二〇二二年八月十日
その日は台所で揚げ物をしていた。夕飯のおかずに、鶏ムネ肉のひと口カツ。揚げ終わったものはバットに敷いた網の上に乗せて油を切る。我が家の家人はよく食べるので、揚げる鶏の量もそれなりになる。
すると三歳になる長男が、両手に大きな踏み台を抱え、よろけながら近付いて来る。「よいしょ、よいしょ」と言って踏み台を運び、落としたのか置いたのか判定しがたい勢いで踏み台を降ろし、それに昇ってバットのカツを覗き込む。きっとお手伝いがしたいのだろう。なんだってできるもん、なお年頃。
そうこうしているうちにも、カツはどんどん増えていく。揚げ終わったカツには軽く塩コショウを振る。基本的にソースはつけない。ソースはむしろキャベツにかける。
長男は増えていくカツを見つめている。楽しそうで何よりだ。カツを揚げる。揚げあがってバットに乗せる。長男がニコニコとしている。カツを揚げる。揚げあがってバットに乗せ――
長男が誇らしげにこちらを見ている。おてつだいできたよ、の顔。褒められ待ちの笑み。そしてその手には……中性洗剤。揚げ終わったカツには、まるで料理の最後の仕上げのように、余すところなく中性洗剤がかけられていた。
「あらぁーーーっ!!」
そう叫んで爆笑し、長男を抱きかかえて椅子に座らせると、長男が仕上げてくれたカツをこっそり処分し、残った鶏肉で揚げ物を再開した。
今からもうずいぶん昔の、母から聞いた思い出話。