起こす為にマリオット公爵家の人が手引きしたのか。いずれにしても下水路で生け捕りに出来たのは数の利があったからで、王都中に散らばって各人で捜索している今、分は向こうにあるということだ。


「出来るだけ集団で行動して。それから今入った情報だけれど、マリオット公爵はどうやら大神官代理の逃亡を手助けしているみたい。居るとしたら彼らの私兵が邪魔をした場所に居ると思う。でも気を付けて。教会と結託しているということはつまり、私兵も毒とか、そういう卑怯な手段を使ってくる可能性はある。解毒ポーションが心許ない人は支援部隊から受け取って。

 あと、ごろつき達を解放したのがマリオット公爵家の者とも限らない。引き続き警戒してね」


『『了解』』


『こちらヴィオラ。ギルドへの報告は一旦完了。バートレット侯爵からの追加依頼もあったみたいで、ギルド側からの追加要員も捜索に参加することになったわ。私も今から向かう』


 大神官代理の悪事が露呈してしまった以上、二人がずぶずぶの関係であればある程、大神官代理が捕まった段階でマリオット公爵も裁かれることになる。この件の結末として一番良いのは大神官代理とマリオット公爵、両名が裁かれること。でも現時点ではマリオット公爵の悪事の証拠は一切見つかっていない。唯一の証拠は「ユアマジェスティ」と呼ばれて否定しなかったことだけ。これではさすがに弱すぎる。


 現在この件を取り仕切っているバートレット侯爵家も、格上である公爵家を大っぴらに追及することは出来ないだろう。司法も王家の血筋である公爵家相手にどこまで本気で捜査をするのか怪しい。つまり、犯した罪よりも殺人のが軽いのであれば、公爵は大神官代理を亡き者にして罪を揉み消す選択肢もあるということ。今回の私兵投入も捜索に協力していたと言い張ればどうにでもなるしね。


「分かった。僕も侯爵家の兵士達と話がついたら捜索に合流するよ。それから、公爵家が裏であくどいことをしているとしても、現時点でそれを証明出来るのは大神官代理だけ。彼が死ねば最悪、公爵は罪に問われない可能性はある。自分可愛さに大神官代理を害する可能性がある以上、なるべく公爵家の動向に気をつけつつ阻止して欲しい、無理のない範囲で」


 正直に、指示出しばかりしていると申し訳ない気持ちになるのでさっさと僕も捜索に参加したい。けれど侯爵家の兵士が到着していない以上、まだここを離れる訳にもいかない。


「ねえ……捜索に加わるつもりなら僕も連れて行って欲しい、です」


 おずおずと、しかし確固たる意思を感じさせる声音で教皇が口を開いた。


「聖下をですか? 理由をお聞きしても?」


「貴方は、公爵があの男を殺す可能性があると言った。僕としてもそれは困る。僕は教皇とは名ばかりで、全てあの男が取り仕切っていた。しっかり引き継ぎをしてからでないと、大事なお役目に関する情報が失われかねない。もし万が一あの男が殺されたとしても、僕なら助けることが出来るから連れて行ってください」


「それはつまり……蘇生魔法が使えるということですか」


「うん……。今のところスクロールに封じ込めたことしかないから、実際に上手く発動したのをこの目で見たわけじゃないんだけど。でも、上手くいっている感覚はあるから。何かあったら僕に任せて欲しい」


「そういうことなら僕としては構いませんが……聖下が教会から出ても問題にはなりませんか?」


「駄目と言われても僕は行く。今迄ずっと閉じ込められていたんだ、多少の好き勝手すら許されないなら今度こそ僕はどうにかしてここから逃げる」


 教皇の宣言に、神官達はざわめき、どうすれば良いのか判断に困っているようだった。それはそうだろう、本来教会内で決定権が一番高いのは大神官。その彼が言い出したことを止める訳にはいかないけれど、危険なのを分かっていて止めない訳にもいかないのだ。まだ彼は幼く、跡継ぎがいる訳でもない。彼に何かがあれば今度こそ教会は混乱に陥るだろうから。


「そういうのは好き勝手とは言わないんですよ。大神官代理を捕まえて仕事を引き継いだ上でしっかりと罪を償わせる。これは貴方の個人的なわがままではなくて、王都を混乱に招いた教会として最低限しなければならないことの範疇ですからね」


 頑張っていた神官達には申し訳ないけれど、教会という組織自体を批判することで遠回しに教皇の行動を支持し、結果として彼らが教皇を止められない状況へと持っていく。それが分かっているからこそ神官達も僕の発言を咎めることをしなかった。


「大神官猊下の言うことはもっともです。我々も全ての職務は把握出来ておりません。特に、教皇の職務については機密事項が多いですから。長年先代にお仕えし、現在は代理で業務を行っていた大神官代理に聞く必要はあるでしょう。ですが、猊下は治癒の力が強くとも、御身を守る術は少ない筈。何卒、蓮華様のお側を離れることなく、蓮華様からの助言は聞き入れるようお願いいたします。それから侯爵家の兵士の方々にも同行をお願いしなければなりませんね」


