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95.可愛いな

「ええと、まず、皆さんもうお気づきでしょうが、こちらに居るのが国王陛下からの承諾も得ている本物の聖下です。それからこの状況に関してご説明いたします。近頃王都で奇妙な噂が広がっていたのはご存じでしょう。そう、『黒髪黒目はネクロマンサーの卵だから排除すべき』という暴論ですね。

 ご覧の通り僕は黒髪黒目ですから、それなりに被害がありました。知っている方も居るかもしれませんが、特に僕はスケルトンをテイミングしていますから、よけい噂に信憑性があると判断されたんだと思います。でも、僕は魔術師に弟子入りしているのでその噂が事実無根であることを知っていた。ではどうしてそのような噂が流れ始めたのか。僕は仲間に声をかけて噂の出所を調べました」


 なんだか推理ものの探偵の立ち位置に立った気分だ。突然話し始めた僕に住民達は(いぶか)しげな表情を向けているけれど、バートレット家の二人が静かに聞いてくれているからだろう、表立って何かを言ってくるようなことはない。


「その結果、教会が大元であると分かった訳です。でも、妙ですよね? 教会がどうしてそんな噂を流す必要があったのか。人々の心身を癒やす筈の神官達がいたずらにそんな噂を流すのは不自然です。そこで、僕達は理由を調べることにしました」


 住民達も、段々話が核心に迫ってきていることを察したのか生唾を飲み込みそうな勢いで食い入るように僕の方を見ている。このチャンスを逃してはならない。僕は今回、噂の脅威は今回身を以て体感した。今度は教会側がその脅威を実感する番だ。


「……その結果がご覧の通りです。念の為、僕達がこのような強硬手段に出ざるを得なかった証拠の数々をお見せしましょう」


 フェリシアさんに見せた証拠と同様の映像をロストテクノロジーを使用して見せた。


「ここ、麻袋から黒髪らしき何かが出ていますよね? この映像から僕達は突然行方不明になった黒髪黒目の人々は、教会に監禁されているとの仮説を立てました。集めて一体何をしようとしているのか。どのような扱いを受けるのかも分からない以上、もたもたしている暇はありませんでした。ですから今日、僕達は教会に侵入したのです」


 そしてフィナーレと言わんばかりに、さっき取り入れたばかりの映像、僕が神官に襲われたときの様子も流す。ここに来る迄の間にロストテクノロジーに送っておいたものだ。これで黒髪黒目である僕が神聖魔法を使えること、神官が人を平気で殺そうとする集団であることも証明が出来ただろう。予想通り、映像を見終わったあとは誰も何も言うことが出来ず、辺りはしんと静まり返っていた。


「最後になりましたが、僕達黒髪黒目がネクロマンサーの卵だというのは事実無根です。一般に、髪や瞳の色が濃い方が魔法関連の適性が高いとのことです。

 とにかくこの映像を見て貰えば分かるとおり、僕は治癒をすることが出来ます。治癒は特殊な力ではありません、魔法の一種です。これは僕の予想ですが、教会はその事実を知っていた。だからこそ黒髪黒目の人々を誘拐し、治癒に利用した」


「……僕はずっとスクロールを作らされていた。僕がスクロールを作らなければ教会にやってくる人々が治療を受けることが出来ない。それで黙って言うことを聞いていた。でももう限界だった。作る量は日に日に増えていく。スクロールを作るとき以外はずっと首輪をされて部屋に閉じ込められる日々。だから最近はもう全てがどうでも良くなって、命令を拒否したんだ。殴られて、食事も満足に与えて貰えなくて、地下牢に閉じ込められたけど」


 ざわり、と空気が震えた。僕の言葉を引き取るように教皇が告げた言葉は、誰にとっても衝撃のものだっただろう。


「つまり……そこの人々は魔力を搾取され、その魔力を用いて大神官猊下に治療用のスクロールを量産させ、自分達は何もせずにスクロールを使用して我々を治療していただけ、と?」


 そう言って住民の一人が高位と思しき派手な装飾を施した神官服を纏った男性へと話を振る。彼は終始他の神官に詰め寄られていた人物。大神官代理といい、この人といい、高位に居る神官達が裏で悪事を働いていた、ということなのだろう。


