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雑記  作者: 曲尾 仁庵
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二〇二五年九月二十七日②

前回同様、書きたいもののプロット公開編。

『世界を救って処刑された男の話』


 昔むかし、世界が魔王によって滅びの危機に瀕していたころのこと。

 ひとりの詐欺師が勇者と出会った。

 勇者はその剣の腕を見込まれ、魔王討伐の使命を託された。

 王に妻子を人質に取られて。

 詐欺師は自らを『勇者』と名乗り、地方の村々で歓待を受けることを繰り返していたが、

 本物の勇者が現れたことで正体がばれ、捕まりそうになったところを勇者の口添えで命を拾った。

 詐欺師は勇者を利用して利益を得ようと勇者に同行を申し出る。

 勇者は意外にもその申し出を受け入れた。


 焚火を囲み、勇者は詐欺師に語る。

 故郷のこと、家族のこと、未来のこと。

 魔王を倒すのは名誉のためでも金のためでもない、

 家族の許に帰るためだと。


 勇者は各地をめぐり、戦い、傷付いて、人々を救う。

 見ぬふりをして通り過ぎることもできるのに。

 まっすぐに魔王の許へ向かえばいいのに。

 その姿を詐欺師は見つめる。

 損な性格だと、呆れながら。


 とある辺境の町も、魔物の軍勢に脅かされ、困り果てていた。

 勇者は町を救うべく魔物の巣窟へと向かう。

 しかし魔物は多勢、戦うも討ち果たすことはできず、自らも深い傷を負った勇者を背負い、詐欺師は町に向かう。

 しかし彼らを待っていたのは、町の人々の冷たい仕打ちだった。


「魔物を討てぬ勇者など役に立たぬ」

「まったく期待外れ。もうすぐ死ぬ者にくれてやるものはない」


 町は門を閉ざし、勇者は詐欺師の背で息絶える。

 家族に会いたかったと、そう言い残して。

 詐欺師は怒りに震え、血の涙を流して天をにらむ。

「これが、身を削り、人々を助け、世界を救おうとした者に対する仕打ちか!」


 詐欺師は勇者の剣を手に旅を続ける。自らを『勇者』と名乗って。

『勇者』は世界をめぐり、人々を救う。そしてついには魔王を討ち滅ぼした。

『勇者』の凱旋に世界は喝さいを送る。

 王城に招かれ、人々が集まる広場を見下ろすバルコニーから、人々に向かって詐欺師は告げる。

「どいつもこいつも愚か者よ! 世界を救った真の勇者が、お前ら卑小な凡俗と同じく富や名誉を望むと思うてか! お前らの賛辞を受けて喜ぶような下らぬ存在だと、本当に思っているのか! お前たちが讃えていたのは、勇者の旅に付いていっただけの、ただの詐欺師よ! お前たちは、詐欺師と真の勇者も見分けられぬたわけものよ!」


 詐欺師はすぐさま兵に取り押さえられ、引きずられていく。その間ずっと、詐欺師は人々を罵倒し、嗤い続けた。


 数日の後、詐欺師は世界を騙した罪で処刑され、世紀の大悪党として世の怨嗟の対象となった。翻って、魔王を倒した『本物の』勇者を人々は探した。勇者の足跡を追い、各地に名を遺すその人は、詐欺師と共に旅をした勇者だった。勇者の名は偉業と共に長く語り継がれ、彼の家族は勇者の家族として国から保護され、不自由のない人生を送った。


 勇者は勇者としてその偉業を讃えられ、詐欺師は詐欺師として悪行を歴史に刻んだ。

 詐欺師がなぜ、人々を前にして自らの嘘を露わにしたのか。

 詐欺師がどんな想いで死を迎えたのか。

 それを伝えるものは何も残っていない。


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