Side:ガンライズ編2
さ、さ、30,000ポイントいきましたよ!? 総合評価! そしてまた、30,000ジャストでスクショを撮る事が叶いませんでした……(前回22,222Pで試そうとして失敗した)
「銃一。ちょっと話がある」
自室でGoWでもしようかと考えていたところで父さんに話しかけられた。珍しく前置きをしてくる辺り、改まった話らしい。
ダイニングチェアに父と向かい合うように座ると、父が言いにくそうに切り出した。
「近々エルフ族が移住してくるらしい」
それ位の話であれば、別に改まって言うようなことでもない。俺は詳しくはないけど、人間族以外が移住してくること自体は多くもないが珍しくもない筈だ。一応こういう種族が来ますよ、という告知自体は政府を通して各種族の代表に伝えられ、代表から俺達仲間に伝えられる。たまに両親から世間話のついでに聞かされているけど、別にどんな種族が来ようがどうでも良かったので頷く程度で済ませていた。
「エルフは初めてだっけ? まあでも移住自体は珍しくもなんともないよね、どうしたの改まって」
「移住してくるエルフ族に目を付けている吸血鬼集団が居るらしい。血の気が多い集団らしいから、恐らくついてくるのではないかと予想しているようだ」
「ふうん……吸血鬼か。確か日本にも居なかったっけ?」
「ああ。今回来る集団は、殺人を何とも思わないような奴ららしい。それで、日本の吸血鬼族が対応に当たるらしいが……頭からのお達しで、俺達も協力することになりそうだ」
「協力? 何で急に」
再びもごもごと言いにくそうにする父。協力すること自体は別に構わない。が、基本的には命令を下さない頭が、わざわざ種族全体に協力を命令するなんて、何か余程の理由があるんじゃないだろうか。
「私も詳しくは知らないが、どうやら我々ライカンスロープが日本に移住した直後に、吸血鬼を襲ったらしくて……もう一昔前の話で、こちらの当事者は生きて居ない筈だが。吸血鬼族は不老不死と言われる種族。頭はどうも当時のことを気にしているらしい。この機会に過去の過ちを清算してしまいたいと考えているようだ」
「襲撃? 随分と無謀なことをしたんだな、その当時の人達は……。日本の吸血鬼は大人しいことで有名じゃなかったっけ?」
「どうも、海外の吸血鬼族のイメージが先行して恐怖心から襲ってしまったようだが。まあ相手からしてみればいきなり襲われたんだ、我々ライカンスロープに対して余り良いイメージを持っていないだろう、それこそ当時襲われた人物も健在だろうから」
加害者のライカンスロープは老衰か何かで亡くなっているけど、被害者の吸血鬼は不老不死だから生きている。それは当然俺達に対するイメージは心底悪いだろう。その状態で協力……本当に協力して海外から来る吸血鬼を倒すことが出来るのだろうか?
「話は分かった。それで? 俺はどうすれば良い」
「正直、未だに私は反対だが……頭曰く、一族総出で協力するとは言ったが実際全員参戦しろという意味ではないらしい。戦闘部隊として何人かを派遣し、他は街中での被害の拡大を防ぐ為に待機……。その戦闘部隊として、頭直々にお前を指名してきた」
「はあ? 何で俺。頭と顔を合わせたことなんて年に一回の挨拶程度なのに」
「平和ぼけした今の世じゃ、ライカンスロープで吸血鬼相手に渡り合えるような戦闘力がありそうな人物は限られる。お前の破壊衝動に関しては一族内で有名だ。だからこそ、毎日喧嘩に明け暮れていたお前ならば実戦経験もあるだろうと判断されたのだろう……」
父さんが疲れたように呟いた。言いにくかったのはこのせいか。自分達はパトロールなのに、俺は最前線で吸血鬼と対峙しなくてはならない。親として思うことがあったのだろう。
「実戦経験、ねえ……。同世代相手に殴り合いの喧嘩をするのと吸血鬼を相手にするのは訳が違う気がするけど。まあ、話は分かったよ。頭の命令なら仕方が無いし、父さんが気にすることじゃないさ。それより……向こうは何と言っているの? 協力しても良いと?」
実際のところ、一番気になるのはそこだ。頭が勝手に協力すると言っても、俺達に良い感情を持っていない吸血鬼からしてみれば迷惑この上ない。協力どころか邪魔をした結果襲撃を受けて全滅、なんてことになれば今度こそ一族皆殺しにされてもおかしくないだろう。
「『敵対しなければ良い』、と向こうも言ってくれているようだ。政府側も間に立ってくれるから、お前が必要以上に虐げられることもない筈だ」
具体的なスケジュールに関しては改めて吸血鬼側のトップから連絡がくるらしく、この件はそれでお開きとなった。
というのが一昨日の話。そして今。俺は自室のベッドに寝転びながら、今日GoW内でナナに言われた言葉の意味を考えている。
