ここにいた証
「白いね。」
「そうですね。」
「砂ばっかりだ。」
どこまでも続いているのでは、と錯覚してしまう程に、そこから見る景色は一面の白い砂だった。
「元々は海だったなんて信じられないねー。」
そんな率直な感想を、人間の少年が述べる。
黒いズボンに黒いTシャツ、その上から薄手の灰色のパーカーを着ている黒髪の少年だ。
「海水は何処へ行ってしまったのでしょうね?」
そう疑問を溢すのは、人ではない。
電子レンジくらいのサイズの黒い箱に四つプロペラのようなパーツがついたデザインのドローンだった。
ドローンの問いに「さあ?」と答えて、少年はサクサクと砂の上を歩く。
そんな少年に並走する形で、ドローンもふわふわと移動する。
そうしてしばらく歩いていると、不意に少年が走り出す。
「何かあったのですか?」
ドローンの質問に少年は拾った物をドローンに「見てよコレ!」と掲げて見せた。
「木の棒ですか?」
「うん!」
「それが何か?」
「すっごい手頃なサイズ!」
嬉しそうな返答に、ドローンは空中で少し傾く。
呆れているのを身体で現しているようだった。
しかしそんなドローンの反応を気にも止めず、少年は地面に木の棒を走らせる。
柔らかで白い砂上には、それ程力を入れなくても線が弾けるようで。
少年は真剣な面持ちで何かを書き始めていた。
「良し!完成!」
書き終えたソレを見て満足そうに頷く少年。
そこには今も尚自分の横にフワフワ浮いているドローンの絵が書かれていた。
「我ながら良い出来じゃない?」
感想を求めるように少年がドローンを見る。
それにドローンは「そうですね。」と素っ気なく返すと
「私にも貸してください。」
と少年から棒を受け取る。
それから今度はドローンが何かを砂上に書き始めた。
そうしてしばらく何かを書き込んでいたかと思うと、急に動きを止める。
「書き終わった?」
「はい。ですが難しい物ですね。」
「紙とかに書くのとはまた違うからね。で」
「何書いたの?」と言い終える前に、覗き込もうとした少年の目の前にドローンが移動してくる。
「ここにはもう何もありませんし戻りましょう。」
「へ?うん。そっえは良いけど、書いた物を見せ......」
「戻りますよ。」
「......はい。」
すっかり聞き慣れた、いつも通りの女性の声なのにドローンからの圧を感じ取った少年は、大人しくその場を去る事にした。
こうして一人と一機がいなくなったその場所には、変わったデザインをしたドローンと、人間の少年の絵がしばらく消える事なく残されるのだった。