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86.僕は無理!

「蓮華くん、ちょっと良いかしら」


 契約も無事に完了し、少しずつ家具が増えているヴィオラの新居。ソファに座り、眉間にしわを寄せながら仮想端末を見つめていたヴィオラが僕に手招きをしている。ちなみに僕は食料品を買いに行くというヴィオラの護衛の為に家に上がったところ。まあ、目的地はこの建物内にあるスーパーなんだけどね。そのお陰で昼でも問題なく護衛が出来ている。


「うん? どうかした?」


「ちょっとこれを見てみて。ナナちゃんの個スレなんだけど……」


「えーと? 何なに……、予知夢?」


「そう。内容を読んでみて」


「『赤と黒の化け物と戦ってガンライズくんが怪我をする夢……』、ふむ。これ、ナナが言ったってこと?」


「そうみたい。ただ、元の配信映像はアーカイブで残っていないから真偽の程は分からない。本人はその後の配信で、たまたまアーカイブ化するの忘れたって言ってるけど、私的には予知夢の話をしたからわざと残さなかったんじゃないかって思ってる」


「うーん……赤と黒の化け物かあ……赤と黒と言えば」


「先日ナナちゃんが蓮華くんに渡した羽織紐のカラーよね。蓮華くんをイメージしたって言ってた」


「うん。その辺りはガンライズさんが言ってたね。言われたとき僕もどきっとしたんだよねえ……正直、赤と黒と言ったら僕の種族を連想するでしょう?」


「まあ、正直そうね。血の色と夜の色……みたいな」


「だよねえ。そのときはたまたまかなって思ってたけど。この話を予知夢と仮定するとナナは霊感みたいなものが強いとか、巫女の血筋とかだったりするのかな」


 まあ、予知夢や巫女そのものを否定する人も居るし、実際、この個スレでも否定的な意見も目立っている。でも平安時代後期生まれの僕としては陰陽師を間近で見たことがあるし、当然この手の類いの能力が実在することを知っている。


「本当にナナがこの発言をしたのだとしたら、僕は未来予知の類いだと思う。勿論、GoW内での怪我、の可能性もなくはないけれど、死ぬのが当たり前のゲームで忠告っておかしいし、やっぱり現実の話だと思うんだよね」


 ナナが現実でのガンライズさんを知らないのだとしたらとんでもない能力だな、とは思うけれど。ただし、一点だけ気にかかることがある。


「ガンライズさんは人間族じゃないのかな? それともたまたま巻き込まれて怪我をする一般市民なのか……」


 人間族でないのであれば、和泉さんから移住とその経緯を聞いて協力を申し出てくれた種族の可能性がある。その場合、なんとかすることは出来るかもしれない。


「ガンライズくんって確か大学一年生よね。十八歳か十九歳。と考えると巻き込まれただけの人間族の可能性もあるけど、『戦って(・・・)怪我をする』だから……」


「十八歳位……まだほんの赤ん坊じゃないか。そんな子供が前線に出るなんてとんでもないな。ちょっと洋士に確認してみるよ」


「そりゃ私や貴方から比べたら若いけど、赤ん坊なんて言ったら本人が泣くわよ……大抵の人間族なんて子供の年齢で亡くなる計算じゃないの」


 う、確かに。でも……十八は……色々未熟な年齢だから赤ん坊みたいなものでしょう? 僕も十八の頃は成人してるしいっちょ前に戦場駆け回ってたけど、今思えば本当恥ずかしいことの一つや二つしでかしてるし。ちなみに最大の過ちは二十歳の頃に妙な自信を持って戦場で最前線に行ったことです。そしてそれが人生最期です。ね? 十代は赤ん坊なんだよ。僕は二十代だったけれど。誤差だよ誤差、うん。


