05
「あの、不躾に見てごめんなさい」
厨房から出てルーシィは謝罪すると、彼は「ち、ちがうんです」とまだ幼さの残る声で否定した。
「僕の髪や目は他の人たちと違うから、その……」
黙り込んでしまったと思えるほどの間があって、そして彼は口を開いた。
「……変、でしょう?」
自分を変だと卑下する言葉が悲しく響いた。
その言葉がルーシィを幼い頃の自分に戻す。
私の髪、変な色。
そう何度思ったことか。
何度鏡の前で呟いたことか。
ルーシィは少年に近づき、彼の前でしゃがんだ。
怯えた視線がルーシィに降りかかる。
「じゃぁ、私も変だね」
そう言うと、そのとき初めて彼はルーシィの瞳の色と髪の色を見て、大きな目をさらに大きくした。
その顔を見たルーシィは笑った。
「私は好きだよ。太陽の光に反射して煌めくその髪の色も、海のような綺麗な瞳の色も。確かに皆とは違う色だけど、隠さなくてもいい素敵な色だよ」
彼の瞳が揺れた。
きゅっと唇を噛み締めて、彼はフードを取った。
その際にやはりその髪は光り輝いて、乱れていても綺麗だった。
「ほら、やっぱり綺麗だよ」
「……うん、ありがとう」
少年は初めて笑った。
「僕が海ならおねえさんは空の色だね」
ゼーゲン国民の瞳の色も髪色と同じ栗色だった。中には黒に近かったり、さらに明るい色をした人もいたが、少年が言うように晴れた空のような色をしているルーシィはやはり異端だった。
それでもその色を見てとやかく言う人はもういない。
彼らと長い間同じ町で暮らし、パン屋を開き、交流を深める機会も増えたことで町の人たちはルーシィが周りと見た目が違ったとしても、害をなすことがない普通の女性であることを理解してくれた。
「パンを買いに来たの?」
立ち上がりながらルーシィが尋ねると彼は頷いた。
「一つしか買えないから、どれにしようか見てたんだ。でも、どれもみんな美味しそうで何にす
るか悩んじゃうね」
はにかんで笑う姿にルーシィは胸の辺りが暖かくなった。
「じゃあ、とっておきを出そうかな」
ちょうどいいタイミングだった。
厨房に戻ったルーシィは窯から焼き上がったパンを取り出す。
熱々のパンと小さな皿をトレイに載せ、少年が待つ店内に戻る。
「うわぁ」
焼き立てパンの香りに彼の頬が紅潮する。
ルーシィはレジが設置してあるカウンターの横に立ち、こっちにおいで、と手招く。
従順にやって来た少年を椅子に座るように促し、目の前に皿とパンを置いた。
「熱いから火傷だけしないように気を付けて召し上がれ」
「えっ!?」
「試食。どうせなら一番美味しいときに食べて」
ルーシィは残りのパンを店頭に並べる。
少年は本当に食べていいのかと、パンとルーシィの背中を交互に見る。でも目の前にある誘惑には勝てなかった。
「いただきます」
と、上品に手を合わせ、彼はパンを手に取った。