二〇二二年五月十九日
小説家になろう、というこの場所に物語を投稿し始めてから、もう五年以上が経っていて、軽く驚愕を覚える。初めての投稿は冬童話祭の参加作品だった。実はこの作品、当初投稿しようと思っていたものとは別のもの。本来投稿しようと思っていた作品が思いのほか大長編になってしまいそうになり、こりゃ間に合わねぇな、と切り替えて締め切りの一週間前から書き始めた。締め切りも近いし、短くサクッと楽しいばかりのお話にしよう、と書き始めたら思わぬ方向に。結局ギャグなんだかシリアスなんだか、というものが出来上がった。ただ、私は結構気に入ってるんだけどね。
初めて投稿ボタンを押すときには、比喩ではなく手が震えた。真冬なのに滝のような汗が噴き出してきた。準備を終えて、あとはボタンを押すだけ、という状態のままで、実際にボタンを押すまでに二時間かかった。
十人くらいには読んでもらえるかな?
いやいや、それは望み過ぎだろう。
しかし三人くらいなら……
そんなことを思いながらボタンを押した。
投稿直後にアクセス解析を見た。当然の如くPVは0だった。がっかりとしたし、がっかりとした自分がおかしかった。身の置き場がないような思いに駆られ、その日はそのまま寝た。
感想もレビューも受け付けない設定にしていた。どうせ感想など貰えるはずもないと思っていたし、もしもらうとしたら酷評だろうと思っていた。酷評をもらうと筆を折る自信があった。それと、感想を受け付けていながら感想を全くもらえないという状況も容易に想像できた。受け付けない設定にしておけば「感想をもらう」という可能性が0になる。感想をもらえないことに悩む必要がなくなる。ついでに酷評される可能性もなくなる。私は書くためにここに登録したのだから、書けなくなる可能性をできるだけ排除したかった。
心折れないようにするために、自分の中に勝敗ラインを決めた。全ての投稿作品について、一律に、ユニークアクセス100が勝敗ラインだ。そもそも誰にも読まれるはずもなかった私の頭の中の妄想が、延べ100人に読まれただけでもう充分だろう。まあその基準を達成できていない作品もそれなりに抱えているけれど。
ちなみに、私が感想とレビューを受け付ける設定にできるようになるまで二年かかった。
作品を投稿しようと思ったのは、自分の頭の中の物語を形にしたかったから、というよりも、形にしなければならないと思ったから。自分の頭の中で再生される物語は、自分の好きな場面だけ、好きなキャラクターだけ、好きなセリフだけ。でもそれでは物語は完結しない。場面と場面を繋ぐ描写。整合するストーリー。始まり、そして終わる物語。物語を描き始めてしまった者として、物語に対する責任がある、と思っている。
小説家になろうに作品を投稿しようと思ったのは、『小説家になろう』という名前だったからだ。『小説家になろう』はたぶん『職業作家になることができるよ』という意味ではなく、誰でも、どんな作品でも、稚拙でも、整っていなくても、この場所に自分の作った物語を投稿すればそれだけで、あなたはすでに『小説家』なのだと、そう名乗っていいのだと、背を押してくれたような気がして、勇気をもらうことができたから。当然だが私はプロではない。それでもいいよ、と言ってもらえた気が、そのとき、したのだ。
だから、未だにここで、図々しくお話を書いている。