二〇二二年十一月三日
短い小説大賞が開催中ですね。七万字以内の短編小説、ですって。七万字って短編なのね。私の小説の文字数アベレージ八千五百字くらいですけど。連載除くともっとがくっと減るだろうし。
どうやらお題があるらしくて、そのテーマに沿ったものを書かないといけないらしいよ。今回のテーマは
『そのヒロイン、実は……』
ヒロインの意外性をいかに演出できるかが鍵なのかな? 他の作品との差別化ができるかどうかを見定めたいんでしょうかねぇ。私、実はお題に沿って書くのものすごく苦手なんだけど、せっかくのお祭りだし、何か考えてみようかな?
まずはテーマを決めないとね。切れ味のいい日本刀の如き鮮やかな笑いをお届けしなければ。
『そのヒロイン、実は……おっさん』
ありがちだね。誰でも五秒以内に思いつくね。鶏つくね。
『そのヒロイン、実は……人外』
猫耳生えてるよ、みたいな? ゾンビですよ、とか? あふれかえっていますね、世の中に。材料次第では差別化できるのかなぁ? 実は、ヒロインはセンザンコウだったのです、とか? 話が広げづらいわ。
『そのヒロイン、実は……金の亡者』
見たことあるわぁ。コンスタントに見たことあるわぁ。そしてたぶん作品の主題にするには難しいわぁ。金の亡者になった理由を掘り下げればあるいは成立するのか? でもそれは短編向きの構成じゃない気がする。
『そのヒロイン、実は……ゲスの極み』
逆張りの発想としては直球だよねぇ。ひねくれ方まで素直かよ、みたいな感じ。そしてヒロインがゲスの極みである作品を誰が見たいと思うのか。
ああ、発想が平凡過ぎて泣けてくる。これじゃ書く気にもならんわぁ。自分の殻を破れないまま朽ちていく我が身を嘆くのみか。私の人生そんなもんか。
……いや、まだだ! 私にだってできることがまだあるはずだ! 思考を止めるな、考え続けろ! その先にはきっと、爆笑の未来が待っている!
『そのヒロイン、実は……頭取』
二つのメガバンクの経営統合を巡る激しい主導権争い、隠された不良債権、それを裏で操る政治家たち。日本を牛耳る魑魅魍魎に戦いを挑むのは、現役女子高生!? 裏切り者は専務か、常務か? みんなまとめて百倍返しだ!
いや、書けたら面白いかもしれんが、リアルな銀行の内実とか知らんし。そこがふわっとしてたらダメだよねぇ。
『そのヒロイン、実は……ロボ』
二学期から転校してきた彼女はどこかおかしい。しゃべる言葉には抑揚が乏しく、単語ごとにつっかえるような間が空き、しばしばハウリングを起こす。手はC字型で、足にはキャタピラがついていて滑るように歩き、日が暮れると目が光って前方を照らす。近付いて耳を澄ますとジーという駆動音がして、背中のロケットで十分程度空が飛べる。
「お前、ロボだろ」
「イ、イヤダワ、ノガミクン。ソンナワケ、ナイジャナイ、モウ!」
そんな彼女と過ごす特別な二学期が始まる。
……実はも何も最初からバレてんじゃん。
『そのヒロイン、実は……公安』
「如月 晶という人間は存在しない」
権藤は冷酷に思えるほどの無表情で村西に告げた。村西は怪訝そうに眉を寄せる。
「存在しないって、何をバカな」
権藤の目に憐憫が浮かぶ。村西は苛立たしげな声を上げた。
「昨日だって、一緒に食事を――」
「彼女は公安の潜入捜査官だ」
村西の言葉を遮った権藤の声がやけに部屋に響く。
「彼女の名前も、住所も、連絡先も、すべて架空のものだ。如月 晶は公安が用意した架空の人物なんだよ。お前は利用されているんだ。恋人がいるほうが疑われにくいからな」
村西の顔から血の気が引く。言われてみれば、連絡をくれるのはいつも彼女のほうだった。仕事が忙しいのだと、そう思っていたが、思い返せばどこか不自然だった気がしてくる。言葉に詰まった村西に、権藤は最後通牒のように言った。
「彼女の事は忘れろ。お前の手に負える相手じゃない」
村西はうつむき、強く拳を握った。
権藤と村西は何者だよ。
『そのヒロイン、実は……登場しない』
……
これだーーーっ!!
まさかの、ヒロインが登場しない! あらすじと前書きでさんざんヒロインアピールしといて、本編に登場しない! 来やがったでぇ! とんでもないバケモンが誕生する予感がビシバシ伝わって来よるでぇ! 悪い意味で!
……ただの荒らし行為だな。まじめに書いている方に申し訳ないわ。
どうやら私に賞レースはまだ早かったようだぜ。
『そのヒロイン、実は……ひとり焼肉派』だったらどうですか?
……ダメですか。
すみません。