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【完結】狂愛の騎士は兄の婚約者を所望する  作者: 七瀬菜々


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34/72

33:俗に言う修羅場(1)

 恥ずかしい恥ずかしいと繰り返し呟きながら、リリアンは温室付近まで来た。  

 火照る顔を手で仰ぎ、薔薇の生垣に囲まれた石畳の道を進む。

 見えてきたのはドーム状の温室。

 麗らかな午後の日差しに照らされ、温室のガラスはキラキラと反射する。

 絶好のデート日和だ。まさに、告白するにはうってつけの環境である。


(何逃げてんのよ! 私の馬鹿!)


逃げたところで目的地は同じわけで、この逃亡に意味はない。

 どうせすぐに、彼はリリアンの元へとやってくる。


「い、言わなきゃ……。言わなきゃ……」


 タイムリミットまで、あと数分。

恋愛初心者のリリアンは、歩きながら恋愛小説から得た浅い知識を総動員して、どう告白すべきかを真剣に考えることに集中した。

 

 故に、専属護衛騎士と共に通路のど真ん中で腕を組んで仁王立ちになって進路を塞ぐ、男の存在に気付くわけもなく……。

 リリアンは彼らの横を素通りした。


「……」

「……」

「……待て待て待て、こら!」

「うぷっ!」


 素通りしたリリアンの首根っこを掴み引き止めたのは、元婚約者ヨハネス。

 ポカンとした顔で自分を見上げるリリアンに、彼は呆れたような表情を返した。


「素通りは無いだろう。仮にも私は皇族だぞ?」

「オーラがなさすぎて気が付きませんでした。すみません」

「ナチュラルに悪口を言うな。不敬だぞ」

「冗談ですよ。考え事をしていたんです」

「考え事……。それは、ジェレミーのことか?」

 

 『考え事』という言葉に、ヨハネスの顔は曇った。

 一方、先ほど悩んでいた内容が内容だけに、正直に答えるべきなのかどうか迷い、視線を泳がせるリリアン。

 その反応は答えなくても『YES』だった。


「あいつ、何か君を困らせるようなことをしているのか?」

「え?困らせる?まあ、確かに困っているといえば困っている……、のかな?」


 ジェレミーの一つ一つの行動に毎回ドキドキさせられていることを考えると、確かに困っているのかもしれない。

 城に来るたびに心臓の鼓動が速くなりすぎて死にそうになっているのだから。

 

(いっそ、ヨハンに相談してみようかな?)


 どう気持ちを伝えるべきなのか、恋愛上級者のヨハネスなら何か良いアドバイスをくれるかも。そう思ったリリアンはチラリと彼を見た。

 するとヨハネスは何故か悲痛な表情をしてこちらを見ていた。

 

「な、何ですか?その顔……」

「リリー。無理なら無理と言ってくれて構わないんだぞ?」

「え?」

「あいつはその、可愛いやつだが少し変わったところがあるし、何というか……、普通の令嬢には受け止められないだろ?」

「まあ、確かに変わってるとは思いますけど……」

「リリーは優しいし、責任感のあるやつだから無理してるんじゃないかと思ってな。自分の気持ちを押し殺して、あいつに合わせる必要はないというか……」.

「ん?どうして急にそんな事をおっしゃるのです?」

「その、君が悩んでいると聞いた。それで色々と考えたんだ。もしあの時、あいつの願いを聞かなければ、君が悩むこともなかったのではないかと……」


 あのままずっと、リリアンが自分の婚約者のままでいたのなら、彼女はこうして悩むこともなかったかもしれない。


「婚約のことで振り回して、悩ませてごめん。もっと君の気持ちを考えるべきだったのに、君が悩んでいるなんてシュナイダー卿に言われるまで気がつかなかった。申し訳ない」


ヨハネスはそう言うと、リリアンの手を取った。

 ぎゅっと手を握る彼の瞳は真剣そのもので、リリアンは眉を顰めた。


(シュナイダー卿?)


 ジェレミーたちが警戒しているその名を、このタイミングでヨハネスが口にするとは穏やかではない。

 リリアンは自分の知らないところで何か深刻な事態が起きているかのように思えた。


「でも大丈夫だ。もしジェレミーと破談になったとしても、君が不利益を被らないようにするし」

「ヨハン?さっきから何を言って……」

「何ならもう一度私と……」


 彼がその続きを言おうとした時、側にいたダニエルは二人を庇うように前に出て、剣を構えた。

 ヨハネスは咄嗟にリリアンの肩を抱き寄せる。

 困惑するリリアンがダニエルの剣の先に目を向けると、そこには明らかに怒っているジェレミーがいた。

 彼の隣に立つキースも腰の剣に手をかけ、何やら殺気立っている気がする。


「兄上?何をしていらっしゃるのです?」

「……少しリリアンと話をしていただけだ。そう殺気立つな。ダニエルも剣を下ろせ」


ヨハネスに言われ、ダニエルは剣を下ろした。

 たが依然として、二人を威嚇している。

ジェレミーは小さくため息をこぼすと、ゆっくりと一歩ずつ彼らに近づいた。


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