 出掛ける前に隣の家に戻り、洋士に協力者について尋ねてみた。多分種族と名前程度は洋士の元に話が通っている筈。そう思ったのだ。


「ねえ洋士。GoWプレイヤーの『ガンライズ帝国様ご一行』って人がもしかしたら今回の戦闘に参加するかもしれない。名前は知らないんだけど、気になる未来予知がされてるから後方支援的なものにしてあげて欲しいなあ、なんて」


「ガンライズ帝国様ご一行……ああ、王都クエストであんたの分隊に居た奴か。あのあとも何度か世話になってたよな……一応協力者についての情報は来てるが、その中の誰かが分からない。他に情報は?」


「大学一年生……十八か九みたいなんだけど」


「十八だあ? そんなひよっこが来るってのか……あー、可能性があるとしたらライカンスロープのとこか。腕に覚えのある奴を何人か送るとは言っていたが、年齢を含めた詳細が来てない」


「そっか。あのね、その彼なんだけど、『赤と黒の化け物と戦ってガンライズくんが怪我をする夢』とやらを見た人が居て、忠告されたんだ」


「……ナナとか言う女か」


 わあ凄い。なんで分かるのだろう。一応未来予知が出来る可能性がある人物だし、特定して欲しくなかったんだけどな。勿論、洋士が利用するとは思っていないけれど。


「あ、うん……。それだけで分かっちゃうんだ?」


「『赤と黒』といえばあんたが貰った羽織紐の色だろう? しかし未来予知……予知夢か。あんたの配信と彼女の配信をどっちも見ていた人物なら結びつけるだろうな。予知なんて信じない奴が大半だろうが、実際にそのガンライズとやらがGoWにログインしなくなったら話題になりそうだ」


 そうか、確かに。ガンライズさんがログインしなければ怪我でもしたのか、予知が本当だったのかと話題にはなりそうだ。そうなると赤と黒から僕を連想する可能性も十分あるし、「化け物」なんて表現されてるし……面倒なことになりそう。


「ガンライズとやらの身元は調べて配置は考慮する。が、その予知夢が前線での話なら良いが、あんたが俺にこの話をして配置換えを行うことまで見越した上での予知の可能性もあることは忘れるな」


 つまり、配置換えをしても油断は出来ないってことか。僕が余計なことをした結果、夢の通りになる……考えただけでぞっとする。


「それからそのナナとやら……彼女の方の身元も調べておく。もし本当に予知が出来るのだとしたら、なんとしても手に入れたいと思う奴はごまんと居る筈だからな」


「ありがとう。それと洋士、今回の相手には気を付けた方が良い。前にエレナから聞いた話だけど、海の向こうの吸血鬼は特殊能力持ちが多いみたい。エレナの記憶封印もその一つだと思うし」


「ああ、分かった……と言ってもな。何をどう気をつければ良いのかは全く分からんが」


 洋士の言葉に僕は肩をすくめて頷いた。僕も詳しくは聞いていないのでよくは知らないけれど、どうやら海外、特に西洋の吸血鬼は特殊能力持ちが多いらしい。と言うのも、大元の吸血鬼——エレナを吸血鬼にした張本人——が元々、人が持たないような能力を持った人間族を狙って仲間にしていたかららしい。


 まあ、そのせいで中世で魔女狩りなんてものが横行して、そのときに大半の仲間を失ったとも言っていた。だから今も特殊能力を持った吸血鬼が多く居るのかは分からない。けれど、用心するに越したことはないだろう。詳しい話を、今度エレナから聞いておいた方が良いかもなあ。


