恐怖と過ごす
四階建ての大型スーパーの三階にはベッドやソファーなんかを販売している場所があった。
そう言った場所には高確率でお試し用の見本があるものだ。
三階ベッド販売コーナーの少し奥の方にまだ生きている蛍光灯があった。
そして、そのちょうど真下にあるダブルサイズのベッドに少年は寝転がっていた。
少年の横にはドローンが一機。
電子レンジくらいのサイズの黒い箱に四つプロペラのようなパーツがついたらデザインのドローンだ。
ドローンは箱の下面から三脚のようなパーツを出しベッドの上に立っている。
「ここにするんですか?」
ドローンが少年に問いかける。
「ふぁー……、うん、そうだね。ここがいい。」
大きなあくびを一つして目を擦りながら少年は答えた。
「質問をしてもよろしいでしょうか?」
「うん?いいよ。」
目を閉じて眠ってしまいそうになりながらも少年はドローンに返答をした。
「何故このベッドを選んだのですか?」
「何故って?」
「いえ、ベッドはたくさんありますしこのベッドより寝心地が良さそうなベッドもありました。なのに貴方様は真っ直ぐこのベッドに向かって歩いていったので不思議に思ったのです。」
「うーん……そうだなー、明かりがあったからかな?」
少年の返答を聞いてドローンは斜めに傾いた。
首を傾げる仕草を真似ているのだろう。
いつもと違い今は三脚のようなパーツで立っているためしっかりと首を傾げているように見える。
「これから眠るのに明かるい場所が良かったのですか?」
「うん。」
少年の返事にドローンは更に傾く。
「暗闇で寝なくてはしっかり眠れませんよね?」
「うん、そうなんだけど、何か夜のスーパーって不気味に感じちゃってさ。」
「……貴方様は何故暗闇の中だと熟睡出来るのですか?」
「また難しい質問だね……。」
もう少しで眠れそうだったのだがドローンの質問が気になって少年は閉じていた目を開け体を起こす。
「うーん……。専門的な事はよく分からないけど……落ち着くからかな?」
「不思議ですね。」
「言われてみるとそうだね。」
「そもそも何故暗闇が不気味なのですか?」
「それはアレだよ、暗くて見えない所に得体の知れない物がいそうだからだよ。人間は未知の物が恐い生き物だからね。」
ドローンは足を収納すると飛行を始める。
少し浮いた所で停止しその場でくるりと一周する。
そしてまたベッドの上に戻った。
「四階には特に何もいません。」
「へ?いや、うん。」
「これで怖くないですか?」
「あー、うん、そうだね。」
少年は再び仰向けに寝転がると唯一ついていた蛍光灯が消えた。
「ありゃ?」
「予備電源がそろそろ限界のようですね。」
蛍光灯を観察しながらドローンが言う。
「そろそろ別の街に行こうか。」
「お引越しと言う奴ですね。」
「そうだね。」
「では、明日は忙しくなりそうですしもう寝ましょう。」
程なくして少年は眠りにつく。
暗闇が少年とドローンを静かに包み込んだ。