「ち、違う! 我々は知らない、自分の力で治療をしていたとも」


「だったら今この場で証明してみてくれないか。ちょうど娘には治療が必要なのでね」


 まさか侯爵の言葉を否定する訳にもいかず、神官は渋々こちらに向かってくる。けれどその顔は蒼白で、大した実力がないのがありありと見て取れる。


「ご、ご令嬢の肌をむやみに見せる訳には参りません。治療院の個室へと移動しましょう」


「ここで構わないわ。貴方が治癒出来る証拠を皆見たいでしょうし」


 フェリシアさんがニッコリと微笑みながら神官へと告げる。もはや逃げ場がないと悟った高位神官。渋々ながらドレスの袖を捲り、腕の大きな痣に手をかざして念じてみるものの、想像以上に小さな光のみ。これでは一生かかっても腕の痣が消えることはないだろう。


「き、今日は少し調子が悪いもので……普段ならすぐ! これくらいすぐ治療出来るのです」


 焦ったように言葉を紡ぐ。けれどその言葉を信じようという人はもはやこの場にはいない。


「私に治療させてください」


 そう言いながら手を挙げたのは、神官に詰め寄っていた側の神官。ややこしいけれど、多分今回の件を何一つ知らなかったのであろう、本当の意味での神官である。神官服は質素そのもの。


 この教会では位によって神官服の刺繍の量が増えるのだと思う。扱いがひどいので薄汚れてしまってはいるが、教皇が着ている神官服もそれはそれは豪華な刺繍が施されている。つまり質素な神官服を着ている彼は、教会内での地位は余り高くはない一般神官のようだ。


「このような事態を全く把握出来ていなかった己を恥じ入るばかりですが……私は、いえ、ここに居る神官の大半は真摯に治療に取り組んできたとの自負があります。……そこの神官長は違ったようですが」


「お前、その口の利き方はなんだ!」


 神官長と呼ばれた男性は激昂したが、フェリシアさんの治療に失敗している段階で全くと言って良いほど自分の力で治療をしてこなかったのは火を見るよりも明らかだ。当然誰も庇うことはなく、気まずげに口を閉じる。


「それじゃあ、お願い出来るかしら?」


 腕を差し出すフェリシアさん。男性神官は頷き、神官長同様フェリシアさんの腕にある大きな痣へと手をかざしてから何ごとかを呟いた。すると大きな光がフェリシアさんの腕と神官の手の間から漏れ出し、ゆっくりと収束していった。神官が手をゆっくりどけると、そこには白く綺麗な腕。痣は一片の名残も残さずに消え失せていた。


「素晴らしい腕前ね。確かに貴方は毎日真摯に患者と向き合っていたように見えるわ」


 ほう、と周りに居た住民達も尊敬の眼差しを向けている。男性神官は少し照れたような表情をしてから頭を下げ、他の神官の元へと下がっていった。


「さて。どうやら教会が現在二分しているようだな。他人を利用して私利私欲を満たす者と正しき神官。問題は誰がどちら側か、ということではあるが。これに関しては司法に委ねるしかなかろう。治安維持隊の諸君、悪いがこれを持って、ひとっ走り我が屋敷へ行き、兵士を出来るだけ多く連れてきて貰えないだろうか」


 バートレット侯爵が何かを渡すと、治安維持隊の一人が心得たとばかりに正面入り口から勢いよく飛び出した。その様子を確認してから、侯爵はステッキを二突きし、注目を集めてから声を張り上げた。


「これより侯爵権限をもって、教会を封鎖する。期限は司法による調査が終了する迄だ。その間、治療院の開放や祈りの儀式を再開することは構わないが、我が家の兵士や治安維持隊員が見張りとして随行することだけは了承して欲しい」


 一般神官は侯爵に対し賛同の意を表し、頭を下げた。一方、神官長を中心とした高位神官集団はあからさまに渋面を作った。まあ拒絶したところで犯罪は明るみに出ている訳で、拒否権なんてものは最初から存在しない。既に証拠が揃っている人物に関しては教会内での謹慎ではなく治安維持隊が管理する牢屋へ連行すると侯爵が告げると、先程の映像に映っていた神官達がその顔に絶望を浮かべた。