 教皇というよりは子供に言い聞かせるような口調になってしまっていて無礼に聞こえるが、彼らなりに教皇の安否を心配しているのだろうから僕が余計な口を挟むのはよそう。教皇本人も気に留めている様子もなく、真剣な面持ちで頷いている。彼らのような人々が今後教会の中枢を担うのであれば、少し時間はかかるかもしれないが、教会は本来有るべき姿に戻ることも十分可能にみえる。


 傍らでえいりさんも微笑んでいる。すっかり溶け込んでいて忘れていたけれど、彼女はプレイヤーなんだよね……どういうスタンスで動いているのだろう。いや、教皇を守るのに必死だったのは分かるのだけれど、どういうクエストが発生していたのかが気になる。


「えいりさん、一つお伺いしても良いでしょうか。貴方は冒険者として依頼を受けた訳ではありませんよね? 今回の王都クエストに関して、どのようなクエストを辿ってこの場に居るのか、差し支えなければ教えていただきたいのですが」


「あ、そうですよね。私ったら大神官猊下のことしか考えていなくて……。ええと、仰る通り私は冒険者ではありません。多分途中迄は他のプレイヤーと同じメインクエストを辿っていたと思いますが、王都に辿り着いてからは好き勝手に行動をしていました。

 ヒーラーになりたかったので教会を訪ねて、『神官見習い』になったんです。そこからは言われるままに掃除したり洗濯をしたりする生活をしていたのですが、いくらなんでもこれはゲームとしておかしいのではないか?と思いまして。修行の一つや二つさせてくれても良いのではないか、と」


「なるほど。現実的にはおかしくないかもしれませんが、ゲーム的にはひたすら家事ばかりというのもおかしいですね」


「はい。それで、教会内部を色々と歩き回った結果、大神官代理が猊下をあの部屋に監禁しているところに偶然遭遇してしまったんです。そこからはもう、猊下の世話係という名目で私も監禁同然の生活をしていました。変わったことといえば、猊下自ら私に神聖魔法の使い方を教えてくださっていることでしょうか。全然まだ魔法の魔の字も使えないのですが。

 私は世話係なので、食事や衣服、風呂の準備など、部屋から出る場面は多々あります。監視がついているので直接的に助けを求めることは出来ませんでしたが、他の神官見習いや神官と話すことは出来ました。そこで事件に関っていない本当の神官達を洗い出して、公式サイトで告知されていた王都クエストに合わせて今回の騒ぎを起こすことにしたんです」


「それでは、クエストらしいクエストは存在せず、えいりさんの独断で動いたということでしょうか?」


「そう、先程迄はそうだったんです。けど、猊下の首から首輪が外れて治療も受けたタイミングで、隠しクエスト達成の表記が出ました」


「なるほど……よく分かりました、ありがとうございます」


 前々から配信の視聴者さんやヴィオラが話題に出していた「隠しクエスト」とやらは本当に存在していたらしい。確か前回の王都クエスト時に「子爵家の背景について突き止めた僕が隠しクエストを達成しているかも」なんて皆言っていた。けれどあのときは僕、まだNPCだったから分からなかったんだよね……。ヴィオラの方には出なかったらしいから達成条件が最初の一人()だけなのか、もしくは最初から隠しクエストが存在していないんじゃないか、って議論になってたっけ。


 一応他国でも隠しクエストがあった!なんて話は掲示板でちらほら出ていたみたいだけれど、達成した人曰く「達成画面は一度きりしか表示されず、配信やスクリーンショットも不可、クエスト管理画面上にも現れない」らしく、証拠がないので都市伝説のような扱いだったらしい。存在する、しないの論争を今現在も巻き起こしているとかいないとか。


 それでもその存在を信じて今回の王都クエストでも隠しクエストや称号の存在ありきで完璧な成功を求めているプレイヤーもそれなりの数が居た。けどなあ、今回のえいりさんの話を聞く限り、王都クエストの完全成功で貰えるとは到底思えない。


 まあ何にせよ、えいりさんが嘘をついているようにも見えないし僕は存在する派に一票かな、と思う。詳しい報酬内容を聞こうとも思わないし、わざわざ狙って発生させるかと聞かれれば答えは否だけれど。勿論、今回のように自分が動きたいように動いた結果達成するのであれば少し得した気分になるから嬉しいけれどね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ログインする度に十二歳の首輪付き大神官の御世話をするゲーム…なんというかまるで別ゲーだけど一部の性癖にぶっ刺さりそうな状況のゲームだなぁ。
[一言] 真摯なご回答ありがとうございました。 成る程と思いました。 一点、以下の部分がうまく伝えられなかったというか、自分の書き方が悪かったと思うため書き直します。 4.そして蓮華は無宗教主義だと…
[気になる点] 大神官の敬称に違和感。 たぶん大神官にみんな「様」を付けないで単独読みさせているのは社長とか部長という役職に敬称が含まれているという観念からなんだろうけど、その呼び名が通じるのは同じ会…
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