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【完結】狂愛の騎士は兄の婚約者を所望する  作者: 七瀬菜々


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9:デート(1)

 何も知らないリリアンは、公爵邸の自分のベッドに首都観光ガイドを広げてくつろいでいた。

 食べ歩きマップに穴場スポットのマップ。明らかに初めて首都に出てきた田舎者が参考にするくらい初心者向けのガイドマップだ。

 リリアンはそれを見て、街はどんな様子かと妄想を膨らませてはニヤニヤと頬を緩ませる。


「あー……。落ち着く……」


 やはり自宅が1番だ。リリアンはやたらと胴が長いウサギの抱き枕をぎゅっと抱きしめた。


 公爵邸で1番日当たりのいい西の角部屋。窓から差し込む柔らかな日差しと、大きな窓から吹き込む爽やかな風。ベッドからは懐かしいひだまりの匂いがする。

 皇城に住み始めてから、ほとんど帰っていなかったのに、それでも定期的にメイドたちが手入れしてくれていたのだろう。

 部屋には埃ひとつなかった。皇城のメイドに負けず劣らずの仕事っぷりである。


「何しようかなぁ」


 街に出て食べ歩きをしようとも思ったが、今日は誰も捕まらなかった。

 執事からは護衛をつけたら一人で出かけてもかまわないとは言われたが、一人で食べ歩きをしてもつまらないし、何よりリリアンは誰かとキャッキャしながら街を堪能したいのだ。

 故に彼女の今日の予定はまだ決まっていない。


「久しぶりに国立図書館にでも行こうかしら?」


 第一皇子の婚約者候補としてずっと育ってきたリリアンの行動範囲は限られている。

 だいたいが皇城か図書館、あとは教会と魔塔。これだけだ。

 それが普通だったから当時は何も思わなかったが、いざ自由を手に入れてみると随分と窮屈な生活をしてきたことを実感する。 


 リリアンはベッドから降りると、バルコニーへ出た。


 どこまでも澄み渡る青空と自由に飛び回る小鳥たちの囀り。それらがリリアンの新しい門出を祝ってくれているようで清々しい気持ちになった。


「独り身って事実だけで、こんなに気持ちが軽くなるのね。不思議だわ」


  もしかすると、自分は独身主義者なのではないかと疑いたくなるほど、ヨハネスとの婚約に未練がない。


「一生独身でもいいかも……」


 リリアンはポツリとそうつぶやいた。

 すると、『それは困るな』という言葉とともに、フッと視界が翳る。

 リリアンが顔を上げると、バルコニーの柵にはいつの間にかジェレミーが降り立っていた。


「え? ジェレミー……?」

「久しぶり」

「久しぶりって、一昨日会ったじゃない。何でこんなところにいるの? 不法侵入だよ」

「ちゃんと正門から入った。ただ、こっちからの方が近いから最短距離で来ただけだ」

「正面から入ったのなら、そのままエントランスを通って来れば良いじゃない」


 リリアンは呆れたようにため息をこぼしつつも、少し懐かしい気持ちになった。

 ジェレミーは昔から、兄と共に公爵邸に訪れてはこうして窓からやってくる。兄のヨハネスはちゃんとエントランスを通ってくるのに。


「今日は一人なのね」

「……まあな。入っても良いか?」

「どうぞ? すぐにお茶を用意させるわ」


  リリアンはジェレミーに手を差し出した。彼は一瞬躊躇するも、その手を掴む。すると、リリアンは嬉しそうにふにゃっと笑った。

 その警戒心のない笑みにジェレミーの心臓はドクンと跳ねる。


(……可愛い)


  その笑みはジェレミーに『やはり好きだな』自覚させた。

 そして同時に、自分が彼女の眼中にないことも自覚させた。


(未婚の女が自室に男を招き入れるなど、普通は警戒するものだが……)


  彼女は自分とと何か間違いがあるかもしれないとは微塵も思わないらしい。ここまで警戒されないと最早涙も出ない。

  自分の手を引くリリアンに、ジェレミーは遠慮がちにつぶやいた。


「もう少し警戒してくれると嬉しいんだけど……」

「え? どうして?」

「そんな簡単に男を部屋に入れるのは良くない」

「だってジェレミーだもん」


 他の男なら警戒するが、ジェレミーならばその警戒は不要だとリリアンは言う。ジェレミーは顔を伏せた。

 自分が特別だという事実は嬉しいが、彼女の言葉はつまり、自分が男と認識されていないことを意味していた。


(どうしたら良いのか)


 ジェレミーは試しに、繋がれた手を解くと指を絡めるように繋ぎ直した。


「……ジェレミー?」

「お茶はいらない」

「そう?」

「それより、リリアン。俺と、デートしないか」


 絡まった指に力が入る。声が震える。

 ジェレミーは床に落とした視線を、チラッとリリアンに向けた。

 その黄金の瞳は不安に揺れていた。


(……ジェレミー?)


 何故彼が不安そうにこちらを見ているのか、何故彼の声が震えているのか。リリアンにはわからない。

 けれど、ただ一つだけ、彼女にはわかることがあった。


  こういう時のジェレミーはすぐに悪い方向へと思考を巡らせる。


 それは長年共に過ごして来たリリアンだからわかる彼の癖のようなものだ。

 リリアンは繋がれた手を握り返すと彼の顔を覗き込み、ニッと歯を見せて笑った。


「どこに連れて行ってくれるの?」

「どこでも。リリアンが行きたいところに行こう」

「じゃあ、屋台食べ歩きね! すぐに支度してくるから、応接室で待ってて!」


 リリアンの返答に、ジェレミーは嬉しそうに頬を緩めた。

 やはり、外で何と言われていようが彼は笑うと可愛い。

 リリアンはスカートを翻すと、ご機嫌にメイドを呼んだ。


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