 しかし神官長はこれらの映像の中には含まれていないので謹慎、僕を襲った神官の言質が取れている大神官代理に関してはどこに居るのか分からないときた。諸悪の根源は依然として野放しのままだ。


「悪いが、治安維持隊は大至急大神官代理――、皆が大神官だと思って居た人物を捕縛して欲しい。捕縛次第、牢屋へ連行して構わない。彼に関しては既に十二分証拠が揃っているからな」


「はっ、畏まりました!」


 びしっと敬礼をしてから隊員の一人が走り去っていく。今夜の王都はきっと騒がしくなるだろう。


「ふむ……では、私はあちこちに報告する必要があるのでこの辺りで失礼する。あとのことは娘とそこの彼の指示に従って欲しい」


 そう言って侯爵が指定したのは……え、僕? フェリシアさんはともかく、何故僕なのだろう。ちょっと、そういうサプライズは本当に要らないのですが。


 フェリシアさんも口を開く様子はない。視線が僕に仕切れと命じている気がする。


「えーと……言われるまでもないかもしれませんが、神官は聖下とバートレット侯爵令嬢の治療をしていただけませんか。それから、住民の皆様に関しては長いこと足止めをする形になってしまって申し訳ありませんが、最後にお名前と住所だけ近くの冒険者へと告げてからお帰りください。それと、今夜はしっかりと戸締まりをした方が良さそうです。大神官代理が捕まりたくない一心で家に押し入ってきても困りますからね。あとはそう、暫くは教会がごたついていることを他の方々へと伝えていただけますか。

 攻撃隊の皆は……、そうだ。どうせだから大神官代理の捜査に協力しようか」


「協力するのは構わないけれど、今からうちの兵士が来る。ことの次第を説明する為にも、貴方には残って貰わないと困るわよ?」


 と、神官に身体を委ねながらも当たり前のように言うフェリシアさん。


「貴方が居るのにどうして僕が説明するんですか……。まあ良いですが。という訳で、協力云々は参加自由です。ひとまずこの場で解散! あー、ギルドへの報告はどうしよう」


『それは私がしておくわ』とヴィオラ。


「それは助かるよ。ああそうだ……聖下の首輪に関して、鍵は大神官代理が持っているようなのですが、どなたか他に解錠方法をご存じの方はいらっしゃいませんか?」


 僕の言葉に真っ先に反応したのは神官の中の一人。


「猊下、首元を失礼いたします。……これは魔法の類いを一切禁じる道具ですね。ですが他に能力は何もないようです。正面の錠に鍵を差し込むか、或いは無理やり破壊することも可能だとは思います」


「お詳しいんですね」


「あ、私は古物商の生まれなんです。自分で志願して神官になりましたが、跡取りとして一通りの教育は受けましたから、こういう道具の調べ方は分かるつもりです」


 僕の言葉に、怪しまれていると思ったのか慌てたように弁明し始める神官。と、そこへ冒険者プレイヤーの一人が勢いよく手を挙げて前に飛び出してきた。


「はいはーい! 鍵開けなら私に任せて! 大丈夫、ぱぱーっと終わらせちゃうよ!」


 そう言うと僕が何をいう間もなく教皇の治療に当たっていた神官達を押し退け、首輪をのぞき込んだかと思うと針金のような細い道具をかちゃかちゃと使用。時間にすればほんの数秒。がちゃり、と大きな音を立てて首輪が床へと落下した。


 驚いているのは教皇。いきなり見ず知らずの人物が近くに寄ってきたと思えば次の瞬間首輪が外れたのだから無理もない。


「あ、ありがとうございます……?」


 疑問形でお礼を言う姿がとっても可愛いな、と状況を忘れて思ってしまったのは内緒の方向でお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通に治療が出来る神官もいるんだね~(//∇//) なら、高い金を撮って上位神官だからとか良いながら出てきた人達がたいした修行もしないままスクロールで済ましてたんだね(//∇//)
[一言] >何故僕なのだろう 総隊長でしょうキミぃ?w >とっても可愛いな 可愛いでしょう?w ショタで大神官で監禁とか、属性が詰め過ぎなんじゃないかって位ポイントが高いんだよねーw
[一言] 更新有り難う御座います。 ……[M戸K門]と[O岡E前]の合わせ技みたいだ?
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