「赤と黒の化け物と戦って俺が怪我をする夢、か……。赤と黒と言えば、蓮華さんの羽織紐に使った石の色、だよな」
あのときナナは、何故か蓮華さんのイメージを赤と黒、と言い切った。俺的にはもっと爽やかな色合いのイメージだったからひどく印象に残っている。
「つまり、なんだ? 多分蓮華さんは吸血鬼で? ……でも多分さすがに蓮華さんと戦って怪我をするって話じゃないだろうし、赤と黒は蓮華さん個人と言うより吸血鬼に対するナナのイメージ、なのかな」
謎が多すぎて何とも言えない。そもそも、ゲーム内で一緒に行動しているだけで、俺もナナもお互いの現実世界でのことは一切知らない。それなのに俺の現実世界での行動を予見して、警告してきた……と言うのは少し都合が良すぎやしないだろうか。
かといって、このタイミングでその発言。どう考えても怪我をするような戦いと言えば、対海外吸血鬼問題しか思い当たらない。ナナ自身も『化け物』と言っている辺り、人間族ということはないとおもう。
「んー……GoW内での話、とかか?」
その可能性も否めないけど、やっぱり蓮華さんと戦うなんて想像もつかないし、そもそも蓮華さんを指した言い方なら「化け物」なんて言い方はしない筈だ。ナナの様子を見る限り、蓮華さんに対して恐怖心や不信感と言った類いの感情は一切持っていないと思う。
「大体なあ、GoW内では何度も死んでリスポーンしてるし。今更怪我する夢を見たからってわざわざ忠告してくる筈ないよな」
まあ、大前提としてナナのいうことを信じるのか、という話にもなるよな。予知夢……とかそういうこと?だよな。本人は何も言わないから確証は得られないけど。
でも、信じるに値する内容だとは思う。ナナのいうことを問答無用で信じるという訳でもないけど、ただの夢をわざわざ伝えてくるとは思えない。彼女なりに、これが現実になると思って俺に忠告した筈だ。
それに俺も正直、怪我は避けられないと思う。ガキの喧嘩と吸血鬼との戦いを一緒になんか出来る筈がない。どう転んだって殺人も日常茶飯事な吸血鬼を目の前にして怪我をしない未来なんてあり得ないだろう。問題は怪我のレベル感だ。
ナナは「怪我をする夢」としか言わなかった。軽症とも、重症とも、瀕死とも言わなかった。多少の傷ならライカンスロープ特有の治癒力の高さでどうにかなる。が、戦っている最中に瞬時に、それこそ魔法のように傷が治る訳ではない。人間族が治療に数ヶ月かかるような怪我が、俺達なら一週間程度で治る、それ位の規模感だ。どう考えても戦闘中に役に立つ代物ではない。
「怪我をする夢を見て忠告された、なんて曖昧な理由で頭からの命令を無視する訳にもいかないしな。俺に出来ることはぎりぎり迄身体を鍛えること位か……」
突然ログインしなくなったら、それこそナナは心配する気がする。甘い考えだとは思うけど、せめてGoWをプレイするのに支障がない程度の怪我であって欲しい。
勿論本音は怪我をしたくない、俺達ライカンスロープは普通の病院にはかかれないから。戦闘地域がどこかにもよるけど、多分かかりつけの病院のすぐ近くなんてことはないだろうし。病院へ行くまでの間にどうにかなるような、時間との闘いになる大怪我はすなわち、死に直結すると言っても過言ではないのだ。
「吸血鬼の生命力って、どれ位なんだろうなー……不老不死とは聞くけど、多分何もなく平和なら、って意味だよな? さすがに戦っても不死とか無理だぞ。まあ殺人になれてるような奴の段階で不死じゃなくても無理だけど。戦闘経験に差がありすぎだろ」
「死にたくねえよ、怖え」
そりゃ破壊衝動は一族の誰よりも強い。喧嘩にも明け暮れてた。けど、何かを壊したいのと自分が死ぬ覚悟が出来ているのは話が別だ。卑怯と言われるかもしれねえけど、俺は自分が死なない範囲で衝動を抑えたかっただけだし、今までの喧嘩だって誰かが大怪我をしたり死ぬような経験は一度もしたことがない。ってか死ぬのが怖くないなら、それこそ破壊衝動なんて周りに迷惑をかけるしかない厄介なものだ、俺が世界から消える方を選んでるわ。それが出来ない程度には俺は生きる意思を持っている。
「強い破壊衝動と喧嘩なんて曖昧な物で戦闘部隊なんかに選んでんじゃねえよ、くそが」
頭には悪いが、無性に腹が立って俺は思わず呟いた。だってそうだろう。協力する、なんて言ってるけど、頭自体は戦闘部隊として参加するのか? 裏で俺達に指示出しするだけじゃないのか?
ライカンスロープは一族に対する絆は深い。同族がやられたら徹底的に報復する。けど。その同族に死地に赴けと言われているこの現状では、一体誰を恨めば良いのだろう。それこそ、先祖がやらかしたことならそいつらの一族の奴が責任を取って戦闘部隊として参加してくれと言いたい。まあ、うちの先祖が関わってたとしても俺は関係ないって言いたくなるけど。ああ、矛盾してるな俺。