06
「熱っ」
焼き立てがこんなにも熱いとは知らない彼は、ふーふーと息を吹きかけ冷ましたあと、手で千切って食べた。
「んっ、おいしい!」
柔らかい甘みが口の中に広がる。
この味はなんだろう、と考えつつ、もう一口分千切ると中から小さく切られた固形の果実が見えた。
「あ、リンゴだ」
「正解」
朝買って来たリンゴはパンの素材となった。
「それにしても……」
ルーシィがじっと少年を見つめる。
その視線が何を訴えているか分からない少年は眉を下げ、ルーシィに「な、なに……?」と不安げに尋ねた。
「いや、上品に食べるなぁと思って」
「そう?」
ルノエールの外には、店内で買ってすぐに食べられるようにベンチを設置している。そこで食べる人はもちろん、カナリアでさえも大きく口を開けてかぶりつく。千切って食べている人を初めて見たルーシィは、その姿に上品さを感じた。しかし、その姿を見てルーシィは違うと思った。
「多分だけど、かぶりついて食べたほうが美味しいよ」
「かぶりつく?」
不思議そうに聞いて来る少年にルーシィは手で持って直接噛むということを、ジェスチャーを交えて伝える。
「……そんなに口を開けて食べてもいいの?」
きっと上品な家の子どもなのだろう、と思ったルーシィは「大丈夫」と短く言った。
「あ、あまり見ないでね……」
恥ずかしそうにしながらも少年はカナリアよりも遥かに小さく開いた口で、かぶりついた。
「んっ!?」
咀嚼された物が細い喉を通り過ぎると、輝く瞳がルーシィを見上げた。
「さっきよりおいしい!」
「でしょ?」
どういう原理なんだろう、と彼は不思議そうに、そして嬉しそうに残りのパンにかぶりついた。
その姿をルーシィは静かに眺めていた。
「ふぅ、おいしかったぁ」
完食し、食べ始めたときと同じように手を合わせて「ごちそうさまでした」と言った。
「お粗末様でした」
「おねえさんはすごいね」
ルーシィは首を傾げ、「何が?」と問う。
「だって、こんなにおいしい物が作れるんだもの。すごいや」
太陽のように笑う彼が眩しくて、ルーシィは目を細めた。
それはよく見る表情だった。
皆、ほのかに感じる温もりを抱えて店を出て行くとき、「ありがとう」と「食べるのが楽しみだよ」など色々な言葉と、その表情を残して去っていく。
ルーシィは皆のその顔が眩しくて、大好きだった。
「うん……ありがとう」
お礼を言うルーシィを見た少年は、目を丸くした。
「ぁ」
少年の口からぽとりと落ちた声を聞いたルーシィは「ん?」と尋ねると、彼は慌てて「なんでもないよ!」と笑った。




