二〇二四年五月二十六日
小説家になろう、という場所を利用し始めてから、後悔していることが二つある。どちらも取り返しのつかないことばかりだ。
後悔の一つ目は、『炎獄のサイネリア』という作品を読まなかったこと。存在だけは知っていて、タイトルを見た瞬間に読みたいと思っていたが、読まなかった。当時は作者が退会することなど想像していなかったし、WEB小説で作品が消えるという事態もあまり想像していなかった。読みたいと思う作品が読めなくなる、そういう残酷さが存在するということを、当時の私は知らなかった。
後悔の二つ目は、読み返したいと思っていた作品が見つからなかったこと。私は私の愚かなこだわりによって評価もブックマークもしないので、一度読んだ作品を見つけられない。なるほど、ブックマークというのはこういうときのためのものだったかと今さらながら理解したものだ。
読み返したいが見つけられない作品は二つある。
一つは、三人の孤児の物語。男の子の兄弟とその幼馴染の女の子。兄弟の兄は建築家になり、弟は勇者になる。その世界では竜が災害のように町を襲い、竜の翼が巻き起こす暴風によって家々が破壊される恐怖に晒されていた。弟は竜を討滅すべく剣を磨き、兄は竜の翼に負けぬ建築を追求する。幼馴染の女の子は勇者である弟と婚約する。ある日、竜が町に現れて町は崩壊の危機にさらされる。弟は竜に戦いを挑み、兄は町の人々を教会に誘導する。その教会は兄が建てたもので、竜の巻き起こす風に耐えて人々を守る。弟は竜を討ち果たし、人々から称賛を受ける。
えーっと、私の筆力だとこんな感じだが、おおよそこの百倍くらい面白い感じだと思っていただければ正しい。幼馴染の女の子が兄に抱いている感情とか、不器用な兄の態度とか、自分の建築に対する自負とか、そういうものが丁寧に書かれていてとても雰囲気のいい作品だったんですよ。語り口が淡々としていてすごく好みだった。でも、タイトルがわからない。ジャンルさえ覚えてない。投稿年度も不明。分かるのは短編だったってことくらい。手掛かりがなさ過ぎて探し当てられない。
もう一つは婚約破棄もの。冒頭に王から婚約破棄を告げられる場面で始まる。その国の王族はかつて竜から血を分け与えられ、大国の狭間にありながらその力で独立を保ち続けていた。しかし今、大国はその圧倒的な軍事力で侵略を開始し、小国の命運は尽きかけている。前線で戦い兵士たちは、死力を尽くして戦いながら願い続ける。「王よ、どうか死に給え」。ついには王城の玉座の間まで攻め入られたとき、婚約を破棄されたはずの令嬢は王の傍らにいる。攻め寄せた大国の狙いは竜の血。その血を渡すことを拒み、王は自らの一族と、そして愛しい令嬢と共に命を絶つのだった。
これもね、私の書いたあらすじの百倍いい感じだと思って。うまく表現できない我が身を呪うわ。私がもし婚約破棄ものを書くなら、こんなものを書きたいな、という、私の中の婚約破棄のイメージを規定したような作品です。こちらも語り口は淡々としている。そしてタイトルがわからない。
すでに退会されているのかもしれないし、作品を非公開にしているのかもしれない。あるいは削除したのかもしれないが、できればもう一度読みたいなぁ。一期一会を実感する。作品との出会いは日常ではなく、得難い奇跡なのかも、と、後悔と共にそう思っています。皆さまもどうぞ後悔の無きよう、よい読書ライフを。




