表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】狂愛の騎士は兄の婚約者を所望する  作者: 七瀬菜々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/72

47:神聖な会議室(1)

 その日の夜には緊急招集がかけられた。

 皇帝が来るまでの待ち時間、大会議室に集められた貴族や教会の枢機卿団、魔塔の上級魔法師たちは互いに探るように談笑していた。

 皆、大まかな事情は聞いているがその詳細は知らない。他人よりも早く状況を把握したい彼らは、会話の合間にチラチラと部屋の片隅で小さくなるキース・クラインを盗み見る。

 彼が今回の騒動について詳しく知っていると思われているのだろう。たしかにその通りなのだが、高位貴族の威圧的な態度が苦手なキースは体を小さくして、誰とも視線が合わぬ様に顔を伏せた。


(もう職を辞して田舎に帰ろうかな)


 主人は横暴で変人で変態だし、何かと気を使うことも多いし、ここ最近は問題ばかり起きるし、正直に言うと割に合わない。田舎に帰り、兄が継いだ屋敷を間借りして領地の子どもたちに勉強を教えていた方がまだマシだ。キースの頭にはそんな考えがよぎった。


「おや?遅かったかな?」


 キースの心がだんだんと辞職に傾いていた頃、それを引き止めるかのように大会議室の扉が開いた。

 現れたのは、髪色と瞳の色しか似ていないリリアンの父、ハイネ公爵。顔に大きな傷のあるクマのような体格をした彼の登場に会議室は一瞬にして静まり返る。威圧感が半端ないのだ。

 キースは実は陰ながら憧れていたハイネ公爵を前に、深々と頭を下げた。

 ハイネ公爵はキースの肩を軽く叩くと、ひと言『ご苦労』とつぶやいた。それだけで辞職を延期しようと思ってしまうのだから、憧れとはやっかいだ。

 ハイネを象徴する白の軍服に身を包んだリリアンはそんな彼を見て、本当に扱いやすい男だと呆れたように笑った。


「これだけのメンツが揃うのも久しぶりだな」


 皇族の席を除いた一番位が高い席に腰掛けたハイネ公爵は辺りを見渡した。

 こちら側には皇帝派の貴族と魔塔の魔法師。長いテーブルを挟んで向かい側には貴族派の貴族と教会の人間が座っている。

 貴族派の筆頭であるオリビアの父、グレイス侯爵はフワッと柔らかい笑みを浮かべてハイネ公爵に話しかけた。


「今夜はリリアン嬢も連れてこられたのですか?珍しいですね」

「ああ。イライザ卿を捕らえたのは娘だからな」

「それはそれは!お手柄でしたね!さすがと言うべきでしょうか?……やはりリリアン嬢が前線を退かれたのは我が国にとって大きな損害なのでは?」

「はっはっは。娘の価値を高く評価してくださるのはありがたいが、浄化の魔法師は彼女だけではないからな。心配には及ばないさ。それに娘は皇子妃となる身だから、あまり無茶なことはさせられんのだよ」

「……ああ、そういえばそうでしたね」


 自身の娘であるオリビアから皇子妃の立場を奪ったハイネ家を目の敵にしているグレイス侯爵は、ハイネ公爵の返答に悔しそうに奥歯を鳴らした。

 互いに微笑み会っているのに、目線からはバチバチと飛び散る火花。

 父の後ろに立つリリアンは自分に懐いているオリビアの笑顔を思うと苦笑するしかなかった。

 彼女は良くも悪くも素直な子だから、この父親とは似ても似つかない。

 

「そ、そういえば閣下。イライザ卿が禁術を使用したというのは本当でしょうか?」

「私共もそう聞いておりますぞ、閣下!」

「なんでもハイネ家の家臣に成りすましたとか……」

「禁術の管理は魔塔の仕事でしょう?どういうことですか?」

「職務怠慢では?閣下はご存じなかったのでしょうか?」


 グレイス侯爵の質問に嬉々として乗っかってきたのは、彼ら貴族派と近しい関係にある教会の枢機卿たちだった。

 不義の子とされるジェレミーのことを毛嫌いしている教会は彼を擁護するハイネ家のこともずっと嫌っており、まるで水を得た魚のようにハイネ公爵の責任を追求する。

 ハイネが魔法師を束ねる立場にあるからだろう。

 しかし、実際には研究機関である魔塔と軍部の重鎮であるハイネ家は全くの別物で、魔塔の失態はハイネ家の失態にはならない。

 ハイネ家が属する皇帝派の貴族はそんなことすら理解していない彼らを冷めた目で見つめ、魔塔の魔法師たちはバツの悪そうな顔をして俯いた。


「まあまあ、落ち着きたまえ。神に仕える方が取り乱してどうする?全ての話は陛下やヨハネス殿下、ジェレミー殿下が来られるまで待っていただきたい」


 ハイネ公爵が呆れたようにそう言った言葉に、枢機卿団のうちの一人、頭部の淋しい男エイドリアンが露骨に嫌にそうな顔をした。

 この男は枢機卿団の中でも特に、皇室……主にジェレミーに対して嫌悪感を抱いている。

 教会の中では教皇聖下の右腕と称されるほど、そこそこ権力を持っているためか、いつもこうして不穏当な発言をしてくるのだ。


「……ここは神聖な大会議室ですぞ?公爵閣下」

「そうだな」

「この部屋は誰でも入れるわけではないということをお忘れですかな?」

「入室の資格がない者はここにはいないはずだが……。ああ!もしクライン卿のことを言っているのなら、彼は重要参考人なので見逃してやってくれ」

「……そうではなく!」

「では、誰のことを指しているんだ?まさかジェレミー殿下のことではあるまいな?()()()大会議室で皇家を批判するつもりか?」

「皇家の方々は教会の承認を持って真に皇族と認められます」

「殿下の洗礼の儀の日にちゃんと祝福を受けているはずだが?同席した私はそれをこの目で確認している」

「それは聖下がご不在だったため、あくまでも代理人による仮の祝福を授けただけにすぎませぬ。正式なものではない」

「仮の祝福だと?祝福に仮などあるのか。初耳だな。ではなぜ、ジェレミー殿下は皇族として魔獣討伐に参加しておられるのだ?正式な場で皇帝陛下の命を受け、皇子として討伐に向かう殿下の姿を私は幾度となく見て来たが、あれは幻だとでも?」

「そ、それは……」

「そもそも10になったばかりの少年に、祝福を授ける代わりにと強制的に死地に向かわせておいて、その祝福は仮だというつもりか?それはあんまりではないのか?」

「討伐への参加は殿下のご意志です」

「その選択肢を与えたのは貴様らだろう。私が知らぬとでも思っているのか?お前たちが閉鎖的な神殿で殿下に何をしてきたのか、全てこの耳に入っている。皇族として認める代わりに討伐へと赴くよう促したのだろう?」


 ハイネ公爵の淡々とした追求にエイドリアンは言葉を詰まらせた。

 たしかに討伐へ出向くことを選択したのはジェレミー本人だが、そうするよう仕向けたのは教会の人間たちだ。毎月身を清めにくる幼いジェレミーの人格を否定し、自身に対する価値観を歪めた結果、まるで死を求めるかのように彼は討伐へと向かうのだ。

 ジェレミーが討伐に参加し始めた当初から彼と共に戦ってきたハイネ公爵は、教会側の態度が我慢ならない。

 しかしこれ以上、今回の件に関係のないことで始まる前から場の空気が悪くなってしまうのもいただけない。

 リリアンは仕方がないと口を挟んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