二〇二五年十月四日
『世界を救った勇者のその後の話』
勇者は魔王を倒し、将軍として王国に迎えられますが、平和な世の政争に敗れ、丘の上の小屋で飲んだくれた日々を送ります。ある日、恩給を持ってくる貴族の娘が業を煮やし、勇者に一人の少女を引き合わせます。
「無駄飯食らいにこれ以上恩給を支給することはできない。それが嫌なら、この娘を十八まで育てろ」
少女はとある下級貴族の娘で、上級貴族の子弟と婚約が決まっていました。家格の違いを埋めるため、いったん「魔王殺しの勇者」の養女になることで釣り合いを取るというのです。恩給を打ち切られたくない勇者は、しぶしぶそれを受け入れます。
こうして勇者は八歳の少女の養父となります。
少女との生活は勇者に自覚と尊厳を取り戻させ、二人は笑い、泣き、けんかをしながら徐々に親子らしくなっていきます。しかし勇者はふと、違和感を覚えます。少女は友人とも深い関係を築かず、年頃になっても恋人の一人もいません。周囲から羨望の眼差しを向けられるほどの美少女であるにもかかわらず、です。少女が十七になる日、同い年の少年から少女は告白されます。傍から見ても、少女は少年を憎からず想っているようでした。それなのに、少女は少年を拒絶します。勇者はその頑なさに、少女を問い詰めました。
「どうしてそれほどまでに彼を拒む? お前も彼のことが好きなんじゃないのか?」
少女は涙を流し、真実を告げます。
「私、死んじゃうんだ。十八歳の誕生日に」
少女は下級貴族の娘ではなく、孤児院で育てられた孤児でした。十年前、勇者が魔王を倒した後、宮廷の預言者は告げました。
「十年の後、魔王は再び蘇るだろう。それを阻止するためには、乙女の命を捧げるほかない」
王国はその犠牲に孤児の少女を選びました。まだ八歳だった少女はその話を聞き、自らを生贄とする条件として、一つの望みを語ります。
「私に、家族をください」
そうして少女は勇者の許に来たのです。
恩給を届けに来た貴族の娘に、勇者は怒りをぶつけます。
「お前たちは八歳の子供に、世界を救って自分は死ねと、本当にそう言ったのか!!」
貴族の娘はうなだれて答えます。
「……私たちは勇者じゃない。魔王を滅ぼす力などない、ただの人間なんだ」
勇者は吐き捨てるように言います。
「……お前たちは、最低だ」
勇者は娘に背を向け、振り返ることなく出ていきます。
その日は少女の十七歳の誕生日でした。娘は少女と勇者のために、こっそりとお祝いの食事を用意していました。得意でもない料理を、ずっと前から練習していました。娘はぽつりとつぶやきます。
「……料理が、無駄になってしまったな」
魔王復活の日まであと一年、勇者は錆びついた身体を鍛えなおし、再び魔王に挑みます。
昏く深い洞窟から姿を現す魔王と、勇者は対峙します。
「俺はずっと、絶望していた。ただ魔王を怖れ、何もしない人々に。無責任に『勇者』を称賛し、それだけで自分の責任を果たした顔をしている奴らに。命じればそれが叶うと思っている権力者たちに」
月明かりが魔王の顔を照らします。そこにいたのは――
「お前は、俺なんだろう?」
十年前の勇者とそっくりな顔をしていました。魔王とは、絶望し、終わりを望む世界の意志そのものだったのです。
魔王がニヤリと笑います。神の与えた剣も、精霊に祝福された鎧も、今の勇者にはありません。しかし、
「どうしてだろうな? 今は、お前に負ける気がしないんだ」
勇者は気負うこともなく、魔王に斬りかかりました。世界のためでなく、たったひとりの大切な家族のために。
プロットばかり書いてもしょうがないんだけどねぇ。