 話も終わったので、ヴィオラと一緒に地下のスーパーへ。買い物をしながら雑談をしていると、ヴィオラがふと気付いたように口を開いた。


「ねえ、どうせ仕事を辞めて、次の仕事も暫くは探せないじゃない? なら私、ここに来る意味はあったのかしら……?」


「う、うーん? いや、だって今現に買い物に来てるでしょう? だから意味は十分あった筈」


「でも、買い物位ネットスーパーなりなんなり、家を出ないで済む手段はいくらでもあったわよね?」


「……ネットスーパーはお高いとか」


「少なくともこのスーパーよりはずっと安いわよ……」


 確かにここは高い。億ションに住んでる人専用!という感じがする価格。僕なら絶対買わない価格だけど、ヴィオラは食事をする必要があるし、費用は全面的に洋士が持つとのことだったので気にせず購入している。洋士って本当いくら稼いでるんだろうなあ……聞きたいような聞きたくないような。


「でもここの費用は洋士持ちだけど、アパートでの費用は全部ヴィオラ持ちになるでしょ? もし護衛なしで暮らす為に仕事を辞めてたら、貯金がどんどん目減りするだけだよ……?」


「まあそうよね。そうなんだけど……ことが終わったあとに改めて物件を探すとなると、あんなに良いところもう二度と見つからないんじゃないかって思うのよね」


「そんなに良かったの? 前のところ。引っ越しを手伝ってくれた同族の話だと凄い場所だって……あ、いや、失礼」


 確か風呂なしトイレなしの六畳一間だって聞いた気がする。ただまあ、確かに利便性は良いらしい。都内だし、どこへ行くのでもアクセスしやすい駅から徒歩三分。


「確かに風呂もないしトイレもないから不便だったけど、風呂は歩いてすぐのところに銭湯があったし、トイレは共有のものがアパート内にあった。で、そう言う状態だったから家賃が凄く安かったのよね。普通、家賃が安い理由って駅から遠い、とかでしょ? 利便性が良いにもかかわらず安い!っていうのはなかなか見つかりにくいのよね」


「ちなみに、いくらで住んでたの?」


「月一万円」


「いっ……!? え、いくらなんでも安すぎじゃない? それ絶対何かあるよね?」


「まあ、事故物件だったしね。でも今回私が出たから事故物件じゃなくなって家賃は上がっちゃう。だから契約解除するのが惜しかったのよ。さすがに仕事無しであそこの家賃を払い続けるのはなあ、って思って解除しちゃったけど」


「事故物件……ええ……それってお化けとかお化けとかお化けが出たりする……?」


「前々から思っていたけど蓮華くん、この手の話題が苦手なの? 正直意外ね。その……貴方そのものがそっちよりじゃない?って言ったら失礼かもしれないけど。まあ、確かに誰かと一緒に暮らしている感じはあったけど、特に害もなかったから本当に良い物件だったわよ」


 けろりと笑って答えるヴィオラに僕は絶句した。いや、お化けに良いも悪いも……あるか。あるかもしれないけど、良いお化けでも僕は無理だよ、ヴィオラさん!

ガンライズくんの名前に誤字指摘してくれた方が何名かいらっしゃいますが、紛らわしくてすみません。この名前であってますw


22.なんて呼べば良いですか? で登場時、

『と興奮しているのがプレイヤー名、「ガンライズ帝国様ご一行」。彼一人で何百万人分ってことかな? いや、帝国に「様」がついてるのも……色々凄いな。』

と描写が入ってます。彼の独特のネーミングセンスってことですね。

※あのー、あれです。キャラ名考えるの面倒くさすぎて、友人のHN許可貰ってそのまま使ったんですが、本人が頑なに帝国に様がついていないと許さないと言っていたので勘弁して下さい。

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吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。2巻

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― 新着の感想 ―
[一言] 吸血鬼ガンガン狩れる教会強いなぁ、代償として西洋では特殊能力持ちの血筋は絶えまくってそう。
[一言] 生き霊は飛ばしちゃあかん奴(笑) まさちぇろ、(//∇//) 色々ストックはある←するな、ストック(笑)
[一言] もっとひどいのになると、路地を曲がるときにお腹痛くなったり、気持ち悪くなったり、どうしても、その道を曲がれなくなる(・・)(。。)うんうん 前はよく、体のない足音とか、聞いたりしてま…
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